お酒の買い付けしてみませんか?

■ショートシナリオ


担当:樋野望

対応レベル:1〜4lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 0 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月01日〜02月06日

リプレイ公開日:2005年02月06日

●オープニング

 一人の老婦人は、そこそこに広い一軒家にたった一人で住んでいた。
「毎日、退屈ね」
 夫は先立ち、子供たちも独り立ちして老婦人しかいなくなってしまった家にこのまま一人で住み続けるのは寂しい。そう考えた彼女は、一念発起をして自宅を簡単に改装した。もともと老婦人の生家は商家だったのだから、商売のことにも多少は通じている。
 老婦人は、二階を自分の居住部分として、一階を小さな酒屋にした。ところが、彼女は少々足が悪かった。そのため、店に並べる商品を買い付けに行くことが出来ない。おまけにこの時期は寒く、あまり外に出たいとも思えない。
 暫く考えた末、気立てもよくて思いきりもいいのだが、幾らか無精者の気があるのんきな老婦人は、買い付けを人に頼めばいいのだと思いついた。

 冒険者ギルドに届いた依頼内容は『真新しい店に売り物をそろえるため、まずは12Gで以下の物品を必要数仕入れて欲しい』というものである。買い付けて欲しいのは、ベルモット30本(店頭販売時40C予定)、ワイン20本(店頭販売時30C予定)、発泡酒20本(店頭販売時20C予定)。

 さらに、買い付け先の候補に関する情報は以下であり、どの醸造所で何を買うかは、依頼を受けた者たちに任せるとのこと。

■フランツ醸造所:ワインとベルモットを造っている。味には定評があるが、蔵の場所が遠く、やや値が高い。ドレスタットから馬で一日半程度行ったところにある村にあり、途中にはモンスターが出ることがある。また、じつは今年から発泡酒も作っているが、味に関する評価は未知数。
■グレース醸造所:ワインとベルモットを造っている。ドレスタットの中にあり、値も安い。しかし、味はそこそこ。
■ローム醸造所:発泡酒を造っている。ドレスタットの中にあり、値は普通で味もよい。ちなみに、親方は珍しく若い女性で、かなりの美人との噂。
■ユグ醸造所:発泡酒を造っている。ドレスタットから徒歩で半日ほど行った村にある。途中にモンスターが出ることはない。値はやや高いが味は極上。しかし、醸造所の親方が超のつく頑固親父。

 12G以内では全品を揃えられなくなった場合でも、依頼を受けた者たちが自腹を切って物品を購入し、依頼主に納品するのは厳禁。なお、移動費や食料費、必要であれば接待費などの諸経費であれば、依頼主に請求することも可能であるが、あまりにも不明確・不必要な経費については支払いを拒否することもある。

●今回の参加者

 ea4090 レミナ・エスマール(25歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea7586 マギウス・ジル・マルシェ(63歳・♂・ジプシー・シフール・ノルマン王国)
 ea8216 シルフィーナ・ベルンシュタイン(27歳・♀・ナイト・エルフ・ノルマン王国)
 ea8357 サレナ・ヒュッケバイン(26歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea8791 カヤ・ベルンシュタイン(26歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)
 ea9345 ヴェロニカ・クラーリア(26歳・♀・バード・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ea9693 セレス・ホワイトスノウ(27歳・♀・バード・エルフ・ロシア王国)
 ea9935 ユノ・ユリシアス(35歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

 フランツ醸造所行きを決めた冒険者たちは、セレス・ホワイトスノウ(ea9693)の提案で保存食や野営道具の確認を行ったが、保存食や野営道具が足りない者はいなかった。
 フランツ醸造所までの道程は、真冬の寒さを除けばとても穏やかなものだった。
「着いたね☆ 急いで来たから、交渉の時間もたくさんとれるかな」
 小さな村の片隅にある醸造所に着くと、シルフィーナ・ベルンシュタイン(ea8216)が声を上げた。
「どなたかいらっしゃいませんか?」
 サレナ・ヒュッケバイン(ea8357)が、倉にも見える建物の大きな扉を叩くと、すぐに扉があいた。顔をのぞかせた大柄な中年の男が、冒険者たちを眺めて目を細めた。
「珍しいねえ。嬢ちゃんたちがそろって酒蔵詣でとは」
 男に向かって、胸を強調したドレスを着ているカヤ・ベルンシュタイン(ea8791)が一礼した。
「こんにちは。わたくしたち、とある酒屋のご主人からお酒の買い付けを頼まれたんです」
「そういうことなら、俺が話を聞こうか。この醸造所をやってるのは俺だからな」
「こちらのワインとベルモットの評判を聞きまして、お伺いしました」
「まあな。うちのワインとベルモットは旨いぞ。だが、その分ちょっと高いんだけどな」
 男は比較的単純らしく、褒められると素直にうれしそうな顔になった。だが、直後に「高い」と牽制するあたりは、なかなかの商売人ぶりだ。
「その評判のワインとベルモットを造っている醸造所を見学させていただけませんか?」
 レミナ・エスマール(ea4090)が、いくら評判がよくても実際に目で見なければとばかりに、男に尋ねる。
「かまわんよ」
 男に招き入れられ、冒険者たちは蔵の中へと入った。
「私たち、ドレスタットから来たんです」
 ユノ・ユリシアス(ea9935)が、片道馬で一日半程度もかけて酒を買いに来たのだとことを仄めかすと、案内をしていた男はまた少し自慢そうな顔になった。
「そういう客も、結構いるぜ」
 確かに、ドレスタットの老婦人がこの醸造所の評判を知っているくらいだから、男の言うとおり、遠方から酒を買い付けに来る者もそう珍しくはないのだろう。だが、ユノも引き下がらない。
「新規開店の店の目玉商品が欲しいんです。その為にここまで来たんです!」
 その間、レミナはワインとベルモットの原価を考えていた。
(この辺りでぶどうの値が上がったという話はありませんから、原価はそう高くはないはず‥‥)
 その頃、セレスは大きな樽が並ぶ蔵の中、こっそりと皆から距離を置いていた。人目につかず、そして男から離れすぎない位置を確保すると、セレスはチャームを唱えた。しかし、男がチャームにかかった気配はない。
「もしよろしければ、少し味見をさせていただけません?」
 カヤが胸を強調するような仕草で、男に近づく。そのおかげかどうなのか、味見で料金を取られることはなかった。
 皆が試飲している間、しばし間をおいたセレスが再びチャームを唱えた。今度は、成功。
「おいしい」
 誰からともなく声が挙がるほど、ワインもベルモットも美味しいものだった。
「‥‥斬新な味、かな」
「‥‥お酒のことは良く分かりませんから‥‥」
 しかし、発泡酒はシルフィーナとサレナが懸命にひねり出した感想がすべて、というような何とも言えない味だった。とりあえず、無言のうちに全員一致し、ここで発泡酒を買うのは諦めた。ローム醸造所へ行った二人の検討を祈るしかない。
「私たち、ワイン20本とベルモット30本が欲しいんだけど、6Gしか手持ちがないの」
 チャームのかかった男は、セレスに対してにこやかに、だが首を傾げた。
「その値段じゃ、うちは破産だな」
「私には普通のものと比べて、味の違いがそれほど明確には分かるとは思えませんね。すべての人に違いが分かる味ならいいのですが、特定の人にしか分からない味だと高値では買えません」
 レミナがなかなかに辛辣なことを言う。これも、彼女なりの交渉術だ。
「何と言われようと、まとめて10G以下では売れないな」
「こちらは命がけで来ています。その値段では私たちの命を軽く見ていますね。そのような人は、神もお許しにはなりませんよ」
「神がお許しにならなくても、この値で買う人間はいくらでもいるさ。あんたたちが、この値で買うか買わないか、話はそれで済むことだ」
 どうやら男の態度は、硬化してしまったようだ。
「大量購入だから、少しは安くならないかな」
 しかし完全な硬化ではなく、シルフィーナの言葉に考えこむなど、説得やここに至る苦労話、果ては色仕掛けや値切り交渉などには色々と揺れ動くことも多かったようだ。
「そこまでうちの酒を気に入ってくれたんなら、9Gまでは落としてもいいぜ」
 9Gでも、何とか予定額ではある。だが、せっかくだからもう少しは落としたい。
「もう少しだけ、何とかならないかしら。老婦人のお店の今後が、こちらのお酒にかかってるの」
「‥‥おばあちゃんの今後ねえ」
 セレスの言葉を聞いた後、ぶつぶつと自分の祖母の思い出話を呟いた男は、眉間にしわを寄せながらではあったが、よし、と手を打った。
「8G75Cでどうだ。これ以上は無理だ」
 しばらく顔を見合わせた後、皆は頷いたのだった。同時に、疲労と緊張からレミナが倒れこむ。彼女を支えた男が、苦笑いしながら言った。
「もう少し大量生産できるようになったら、あんたの言うように神様がお許しくださる値段にできるよう、がんばってみるよ」
 酒の運搬は専門の者に任せた方がいいというユノの提案の通り、男に酒の運搬を依頼した。ちなみに、その日の晩はただで醸造所に泊めてもらえたものの、運搬料の1G50Cはきっちりと請求された。
 しばらくは穏やかな道中だったのだが、突然、モンスターが現れた。とはいえ、ゴブリンが二体だ。この程度、冒険者たちの敵ではない。だが、馬にとっては一大事だった。荷車を引いていた馬が暴れだす寸前、セレスがスリープをかけて馬を眠らせる。後は、ゴブリンを倒すばかりだ。まず、ユノがあらかじめクリエイトウォーターによる水で満たしていた樽をゴブリンに向かって蹴り出した。ゴブリンの目が、樽に向かう。
「貴方達に構っている暇はありません。退け!」
 その隙を逃さずサレナが剣を振るい、ゴブリン一体を倒した。残るゴブリンに向かって、荷車をはさんでゴブリンとは反対側にいたカヤが高速詠唱によるオーラショットが飛ぶ。だが、外れた。とはいえ、オーラショットの威力に恐れをなしたのか、ゴブリンはひょこひょこと逃げ出した。それを追うことはせず、冒険者たちは無事だった酒と共にドレスタットへと帰還したのだった。

 さて、ローム醸造所行きを決めたマギウス・ジル・マルシェ(ea7586)とヴェロニカ・クラーリア(ea9345)は、敵を知るのが第一とばかりに酒場でローム醸造所の発泡酒を傾けていた。
「なかなかいい酒だ‥‥が、なぜハーフエルフの私が交渉につれていかれなければならんのだ」
 さすがに声を潜めてはいたが、ヴェロニカがマギウスに遠慮なく抗議する。だが、マギウスは飄々として杯を傾けるばかりだ。
「ヴェロニカさんも立派になったのね。私の友人も、草葉の陰で大喜びね」
 ヴェロニカは、マギウスの死んだ友人の娘なのだ。
「発泡酒、もう一杯追加!」
「あ、年寄りの話はきちんと聞くのね。それから、発泡酒の追加は二杯なのね」
 そんな会話をしつつも、二人はローム醸造所での買い付け方法を相談し始めた。
「ベシャリは私がやるのね。あなたは、いつもどおり素敵な詩を書いてくれればいいのね」
「詩だと?」
 そしておおよそのことを決めた二人は、翌日、ローム醸造所へと向かったのだった。
「こんにちはなのね。発泡酒の買い付けについて、こちらの親方さんとお話がしたいのね。‥‥あなたが親方さん?」
 マギウスが蔵の前を通りがかった女性に声をかけると、彼女は頷いた。
「そうよ。シフールとエルフの女の子が一緒に発泡酒の買い付けなんて、珍しいわね」
 ヴェロニカは耳や肌を隠していたためハーフエルフと知られることはなかった。
「早速、買い付け交渉なのね。一本13Cで買いたいのね」
「安すぎるわ」
 単刀直入なマギウスの言葉に少し笑った女親方もまた、単刀直入な返事をした。
「あのね。私たち、ここの発泡酒のちょっといい宣伝方法を思いついたのね」
「宣伝料の分、安くしろってこと?」
 面白そうな顔をした女親方に見せるべく、マギウスがマジカルミラージュを唱えた。すると、ジョッキを持ち飲み干す女性天使と、彼女の背後からたなびく白い布の幻が現れた。白い布には、「その身を焦がす幸福の黄金色 ローム醸造所」と書かれている。その大きさは、優に100m近くはありそうだ。
「‥‥大きいねえ」
「この幻を、ドレスタットに出すのね」
「それにしても、あの謳い文句は誇大広告じゃないかしら」
 すると、それまで黙っていたヴェロニカが口を開いた。
「私は詩人。詩の中で嘘は申さぬ。ここの酒が呑める店が増えることは、私にとっても最高の幸福‥‥。是非この酒の為に、詠わせては貰えないだろうか?」
「なかなか上手なことを言うわね、詩人さん」
 女親方は、さも楽しげに笑った。
「いいわ。毎日結構苦労してるんだし、たまにはこういう面白おかしいことをしなくちゃ気分が腐るもの。少しくらい、まけてあげるわ。ただし、一本14Cよ」
 そして、マギウスとヴェロニカは買った酒の運送を頼み、醸造所を後にした。運送費は、85Cだった。

 何とか予算内で予定数の買い付けができたことを聞いた老婦人は、手放しで喜んだ。そして、使用した経費もすべて必要経費として認められたうえ、買い付けの最中に使った保存食などは補填されることになった。
「ありがとう。これでやっと酒屋さんらしくなるわ。開店したら、きっと遊びにきてね」
 嬉しそうな老婦人に笑いかけられ、冒険者たちはほっと安堵したのだった。