鍾乳洞の奥底へ

■ショートシナリオ


担当:樋野望

対応レベル:1〜4lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 10 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月09日〜02月15日

リプレイ公開日:2005年02月14日

●オープニング

 ドレスタット領主のエイリークが海賊から奪った宝を奪おうとした、また別の海賊。

 何とも面倒くさい事態になったわけだが、冒険者たちの活躍により、宝は無事に守られ、宝を狙った海賊の頭目は捕らえられた。
 捕らえられた海賊の頭目は、官憲に引き渡すまではと、ひとまず海賊討伐を依頼した、情報屋のキーラ・ユーリエフの預かりとなっている。この機会を逃さず、キーラは人のよさそうな頭目から様々な話を聞きだそうとした。例えば、紫のローブを着た男のことであり、また、ドラゴンの宝とは何かということだ。
「紫のローブの男が何者かは知らないよ。聞きもしなかったしね。まあ、どうせあいつもドラゴンの宝を狙っているんだろう。私たちがドラゴンの宝を手に入れることが出来たら、高値で買い取るとまで言ったから」
 ドラゴン襲来により家族を失ったという頭目は、淡々と話した。
「ドラゴンの宝がドレスタットにあればいつまたドラゴンの襲撃が起こるか知れないから宝を奪おうとした、か。その一念でエイリーク様の持ち物に手を出そうとは、大した義賊ぶりだ」
「海の男というのは、大抵どこかに義賊願望があるものだよ。それに、ドラゴン襲来の際にドレスタットを守るどころかその場にいなかった領主を崇め奉ろうとも思わないしね。領主の持ち物だろうと何だろうと、躊躇する理由にはならなかったよ」
 小さく笑った男は、それでも宝が何であるかは知らないと言った。
「何であるかも知らないのに宝を盗るつもりだったのか。剛毅なことだ」
「魔法を使えるものがいたからね。魔法物品さえ奪えばいいと思ったんだが、襲撃も失敗するし、ついてないよ」
 質問をすれば適当に答えはするものの、頭目の態度はさほど協力的ではなく、質問した以上のことは何も言わない。そんな頭目が、唯一自主的に話したのがドラゴンに関する昔話だ。
「昔、ドラゴンが住んでいた洞穴を祭っている場所があると聞いたことがある。その洞窟の奥にある祭壇には何かがあるらしいんだが、何があるかはもう皆忘れてしまったらしいよ」
「大したものがあるとは思えないな。仮にドラゴンと関わりのある宝があるのだとしたら、紫のローブの男なり何なりが、疾うに手を出していただろうし。‥‥だが、気にはなるな」
 気になることを明らかにせずにはいられないのは、情報屋としての性か、あるいは持って生まれた好奇心の強さゆえか。
「愛人というのも、大変だね。男の気を引くためとはいえ、海賊を捕まえたり鍾乳洞を調べたり、大忙しだ」
 キーラがエイリークの愛人の一人という噂を聞いたことがあるのか、頭目はそんなことを言った。だが、キーラは気を悪くした風もない。
「あいにく、情報一つで自分に気を向けるほど頭の軽い男に入れ込んだ覚えはないな。第一、自分の好奇心といい男の益、それから義賊願望のある海賊の目的を同時に満たせるかもしれない機会を逃して、自分の女ぶりを下げるのはもったいないだろう」
「義賊願望のある海賊の目的というのは、何だろうね」
 さも他人事のように言う頭目に、キーラは軽く肩をすくめた。
「ドラゴンの宝とやらを不穏当な手段でドレスタットから持ち出さなくとも、この不安定な状態を何とかすれば、頭目殿の気は済むだろう? そのための手がかりを得るための鍾乳洞探索というわけだ。どうかな、この案は」
 義賊願望のある海賊の頭目は暫く口を閉ざしたままだったが、キーラは強いて答えを急かしはしなかった。

 こうして、冒険者ギルドに一つの依頼が持ち込まれた。

 目的は、その昔ドラゴンが住んでいたという鍾乳洞の探索と、祭壇にあるらしい「何か」の判別。鍾乳洞はドレスタットから徒歩一日半程度の場所にある。周辺住民には神聖な場所として祭られており、滅多なことでは誰も足を踏み入れないため地図などはないが、周辺住民の中に代々道筋を口伝で記憶している者がいるという。洞窟内は相当に広く入り組んでおり、一度道を間違えれば祭壇を探すどころか、出口を探すことも難しくなるだろう。なお、モンスターも出てくるようだが、大した強さを持つものはいないらしい。

●今回の参加者

 ea2545 ソラム・ビッテンフェルト(28歳・♂・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea6360 アーディル・エグザントゥス(34歳・♂・レンジャー・人間・ビザンチン帝国)
 ea7927 ライエル・サブナック(27歳・♂・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 ea8252 ドロシー・ジュティーア(26歳・♀・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea8603 ハイレッディン・レイス(30歳・♂・ファイター・人間・ビザンチン帝国)
 ea9009 アリオーシュ・アルセイデス(20歳・♂・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ea9693 セレス・ホワイトスノウ(27歳・♀・バード・エルフ・ロシア王国)
 eb0763 セシル・クライト(21歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

 鍾乳洞に程近い村まで向かった冒険者たちは、まずは代々道筋を口伝で記憶している者を探すことにした。
「村の方に、どれくらい鍾乳洞をどれくらい大事に思っているのか、聞いてきてもらえませんか? 鍾乳洞探索の時に岩に傷をつけて目印にしてもいいのかどうか‥‥」
 セシル・クライト(eb0763)の提案を聞き、アーディル・エグザントゥス(ea6360)、ドロシー・ジュティーア(ea8252)、セレス・ホワイトスノウ(ea9693)は、まずは小さな酒場に向かった。すでに盛況となっていた酒場にいる村人たちは、見慣れない者たちがやってきたことを意外に思い、やや警戒している様子だ。そんな中、おもむろに竪琴を手に取ったセレスが静かに歌い始めた。
「友よ 語り合おう 友よ 語り合おう 私達は貴方達の友 貴方達は私達の友」
 セレスの歌は村人たちの喝采を浴び、彼らと話しやすい雰囲気を作った。
「私たちは、こちらの近くにある鍾乳洞の探索に来たのです」
 ドロシーが村人に説明すると、彼らは一斉に一人の男に目を向けた。
「そういうことなら、わしの出番かな」
 些か古めかしい言葉遣いの青年が、酒の入ったコップを片手に三人の座るテーブルにやってきた。
「キミは?」
 アーディルが尋ねると、青年は酒を煽りながら答えた。
「答える前に、あの鍾乳洞を調べたいなんて酔狂なことを言う理由を聞かせてもらえんか」
「ドレスタットを騒がせているドラゴン襲来事件解明のため、ドラゴンに少しでも関連する可能性のある伝説などを調べ上げておく必要がある。上位種のドラゴンが再び襲来して近隣の村々を捲きこむ事も無い訳ではないからな」
 だまってアーディルの言葉に考え込んでいる様子の青年に、ドロシーも言う。
「あの洞窟は、この村の人達にとって神聖なものと伺いました。よそ者の私達が中に入ることは許しがたいことかもしれませんが、皆様方に代わって中の祭壇に供え物をお持ちいたします」
 青年は答えず、周囲をぐるりと見渡した。
「どうかな」
 青年の問いかけに、酒場にいた村人たちが一斉にグラスを掲げた。
「決まりだ。我々は、おぬしらが鍾乳洞に入ることは止めない。だが、中で何が起こっても責任はとれん。それでもよければ行くがいいさ。とはいえ、あの鍾乳洞で行き倒れられても具合が悪い。道筋くらいは説明しよう。ただし、洞窟を荒らすような真似はしてくれるな」
 どうやら、この古めかしい言葉遣いの青年が、鍾乳洞の道筋を知る者のようだった。詳しい道筋を話した後、青年は一つだけ頼みを聞いてくれないかと言った。
「鍾乳洞の祭壇に、何かが祭られているらしい。これについては、いつか必要になった時にそれを必要とする者が手にするべし、と言われておってな。もし、おぬしらが祭壇まで行き着くことが出来たら、そこにある物を取って来てはくれまいか」
 三人は、快く同意した。

「村の方は、何と?」
 女性にしか見えない容姿をしたライエル・サブナック(ea7927)が、やはり女性としか思えない声音でドロシーに尋ねた。
「この辺りでは、ドラゴンと人が共に暮らしていたという伝承があるそうです。ドラゴンが人を襲うことは、決してなかったとか」
 では、何故今はもう人とドラゴンが共に暮らしていないのか。だが、それは誰も知らないことなのだという。
「鍾乳洞の探索とか、初めてやな〜♪ 歌の新しいレパートリー増やせるような、すごい予感がするで! 僕のバードの勘が言うてる!」
 アリオーシュ・アルセイデス(ea9009)が、暗い鍾乳洞の中を覗き込みながら幾分興奮気味に言う。
「俺の冒険心をくすぐる依頼だぜ!!」
傍らにいたハイレッディン・レイス(ea8603)も、同じく逸る気持ちを抑えきれないようだ。
「はよ、行こ行こ」
 アリオーシュに促され、灯りを持つ者たちは揃って松明や提灯に火を入れ、皆は鍾乳洞に足を踏み入れた。先頭を行くのは、松明を持ったハイレッディンだ。
 広い入り口をくぐると、まずはホールがあった。壁は通常の岩とは違い、流れた水が岩となったかのような様相を呈している。
「案外、明るいものですね」
「ここは、昇天洞と呼ばれているそうです。入り口が広いから、外の光が入ってくるのですね」
 辺りを見回していたソラム・ビッテンフェルト(ea2545)の呟きに、ドロシーが答えたときだった。
「何か、いる」
 鍾乳洞の奥に目を向けていたライエルが、短く呟いた。彼の緊張感に満ちた言葉に、皆は素早く武器を構えた。
「来やがったか。セレス、松明任すわ」
 ハイレッディンが手にしていた松明をセレスに渡すのと時を同じくして、人の背丈ほどの影が姿を現す。ゴブリンとホブゴブリンだ。外からの光が入ってくるこのホールは、ゴブリンなどの住処となっているらしい。
 ハイレッディンが、手にしていた松明を後方に控えるセレスに手渡した。セレスと同じく後方に控えていたアリオーシュがメロディーを唱えた。アリオーシュの歌は壁に反響し、仲間の戦意を鼓舞する歌は大きく響き渡った。ゴブリンに向かって大きく踏み込んだセシルが両手に構えたダガーを振るった。大きくよろめいたゴブリンに、ライエルが弓矢を放ち命中させる。
「モンスターども、俺の冒険心を満足させろよ〜!!」
 声を上げたハイレッディンが、ゴブリン相手でも容赦なく剣を振り下ろした。そして、松明片手のドロシーがゴブリンに止めを刺す。ろくな武装もしていないホブゴブリンが、斧を振り下ろした。だが、セシルは大振りのスマッシュを簡単にかわし、即座にダブルアタックを叩き込んだ。続けて、ハイレッディンがホブゴブリンに向かって剣を薙ぐ。狙いを定めたライエルの矢がホブゴブリンの肩口に突き刺さった。最後は、松明を持ってホブゴブリンの様子を見定めたドロシーの一撃が、止めを刺した。
「思いっきり戦えないのは、ストレスが溜まりますね」
 ドロシーが呟きながら剣を収めると同時に、アリオーシュも歌い終えた。ライエルが、モンスターから矢を抜く。何とか、使えそうだ。
「ほな、時間ももったいないし、さくさく行くで〜」
 そういったアリオーシュに、セレスが頷いた。
「そうね。早く鍾乳洞ならではの地形と、その世界を見たいな」
 そしてセレスはハイレッディンに松明を返し、冒険者たちは更なる奥へと向かった。
「水の音が聞こえるな」
 昇天洞を抜け、細長い道を歩いている途中でライエルが言った。彼の言葉どおり、暫く歩くと滝が現れた。岩肌を滑る滝は、数百枚の水盆、あるいは雲のようにも見える皿の形をした地面へと吸い込まれるように落ちている。この場は、降龍の滝と言うらしい。
「すごい」
「これだけでも来た甲斐があったな」
 セレスとライエルが呟く。ドロシーは、光景にぽおっと見惚れている。灯りの赤い色に照らされて、滝は神秘的にすら見えた。
 だが、滝を眺めてばかりいても仕方がない。皆は再び歩き出した。程なくして、現れた分かれ道をドロシーが指差す。
「右へ行くと、祭壇があるそうです」
 すると、ソラムが言った。
「とはいえ、左にも何かあるかもしれませんし、二手に分かれましょう」
「この松明持って行きな。それだけじゃ危ないだろ」
 ハイレッディンが左手に行く者たちに松明を手渡した。そして、洞窟を傷つけないように石を積むことで目印をつけた冒険者たちは、二手に分かれた。

 左手に進んだのは、ライエル、ドロシー、アリオーシュ、セシルの四人だ。洞窟の中に光が当たることはないらしく、蝙蝠以外の動物はモンスターを含め、見当たらない。だが、少しずつ代わっていく珍しい景色は彼らの目を引いた。
「巨人の足、だそうです」
 ドロシーの説明に、アリオーシュが感心した様子でライエルを振り返った。
「ほんまや。この辺の岩、でっかい足に見えるわ。なあ、ねえさん」
「‥‥私は男だ‥‥」
 やや殺気立って答えたライエルに、アリオーシュがあちゃあと言って肩をすくめた。
「せやったんか。ほんま、ごめんなあ。にいさん、きれいやから勘違いしたわ」
 ライエルは、アリオーシュの率直な謝罪を穏やかに受け入れた。
 そうこうしているうちに、四人は澄んだ水を湛えた渕にたどり着いた。
「久遠の渕、ですね。左手はここで行き止まりのようです」
 ドロシーの言葉に頷いたライエルが、軽く目を細めた。赤い火に照らされた壁に、何か絵が描いてあるのを見つけたのだ。
「あれは、何だ?」
 ライエルの指の先を見つめたセシルが、首を傾げた。
「ドラゴンと精霊‥‥でしょうか」
「人の絵も見えます」
「あの絵の人、手に何か持ってへん?」
「剣と、何だ。あれは角笛だろうか」
 優良視覚を持つライエルだが、薄暗い中、消えかけた絵の全てを捉えることは出来なかった。また、テレパシーでこの発見を別班に伝えようとしたアリオーシュだったが、分厚い岩に阻まれて効果は得られず、四人はひとまず外へ出ることにしたのだった。

 右の道を進んだのは、ソラム、アーディル、ハイレッディン、そしてセレスだ。
「ここを右の壁沿いに進めば、祭壇がある場所に着くみたいよ」
 セレスの説明どおり幻想的で繊細な宮殿めいた広間を横切ろうとすると、アーディルがふらりと左向かって歩いていくとした。
「アーディルさん、右ですよ」
 ソラムが、方向音痴のアーディルがはぐれないようにと穏やかに声をかける。だが、そんなことを三度ほど繰り返した後、ついにソラムはハリセンでアーディルの頭をはたいた。
「いだっ!」
「アーディルさん、今度こそ離れないでくださいよ?」
 はたかれた頭を抱えたアーディルとハリセン片手のソラムを見ていたハイレッディンは、妙に感心したふうに言った。
「おもしろいな、それ」
 幾分時間はかかってしまったのものの、四人は龍の門と呼ばれる袋小路にたどり着いた。
 岩に簡単な祭事具が載せられただけの祭壇に、何かが置かれていた。
「あれは、剣?」
「‥‥こんなところに剣とは珍しいこともあるものです。これが、村の方が持ち帰って欲しいと言っていた物でしょうか」
 触れてもいいものかと躊躇しているセレスとソラムを押しのけて、ハイレッディンが無造作に剣を掴んだ。
「ずいぶん、古ぼけてるなあ。使えんのか?」
 ハイレッディンが剣を鞘から放つと、鞘は驚くほど鋭い輝きを放った。
「何か、文字が書いてある」
 アーディルが鞘の上の細かい砂などを払い、覗き込む。簡単な伝承知識しかないアーディルには、何が描かれているのかよく分からない。祭壇も調べたが、特に文字などはなかった。ドロシーは、供え物として持ってきた真新しい祭事具を岩の上に置いた。
「あそこに、絵がありますね」
 ソラムが指差した先には、確かに絵があった。ドラゴンと精霊と人の絵だ。ドラゴンは何かを持って飛び立とうとしており、地面に倒れた人の手には剣が握られている。絵の中の精霊は、すでに空高くを舞っていた。
 しばし辺りを探索したが、他には何も見つからなかった。しかし、地上では見られない珍しい色合いの石を二つ拾ったソラムは、それを友人への土産にするといって懐にしまった。
 そして、別班とテレパシーで意思疎通することはできないことを確認した四人は、祭壇を後にした。

 鍾乳洞の前で落ち合った冒険者たちは、まずは村へと戻り、青年に古びた剣を渡そうとした。
「その剣は、必要とする者が手にするべきものだと聞いている。とりあえずは、おぬしらに貸そう。おぬしらの雇い主にでも預ければ、後々何らかの役に立つかもしれんしな」
 礼代わりに、冒険者たちは青年に壁画の件を話した。青年は壁画の詳細は知らないと首を傾げたが、ドラゴンに信頼されていた絵師がいたという伝承は知っていると言った。

 青年に言われたとおり、古びた剣は依頼主であるキーラに預けることにした。
「ドラゴンと精霊と人の絵と、それから剣」
 古びているにもかかわらず鋭さを失っていない不思議な剣を手にして、キーラは軽く目を細めた。
「魔法物品かもしれないな。まあ、調べてみるとしよう。‥‥ところで、鍾乳洞の中の景色について、もう少し話してくれないか?」
 冒険者たちは、冒険の報告だけではなく鍾乳洞の景色についても詳細な説明をして依頼主を喜ばせたのだった。