思い出の宝探し

■ショートシナリオ


担当:樋野望

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月24日〜03月01日

リプレイ公開日:2005年02月28日

●オープニング

 幼馴染の子供たちは、二人で宝探しごっこに興じていた。二人で交互に互いの宝物を隠しては探し、探し当てれば「勝ち」、探せなければ「負け」というルールを決め、勝敗に一喜一憂していたものだ。
 子供たちは少年になり、青年になり、年齢からすれば立派な大人になった。だがそれでも、二人の宝探しごっこは続いた。だんだん度が過ぎて、大木の上に宝を入れた袋を隠したり、人の家の屋根の上に隠したり、果ては広い草原の真ん中に宝を埋めるに至っても、二人はこの遊びを止めることはしなかった。
 だが、二人が老人と呼ばれる年齢に至ってしばらくしてから、この遊びは終わった。一人の老人が「遊び」の最中にぎっくり腰になったのだ。
「あれは、屈辱じゃった」
 老人は、さも悔しそうに言った。
 そんなことがあり、遊びはついに終わってしまった。
 そして、つい先ごろ、老人となった幼馴染たちの片割れが、死んだ。朝、彼を起こしに行った家族が死んでいる老人を見つけたというから、穏やかな死だったのだろう。
「だが、まだ奴の隠した宝を見つけてはおらんのだ」
 ぎっくり腰になってしまい、そのままうやむやになってしまった宝は、未だどこかに眠っている。
 老人の依頼は、それを見つけて自分のもとへと届けて欲しいというものだった。
「場所の検討はついておるんじゃが、何分、この腰の具合ではのう」
 腰の曲がった老人の示した場所は、ドレスタットから徒歩半日程度の森の中にある。その森の奥に滝があり、その滝の上に立っている大きな木の穴の中に、宝はあるという。ちなみに、ドレスタットから宝のある場所までは、片道およそ2日はかかるだろう。
「何でまた、そんなところに」
 呆れた冒険者ギルドの受付係に向かって、老人はすっかり曲がってしまった腰を精一杯伸ばして胸を張った。
「わしも幼馴染も、昔は冒険者だったからの。森やら荒地やらモンスターやら、そんなもの遊びの障害にはならんかったもんじゃ」
 老人が差し出したメモ書きには、以下のような文面あった。どうやら、この文面が指し示す場所に、宝はあるらしい。

 森に足を踏み入れる際には、日の入りに方向に背を向けること。そのまま獣道を道なりに進み、谷の腹に飲まれてまた進み、川辺に出ろ。そして、目にはいる滝の上へと登れ。

●今回の参加者

 ea8210 ゾナハ・ゾナカーセ(59歳・♂・レンジャー・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea9085 エルトウィン・クリストフ(22歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 ea9449 ジム・ヒギンズ(39歳・♂・ファイター・パラ・ノルマン王国)
 ea9517 リオリート・オルロフ(36歳・♂・ナイト・ジャイアント・ロシア王国)
 ea9537 ヴェルブリーズ・クロシェット(36歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ea9841 柚羅 桐生(34歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb0704 イーサ・アルギース(29歳・♂・レンジャー・エルフ・イギリス王国)
 eb1251 獅士堂 漆葉(29歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 森への出立前、ハーフエルフの特徴である耳を隠したエルトウィン・クリストフ(ea9085)とヴェルブリーズ・クロシェット(ea9537)は、依頼人である老人に森の中の地図を書いてもらっていた。老人が石盤に書いた地図は入り口周辺のものでしかなく、また大雑把だ。だが、エルトウィンは気にした風もなく笑った。
「大まかだけど、いいよね。空白はアタシたちが埋めるんだもの」
「そうですね。何にしても宝探しなんて、わくわくします」
 ヴェルブリーズも、また笑いながら言った。
 ドレスタットを経った冒険者たちがひとまず森へとたどり着いた頃、日はようやく傾きかけてきた。外から覗いている限りでは、木々が生い茂る森に道と断言できるような道は見当たらない。
「メモには、日の入りの方向に背を向けることとある。日の入りまで待って、方向を確かめるのがいいだろうな。その後は、夜の探索は危険も多いうえに効率も悪いから、ここで一泊しよう」
 ゾナハ・ゾナカーセ(ea8210)の言葉に、エルトウィンが軽く首をかしげた。
「東に向かう獣道を探せって事だろうけど、春分秋分じゃないから日の入りだって微妙に真西からはずれるよね」
 星読みなどが出来る者がいない以上、ともかく日の入りを待つしかない。日が沈むのを待っている間に、皆は野営の準備を始めた。そうこうしている間にも、徐々に日は沈んで行き、おおよその方位がはっきりしてくる。
「奥に、道みてぇなのがあるぜ」
 太陽を背にして森の中を覗き込んでいた獅士堂漆葉(eb1251)が、一本の筋にしか見えない道らしきものを指差した。ひとまず、おおよそ東へと向かう道がこれ一つしかないことを確認し、冒険者たちは森の近くで野営することに決めた。
「宝探しかあ。わくわくするね!!」
 焚き火を囲んでいたジム・ヒギンズ(ea9449)が、明日が待ちきれないというように言った。
「そうだな。宝をお届けすることで、人生の先輩たるご老人の役に立てるのなら嬉しいことだ」
 皆の保存食を簡単に料理していた柚羅桐生(ea9841)は、ジムの言葉を聞いてゆったりと上品な仕草で頷いた。
「しっかし寒いな、ノルマンって国は」
 幾らか乱暴に聞こえるほどざっくばらんな調子で言った獅士堂が、持参していたワインを取り出した。
「飲むか? 温まるぜ」
「では、私がお預かりいたしましょう」
 礼儀正しい仕草でワインを受け取ったイーサ・アルギース(eb0704)が、皆にワインを回していく。控えめながら、行き届いた給仕ぶりだ。
 火の番は二三人ずつで交代に行うこととし、森の端での夜は何事もなく更けて行った。

 翌日の朝、目覚めた柚羅は地面で寝たために硬く固まってしまった体を伸ばしながら、大きな欠伸をした。寝袋なしの野営は、防寒具一式を持っていてもさすがに辛い。
 森の中へは馬を連れて行けないと判断したヴェルブリーズは、必要な荷物をバックパックに移し始めた。エルトウィンも、同様に馬から荷物を降ろすことにしたが、多くの荷物を持ち歩くのは重い。
「ねえ、リオ君」
 エルトウィンはにっこりと笑みを浮かべながら、愛馬から必要なものを降ろしていたリオリート・オルロフ(ea9517)に声をかけた。
「どうした、エド」
 嫌な予感を覚えつつも、リオリートは穏やかに答えた。
「荷物、よろしくね☆」
 笑顔で荷物持ち要員として任命されてしまったリオリートは、ため息を吐きながらぼやいた。
「‥‥以前よりも、人使いが荒くなってないか?」
 とにもかくにも、出発である。
 初めはごく普通に木々の間を歩くだけで良かったが、獣道は徐々にむき出しの木の根が冒険者たちの足を取る、山道のようにごつごつとした歩き難い道へと変わった。これでは、一列の隊列をとらざるを得ない。
「できれば、戦闘に自身のある誰かに一番前と後ろを任せたいな」
「そういうことなら、俺がやろう。体力だけは取り柄だからな‥‥」
 ゾナハの提案を受けたリオリートは、隊列の殿を務めることにした。
「おいら、一番前に行くよ。おいらが斧で木の根っことか切りながら進めば、皆も落に進めるだろ?」
 そう言ったジムは、斧を片手にくるりと踵を返して歩き出した。
 前進することももちろん必要だが、視界の悪い森の中では辺りを確認することが必要だ。
「向こうに、谷が見えるな。滝はまだ見えねぇが」
 休憩中に木に登っていた獅士堂が、木から下りてくるなりどかりと地面に腰を下ろした。
「モンスターはいないようだ。暫くは安全だな」
 同じく木に登っていた柚羅もまた、木から下りてくる。休憩をしている間、イーサは何くれとなく、冒険者たちに控えめに給仕めいた世話を焼いていた。
 獣道というのもどうかと思うような、道なき道を歩き続けて暫くした頃、一向は谷に出た。谷底には川が流れており、谷底から10メートルほどの高さの岩壁がそびえている。その岩壁の上から流れてくる水が、滝を作っていた。岩壁の上には、どうやら谷底を流れる滝の支流があるようだ。
 比較的緩やかな斜面を降り切って谷底の川辺へとたどり着いた冒険者たちは、ほっと息を吐いた。
「ご老人の宝物へはもう少しといったところでしょうか」
 イーサが、滝を見上げて言う。
「宝物までもうちょっとだ!」
「地図も大分埋まってきたよ。嬉しいなあ」
 声をあげたジムとエルトウィンならずともようやくここまで来たと、誰もが思った時だった。川辺の岩陰から、大柄な人影にも見える何かが飛び出してきた。エイプだ。
「‥‥っ!!」
 最後に森から出てきたリオリートに、エイプが彼の背後から一撃を食らわせた。かすり傷で済んだが、エイプの攻撃は終わらない。二撃目はかろうじて避けたが、三度目の攻撃はまたも避け切れなかった。だが、これもかすり傷に終わる。
「リオ君!」
 エルトウィンの悲鳴に答えるように、リオリートは素早く日本刀を鞘から放ち、エイプに向かって切りかかった。リオリートの鮮やかな一閃を描く攻撃を三度続けて食らったエイプが、さほど足場の良くない川辺でよろめいた。そのエイプに向かって、ゾナハがスリングを放つ。スリング専用の銀の礫は、エイプの額に命中した。
「さぁ、こい!! おいらが相手だ!!」
 次にエイプの前に飛び出したのは、ジムだ。ロングソードによる二度の攻撃で、エイプに確実なダメージを与える。悲鳴を上げてのたうつエイプに、ヴェルブリーズがダガーを投げた。これがエイプの左腕を突き刺し、エイプの動きは大分鈍った。
「大事な思い出を届けねばならぬのでな! ここで御主たちの相手をして手間取るわけにはゆかぬのだ!」
 柚羅はスマッシュを放ったが、エイプには避けられてしまった。避けたエイプに向かって、慎重に狙いを定めていたイーサが矢を打ち込む。これは右腕に当たり、エイプの両腕の動きはさらに鈍った。これまでの間に、エイプの死角にもぐりこんでいたのは獅士堂だ。
「侵略すること火の如く」
 呟きながら、腕を狙って鋭い一撃をエイプに叩き込んだが、これは避けられてしまった。だが、獅士堂はもう一度攻撃を試みた。
「迅きこと風の如し」
 同じく死角からの攻撃だが、続くそれは一度鞘に収めた剣を振るう居合いだった。こちらは命中し、何とかエイプを倒すことが出来た。
 辺りを警戒しつつも川辺で少し休憩した冒険者たちは、流れが比較的穏やかで浅い場所を探して何とか河を渡り、難所である滝の前に集まった。滝はさほど大きなものではないが、その周辺の岩壁を登るとなれば一苦労だ。高さはおよそ10メートルといったところだろうか。
「獣道に谷間に川に滝登り。まさに山あり谷ありフルコース‥‥という所ですね」
「おまけに、化け物つきだ」
 イーサの呟きに、獅士堂が軽く笑った。
「何はともあれ、試してみるしかあるまい。‥‥もうすぐなのだ」
 滝を見上げていても仕方がないとばかりに、柚羅が真っ先に岩壁に手をかけた。
 柚羅のロープだけでは長さが足りそうになく、他の冒険者のロープも持って行くことにする。
 とはいえ、柚羅を初めとして、多少はクライミングが出来る者であっても、岩壁を登ることはなかなか難しいことだった。それでも柚羅は何とか岩壁を登りきり、冒険者たちは彼女の降ろしてきたロープや縄はしごなどで滝の上へと登った。
「これで地図が完成!」
 滝の上へと上がったエルトウィンは、嬉々として石盤に滝の位置を書き付けた。傍らでは、ヴェルブリーズが滝からの眺めを見て嘆息した。
「もしかしたら、これも『宝物』の一つだったのかもしれませんね」
 高台からの美しい光景を一頻り楽しんだ後、冒険者たちは本格的に宝を探し始めた。目のいい者たちにかかれば、あからさまに怪しく細工された場所はすぐに見つかるというものだ。
「これじゃねえか?」
 岩と岩の間に、あまり隠した様子もなく、一つの小箱が押し込まれていた。見つけた獅士堂が緩く振ると、中でからころという音がする。冒険者たちは、それをドレスタットまで大切に持ち帰った。

「これが『宝』だと思うが、どうだろう」
 小箱を手にした老人に、ゾナハが言った。老人がそっと小箱を開けると、中には古ぼけて今にも壊れそうな、子供用の木製のおもちゃが入っていた。
「こんなガラクタを隠しおったのか。これは、わしが初めて隠した『宝』じゃ。奴に簡単に見つけられて取られたあの屈辱を思い出したわ。奴め、こんな子供のおもちゃを後生大事にとっておったのか」
 老人は、乱暴な言葉とは裏腹に丁寧な手つきで『宝』に触れた。
「‥‥わしにあれだけの屈辱を味あわせておきながらさっさと逝くとは、どこまでも腹立たしい奴じゃ」
 緩く頭を振った老人を見て、ヴェルブリーズがそっと囁いた。
「二人の思いが詰まっているんですね‥‥」
「なるほど、確かにお宝だな」
 獅士堂が呟いた傍らで、柚羅は物思いに耽っているかのようにぼんやりと瞬きをした。故郷のことを思い出してしまったのだ。
「楽しい体験をありがとうございました。ご友人のためにも、いつまでもお元気でいらして下さい。‥‥ご無理は禁物ですよ」
「そうだよ、おじいさん。‥‥そうだ。これもあげるね。宝物のあった場所の地図」
 エルトウィンが森の地図が書かれた石盤を渡すと、老人は淡い笑みを浮かべた。
「ありがとうよ。これでまた、思い出が一つ増えたよ」
 こうして、思い出は老人の元へと帰ったのだった。

 なお、老人からの好意により、冒険期間中に消費した保存食などは全て補填された。嬉しいとは一言も言わなかった老人だったが、彼が『宝物』にどれほど喜んだのか、分かるだろう。