砕かれる天来の岩

■ショートシナリオ


担当:樋野望

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月15日〜12月20日

リプレイ公開日:2004年12月20日

●オープニング

 パリより南西に一日半ほど歩くと、小さな村がある。ごく小さな村には、特に目立った特長も特産物もない。だが、一つの岩がある。
 昔々、村の目前に広がる草原に、天から岩が落ちてきた。その岩は、どこで見る岩よりも黒く、まるで金属のような鈍く光る、珍しい色をしていた。いつしかそれは、その特異な姿と「天から落ちてきた」ことにより、神々の恩寵のしるしと考えられるようになった。そしてさらに時間が経った頃、いつの間にか村ではその岩を神々と落下した地域との契約の証を見なすようになり、丁寧に祭り始めたのだった。
 その「神々の恩寵のしるし」として守り、祭ってきた岩に、ある日異変が起こった。岩の一部が、大きく切り取られていたのである。村人たちはすぐに自衛団をつくり、岩を守ろうとした。だが、所詮は武器を手に取ったことなどほとんどないような村人たちの集まりだ。月のない夜、再び岩は何者かに襲われ、自衛団はほとんど何もできないままに蹴散らされた。三度目も、同じだった。何者かがやってきて岩を削り取っていくのは、必ず夜。人数は、四名。
 そして、天来の岩は、三度までも傷つけられた。
 村人は怒り、嘆き、ついには冒険者ギルドへ天来の岩を守って欲しいと依頼した。

 村人たちの証言によれば、襲撃者は村人よりも武器の扱いに長けているようだ。しかし、百戦錬磨の冒険者の集う冒険者ギルドの依頼受付係による所見では、襲撃者の実力のほどはさほどでもないように思われる。

 岩の周りは草が刈られて広場のようになっているが、その周囲には背の高い草が生い茂るだけで姿を隠すものは何もない。岩の大きさは、子供、あるいは小柄な女性が後ろに隠れることができる程度の大きさだ。

●今回の参加者

 ea7348 レティア・エストニア(25歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea8791 カヤ・ベルンシュタイン(26歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)
 ea9449 ジム・ヒギンズ(39歳・♂・ファイター・パラ・ノルマン王国)
 ea9511 ブルーメ・オウエン(35歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・フランク王国)
 ea9512 ルナリス・ヴァン・ヴェヌス(27歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

 まず、冒険者たちは「天来の岩」のもとへ向かうことにした。レティア・エストニア(ea7348)の提案で、エルフである彼女自身を含め、全てのハーフエルフたちは、何らかの形で特徴的な耳を隠している。
 ブルーメ・オウエン(ea9511)無残に削り取られた岩に触れながら、独り呟いた。
「そんなにこの石って貴重なのかな?」
「断言は出来ないが、これは隕鉄‥‥かもしれない」
 ルナリス・ヴァン・ヴェヌス(ea9512)も黒い岩に触れながら、軽く目を細めた。
「空から落ちてくる石の中には、変わった鉄が含まれていることもあると聞いたことがあります」
 レティア・エストニア(ea7348)が、ルナリスの言葉に頷いた。
「珍しい鉄狙いってことか。何にしても、絶対に捕まえてやる!」
 ジム・ヒギンズ(ea9449)が勢い込んで言う。
「ではそのために、私はまず罠を仕掛けましょう」
 ブルーメが言うと、防寒具一式では耳を隠すことが出来ず、髪でかろうじて耳を隠そうとしているカヤ・ベルンシュタイン(ea8791)が頷いた。
「わたくしは、この辺りの地形などを調べておきますね」
 続いて、レティアが言った。
「私は、村の方へいろいろとお願いをして参りますわ」
「おいらも、レティアさんと村に行ってくる」
 ジムが言い終えたところで、ルナリスが口を開いた。
「私は、馬で近場の街へ行って来よう。珍しい鉄を売っているとかいう話があれば、犯人にもつながるかもしれないからね」

「今晩から、私どもで天来の岩の周囲を守ります。ですが、これまで警護をしていた村の方が今晩急にいなくなってしまえば、襲撃者も不審に思うでしょう。ですから、村の方の警護も続けて欲しいのです。そして、万が一襲撃者が逃げたときには、その逃走方向を確認していただけないでしょうか」
「それから、どこか、音が聞こえ難い部屋とか家とか、借りられないかなあ」
 レティアとジムは村の長を訪ねて助力を請い、全て受け入れられた。また、滞在中の食料も村からもらえることとなった。

 馬を駆けさせて小一時間、ルナリスは小さな街にたどり着いた。何らかの情報も得られるだろうと踏んだルナリスは、まずは辺りを歩き回ってみることにした。だが、珍しい鉱物が取引されているという話も、大金が手に入るという話も、どこにもなかった。幾分落胆したルナリスの耳に、通りがかった二人連れの主婦らしい女たちの会話が漏れ聞こえてきた。
「あそこの鍛冶屋、まだ閉まってるのね」
「この間のドラゴン騒ぎで、あそこのご家族が亡くなったじゃない。暫くは仕事なんてする気にもなれないわよ」
 ドラゴン襲来は、ドレスタッド周辺を騒乱に陥れた。だが、そのことが今回の「天来の岩」襲撃に関係があるのかどうか。それ以外に、ルナリスの印象に残る話は、街では得ることが出来なかった。

「岩の周囲は広場、その周りは草原、村から岩までは一本道、ですわね」
 しばらく辺りを見渡した後、カヤは罠を仕掛けているブルーメの元へと向かった。
「首尾はいかがですか?」
「順調ですよ」
 穴を掘っていたブルーメは、顔を上げて答えた。
「その穴は?」
 足首がはまるほどの浅い穴を指差し、カヤは小首をかしげた。
「罠です。単純ですが、暗い夜にこの穴に足がはまれば大変でしょう」
「穴掘りでしたら、わたくしもやりますわ」
 穴の作成をカヤに任せ、ブルーメは更なる罠の作成に取り掛かった。岩を取り囲む草原の縁には、侵入者の足を引っ掛けるため、草を結び合わせるという罠を作る。さらに、両端に杭をつけたロープを張るという罠も作った。そのロープに足を引っ掛けると、緩く刺した方の杭が抜け、足に絡まるというものだ。

 冒険者たちの準備も終わり、夜が来た。ブルーメは村の自警団に混じり、岩の警護に当たる。ジムは、小柄な体を岩の陰に隠すことにした。レティア、カヤ、そしてルナリスは、草むらに身を潜める。カヤの持つランタンにも明かりを灯していたが、何重にも折りたたんだ毛布で灯りは漏れないようにした。
 ふと、草を風が薙ぐ音とは僅かに異なる音がしたような気がしたブルーメは、村人から借り受けていた松明を高く掲げた。草むらが、僅かに動いたように思えた。顔を引き締めたブルーメは、ゆっくりと松明を横に振った。警戒しろという合図である。
 その時だった。岩から軽く顔を覗かせていた、夜目の利くジムが、声を上げる。
「後ろ!」
 その言葉に村人たちが反応するのとほぼ同時に、草むらから姿を現した襲撃者たちが抜刀した。だが、そのうちの数人が即座によろめいた。ブルーメの仕掛けていた罠に足を取られたのだ。
「逃げるんだ!」
 ジムの声を聞き、足を取られた襲撃者たちの隙を利用して、村人たちは即座に逃げ出した。
 村人たちが落としていった松明の灯りだけが、辺りを照らしている。視界は悪い。暗がりを利用したジムは、襲撃者の目に留まらないうちに再び岩の陰に隠れた。
 カヤが草むらから勢いよく飛び出したため、その特徴的な耳が露になる。だが、襲撃者たちの目には留まらなかったようだ。あるいは、単純に敵と見なし、騒ぎ立てなかっただけのことかもしれない。
「あなた達の選択は二つに一つっ。ぶっ飛ばされてお縄になるか、お縄になってふっとばされるかですっ。どちらをお選びになりますか!」
 言いながら、左手にランタンを持ったカヤは、親指と人差し指だけを残して指を折りたたんだ右手を襲撃者の一人に向かって突き出した。その襲撃者は、カヤに向かって剣を振り上げた。
「ぶっ飛ばされてお縄になりたいということですわねっ」
 カヤが放ったオーラショットは、襲撃者を直撃した。襲撃者の一人が昏倒する。その間に、同じく草むらから飛び出していたレティアとルナリスが、詠唱を始めている。彼女たちの隙を狙ってきた残る襲撃者たちの前に、ブルーメが立ちふさがった。そして、フェイントアタックを繰り出し、襲撃者の顔に剣の切っ先を突きつける。
「次からは斬るよ。降伏してくれないかな?」
 ブルーメに、襲撃者は顔を引きつらせながらも言い切った。
「目的を達しないまま、諦められるものか!」
 必死な襲撃者の声に、さすがのブルーメも僅かに顔をしかめた。
「さぁ、こい!! あんたの相手はおいらだ!!」
 それまでブルーメにしか目を向けていなかった襲撃者は、岩陰から飛び出してきた影に驚いたようだった。だが、ジムの小柄さを侮ったのだろう。すぐに剣を向けてきた。とはいえ、夜目がさほど利かないらしい襲撃者とジムとでは、差は明らかだ。ジムがさらりとその一撃を交わし、間髪入れずに剣を振るった。襲撃者の一人が、切りつけられた腕を押さえて昏倒する。残るは二人。
 レティアのアイスコフィンが発動し、襲撃者の一人が氷の中に封じられる。ほぼ同時に、ルナリスのブラックホーリーが最後の襲撃者を襲った。悲鳴を上げた襲撃者だったが、致命的なダメージを受けたふうではない。
「邪悪ではない、ということか」
 思わず呟いたルナリスを後目に、カヤが襲撃者に向かってオーラショットを放った。この駄目押しには敵わず、襲撃者は倒れた。

 氷漬けの襲撃者はその場においてくるほかはなかったが、冒険者たちは襲撃者を引きずって、村の空き家の地下室に向かった。少しすさんだ薄暗い場所は「尋問」に隠微な雰囲気を付け足している。
「何でこんなことしたんだよ!」
 襲撃者をロープで縛り上げたジムが尋ねた。だが、襲撃者は口を閉ざしたままだ。それを見ていたルナリスは、ジムに腕を切られた襲撃者にメタボリズムをかけた。その傷が回復する。
「‥‥情報を述べればもっと回復してあげるけど、偽りを言えばそのまま死に至る‥‥かもね?」
 すると、襲撃者が怯んだ。だが、それでもまだ口は開かない。
「そうですわよ。これの威力をお忘れではないでしょう?」
 オーラショットを放つ指を、カヤが襲撃者の前でちらつかせた。
「俺たちは、どんなドラゴンの皮膚も簡単に貫く剣が欲しかっただけだ! そのためには、ただの鉄じゃない、もっとすごいものがいる。だから、あの岩に目をつけたんだ」
「隕鉄のことですか?」
 レティアの問いに、襲撃者は頷いた。
「そうだ。この岩のことは、昔から知っていた。大事に守られていて、絶対に譲ってもらえないってこともな。きっと隕鉄の剣ならドラゴンくらい、簡単に倒せるはずなんだ」
 思い込みを頑迷に主張する子供のような口調で、襲撃者は根拠が不明なことを言う。
「おまえは、あの街の鍛冶屋なのか」
 女性の噂話を思い出したルナリスが言うと、襲撃者はそうだと短く答えた。
「俺たちは、皆、ドラゴンに家族を殺された者ばかりだ」
 襲撃の理由を知った冒険者たちは、何とも言えない重苦しい思いを抱えて沈黙した。

 事情を知った村の長は、襲撃者たちのしたことは許せず相応の償いはしてもらうが、それ以上は望まないと静かに言った。
「今後、このようなことが起こらないよう、研究所や王城などに報告すれば、岩を守る為の援助も得られるでしょう。そういったこともご考慮ください」
「噂を聞きつけて来る輩が居るかも知れない。この岩で十字架を作れば、不届き者も減るだろう‥‥」
 レティアとルナリスの提案に、村の長は丁寧な礼を述べはしたが、考えさせてくれと言った。併せて、ルナリスの岩の欠片を買い取らせて欲しいという願いも、丁重にではあったが断られた。
「仲のいい腕利きの鍛冶屋から隕鉄の話を聞いたことはありますが、ドラゴンを貫くなどという効果が見込めるとは、とても思えません。それに、あの岩は我々が長らく崇めてきたもの。いつか我々の気持ちに整理がついたら、そして隕鉄とやらを加工できるほどの者に皆様が出会われたら、御礼に岩の欠片を差し上げることもできるでしょう。ですが、今はまだ‥‥」
 村の長の言葉に頷いた冒険者たちは、天来の岩を崇める村を後にしたのだった。