天才劇作家謎の怪死事件
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:HIRO
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月26日〜10月31日
リプレイ公開日:2006年11月01日
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●オープニング
●天才劇作家
――あなたの名が失われても、あなたの存在が無に帰しても、私の名が失われても、私の存在が無に帰しても、私はあなたを愛し続けるでしょう!
――ああ! 僕は神に感謝したい! 君に出会えた幸福を与えたもうた神に!
フィナーレでの大団円。鳴り止まない拍手喝采。誰もが若き天才劇作家クリストフ・マーレイの描く世界、用意された舞台に酔いしれている。アン・シェリングもその中のひとりである。いや、彼女が酔いしれていたのは戯曲だけではなかったが。
「クリストフ、今日の舞台も素晴らしかったわ」
「喜んでもらえて嬉しいな」
クリストフはアンの手を取り、軽く唇を押しつけた。アンのあどけなさの残る頬がさっと紅潮するが、月だけが輝くことを許された夜更けではそんな愛らしさも闇に紛れてしまった。
「アン、これを君に贈らせてくれ」
クリストフが月明かりの下に照らし出したもの。それは指輪。
「結婚しよう」
彼はそっとアンの薬指に指輪をはめた。
予期できない幸福の訪れは――それがどんなに小さくとも――予期できた大きな幸福の感動に勝る。感極まったアンはうつむき、月明かりの混ざった涙を零した。
しかし・・・・。
「とっても嬉しい。でも・・・・」
躊躇いがちな言葉。
クリストフは何がアンの心を曇らせているのかを悟った。
「お父様の事だね?」
肯くアン。
「お父様はあなたとの結婚を認めてくれないわ」
「僕は駆け出しの劇作家だし、財産も地位も名誉もないからね」
二人は押し黙ってしまった。
「・・・・僕はキャメロットに行くよ。そして何とか君のお父さんに僕達の結婚を認めてもらう」
●キャメロット、シェリング邸にて
「あの愚かな劇作家がまた訪ねて来おったよ」
シェリング卿は冷たい口調で言った。愛用の安楽椅子に腰掛け、パイプからきな臭い煙を吐き出しながら。
アンは不安げな面持ちで父の次の言葉を待った。
「厚かましくも、お前を嫁に欲しいなどと」
「それで・・・・何と?」
「むろん、追い払ってやった。二度とお前に近づくなと言い渡してな」
「あんな奴とこれ以上付き合うなどと、我が家名の沽券に関わる」
「お父様なんかに何もわからないのよ!」
アンは絶望に涙ぐみ、父の書斎を飛び出していた。
シェリング卿は眉間に冷酷な皴を寄せる。
「このままでは駆け落ちでもしかねん。手を打っておかねばならんな・・・・」
●酒場での殺人
結婚を拒否されたクリストフは荒れていた。酒場で安い酒を浴びるように飲んでは、誰彼構わずに話しかけ愚痴る。
「ちょいとお客さん、店じまいですぜ」
酒場の主人は困ったとばかりに腕を組んだ。
体を捻れば酒が絞り出せそうなほど飲んでいたクリストフは真っ赤な顔をテーブルに寝かせ昏睡している。とても目を覚ましそうになかった。
「困ったなあ。まだ支払いもまだだし・・・・」
仕方ないとばかりに奥にある客室で休ませようとクリストフの肩に手を回し体を持ち上げる。
「重い・・・・こんな華奢な体してるくせによう・・・・」
ようやく客室まで運び込み、ベッドの上に寝かせる。
その時、酒場に荒々しく飛び込んできた一人の男。彼は奥の部屋へとまっしぐらに突き進み、そこにクリストフの姿を見つけると、にやっと笑った。
「ようやく見つけたぞ、この野郎! もう逃がさねえ! さあ、今すぐ貸した金返せ!」
その怒鳴り声にクリストフは重い目蓋を開く。
「やあ、べック、君か・・・・。こんな時間になんだい?」
「今日こそは耳揃えて返してもらうぜ! 嵐の日の水溜りみたいに溜まり溜まったツケをなあ!」
ベックと呼ばれた男はクリストフの胸ぐらを引っ掴んだ。
酒場の主人はいざこざに巻き込まれては面倒と、言い争う二人を尻目に自分の寝室へと引き上げていった。
翌日、客室のベッドにクリストフ・マーレイの死体が発見された。それも顔が判別できないほど顔面を滅茶苦茶に潰されて。凶器と思われるのは棚に立て掛けられていた斧。ただひとつ奇妙なのは、その斧に酒場の主人は見覚えの無かった事。昨日のクリストフと言い争っていた取立て屋らしき男もそんな物を持っていなかった。懐に隠せるような物でもないし・・・・?
●ギルドにて
受付嬢はすすり泣くアンの背を優しく撫で慰めていた。
「きっと父の手の者です! 父が命令してクリストフを殺させたんだわ! 間違いないわ!」
「そんな。決め付けちゃいけませんよ・・・・それに・・・・」
受付嬢は手紙を広げる。そこには書き殴ったような筆跡でこう書かれてあった。
――愛しいアン・シェリングへ
五日後の深夜、教会近くの森で落ち合おう。
永遠に君に忠実なクリストフ・マーレイ
この手紙がクリストフ殺害の翌日、アンの部屋の窓辺に置かれてあったという。
「これはクリストフさんの筆跡ですか?」
アンは涙に咽びながらも、質問に答えようと努力する。
「・・・・彼の筆跡に似ています。でも確かじゃないです」
「ご依頼内容はこの悪ふざけの主を捕まえることですか?」
「それもありますけど・・・・指輪を取り戻して欲しいんです」
「指輪?」
「クリストフの遺体の指から、指輪が失われていたんです。わたしがクリストフに贈った物で彼でなくわたしにとっても思い出の指輪なんです。きっと悪漢が売却目的に持ち去ったんだわ。私はそれをどうしても取り返したい。彼の遺品としてわたしが持っていたい!」
非常に不可解で不気味な依頼だが・・・・?
●リプレイ本文
「さあ、これであなたは私の虜」
女性的容貌と声音を持つ麗しき詩人カイト・マクミラン(eb7721)の魅力という魔法の前に傲慢なシェリング卿も遂に口を割ろうとしていた。
「この斧に見覚えは?」
若き学者ジャン・シュヴァリエ(eb8302)は、卿にマーレイを殺害したと思われる斧を差し出した。卿は知らないと首を振る。
「では、マーレイとあなたの娘さんが今後会わないように何か汚い手を使わなかった?」
卿は首を縦に振る。カイトは、どのような手段を用いたのかを問い詰めた。が、魔法の限界だろうか、それ以上は卿も固く口を閉ざした。
「マーレイが生きていると信じたい」
アルマ・シャルフィ(eb8153)が呟いた。彼女はいつでも願っている、万人の幸せを。
「死体の身元はシェリング卿の手の者という可能性も出てきましたね」
ジャンの問いかけに、カイトはアンに届けられた手紙の上に目を落としたまま呟くように応えた。
「そうと決め付けるのは早計だけど・・・・死者からの招待状か」
「派手ですね。人を殺めるなら、もっと隠密に行うべきです・・・・」
騎士団に運び込まれた顔の潰された遺体を前に、大宗院透(ea0050)は呟いた。
先ほどまで、愛する夫と一緒の捜査で浮かれていた大宗院亞莉子(ea8484)の顔も凄惨な遺体を前にしてさすがに曇った。二人は専門的見地から遺体を調べたが、偽装させられているという痕跡は見受けられない。身体的特徴も予め聞き及んでいたクリストフのものと符合する。
「やっぱり、遺体はマーレイってカンジィ。残念だけど」
「まだ分かりません。それなら顔を潰されている意味がないですし、指輪がなくなっている理由も・・・・」
「でもベックって人は大柄なんでしょ? その人じゃないと思うな」
事件の日以来、ベックという謎の人物の目撃談も得られてはいない・・・・。
「きっと何かあります・・・・」
風の強い夜だった。深い森の色は人を惑わせるように宵闇の色に混ざる。ざわめく枝葉は今宵の波乱を予感しているのか、あるいは安寧を謡っているのか。どちらにしても、もうすぐ真相は白日の下に晒される・・・・はず。
真相を知るためにはアンを森に行かせるしかなかった。
アンは足を止めた。ふと空を見上げる。三日月が夜を統べていた。
あの日もこんな夜だったと、アンは自分の薬指にはめられた指輪に涙を落とし、愛した人の名を呟いた。
その時、藪から物音・・・・草木が風に靡くような物音ではない。明らかに人が動く物音が!
アンの手首は背後から掴まれる!
「アン・シェリングだな?」
その瞬間、カイトが潜んでいた木陰から飛び出した!
「眠れ! 秋の夜の風を抱き枕として!」
カイトの魔法に男は倒れ伏し、豪快な寝息を立て始めた。
眠っている男の顔を月明かりの下に晒される。
「クリストフじゃない・・・・!」
アンは力なく膝を落とした。
やがて男は目覚めた。木に縛られた身体的自由を知っても、不敵に笑う。
「あなたは誰です・・・・?」
透が問う。
「そういうあんたらが誰だい?」
「私達はギルドの者。ここにいるアンに雇われた」
アルマの言葉も男は簡単に信じようとはしない。が、聖書にかけて誓うとアンが断言するのを見て、ようやく納得したようだった。
「で、あなたは誰なんです?」
「その前にこの縄を解いてもらいたいな。私が何をしたと言うんだ?」
抵抗しようとしたら、またすぐに捕まえればいい。そう判断し、男のロープを切る。
男は肩が凝ったというように首を回し、付いて来い、と言う。
「だからあなたは誰なんです」
ジャンがしつこく問う。男はようやくその問いに答えた。
「私の名はベック。ベック・カーターだ」
夜はさらに深まりそうだった。
「どこに行くんです・・・・?」
透は問う。が、ベックは答えない。ただ足早に夜道を進む。月影に導き出される不鮮明な像は青褪めた大地に余韻と共に長く刻まれる。
三〇分程度も歩いただろうか。ベックが誘った場所は人気ない路地の廃屋。無人かと思われた家の窓から今宵の月明かりにも似た灯火が垣間見える。
ベックはずかずかと廃屋の奥へと入って行った。そしてある部屋の前で足を止め、扉を叩いた。
「入り給え」
扉は開かれた。
中には一人の青年が背を向け、佇んでいる。
彼は振り向き、そして微笑む。
「ようこそ。今夜のささやかな公演には充分なお客だ」
クリストフ・マーレイは澄んだ声でそう言った。
「クリストフ!」
アンは涙ぐみながら、クリストフの胸に飛び込んだ。彼は恋人の髪を撫でながら、落ち着いた声で言う。
「まだ感情的なフィナーレを迎える時ではないのだよ、アン。僕は審判を受けなければいけない。劇作家に審判を下すのは、いつでも観客さ」
クリストフは冒険者達を一瞥した。
「驚いてはいないようだね。全てはお見通しだったというわけか」
「ギルドの奴らさ」
ベックが口を挟む。
「なるほど、ギルドに馬鹿な観衆はいないらしい。戯曲を楽しむにはどうしようもなく馬鹿になる事を勧めるがね。騙されなくては、物語に入り込めないだろう?」
「最初はあなたがベックさんを殺し、遺体を偽装したのだと思っていたわ」
カイトが切り出した。
「駆け落ちするための計画的な犯行だったの? だとしたら罪の意識はあるのかしら?」
アルマは厳しく問い詰める。
だが、クリストフとベックは顔を見合わせ、大笑いを始めた。
「僕がベックを殺した? 駆け落ちをする? 計画的な犯行? ははは、何ともロマンチックな考え方だ! 君達こそ戯曲でも書いた方がいい。いや、現実での物事というのは戯曲ほど練られて構成されているわけではない。偶然という要素によって支配されているからね。まあ、僕の話を聞いてくれ給え」
「ベックは厳密に言うと金貸しではない。彼は公演を主催する興行主で、僕は彼に新作をくれてやると言い続けて酒を奢らせていたんだ。でも僕は仕事の手が早い方じゃなくてね。ベックはすっかり業を煮やしてしまった。あの日はそのツケを取り戻しに来たのさ。でも僕はあいにく持ち合わせがあまりなくてね」
「まったく、才能以外は何も持ってない奴だよ」
ベックが横槍を入れる。
「というわけで、ベックは一旦帰った。しかし彼と立ち代りに入ってきた奴がいた。シェリング卿の手の者だ。男は手にナイフを携え、僕を殺そうと襲い掛かってきた」
「やはりあの遺体は卿の手の者でしたか」
ジャンは言い、ベックが後を引き取った。
「私もそいつとすれ違ってね。こんな遅い時間に妙だと思い、酒場に引き返した。するとどうだ! マーレイとその男が揉み合っているではないか」
「僕は男を引き離そうと力一杯押しのけた。悲劇だよ。男は床に倒れ臥せ、そのまま動かなくなった。転んだ拍子に自分のナイフで自分の胸を突いたのだ。もし君達が先入観に囚われず遺体を調べたなら、真の死因を見つけたろうに。斧で頭を砕いた後、胸を刺すような人間はいないからね」
「過激ですね。“劇作家”にとってはその過“激さ”がないと売れないのかもしれません・・・・」
透の場違いな洒落にクリストフは大声で笑う。
「いや、失敬。冗談が好きでね。そう、過激さかもしれない。戯曲の題材になるのは。ただ戯曲を組み立てるのはその過激さの中に置いてすら失われない冷静さだ。僕は冷静にこの状況を直視していた。もちろん、僕は正当防衛で何の咎めも受けないだろう。ベックという証人もいる。だが。ここで僕の頭の中で物事が計算され組み立てられた」
――僕は死んだ事にしよう。
「もし、僕が生きていたとしたら、シェリング卿は新たな刺客を雇い、また僕を殺そうとするだろう。そんなイタチごっこを続けるわけにはいかない。ならば、ここで僕が死んだとする方が賢明だ。幸いにも、その刺客は僕の容貌によく似ていた。もちろん顔をどうにかする必要があったがね。ああ、あの瞬間は思い出したくもない。あの人の顔を砕く瞬間はね。君達にはきっと想像もできないだろう。いや、しない方が幸せか」
「斧はどこから? 懐に隠し持っていたんじゃないのですか? 酒場の主人はあなたの体が重かったと・・・・」
透が聞いたが、クリストフはまた高らかに哄笑した。
「斧なんて懐に隠せると思うかい? 斧なんてどこにでもある。そこら辺から拾ってきただけさ。あと、酒に酔った力ない体なら女でも重いはず。君達は深読みのしすぎだな」
「特にこいつの体は雑巾みたいに酒を含むからな」
ベックが言う。
「じゃあ、駆け落ちのために一芝居うったわけじゃないってカンジ?」
「うむ、卿は高齢だし、アンには悪いが、先も長くないはず。アンが無理やり結婚させられそうになっているわけでもないし、焦る必要はない。待つだけならいつまでも待てる。僕の気持ちは時の川には流されないさ。これで僕の話は終わりだ。後は君達の裁量に任せよう」
「今後はどうするつもり?」
カイトの問いに、彼はキャメロットを去り、どこかの都市で戯曲を書き続けると答えた。
「なら、アンに決めてもらうというのはどう?」
アルマの提案に皆、一様に肯く。
クリストフはアンと向き合い、手を差し伸べた。
「君は死人となった僕を愛してくれるかい?」
アンは嬉し涙に頬を濡らしながら、その手を取った。
「あなたの名が失われても、あなたの存在が無に帰しても、私の名が失われても、私の存在が無に帰しても、私はあなたを愛し続けるでしょう!」
クリストフは笑う。
「ああ! 僕は神に感謝したい! 君に出会えた幸福を与えたもうた神に!」
カイトは微笑み、目を瞑る。
「死人は裁けない、今日のところは見逃しといてあげるわ。どこにでも行って幸せになるがいいさね」
さて大宗院夫婦は?
「やっぱりぃ、愛っていいよねぇ。愛があるから生きていけるってカンジィ」
「忍びに感情は邪魔なだけです・・・・」
「でもぉ、私は透を愛しているってカンジィ」
今夜の公演は大団円をフィナーレに幕は下ろされた。
後日、ギルドに一通の手紙が届けられた。
――もし君達がウィリアム・ワードワイズという劇作家の戯曲を見る機会があったなら、言ってくれ給え。最高の席を用意しよう。
追記
ジャン・シュヴァリエ君、君の贈ってくれたオカリナは大事に使わせて貰う。