ピグリー・ブラザーズの挑戦

■ショートシナリオ&プロモート


担当:HIRO

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 8 C

参加人数:7人

サポート参加人数:2人

冒険期間:11月03日〜11月07日

リプレイ公開日:2006年11月09日

●オープニング

 満月が煌く深夜、その満月みたいにまん丸い盗賊二人が、屋根伝いに駆けていた。
 ドス。ドス。
 まるで太り過ぎた猫みたいにふてぶてしい足取り。が、太っていてもやはり猫みたいに身のこなしは軽やか。
「バルフ兄貴〜、今夜はどこを襲ってやろうか?」
「マルコ、昨日は商人の屋敷から、金をごっそり頂いた。今日は勝利の美酒に酔いたいな! 酒場を狙うとしよう」
「おお! 酒を飲み放題! 飲み放題!」
 ピグリー兄弟は今日もゆく。ロマンある悪事とスリルを求めて。退屈は似合わない。危険な夢でも追いかけずにはいられない。獲物を見つけ出せば、鷹のように軽やか・・・・に宙を舞い、狼のように確実・・・・に仕留める。
「ふむ、ここの酒場がいい」
「何故だ、兄貴?」
「ふっふ、弟よ、見ろ。出口を出た先の通路が坂になっておろう。盗んだ酒樽を転がして運ぶに最適!」
「さすがバルフ兄! 頭の冴えが違う!」
「そう褒めるな、弟よ。例え、それが本当だとしても。では参ろうか!」
「参ろう、参ろう!」
 ピグリー兄弟の手にかかれば、鮮やかな手口でドアの鍵が外される。
斧で鍵を叩き壊したわけだが。
 兄弟のために道は開かれたのだ。
 無理やりこじ開けたわけだが。
 とにかく、二人の前には山積みになった酒樽が。
「よし、弟よ、急いで運び出すぞ!」
「運び出そう、運び出そう!」
 二人は見事な連携で酒樽を次々と坂道に転がしていく。
 が、そのとき。
「こら〜、お前ら! そんなところで何してやがる!」
 あまりにも騒々しいので、酒場の主人が目を醒まし、降りてきたのだ。
「む、見て分からんか! 酒樽を盗んでおるのだ!」
「盗んでおるのだ、盗んでおるのだ!」
「な〜にが、酒樽を盗んでいる、だ! 酒樽みたいな体型しやがって!」
 バルフは細い目を光らせる。
「なんだと! 聞き捨てならんな! 我ら美形怪盗紳士に向かって! まあいい。今は速やかに鮮やかに去るとしよう、蝶のようにな!」
「そうしよう、そうしよう」
 二人は颯爽・・・・と逃げ出す。
 主人はもちろん後を追い、外へと飛び出した、が。
 ピグリー兄弟は甲高い声で笑う。
「ふははは、追いつけるものなら、追いついてみよ!」
 何と、彼らは転がる酒樽の上に上手く乗り、物凄いスピードで坂道を下っているではないか!
「ふははは、我ら華麗なるピグリー・ブラザーズ! かつては大道芸の玉乗りをこなし、花形でもあったのだ!」
「驚いたか、驚いたか!」
 だが、ただひとつ、兄弟の計算外であったのは、坂道の先がテムズ川ということ。
 二人は華麗に月夜の空を舞い、酒樽と共に派手にテムズ川に飛び込んだ!
 一部始終を目撃していた酒場の主人はポツリと一言呟いたという。
「ピグリー兄弟・・・・恐るべし・・・・」

 ある穏やかな午後、あるひとりの商人がギルドに飛び込んできた。
「どうしたんです?」
 受付嬢は柔和な口調で商人に話を促した。
「私は・・・・ふう、疲れた、ちょっと失礼」
 出された水を一気に飲み干す。
「ふう、一汗掻いた後の水はうまいですな」
「はあ・・・・」
 受付嬢は緊迫感があるのかないのかよく分からない状況に困惑気味。
「実はですな」
 商人はやけに差し迫っているという雰囲気をムンムン漂わせながら言う。
「私はロドリゲス。キャメロット西の方でちょっとした商いをやっとります。ところがですな、今朝このような貼り紙が我が家の壁に!」
 受付嬢は差し出された貼り紙を広げた。
「これは・・・・!」
 衝撃!
「読めませんね・・・・字が汚すぎて・・・・ていうか、イギリス語ですか、これ?」
 彼女の言うようにその手紙の文字は汚くて読めない上、綴りが間違いだらけ。教育の有無という問題ではなく、書き手の知性の低さを物語っているようだ。
「イギリス語であることは間違いありません。ほら、ここ。かろうじてここだけ読めるでしょう?」
「え〜と・・・・ピグリー・ブラザーズ・・・・ですか?」
「ええ、このピグリー兄弟、奴ら、知る人ぞ知るという悪党でしてね。一昨日も酒場が狙われまして。酒樽すべてがテムズ川に溺れて、おじゃんとなったとか。凶悪な奴らです」
「へーへー」
「そんな奴らにですよ! うちが狙われているんです!」
 受付嬢はようやく合点がいったように手を叩いた。
「ああ、これ予告状なんですか?」
「無論です! それ以外に何がありますか!」
「色々とあるんじゃないでしょうか?」
「ああ、奴らは私の店の宝石を狙っているんです! どうにかしてください!」
 と、いうわけらしい。

●今回の参加者

 eb3949 ナセル・ウェレシェット(26歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 eb5450 アレクセイ・ルード(35歳・♂・神聖騎士・エルフ・ロシア王国)
 eb6663 アドリアン・グランマリア(21歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 eb7109 李 黎鳳(25歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb7208 陰守 森写歩朗(28歳・♂・レンジャー・人間・ジャパン)
 eb7464 ブラッド・クリス(33歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb7628 シア・シーシア(23歳・♂・バード・エルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

ソル・アレニオス(eb7575)/ シャノン・カスール(eb7700

●リプレイ本文

「何? 日付の部分を解読できただと?」
 陰守森写歩朗(eb7208)は呟く。日付だけでも読み取れたのはシャノン・カスールの努力の賜物。
「明後日に来るみたいね。変な字でも予告状を出してくる辺り、律儀なのか大物なのか・・・・」
「ただの馬鹿なのだろう」
 李黎鳳(eb7109)の言葉にアレクセイ・ルード(eb5450)はズバリと言い切った。
「まあ、そんな馬鹿者だから、この程度の出来の贋物にも見事に引っかかってくれるに違いないがね」
 偽の宝石は彼の掌の上で転がっていた。

 まん丸い月が今日もピグリー・ブラザーズのために輝いていた。月の美しさが人の心を鮮やかに攫うように、彼らも獲物を攫うのだろう・・・・おそらく。
「えっほ! えっほ!」
 ドタバタと奇怪な騒音活動を続けながら、兄弟は屋根上を駆け、ロドリゲス邸へと向かう。
「む! これは何だ、バルフ兄!」

           ピグリー兄弟、ご案内!

 森写歩朗の用意した道標である。
「弟よ、これは我らに敵わぬと知った奴らが事を円満に済ますため自ら宝石を差し出そうという意思表示に違いない」
「なるほど、さすがバルフ兄!」
 案内通りロドリゲス邸まで辿り着く酒樽二人。
「では作戦通り行こうか、弟よ」
「そうしよう、そうしよう・・・・む?」
 マルコはまた何かに気付き、足元を細い眼で睨む。
 そこに張られていたロープはナセル・ウェレシェット(eb3949)の用意した鳴り子である。
 彼女は木陰に潜み兄弟の様子を見守っていた。
「予告状を送ってくるなんて随分自信家の怪盗さんね。兄弟仲がよいのはいいけど、人の物を盗もうとしては駄目ね」
 バルフはしばらく腕組みして考えていたが、ふと答えに思い当り、快活に笑う。
「弟よ、これはいわばノッカーのようなものだ。御用の際はこれを揺すって下さいね、と申しておるのだろう」
「なるほど!」
 二人は罠である鳴り子を楽しそうに揺すり始め、自ら音を鳴らす。
「え〜! 何この二人・・・・」
 ナセルは絶句してしまった。

 もちろん鳴り子の音は室内にまで存分に響いていた。
「ふふん、怪盗ピグリー兄弟襲来ってとこか。この名冒険者アドリアンにかかれば、二人とも一網打尽で騎士団行きさ」
 自信たっぷりアドリアン・グランマリア(eb6663)は言う。
「おい、君は隠れなくていいのか? 自分は一応身を潜めるが」
 ブラッド・クリス(eb7464)はカーテンの陰に身を隠しながら問う。任務である限り、警戒は怠るべきではないのだが。
「ふふん、僕に任せてよ、ブラッドさん、こういう知性の低い奴らの扱いはね」
 話を合わせたのはドアの影に座ってニヒルな笑みを零すアレクセイ。
「まあ、確かに必要以上に身構えても仕方なかろう。この予告状には知性の欠片も感じられん事は明らか」
「うむ、それでも自分は念には念を入れるタイプでね」
 ブラッドは考える際の癖である腕組みをしながら唸る。
 ちょうどその時だ。廊下から重々しい足音が響く。ピグリー兄弟か?
 ドアは開かれた! その瞬間、入ってきた人物にアドリアンが威勢よく指差す。
「お前がピグリー・ブラザーズだな!・・・・ん?」
 彼の指が枯れた草木のように萎れた。
 絶句!
 入ってきたのは・・・・メイドに扮装しているつもりのマルコ。はち切れんばかりの肉が今にもメイド服を破りそうだ。
 そのあまりにも酷い光景を前に冒険者全員が潜んでいた場所から転げ出した。
「さ、寒い・・・・」
「心が折れそう・・・・」
「何を致しておるのだろう、自分達は・・・・」
 ブラッド、黎鳳、森写歩朗から次々に絶望の溜息が漏れ出た。
「我が変装を見破るとは貴様ら、只者ではないな!」
 マルコが言った時、アレクセイは思わずこう呟いたという。
「まさかこれほどとは・・・・ピグリー・ブラザーズ、恐るべし・・・・」
「お」
 マルコは暖炉の焼き魚に目をつけた。
「ちょうど腹が減っておったところだ」
 マルコは魚に齧り付き始める。
「貴様、意地汚い奴! 私が夜食にと用意していた魚に!」
「なんて緊迫感がないの・・・・」
 黎鳳が唖然と呟いた時!
 部屋の中央辺りの床がベリベリっと剥がれた。中から姿を現したのはバルフ! まさか床下から現れるとは想定外! 事前に穴を掘っていたのだろう。
 彼は机の上に置かれた宝石箱を掴むと高らかに笑う。
「わはは! 弟に気を取られたな! 計算通り!」
「しまった! ピグリー兄弟のペースにいつの間にか巻かれていたか!」
 ブラッドは唇を噛む。思えば、奇襲をかけるはずだったのにまだ何もできていない現状。
「焦る事はないぞ、ブラッド君。おい、酒樽兄弟! その宝石箱を開けてみろ」
 兄弟は指図通りに宝石箱を開く。中には「すか」と書かれた羊皮紙が。
 彼らはその紙切れをしげしげと眺め、
「む、読めん!」
 再び崩れ落ちるアレクセイ。
「なんと騙し甲斐のない奴らだ・・・・」
「まあとにかく」
 とバルフは腰の鞘から不似合いなほどすらりとした小剣を引き抜いた。
「我らが欲しいのはこのような紙切れではないという事だ」
「ふふん! また計算違いだな、ピグリー兄弟! 君達の武器は先程すり替えておいた。それらは使い物にならないよ」
 これはもちろんアドリアンのハッタリである。そして兄弟は疑わなかった。何とも無垢な赤子の如き心の持ち主である。
「そうなのか? では要らんな」
 とバルフはアドリアン目掛けて思い切り剣を投げ捨てた。剣は彼の白い頬を掠め、柱に突き刺さる! アドリアンはびっくり仰天、少し涙を零してしまっていた。
「何をやらせても心臓に悪い兄弟よ! 見ろ、本物の宝石はあのゴーレムの首に掛かっているぞ!」
 森写歩朗はペットのゴーレムの方へと兄弟を煽る。
「テツ! 宝石に触らせるな!」

 月の輝く夜空を肴に酒を飲み歌うエルフがいた。シア・シーシア(eb7628)である。煙突の影に潜み、兄弟の動向を見張るのが今回の彼の役目。
「ん? 下がやけに騒がしいな。噂の兄弟でも出没したのかな? どれどれ」
 酒に赤くなった顔で下を見下ろす。ちょうどその時、居間の窓が物凄い轟音とともに壊れ、中からけったいな丸い物体が飛び出してきた。
「おお! 満月? デブ猫? 酒樽? いや、ピグリー兄弟か!」
 シアは大笑いしていたが、窓のすぐ外で待機していたナセルの悲鳴は甲高く月夜に響いた。

「ふふふ! てこずらせおって! 宝石はこの通り頂いたぞ!」
 ゴーレムから奪い取った宝石を天に突きつけ、得意気味の兄弟。バルフはふと傍に倒れていたナセルに気付き、優しく手を差し出した。
「お怪我はないかな、お嬢さん。宝石は無事盗み出せました。次は貴女の心を頂戴したい」
「さすがバルフ兄! かっこいい〜!」
 しかしナセルは、
「いやあああああ!」
 と鞭を振り回し拒絶。その鞭は見事にバルフの頬を張った。痛がって怯むその隙に彼女は仲間の方に駆け寄る。それでもバルフは懲りないが。
「ふふ、愛とは時に痛みなのさ。この鞭も愛情の裏返しと思えば・・・・」
「そんなんじゃありません!」
 ナセルは怖ましさに鳥肌が立つのを憶えながら叫ぶ。
「ふ、もう逃がさんぞ! あと、お縄につく前にもう一つ教えてやろう。君達の手にある宝石もまた贋物なのだ」
 アレクセイの発言をアドリアンが繋ぐ。
「ふふん、その通り! 本物はこの黎鳳さんが持っているのさ!」
「こら、それ言っちゃ駄目じゃない!」
 黎鳳が慌てる。
「なるほど、つまりそっちのお嬢さんを・・・・」
「こら! 最後まで言いなさいよ、気持ち悪い!」
 悪寒が彼女の背筋に走る。
「案ずるな、我々がこのみょうちくりんな奴らに敗北を喫するわけがない」
 いつもの余裕溢れる笑みをアレクセイが零した時。兄弟の目が光った。
「我ら二人の真の武器はこの肉体よ! とくと見せてやろう!」
 猫が痒い所を前足で掻くような奇妙な構えの後、兄弟は息を合わせ、冒険者達に突進する! 荒れ狂った牡牛の如く。
 アレクセイとブラッドは体当たりをもろに受け吹っ飛んだ!
「ぐは! 重い・・・・」
「次は宝石を隠し持つお嬢さんの番かな?」
 いやらしい笑みを浮かべるバルフ。
 その笑顔が黎鳳をキレさせた!
「いやああ!」
 渾身の一撃がバルフの顔面に喰い込む。月夜に舞い散る鮮やかな鼻血。
「よし、今だ!」
 アドリアンの重い一撃がマルコを襲う! 追い討ちを欠けたのはナセルの鞭!
「女の敵!」
「よし、転じて期を拾う!」
 立ち上がり、猛然と敵に突っ込むブラッドの短剣がバルフの肉厚な頬を掠めた。
「むむ、多勢に無勢というやつか」
「どういう意味だ、バルフ兄?」
「逃げるが勝ちという意味よ!」
 兄弟は窓の縁伝いに壁をよじ登り始めた。瞬く間に屋根まで届かんばかり。
「ふはは、我ら身軽なピグリー兄弟。壁をよじ登るなど、わけもないわ!」
 兄弟の丸い手が屋根に届いた。だが・・・・。
「僕が屋根にいなければ、逃げられたかもな」
 シアは無情に笑う。そして。
「あ、ちょっと待って・・・・」
 バルフが情けない声を出した時、兄弟の手はシアに踏み躙られていた。
 真っ逆さまに落ちて行く憐れな兄弟の悲鳴が甲高く木霊した。

「一件落着ね」
 縄で縛られた兄弟を眺めながら、ナセルが言う。
「しかしどうしてこの兄弟が怪盗などしているのか。玉乗りの方がよっぽど向いている」
 とシアが悩む。
「何を! 我ら、ゆくゆくはグィネヴィア王妃の心を攫う大怪盗になるのだぞ」
 寒い風が吹く。
「この人達、いつかまた同じ事を繰り返しそうな気がするなあ・・・・」

 翌朝、兄弟を捕まえたという報を聞き、ロドリゲスが意気揚々と居間に顔を出した・・・・が。
「オーマイ・ゴッド!」
 床は張り裂け、家具は壊され、カーテンは引きちぎれ、窓は破れた無残な空間が広がっていた。無理もない、あれだけ暴れたのだから。
 冒険者もいくらか気まずそう。
「え〜と、作戦・・・・成功?」
 ナセルが愛くるしい笑顔でごまかした。