歌の競作! エリー一座と歌の旅!

■ショートシナリオ&プロモート


担当:HIRO

対応レベル:1〜5lv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 71 C

参加人数:8人

サポート参加人数:5人

冒険期間:11月18日〜11月24日

リプレイ公開日:2006年11月25日

●オープニング

 秋風の甘さに唄声の甘さが加わっていた。夕風が観客を包み込むように、歌姫エリー・シュワルツコフの唄も皆を優しく包み込む。彼女の唄声は朝日のように希望に満ちて始まり、昼のように輝かしく、時に夕日の如く物悲しく、夜のように物静かな終焉を迎える。
 人は感動に手を叩き、歌姫を讃えた。

 キャメロットでの公演日数も残りわずか。一座はまた何処かへと旅立たねばならない。
「北へ向かおうと思う」
 座長は言う。夜の酒場、一座でテーブルを囲んでいたときに。
 キャメロットから三日程度のとある街。差し当たっての目的地である。
「そうですね。今ならまださほどに寒くもないですし、紅く染まった落ち葉も綺麗だと思います」
 エリーは答えた。
「ただな、最近どうやら物騒らしくてな。盗賊だのなんだのが、あの辺りに出没するらしい」
「大体、お話はわかりましたわ」
 座長の物言いを鋭敏に察し、エリーは微笑んだ。
「ギルドに護衛をつけてもらいましょう。ギルドには詩人さんも沢山いますし、道中きっと楽しく過ごせますわ」

「この前は皆さんに助けてもらいましたわ、感謝の言葉もございません」
 エリーはギルドの受付嬢に深々と頭を下げた。彼女は以前ギルドの助けを借りたことがあるのだ。
「ああ! 公演は上手くいっているみたいですね!」
「ええ、おかげさまで」
「また旅立つんですか? 大変ですねえ」
「その護衛にまた皆様のお力をお借りしたいと思いまして。ここから三日程度の街までですけど」
 受付嬢はうっとりとしながら、ペンを取る。
「この季節、道中綺麗ですよねえ。わたしが同行したいくらい」
「ええ、実は途中で小さな村に寄り、一日だけ歌う予定なんです。ですから、もし冒険者の皆さんにも歌っていただけるようでしたら、公演の成功に応じて追加報酬も・・・・なんて考えてます」
「依頼は簡単だし、結構お金にもなるし、季節旅行にはなるし、皆大喜びなんじゃないでしょうか」
 こうして一座の依頼はギルドの壁に貼られることとなった。

●今回の参加者

 ea0679 オリタルオ・リシア(23歳・♀・バード・エルフ・イスパニア王国)
 ea2913 アルディス・エルレイル(29歳・♂・バード・シフール・ノルマン王国)
 eb5450 アレクセイ・ルード(35歳・♂・神聖騎士・エルフ・ロシア王国)
 eb7208 陰守 森写歩朗(28歳・♂・レンジャー・人間・ジャパン)
 eb7692 クァイ・エーフォメンス(30歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 eb7721 カイト・マクミラン(36歳・♂・バード・人間・イギリス王国)
 eb7814 ミッシェル・バリアルド(38歳・♂・ジプシー・人間・イスパニア王国)
 eb8461 バルスィーム・ナァナーム(20歳・♂・ジプシー・シフール・エジプト)

●サポート参加者

七神 蒼汰(ea7244)/ クリステル・シャルダン(eb3862)/ 日高 瑞雲(eb5295)/ サスケ・ヒノモリ(eb8646)/ ディディエ・ベルナール(eb8703

●リプレイ本文

 緋色に染まった並木通りを馬車は行く。鼻先を掠めていく秋風も今が一番甘い。野に咲く健気な花は、風に揺られ歌を謡い、いつしか散っていく。去り際の美しさ。秋はそれを最も強く感じさせる。
「いや、正に素晴らしき旅路ではないかね? のどかな風景に知的な会話。そして何よりも美しき歌姫。彼女に勝る美があろうか。道中はその魅力的な歌声を聞かせて貰えるね?」
 とアレクセイ・ルード(eb5450)はエリーの手を取った。そこにカイト・マクミラン(eb7721)がこう口を差し挟む。
「こらこら、あんたはエリーを口説きにきたの?」
「失敬な。口説くなどと。私の会話は知的なゲームだよ」
 花咲き乱れる野を抜ける間中、アレクセイは花に関する美しい薀蓄を語り続けた。

「寂しくなるよな〜。エリーさんが行っちゃうと」
 前回の依頼時から仄かにエリーに憧れ始めていたバルスィーム・ナァナーム(eb8461)は寂しさを紛らわせようと陽気に歌う。その曲を耳にしたエリーが言う。
「素敵な歌ですね。公演で歌ってくれるのですか?」
「いやあ、俺は人前で歌えるほど、上手くないから」
「そんな事ないですわ、とっても素敵ですもの」

 村まで二日。その道程を終えれば、目指す街は目と鼻の先といっていいし、人通りも多くなる。野党に狙われるならば、この二日以外にありえない。
 冒険者達の予想は当たった。満月の綺麗な夜。招かざれる客は闇に乗じて忍び寄る。
「ム! 来たな・・・・」
 仮眠していたにも関わらず、逸早く気付いたのは陰守森写歩朗(eb7208)だった。さすがは東洋の忍び。
「無粋な輩だな。こんな夜更けに幕を開けたいのか?」
 アレクセイが野盗の背後を取った。そしてその時点で勝負は決まっていた。冒険者達の巧みな剣術と魔法の前に野盗達はなす術もない。冒険者達は無益な殺生を好まない。カイトは魔法で野盗達を魅了する。
「気が早いお客さんだこと。エリー一座の公演は夜更けに始まらないの。だからお家でいい子にしてなさいな」
 立ち去る野盗の後姿に冒険者達は微笑み合った。これで公演に専念できると。

 物珍しいのだろう、風変わりな一座の到来に広場にはもう人だかりができていた。日没とともに公演は始まる。それまで客を温めておく役目を担ったのは、森写歩朗とアレクセイ、そしてミッシェル・バリアルド(eb7814)だった。
 ミッシェルは小さな玉を使ったジャグリング、森写歩朗は手品を、アレクセイは端麗な容姿と優雅な話術を用い女性客を引っ掛ける。
 特に森写歩朗の東洋的な姿格好は物珍しかったのだろう、村人は続々と寄ってきた。彼が披露したのは、小箱とコインを使ったマジックで、箱に入れたはずのコインが消えた時、子供達の黄色い声が上がった。
「どうだね? 東洋の神秘は?」

「私は観客として楽しませて頂くよ。楽しい公演になりそうだからね」
 と舞台裏でアレクセイが言い、暇を見つけて摘んできた純白の花を女性陣の頭に飾った。
「花の女神の祝福がお嬢さん方に降り注ぐようにね」
 さて。いよいよ公演開始。まず座長が前に出て挨拶。座員は弦楽器と打楽器で場を盛り上げる。アルディス・エルレイル(ea2913)はシフールの体には重いリュートベイルで伴奏に加わるため、舞台の隅っこに腰を下ろした。
「演奏なら僕に任せてくれよな!」
 と自信たっぷりに言うように、彼の演奏は並外れて上手かった。どれほど音楽に無関心でも、ふと足を止めずにはいられない。
「凄くお上手ですね。心が洗われるみたい」
 エリーがゲルマン語で言うと、シフールは照れて鼻をこすった。
「僕はまだまだ無名の脇役さんさ。でもいつかエリーさんみたいに有名になれたらいいな」
「私より有名になれますよ」

 さて、最初の歌い手は?
「あの・・・・オリーです」
オリタルオ・リシア(ea0679)はつと舞台に歩み出て、いくらか内気に頭を下げた。そして自慢の竪琴を自ら奏で歌い始めたのは、子供のための不思議な童歌。

         むかしむかし そのむかし
         旅を続ける シフールさん
         1人きりで にしひがし
         楽しく寂しく にしひがし

         ある日ある夜 森の中
         お腹空かせた 猫さんと
         シフールさん 出会ったよ

         心優しい シフールさん
         手持ちのご飯 一緒に食べよ
         1人と1匹 半分こ

         お腹膨れた 猫さんは
         心優しい シフールさん
         森の奥へ いざなうよ

         そこはそこは 秘密の森
         宝石の猫さん 跳ね踊り
         妖精さん 舞い歌い
         シフールさん 出迎えた

         楽しい楽しい 時間は過ぎて
         はしゃぎ疲れた シフールさん
         そっと目を閉じ 眠りについた

         やがて朝が 訪れて
         眠りの覚める シフールさん
         1人きりで 森の中

         あれはあれは 夢かしら
         悲しく寂しい シフールさん
         いいえいいえ 夢ではないと
         猫さんひょっこり 顔を出す

         むかしむかし そのむかし
         旅を続ける シフールさん
         1人きりの 旅は終わり
         今は1人と1匹 にしひがし

         仲良く楽しく にしひがし
         仲良く楽しく どこまでも
         仲良く楽しく いつまでも・・・・

 可愛らしい詩と歌声に心を惹きつけられた子供達は拍手喝采。オリタルオは満面の笑みを子供達に返し、ぺこりと愛らしく一礼した。
「素敵な歌でしたわ、オリーさん。子供達を惹き込むのが一番難しいんです」
「ありがとうございます」
 エリーの賛辞にオリタルオはまたぺこりと頭を下げた。

 次の歌い手はクァイ・エーフォメンス(eb7692)。踊り手のバルスィームも一緒。
「ヤッホー!」
 と紅葉のような赤毛のシフールは派手に飛び回り、観衆にアピール。
 一方、クァイは子供っぽさの残る愛らしい顔を僅かに紅く染め、
「お気に召さないかも知れませんが、どうぞ聞いてください」
 と謙虚に一礼する。こんな大舞台で歌を披露するなど初めての経験に違いない。
 バルスィームは魔法の光を空高く飛ばし、仮面で顔を隠して遊飛行。その最中、クァイの歌が始まる。

          誕生の光 分かち合い 命を尊び肩を組もう
          登らぬ日はない その言葉
          強くかみしめて いざ進もう

          さあ 我らは永遠の友とならん 杯揚げ交わしたならば
          そうさ我らは幸福の子 さあ踊り続けよ 
          いついつまでも

          歌え 讃え 踊れ 生きるものの始まりを
          歌え 讃え 踊れ 生きるものの歓びを

「次の曲は以前、エリーさんとの旅で出遭ったセイレーンの恐ろしさを歌にしてみました」

          青く月映す海原に 漕ぎ出した
          白い帆は不器用に 船を手繰り
          暗く空を閉ざすように 纏う霧は深くなる

          辿り着きたる沖に咲ける花は
          鮮やかに腐すほどに 仄甘く
          死と月明かりに口付け 歌い誘う

          歌の揺り籠に揺られながら 
          望む夢に抱かれ朽ち果てるがいい

 割れんばかりの歓声の中、クァイとバルスィームは退場した。
 そしてその直後!
 激しい恋の熱風の最中に叩き落されるかのような、情熱的なリュートの音が響き渡る。そこで独自のステップを踏みながら登場したのがミッシェルだった。イスパニアのエキゾチックなステップは観衆を夢中にさせる。もちろんこれはアルディスの伴奏あってこその合わせ技。最後のポージングが見事に決まった時、観衆は他国の情熱に拍手を送らざるを得なかった。
「とても興味深いダンスでしたわ、ミッシェルさん」
 とエリーに褒められ、ミッシェルは照れ臭そうに笑った。
「いやあ、まだまだですよ。イスパニアの情熱を表現するにはもっともっと練習しないと」

「これは天才劇作家と貴族の娘との間に起こった悲恋の話!」
 と、カイトは悲愴的に言葉を紡いだ。
「二人は愛し合っていたけれど、この不幸な時代、劇作家の地位は決して高くはない。娘の父は二人の恋路を快くは思わなかった!」
 彼は巧みに男の声と女の声を使い分け、劇作家の青年と貴族の娘を演じ上げる。
「そして二人は引き裂かれた!」
 はっという驚嘆の声にも似た溜息が女性客から漏れ出る。
「罪を犯した劇作家は国外へ追放。時が無情に過ぎても、変わらぬは二人の想い! だから青年は謡うのです・・・・」
 カイトは切なくリュートの弦を叩き始めた。

           あの海の彼方にいるあなたの元へ
           夢の中で会いにゆこう
           突然吹いた緑の風が
           僕を無限の高みへと舞い上げる
           僕は金の雲に姿を変えて
           緑の風に身をまかす
           風よ僕を運んでおくれ
           ふるさとへ
           あなたのいる ふるさとへ

 観衆からはすすり泣く声が。誰もが悲しみに俯いた顔を上げられないままであった最中、カイトは舞台からそっと身を退いた。
「本当にあった話なんですね。劇作家さんは今どうしているのでしょう?」
 エリーの問いに、カイトは意味有り気な苦笑い。
「ぴんぴんしてるわよ。結構図太い奴だったから、そのうちキャメロットに戻ってくるかもね」

 そしてお待ちかね、一座の歌姫エリーの登場。
「あ!」
 バルスィームは目を疑った。彼の贈った銀のネックレスがエリーの胸元を飾っている。

            人は想いを伝えるために
            風にのせて歌い続ける

            歌は不思議といつも思う
            悲しみを包み夢を紡ぎだす

            優しく微笑みかけ
            貴方は言った
            希望を忘れたなら
            ほら耳をすませてごらん

            どこからか 響き渡る懐かしい調べ
            貴方の名前は 歌声
            心つなぐ光

「これはクァイさんの贈ってくれた素敵な歌です。そして今から歌う曲も私のお気に入り」

            お陽様が甘やかす一時 風も楽しそうに踊る

            風が運んでくれるのは
            軽やかなステップの音と 柔らかな歌声で

            風がさらってしまうのは
            柔らかな白い雲と 軽やかに舞う光

「俺の歌だ!」
 目を輝かせるバルスィームにエリーは手を差し伸べた。手を取り合った二人は踊り始める。人とシフールの爽やかな曲と小さなダンスに観衆は酔いしれた。

 大歓声。一座全員で顔見せのフィナーレ。
「ほら、あんた達も」
 とカイトは、観衆に混ざっていたアレクセイと森写歩朗を舞台に引き上げる。
「弱ったな、こういう場所に不慣れなんだがね」
 と言いつつも、エリーの手に舞台の成功を祝したキスを送るアレクセイ。
「あんたはこんな時にでもそのマスクみたいなのを外さないのね」
 とのカイトの問いに、森写歩朗は目だけで微笑み、こう答えた。
「ぽりしぃですから」
 こうして一座の公演は前例のない成功のまま、秋の終わりの夜に終幕を下ろした。