お姫様を作る魔法

■ショートシナリオ&プロモート


担当:HIRO

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月24日〜11月29日

リプレイ公開日:2006年12月01日

●オープニング

 さる裕福な家庭に貧しい娘が住んでいた。ちょっと矛盾するようなこの話。ちょっとした事情がある。この屋敷には三人の娘がいる。上の二人は上品な・・・・というより、贅沢すぎる何着ものドレスを毎日取り替え引き換え着ていたが、末っ子の娘はたった一着きりしかない薄茶色のみすぼらしい服を毎日着続け、召使いでもやらないような雑用、激務をせっせとこなしていた。
 この誰の目にも明らかな姉妹の隔たりは主に三つの理由から来る。
 一つ目は、上の二人と末っ子は本当の姉妹ではないこと・・・・つまり義姉妹であること。末っ子の本当の母は彼女が幼い頃に病死し、父もすでに他界していたため、彼女は母の姉の家、つまり今の家に預けられたのだ。
 二つ目は、末の少女の唯一の味方であった義理の父までも他界したこと。彼が死に、継母が家の権力をすべて握ってしまうと、末っ子の立場はますますなくなり、差別は極端に酷くなっていった。継母は元来、義理の娘を我が子と同様に扱えるほど、器量の大きい人間ではなかったのだ。
 三つ目の理由。それは末っ子の器量。お世辞にも器量良しとはいえない上の姉達に比べ、末っ子の少女の美しいこと! 容姿、性格ともに非の打ち所のない彼女は、まさに棘のない薔薇といった美しさで、将来の伴侶を探している紳士なら誰でも振り向かずにはいられないほどだった。しかし、不幸かな、その精神的かつ身体的美徳は心の貧しい継母と義姉の妬みを買っただけであった。
「しっかり働き! コーディリア!」
「はい、お義母様・・・・」
 拭いても拭いても汚れなど落ちそうもない物置の床をボロボロの雑巾で必死にこするコーディリア。寒さも厳しさを増すこの季節、コーディリアの手はすっかり冷たくなり、赤く霜焼けを起こしてしまった。
「もうあんたってば、本当にグズね!」
 上の義姉ギニーがコーディリアを叱責したかと思えば、
「次はこれを洗濯しておくのよ!」
 と、下の義姉ペニーが汚れてもいないドレスを放ってよこす。
 コーディリアは何も言わずに洗濯物を拾って籠に詰めた。

 薄汚い屋根裏部屋に大きな窓と小さなベッドが一つ。哀れな少女に与えられた全てである。カーテンのない窓は抵抗なく月明かりを部屋に通した、気心の知れた友を通すように。
 こつこつと窓を叩くのは、少女の唯一の友である小鳥。窓を開き、小鳥を迎え入れる少女は、まどろむように窓辺に体を預けた。
「我が家がミルドレイク卿のお開きになるささやかなパーティーに招待されたんですって。素敵ねえ! 噂によるとミルドレイク卿はとっても立派な方でハンサムなんですって!」
 コーディリアはパーティーの様子を想像し、胸を膨らませたが、自分は出席すること叶わぬという現実がすぐに頭を過ぎり、溜息を白く宙に舞わせた。
「お義母様がわたしを連れて行ってくれるわけないわ・・・・それにパーティーに着て行けるようなドレスもないし・・・・」
 小鳥は慰めるように少女の頬を小突いた。
「わかってるわ。大丈夫よ。夢の中でなら、わたしだって綺麗に着飾ることができるもの」

「えっと、ご用件は何でしょうか?」
 ギルドの受付嬢は、やけにおどおどした態度の老紳士に尋ねた。
「いや・・・・そのう・・・・」
 彼は落ち着かないのか、手に持った帽子と杖をしきりに弄り回す。
「ご依頼ですか?」
 焦れることなく受付嬢は柔和な態度で接する。それに勇気付けられたのか、老紳士はようやく話を始めた。
「実はですな・・・・わしにはコーディリアという不幸な姪がおりましてな」
 彼はゆっくりとだが、事実を漏らさず、聞き手に伝わりやすく、コーディリアの生い立ちと境遇を語って聞かせた。
「かわいそうですねえ!」
 しみじみと同情の意を面に表す受付嬢。
「ええ、実にかわいそうなんですじゃ。ですから、せめてミルドレイク卿の開くパーティーにだけは行かせてやりたいと思いまして・・・・」
「行かせてあげればいいじゃないですか」
「ええ、そうなんですがのう・・・・わしはずっと独り身で女性の扱いには慣れておりませんし、あの子にどんな服を用意したらいいか・・・・流行も知りませんしなあ。それにあの子の継母、つまりわしの姉ですが、わしはどうも姉に頭が上がらんのです。情けない話ですが・・・・。姉にわしがコーディリアを贔屓にしていると知られたら、わしは縁を切られちまうかもしれません。同じ血を分けた姉弟がいがみ合っても始まりませんでのう。なるべく、わしが表に出ない感じであの子を援助したいのじゃが・・・・」
「お話はようくわかりますよ」
 受付嬢が何度も相槌を打っている間に、老紳士はテーブルの上に金貨が詰まった小袋を乗せる。
「ここに15Gありますんじゃ。これであの子がパーティーに出席するに相応しい格好に仕立て上げてもらいたいんじゃが・・・・」
 さて、これが少女のサクセス・ストーリーの始まりになればよいのだが・・・・?

●今回の参加者

 ea0050 大宗院 透(24歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea8484 大宗院 亞莉子(24歳・♀・神聖騎士・人間・ジャパン)
 eb2288 ソフィア・ハートランド(34歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 eb6611 オシキリ・ミズキ(23歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 eb8229 陽 月斗(24歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)

●リプレイ本文

 誰もが寝静まった夜の僅かな時間だけがコーディリアの自由となる時間。この夜も開いた窓から夜空を眺めていた。何と綺麗な星空だろう! 夜はいい、煌びやかな星々に着飾ってもらえるのだから。それに比べ、自分は・・・・。この空に浮かぶ星の一つでいい、零れ落ちて私の胸で輝かないだろうか? 叶うべくもない空想と共に、今夜も更けていく・・・・。

「継母達に気づかれないよう、娘さんを変装させるとは中々難易度の高い任務です・・・・」
 と大宗院透(ea0050)はやけに真面目に今回の依頼内容を捉え、唸った。
「とにかく、その子に一度会ってみないと着付けするにもイメージ湧かないってカンジィ」
 大宗院亞莉子(ea8484)の発言に皆が一様に肯いた。確かに難題だ。どうすれば継母達に悟られず、コーディリアに接触できるか。
「私が何とかしてみる。仕立て屋か何かに扮して、継母達の気を逸らしてみるから。その間に彼女に会いに行ってあげて」
 オシキリ・ミズキ(eb6611)の背筋はいつもピンと伸びて姿勢が良いため、大きな胸がより強調され格好良く見える。
「そうだな、それでいいんじゃないか」
 両手を頭の後ろで組みながら、陽月斗(eb8229)は楽観的に言い放った。

 ミズキは依頼主であるコーディリアの叔父のツテで、仕立て屋に扮装。彼女の家を訪ね、継母達の気を惹いた。その間に屋敷に忍び込み、コーディリアを探す四人。彼女は今日も物置の床を拭いていたが、冒険者達に気付くと手に持った雑巾を落とした。
「あなた達は・・・・?」
「お姫様を作る魔法使いってカンジィ?」
「まあ、平たく言うと、あなたを今度のパーティーに出席させるよう頼まれたんだが」
 ソフィア・ハートランド(eb2288)の率直な説明に少女はようやく事情を呑み込んだが、顔色はまだ暗い。
「でも着ていくドレスもないし・・・・」
「心配しないでってカンジィ。私達が何とかするからぁ!」
 
 その次の日の夜から、継母達が寝静まった頃を見計らい、冒険者達は毎日現れるようになった。
「今回の任務は亞莉子さんの専門分野なので、頑張って下さい・・・・」
「透の愛を感じるってカンジィ。透のためにもがんばっちゃうよぉ!」
 透の激励の言葉に変な方向でやる気を出し、彼に飛びつく亞莉子。
「まず貴族としての嗜みでも覚えてもらおうかな」
 と、ソフィアが礼儀作法を教えようとしたが、コーディリアの作法は元より完璧。ただ会場で踊る事になるであろうステップだけは練習の必要があった。ソフィアは手取り足取り、少女に踊りを教え込む。それを横で見守っていたミズキと月斗もつられて練習を始めた。
「ドレスは晴れた日の空みたいな水色なんていいんじゃないか?」
 月斗の提案に皆が肯いた。水色が似合うような清楚さと透明感がコーディリアにはあったのだ。
「そうね、その路線で行くなら、派手な装飾品は要らないってカンジィ。ちょっとした指輪やネックレスでも間に合うかなあ」
「神聖なイメージにするのもいいかもな。シルバーのクロスなんてどうだ?」
 ソフィアが言うと、ミズキは懐からネックレスを取り出した。
「これがちょうどいいと思う。イメージにぴったりで」
「俺達もパーティに出るんだよな。不自然じゃない格好をする為の服がいるよな。買ってくるか」
 月斗が言うと、透が口を挟む。
「必要な物は私が買ってきます。依頼主の経費で充分に落とせますから・・・・」

 さていよいよ待ちに待ったパーティ当日。意地悪な継母達は一足先にミルドレイク家へと向かった。邪魔する者は誰もいない。貧しい少女が華麗にお姫様に変身する時!
「下手な”変装”させたらジャパンへ”返送”です・・・・」と透。
「任せてよ! やっぱり女の子ならぁ、お洒落はしないとってカンジィ! でも、やっぱり中身が一番大切だけどね!」
「そうです。綺麗に見せるコツは着飾る事ではなく笑顔です・・・・」
 亞莉子が存分に腕を振るう。大宗院家特製の化粧水で荒れた肌はみるみる滑らかになり、白粉や口紅で大人っぽく綺麗に。上品な水色のドレスを纏い、ネックレスで胸元を飾り、髪を綺麗に後ろで束ねた少女はまさしく絶世の美女へと生まれ変わっていた。
「おおー、すっげー可愛いなー!」
 最後に月斗が手渡した天使の羽で作られた羽飾りを胸に挿し、もう一味彩も添えられた。
「ありがとう、皆さん!」
 コーディリアは一縷の涙を零す。
「まだ終わっていない。これから始まるのだから」
 とミズキは、用意しておいた馬車へと少女をエスコートした。

「うわ〜、何か緊張するなあ」
「いいか、教えておいたマナーは守るんだぞ」
 礼服に身を包んだ月斗にソフィアが警告。一同はミルドレイク邸を前に気を引き締めた。門前で門番が招待状の有無を問い質してきたが、ソフィアがコーディリアを指差し、「高名な貴族のお嬢様ですよ、控えなさい」と威厳を持って言い返すと、門番は下がった。
「こういう席では、ハッタリが有効なの」
 とコーディリアにウインク。一同はそのまままっすぐに広間へと進んでいった。

 コーディリアは瞬く間に衆人の注目を集めた。どこのお嬢様だ? 他国の姫君ではないか? などという声が実しやかに囁かれた。付き人の方々も綺麗な方ばかりだし、という声を耳にした時、ソフィアが肩を落とした。
「付き人風情にしか見えないのかな・・・・これでもきっちり決めてきたつもりなんだがな」
 確かに艶かしい深紅のドレスに身を包んだソフィアは充分に人の目を惹きつける妖艶さを醸し出している。
「ま、いいか。後の事はお前達に任せた。私はちょっと用があるからな」
「何だよ、用って?」
 月斗の問いに、彼女は満面の笑顔を浮かべてこう答えた。
「金持ちのいい男を捜すんだ」
 その彼女のお眼鏡に適ったのはある青年貴族。容姿、物腰、品性ともに申し分ない。その彼に近寄って行く三人の女がいた。コーディリアの継母、義姉達である。
「ミルドレイク卿、本日はお招きに預かりまして光栄ですわ」
 継母が言うと、二人の義姉達が不恰好に会釈した。
「なるほど、あれがミルドレイク卿か」
 ソフィアはさりげなく彼らの間に入っていき、卿と挨拶を交わした。
「これは初めまして。今日は誰かの付き添いで?」
「ええ、とある名家のお嬢様の。でも私、できれば円卓の騎士様達の添い人になれればと思いまして」
「すみません、円卓の騎士とは面識がないのです。お恥ずかしい」
「それは残念」
 ソフィアはちょっとがっかりした表情で儚く笑った。
「まあ、円卓の騎士だなんて。恐れ多い夢を見てらっしゃるわね」
 継母が厭味っぽく口を挟む。だがただ言われるままのソフィアではない。彼女は不器量な姉妹を眺めながら、こう切り返した。
「そちらのご家族にはお綺麗な娘さんがいらっしゃるとお聞きしていましたけど。記憶違いかしら?」
 彼女の反撃に継母と娘達は歯軋りした。

「美味え〜! こんな美味いモン食った事ねえ!」
 月斗はテーブルに並んだ料理を口に詰め込んでいた。舞踏曲はもう始まっている。なのに、コーディリアは内気にその場に佇んでいるだけ。
「どうしたんだよ、踊らないのか?」
「駄目です・・・・いざとなると体が震えてきちゃって」
「俺達はさ、変わろうと思えばいつでも変われるんだ。逆に変わろうと思わなきゃいつまでも変われない。だからさ、ちょっとだけ勇気を出して動いてみろよ。そうすればきっと何でもできるからさ!」
 少女は月斗の言葉に励まされ、顔を上げた。

 ミルドレイク卿とコーディリアの視線が交じり合った。それは運命が交差した瞬間。二人はお互いがお互いのためにあると本能的に悟った。だがその運命を断ち切ろうと目論む者がいる。継母達である。最初、美しく着飾ったコーディリアに気付かなかったが、そうであると気付いた瞬間に首をもたげるのは黒い嫉妬心。
「ム!」
 月斗はコーディリアに忍び寄る継母達に逸早く気付くと、テーブルに並ぶフォークを鷲掴みにして投げつける! フォークがドレスの裾と床を縫いつけたため、継母達は無様に躓き、テーブルを巻き込み派手に転んだ。
「おーっしゃ! 大成功!」

 その間、ミズキが何をしていたかといえば、楽団に混じり、横笛を吹いていた。コーディリアと卿がいい雰囲気になるまでもう少し。彼女は笛を吹くのを止め、今度は唄を歌い始めた。

      どんなに心傷つけられても美しい心を失わなかった少女
      心の美しさが少女に幸せを運ぶ
      少女の心を傷つけていた者達よ
      見よ あれがお前達になかった物
      心の美しさという輝き
      お前達が与えていなかったもの 
      愛を少女は今手に入れた
      愛を手に入れ 少女はさらに美しくなるだろう
      心の美しさが少女に愛を運んだ

「一曲・・・・お手合わせ願えますか?」
 卿が差し出す手。少女の頬が火照っている。少女の瞳には彼しか、彼の瞳には少女しか映ってはいなかった。お互いの指先を求め合い、そして遂に触れ合う。二人は踊りだした。
「あっちもいい感じになってきたしぃ、折角だからぁ、私達も一緒に踊るってカンジィ」
 亞莉子の強引な誘いを透は断りきれなかった。まあ、毎度の事かと渋々ながら、彼女の腰に手を回し、二人で揃ってステップを踏み始める。亞莉子は深く夫の胸に顔を埋めた。
「これが幸せの極みってカンジィ」
「まあ、聖夜祭も近いですし、たまにいいですけど・・・・」
 月斗は歌い終わったミズキに歩み寄った。
「俺達も踊ろうよ」
「私は背の高い王子様が好みなんだが」
「王子様にはなれないけど、背はきっと高くなるよ」
「仕方ないな」
 二人は踊りだす。
「わ〜! お前らだけで踊って! 私だってな」
 とソフィアも身近にいた男の襟首を引っ掴んで、踊りだした。
 こうしてある一夜の夢は過ぎ去っていった。