いじめなんて跳ね返せ!

■ショートシナリオ&プロモート


担当:HIRO

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 48 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月23日〜11月29日

リプレイ公開日:2006年11月30日

●オープニング

 アンドレ少年は少女と呼んだほうがいいような愛らしい少年だった。背丈は高くもなく低くもないが、ひょろりとした華奢な体つき。大きくつぶらな瞳はきょろきょろと好奇心旺盛に動き回る。笑ったときに笑窪ができる大きな口も可愛かった。
 天使のような少年。文句のつけようのない容貌。
 ただ、アンドレ少年はそんな自分の外見が大嫌いだった。何故なら、その女の子みたいな容姿のために周りの子供達からからかわれ、いじめられていたからだ。
 その反動だろうか。アンドレはなるべく男らしく振舞おうと絶えず気を回していた。言葉遣いも乱暴だし、仕草もできるかぎり無作法に、剣術の稽古だって欠かすことはなかった。
「無駄なんだよ、お前みたいな痩せっぽちが剣を振り回してもさ!」
「そうそう、女は家に帰って大人しく裁縫でもしてな!」
 意地の悪い言いようで悪童達に愚弄され、「何を!」とアンドレ少年は激昂した。
「いいか、よく聞け! 俺はな、将来必ず有名な冒険者になるんだからな! そんな舐めた口を利かないほうがいいぜ!」
 この発言は絶えない嘲笑をもって迎えられた。
「必ずなるっていってんだろ!」
 悪童達の態度は冷ややかだ。
「口では何とでも言えるわな」
「弱い犬ほど、よく吼えるってね」
 と、アンドレを相手にもしない。
 もう我慢の限界だった。なにぶんにも血気盛んな年頃の少年、悪口を聞き流すような器の大きさもない。アンドレ少年は彼らに喰ってかかり喧嘩となったが、多勢に無勢、返り討ちにあってしまった。
 アンドレはぐったりと木の幹に上半身を預けていた。薄く形の良い唇が切れ、血が滲んでいたが、血の苦味など愚弄されたままに為す術がない己の無力さを噛み締める味に比べればなんでもなかった。
 アンドレは空を見上げ、思う。勲章が欲しい。自分に自信を持てるような勲章が。

 冒険者達は旅立とうとしていた。キャメロットからおよそ一日程度の小さな村に、二匹のオークが突如現れるようになったという。オーク達の目的は熟れたブドウ。一度、口にしたブドウの豊熟な甘味に病み付きになったのだろう、オークは毎日のように村のブドウ園を荒らしに来るようになったという。依頼内容はその厄介なオークの討伐。
「待って!」
 冒険者達の行く先を阻む人影。それはアンドレ少年だった。
「貴方達、オークの討伐に向かう冒険者ですね! お願いです! 俺も連れて行って下さい!」
 冒険者達は何故同行したいのか、理由を尋ねた。
 アンドレ少年はいじめられていることを語り、自分が弱虫でないという証が欲しいのだと言う。
「お願いです! 俺は冒険者である証が欲しいんです! オークの牙でも持ち帰ることができれば、みんな、俺の強さを認めてくれると思うんです!」
 少年の瞳は比類なき決意に満ちていた。何をどう言い聞かせても、引き返しそうもない。
 冒険者達は困った顔を浮かべるしかなかった。

●今回の参加者

 ea6251 セルゲイ・ギーン(60歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb5297 クリスティアン・クリスティン(34歳・♂・クレリック・人間・イギリス王国)
 eb6708 エムシオンカミ(28歳・♂・カムイラメトク・パラ・蝦夷)
 eb8240 ソフィア・スィテリアード(29歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb8535 皆守 桔梗(26歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb8942 柊 静夜(38歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb9033 トレーゼ・クルス(33歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 eb9220 霧島 時魅(26歳・♀・侍・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

「強くなりたい!」
 アンドレの目はまっすぐに冒険者達を見据えていた。
「冒険者であれば強いのかな? それにオークの牙を持ち帰っても、誰も君を強いだなんて認めてくれないんじゃないかな?」
 皆守桔梗(eb8535)が言うが、この年頃の少年の思い込みには聖剣の如く折れない強靭さが宿っているものである。結局妥協したのは冒険者の方だった。
「仕方あるまい、だがついて来るからには特別扱いはしない」
 渋々アンドレ少年の同行を認めたのはトレーゼ・クルス(eb9033)だった。両目の色が違うという事で疎外され続けてきた自身の過去をこの少年の面影に重ねたのだろう。
「だが、この仕事、お前が思うほどに格好いいものじゃない。それだけは憶えていろ」
 こうしてアンドレは冒険者達と共にオーク討伐に向う事となった。

 村までの道程はたった一日。されど一日。これが初めての旅となるアンドレには厳しい道程。半日も歩かないうちに足は痺れ始め棒と化す。
 巨大なモミの木陰での休憩中、トレーゼが少年に食べ物と給水袋を放った。
「有名な冒険者になるのだろう、不味い食料だが慣れておけ」
 少年はとにかく喉が渇いていたのか、凄い勢いで水を口に含む。
「アンドレ君、それを食べ終えたら、私とちょっと手合わせしてみましょう」
 霧島時魅(eb9220)は道端に落ちていた棒切れを拾い、少年に渡す。
「一緒に戦うのですから、どの程度の実力か知っておかねばなりませんから」
 ぐっと棒切れを握り締める少年。ここで落第するわけにはいかない。勝てないまでも、彼らに自分の事を認めてもらう程度には奮戦しなければ。
 その想いは空回った。猪のようにただ愚直に突進するアンドレを軽くいなし、時魅は少年の手の棒を打ち落とした。
「駄目だ・・・・」
 膝を落とした少年に彼女は穏やかに微笑みかけた。
「そんな事はありません。それだけの勇気があればすぐに上達しますよ。精進あるのみです」
「勇気だけで剣術は上達しない・・・・」
「そんな事ないよ」桔梗は言う。「何事にもまずは心を強く持たなくちゃ。“健全な精神は健全な肉体に宿る”って言うけど、その逆もまた然り、だよ。外見や腕力だけを強く装ったって、そんな見せ掛けはすぐに崩れちゃうと思う。強くなるための近道なんてきっとないよ。少しずつでもいいから心を強くしていこうよ。そして誰かを守る側に立とうよ。その方が絶対に素敵だと思うよ・・・・って、私もまだまだ未熟だけどね」

 しばしの休息の後、一行は再び歩み始める。
「おっと」
 クリスティアン・クリスティン(eb5297)は突然躓き、前を歩くアンドレに軽くぶつかった。
「やあ、これはすみません。大丈夫でしたか」
 クリスティアンは柔らかそうな栗色の髪を掻き上げながら、ふわりと微笑んだ。
「しかし、ご友人を見返すために我々と冒険などと、思い切った選択をしましたね?」
「あいつらは葦みたいにひょろい俺なんか、どうやったって強くなれないとからかうんです」
 この女の子みたいな容姿のためにどれほどの苦渋を舐めてきたかを、少年はクリスティアンに事細かに話して聞かせた。普段はさほどお喋りな少年ではない。が、クリスティアンの物柔らかな態度が少年の口を軽くしている。
「なるほど」聖職者はしきりに肯く。「よくわかりますね、あなたの気持ち。僕も小さい頃はいじめられっ子だったんですよ。トロくって、さっきみたいに何もない所でよく転んでましたから。どうして僕は他の子達に比べてダメに生まれちゃったんだろうと悩んでました。でも、今ではそれが僕の個性だって思えるんですよ。人は千差万別だとね。女の子みたいだからって、トロいからって、それがダメなんじゃない。否定する必要はないと気付いたんです。事実、トロいから、物腰柔らかに見られる事もありますしね。聖職者にとっては大きな利点ですよ」
「そうそう」
 と、エムシオンカミ(eb6708)が同調する。
「僕の名前が僕の故郷の言葉で『剣』という意味なのに、剣技が下手だから、よくからかわれたもん。でもその後の気持ちの持ちようが肝心だと思うんだ。相手の言葉を軽く流しておけば少しは楽になるんじゃないかな? それに、もし本当に悪意があっていじめられているのだとしたら、それは君の問題じゃなくて彼らの問題だよ。アンドレ君がこの冒険で見てきた事を話してみたら、きっと心変わりするに決まってる。誰もオークみたいに、心のない鬼になりたくないからね」
「そうじゃのう」と口を差し挟んだのは謎深き老人セルゲイ・ギーン(ea6251)。「いじめは確かに問題じゃが、それ以上に深刻な問題はお主の中にある。冒険者になるからにはそれに向かい合わなければならん」
「さすが人生の綾を知り尽くしたセルゲイ殿。含蓄がありますね」
「そうじゃろう、クリス殿。ところで、シオン殿、ゴーレムの育成論についてじゃが・・・・」
 と、それからずっとセルゲイはゴーレムについての深遠な知識を語り始めた。

 晩秋の美しさに色づくのどかな村だった。一行が到着すると、村長を始め大勢の村人が温かく迎えてくれた。宴の用意も出来ていた。村長は、遠路はるばる疲れているだろうからと、今日一日体をゆっくり休み、オークに備えて欲しいと言う。
 冒険者達は宴に用意された料理と葡萄酒に舌鼓を打ちながらも、オークの情報を収集する事も忘れない。オークは昼過ぎに森からぶらりとやってきてはブドウ園を荒らすらしい。
「彼らの話をよく聞いておいて下さいね、アンドレ君」
 時魅が少年の肩を抱いた。
「彼らの想いと情熱。たかがブドウ園と馬鹿にしてはいけません。彼らにとって、ブドウの収穫は生きるに欠かせないものなのです。今、私達が口にしているこの葡萄酒ですが、彼らはほとんど飲んでいないでしょう? 私達がもしオーク退治に失敗すれば、この村からブドウが消えてしまうのですから」
「何かを必死で守るための強さがいるんだよ」
 と桔梗が言うと、ソフィア・スィテリアード(eb8240)が言葉を繋いだ。
「アンドレさんは、弱虫でない事を示すための証が欲しいという事ですが、強い人とはどんな人なのでしょう? 私の思う強い人というのは、絶対に譲れない思いを持っている人です。剣や魔法というのは、思いを貫くための道具でしかありません。人は皆自分の武器をもっています。剣や魔法という事だけではありません。もしあなたが自分のできる事を理解したなら、それが『あなたの武器』だと思います」

 少年は火照った頬を冷ますため、外に出た。冬の到来を告げているかのような夜風はやや肌身に染みたが、今はこのくらいでちょうど良い。彼はふと気付く。川辺に座り、空を見上げていた柊静夜(eb8942)の怜悧な影に。彼女は少年に気付くと彼女自身の名の通り、澄み渡った静かな微笑を浮かべた。
「少々賑わいに酔いました故、月を見ておりました。もし宜しければ少々お話を致しましょうか?」
 少年は彼女の隣に腰を下ろす。
「強さとか、男らしいとはどういった事でしょうか?」
「力のある人ではないでしょうか?」
「そうでしょうか? 心無く振るわれる力は暴力でしかありませんし、また相手を思いやる心が無い人を私は男らしいとは思いませんよ」
 少年に返事はできなかった。静夜はにっこりと微笑む。
「今は答えが出ないでしょう、ですが我々や村の人々を見て私が言った事を考えて頂ければ幸いと思います。これを差上げましょう、師より頂いた守り刀です。この刀が貴方を守って下さいますよう」
 少年は静夜の温かい手から小刀を受け取った。

 翌朝、オーク退治の作戦を案じていた際、アンドレは前線で戦いたいと申し出た。それは明らかに無謀。だが少年は引かない。トレーゼは止むを得ず、剣を手に打って来るよう少年に言う。幾太刀か剣を交えた後、トレーゼの剣は少年の剣を軽く弾いていた。
「剣とは即ち鈍器の発展系だ、体重も無く力も無いそんな一撃でオークに通じると思うか」
 厳しい言葉だが、それは真実。まだ弱い少年の身を案じての発言でもある。うなだれる少年に彼はこう付け加えた。
「戦いとは、剣を持って戦うだけではない」
「その通りじゃ」
 セルゲイが口を挟む。
「大局を読めずならば、如何なる強靭な力も無と帰す。少年よ、わしらの命をお主に預けよう。そなたが立てた作戦に我らは付き従う」
「軍師、というわけですか。いいでしょう、アンドレ君、聖書に誓い、僕の命をあなたに奉げましょう」
 クリスティアンが差し出した手の上に皆の手が重なった。

 そしてオーク共は現れる。今日もブドウの完熟した甘味に浸ろうと、のしのしと大股に歩み寄ってくる姿が見え始めた。
 セルゲイはゴーレムにアンドレを護るよう言い渡す。そして少年には、
「戦場を大局的に見るには仲間を知り、信じる事が大切じゃ。ゴーレムのように堅固な心を持つんじゃよ」
 と独特の言い回しで助言する。
 戦闘開始。物陰に潜むセルゲイ、トレーズ、ソフィアはそれぞれ魔法をぶつけ、オークの気をブドウ園から逸らした。その瞬間、エムシオンカミと桔梗の矢が乱れ飛んだので、敵わない。すっかり激怒したオークは姿見えない敵相手に息巻いた。そこに姿を現し囮となるは静夜と時魅。彼女達はオーク達を挑発し、誘き寄せる。そして・・・・
 ズザザ、と音が鳴ったかと思えば、オーク共は物の見事にアンドレが仕掛けた落とし穴に嵌っていた。
駆け寄る冒険者達。穴の中のオーク達は絡み合い、動きが取れず、情けない吐息を吐き出している。アンドレ隊の勝利!
「どうするの? オークの牙を取る?」
 桔梗の問いに、少年は首を振った。
「いいえ、そんな物は何の証明にもならないとわかったから」
 彼は駆けつけてきた村人達の喜ぶ様子に大きな目を向けた。
「明るい顔だろう、このためだけに戦えとは言わないが理由の一つにはなる」
 トレーズの言葉に、少年は心から共感できていた。