ユニコーンと乙女

■ショートシナリオ


担当:HIRO

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:12人

サポート参加人数:1人

冒険期間:12月22日〜12月27日

リプレイ公開日:2006年12月27日

●オープニング

 ユニコーン。乙女心のような深き森に棲み、乙女にしかその身を触れさせようとはしない気高き聖獣。その角は万病を癒すと云う・・・・

 突然に冷たくなった悪女のような北風が一度吹くと手が付けられない。誰の迷惑も顧みず荒れ狂い、人々の心を冷やす。貧しくて貼れない窓ガラスの代わりにその役目を果たしている羊皮紙は精一杯意地悪い風を受け止めていた。もっと頑張ってもらわなくてはならない。ここには重病人が寝たきりなのだから。
 看病疲れからからか、ふと不安げな面持ちを馳せたのはマリア・ヴェインだった。
 マリアは幼い頃、両親を亡くし、祖母に引き取られた。その祖母自身、既に夫を亡くしており天涯孤独の身であったが、それ故にこの世で唯一の血縁であるマリアに溢れんばかりの情愛を注いできた。
 生活は確かに貧しかった、だがそれ以上に清かった。マリアは働けるようになってからは、敬愛する祖母と同じく裁縫婦として生計を支えた。辛く厳しい毎日でも零れる微笑。祖母が見守っていてくれれば、どんなに厳しく凍てつく冬の日にでも笑っていられた。だが・・・・
 今、敬愛する祖母は熱病に冒され、床に臥している。少ない貯金をはたいて、医師に診てもらったが、色好い診察結果はもらえない。もう医者を呼ぶ金もない。必死の看病を続けても好くなる兆しさえ見えない。白日の昼下がりを染めるのは暗い絶望だった。
 マリアは自分の食事を抜いて、普段より良質の食材を買い、祖母のために食事を作る。少しでも多くの栄養を取って元気になってもらおうと。
「お祖母さま、食事を用意できましたわ」
 ベッドの傍らに座り、サジで温かいスープをすくい、祖母の口に運ぶ。だが老婆はそのスープを口にしようとはせず、
「マリアや・・・・」
 と、弱々しい手で孫の頬に触れた。
「私はきっと天に召されるんだよ・・・・お前の両親やおじいさんのところへね・・・・そういう運命なのさ・・・・」
「そんな・・・・! お祖母さまはきっと好くなるわ! だから・・・・」
 老婆は首を振る。その行為すら辛そうだった。
「私は充分に生きた・・・・思い残すことは・・・・あんたの花嫁姿を見ることくらいだけど、それは天の国からでも見れるからねえ。皆と一緒に愉しみに待つさ・・・・」
「そんな悲しいこと言わないで!」
「人は運命には抗えない・・・・どんな魔法を使ってもね。まやかしなのさ・・・・魔法も、ひょっとしたらこの世もね・・・・。休ませておくれ・・・・」
 静かに閉じられつつある老婆の目蓋。
「いや! 私を置いていかないで!」
 少女は彼女の胸に覆いかぶさって泣き叫ぶ。祖母の心はまだ温かい。この温かさ、途絶えさせてはいけない。何か・・・・何か方法はないものか?
 マリアはふと思い出す。
 昔、幼い頃に話して聞かされた万病を治癒するという聖獣の話。
「そうだわ、ユニコーンの角さえ持ち帰ることができれば」
 一縷の希望が少女の顔を照らした。
「お祖母さま、待っていて。すぐにユニコーンの角を持ち帰って来ます」
 マリアは多少躊躇したが、棚の引出しからありったけの金を取り出す。
「お祖母さまが助かりさえすれば、お金なんかなくても・・・・!」
 そうして、少女は家を飛び出していったのだった。

「なるほど、それは大変ですね」
 事情を一通り聞き終えた受付嬢は深刻な面持ちで肯く。そしてこうも言う。
「ですが、ユニコーンはいったいどこに生息しているのでしょう? それがわからないことには・・・・」
 マリアはラピスラズリのような美しい瑠璃色の瞳を伏せ、沈黙した。そしてしばしの沈黙の後に再び口を開いた。
「私なりに調べてみました。ここから北東に一晩程度行ったところの森で、ユニコーンを見たという人がいて・・・・本当かどうかはわからないのですけど。それにその森は土地の人でも近づかない森で・・・・入ったら決して出られないと恐れられているらしく・・・・迷いの森と呼ぶ人もいるらしくて。その上、正体不明の化け物も棲みついているとかなんとか・・・・」
「ユニコーンがいるかどうかも定かではない謎めいた森に、化け物つきですか・・・・」
「それでも! 私には祖母を見捨てることはできません・・・・!」
「その気持ちはわかりますよ」
 受付嬢の手が少女の手の上に重なった。マリアは少し落ち着いたようだった。
「報酬とも呼べない程度のお金しか払えませんけど・・・・どうしても祖母を救いたい・・・・ユニコーンに会いたいんです・・・・!」
 そう嘆願する少女の瞳からは、熱い涙が溢れていた。

●今回の参加者

 ea0050 大宗院 透(24歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea1249 ユリアル・カートライト(25歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea1743 エル・サーディミスト(29歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea2890 イフェリア・アイランズ(22歳・♀・陰陽師・シフール・イギリス王国)
 ea3179 ユイス・アーヴァイン(40歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea3991 閃我 絶狼(33歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea5556 フィーナ・ウィンスレット(22歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea7468 マミ・キスリング(29歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 eb1293 山本 修一郎(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb2745 リースフィア・エルスリード(24歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 eb3225 ジークリンデ・ケリン(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb8942 柊 静夜(38歳・♀・侍・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ヴェニー・ブリッド(eb5868

●リプレイ本文

 少女は誓った。
 目の前で昏々と眠りにつく祖母の顔に。
 必ずユニコーンの角を持ち帰る。
 そう強く誓った。
 風が戸を叩く。少女の旅立ちを急かすように。
 最後にもう一度祈った。私が戻るまで、心の音を止めないでくださいと。

「ユニコーンの角の薬効は迷信ではなかったでしょうか?」
 清廉な白の衣を纏い、雪の精霊さながらフィーナ・ウィンスレット(ea5556)は誰に問うでもなく囁いた。
「そうだな、あの女好きな角馬にそんなご大層な能力あったかな?」
 閃我絶狼(ea3991)が自身の知識の扉を叩く。
「ユニコーンの伝説の真偽は分かりません。ですが、マリアさんの思いを手助けしてあげたいと強く思います。お祖母さんはマリアさんの唯一の家族なのですから。もしかすれば・・・・伝説が希望となり、生きる力を再び与えるかもしれませんし」
 春の日差しのような色の髪と柔和な微笑を湛えるユリアル・カートライト(ea1249)は早朝の空に白い吐息を舞わせた。

 その日を休みなく歩くと、夜には森が見えてきた。遠目からでも、木枯らしにざわめく広大な森は深き闇を内包しているのが窺える。この深夜に無理はできない。森に入るのは明日からでもよいだろう。その日は近くに安い宿を取る事となった。
 大宗院透(ea0050)は食堂の柱に背を預け、何やら熟案中。何を考えているのだろうと、絶狼が彼に話しかけた。
「ユニコーンには、人遁の術でも性別を見破られてしまうのかと考えていたのです・・・・」が透の答えだった。
 絶狼は呆れ果ててしまった。寡黙に何を考えているのかと思えば、こうだ。
「重大な事です・・・・」と、透は引かない。「己への挑戦です。自分の術がどこまで伝説の聖獣に通ずるか・・・・」
「なるほど、何事も自身を高める修行というわけですか。わからんでもない。酒場をいかに盛り上げるも、刀の切れ味も全ては修練によってしか得られません」
 と言うのは、すらりとした長身を誇る山本修一郎(eb1293)。
「そうです、挑戦です。術を極めるも、駄洒落を極めるも、遊び心とも取れる飽くなき挑戦の上に成り立っているのです・・・・」
「挑戦せずは死人のみ」修一郎は肯く。「己を高めるものあらば、それが報酬」
「俺は依頼として受けたからには料金は貰うよ、少なくても構わないけど。それが筋ってもんさ」と絶狼が言った時。
「すみません・・・・本当に僅かな報酬しか払えそうにないんです・・・・」
 背後にはマリアが佇んでいた。絶狼のクールな仮面にヒビが入る。彼は慌てて取り繕った。
 そんな彼に透が一言。
「冷静さを保つのも修練が必要なのです・・・・」

 森は世界から切り取られた場所だった。鬱蒼と生い茂る木々の枝が蓋となり、冬の僅かな陽光を遮っている。その暗さはまるで深海を漂っている気分だ。
 なのに、わくわく青い目を輝かせるのはエル・サーディミスト(ea1743)。
「ユニコーンかあ! 森の奥に住んでるんだよね。前に会ったユニコーンは薬草が生えるとこに棲んでたけど、今度はどうなんだろー」
 マミ・キスリング(ea7468)は愛馬の閃光皇は引きながら先頭を歩く。その後に続くのはリースフィア・エルスリード(eb2745)、柊静夜(eb8942)。後ろはウィザード陣が魔法で周囲の気配を探る。後ろから奇襲されては洒落にならんと殿を務めたのは絶狼。修一郎のすぐ後ろのマリアはなるべく冒険者達の真ん中を歩いた。シフールの少女イフェリア・アイランズ(ea2890)はふよふよと皆の上を飛び、時々気ままにどこかへ偵察に赴いては楽しそうに帰ってきた。透は・・・・忍びの性か群れる事を良しとせず、皆と少し距離を置いて先行偵察に終始していた。
「森で温かい陽射しを享受するのは心身に心地よいものですが、この不気味な暗さは頂けませんね。正直、私の土地感がどこまで当てになるか・・・・」
 ユリアルはそう言いつつ、木に目印を刻んだ。
「そうですね、この森では勘は頼りにならないかもしれません。ユイスさん、この風、感じますか?」
「ええ〜、どこ〜か淀んでいて嫌〜な感じですね〜」
 フィーナの問いに応じるユイス・アーヴァイン(ea3179)は決して微笑を途絶えさせない。
「そもそも今更なのですが、こんな森に潔癖なユニコーンが本当に棲んでいるのでしょうか? さしたる確証も得ないままにここまで来てしまいましたけれども」
 フィーナの言う通りだった。この森にユニコーンがいるという根拠はマリアが伝え聞いた不確かな伝聞のみ。今まで誰も疑う事すらなかったが、果たしてユニコーンはいるのか?
「ええ・・・・でも! 今の私にはこうするしかなかった・・・・」
 思い詰める少女の肩をポンと叩く人がいた。静夜である。
「きっと大丈夫ですよ、マリアさん。希望を捨てないでください。無責任なようですけど、信じていればなんとかなります」
「そうやで、マリアはん、信念が折れたら負けやで〜。一度ボケたらボケ倒さなアカン! そしたらボケもホンマになったりしてな」
 両手を振り回しながら、イフェリアが熱弁。その言葉に修一郎が肯いた。
「ふむ、そういう事です。戸惑い見える曇り刀では藁も切れません」
「予め情報収集しなかったのはこちらの過失でもありますしね。旅は道連れ、乗りかかった舟が泥舟でもお付き合いしますわ」
 ジークリンデ・ケリン(eb3225)が言うと、エルが言葉を継いだ。
「そうそう、それにボクは薬草採取に来れただけでも嬉しいんだから」
「有難うございます・・・・」
 マリアはそっと零れてきた涙を拭った。

 華麗な太刀筋で白銀の弧を描いた瞬間、マミの刃が狼を薙ぎ払っていた。背中合わせのリースフィアもそれに劣らない美しい太刀で狼を牽制。愛犬朧丸との連携もバッチリだ。
 解き放たれた疾風の如き衝撃波。絶狼の剣が一度に数匹の狼を吹き飛ばす。
 修一郎が刀を納めた時、狼は二つに割れていた。
 それでもなお襲い掛かってくる狼、静夜が怜悧な鋭鋒を披露した時、透が微塵隠れで爆風を巻き起こす。驚いた狼達はわらわらと逃げ帰って行った。
「見事な手並みです〜。その調子で前衛の皆さんには頑張って貰いましょう〜」
 軽い拍手。のんびり狼退治を眺めていたユイスからだ。
「お前もぼけっと見てないで、ちょっとは手伝ったらどうなんだ?」
 と顔に色を浮かべずに剣を鞘に仕舞う絶狼。
「私達は周囲の捜索に魔力を喰われるので〜。無駄に戦いたくはないですね〜」
「そうですね。出来る事なら、その間紅茶でもすすっていたいですね」とフィーナが続く。
「お前ら・・・・」
 絶狼は絶句した。

 広大であると知っていたはずだった。なのに、外から見た印象と中に入ってからの印象はまるで違う。広い云々の話ではない。抜け出る事が可能なのかどうかすら疑問に思えてくる。
「ユリアルはん、どうや? うちら、正しい方向に向かってるんか?」
「正しい方角とはどの方角なのかわかりませんが、とにかく一つ言える事は・・・・」
「何や?」
「おそらく私達は道に迷ったという事です。この森では妙に方向感覚を狂わされますし・・・・樹木に刻んでいた目印もいつの間にか見失いました。実をいうと、今、その目印を捜して、来た道を戻っているつもりなのですが・・・・」
「何やて? 絶狼はんはどうや? あんたも目印つけとったやろ?」
「まあ、一言で言えば、お手上げだな」
 と彼は両手を宙に放った。
「ちょっ! どないすんねん?」
「西に進むと森は出られると思いますが・・・・」
 だが、ジークリンデが上空から森を見晴らして作った地図の通りに進んでも道に迷う。
「私が樹木に話を聞いて見ましょう」
 ユリアルは手近に立つ樹木に手を添えた。
「地の精霊伝いて我そなたに問いかけん。賢明なりしそなたが我を正しき道へと誘わん事を願いて。答えよ、そなたはユニコーンを知る者か?」
――いいや・・・・。
「見た事もない?」
――ない・・・・。
「最初に謝っておきます。私達は道標として、あなたの仲間に傷をつけました。その傷は私達の生命線なのです。あなたから見える範囲で、その傷跡は見えますか?」
――見えない・・・・。
「私達は疲れています。今夜を休むに足る平らな地があるでしょうか?」
――右手を・・・・。
「まっすぐに?」
――そう・・・・。
 樹木の声は途絶えていった。ユリアルは深い感謝の念を刻んだ。

 なるほど、樹木が告げた先には開けた場所があった。木々の枝も天を覆っておらず、淡い月明かりを通している。一行は火を焚き、周りを取り囲んだ。
「どうぞ、温まりますよ。エルさんの支給品ですけども」
 フィーナが勧めてきた紅茶をマリアは礼を言って受け取った。
「こんな風に夜営するのはマリアさんにはあまり慣れない事だと思います。大変でしょう?」
「それは皆さんも同じですから、私だけが文句を言うわけには参りませんわ」
「偉いですねえ」
「偉いのは皆様の方ですわ。私の我侭に付き合って頂いて」
「家族を救いたいというのは我侭ではないでしょう?」
「そうですわね」とジークリンデが相槌を打つ。「あなたのその気持ちに打たれたから、こうして皆は協力してくれているのですから」
 冒険者達に対する深い感謝と祖母の無事を祈り、マリアはその夜を更かした。

 翌日。
 果てしない雑木林を延々と行くうちに、まるで時間が止まってしまったようにすら思えてくる。まだ数時間しか歩いていないのに、もう幾日も歩いてきたかのようなこの疲労感。苔むす滑りやすい粗石やぬかるんだ泥に足を絡めとられるせいも幾らかはあっただろうか。
「いや〜、森の中を散歩するのも中々大変なモノですね〜」
 ユイスの呑気な発言もそろそろ笑えなくなってきた。ユニコーンの居場所どころか帰り道すらも失われた今、生きてこの森を出られるかどうか。
「まあまあ、皆さん、そんな怖い顔なさらずに〜。雨も降っていないのに地面が湿っているという事はこの近くに水源がある可能性ありですよ〜」
 その通りだった。しばらくすると水が滴る音が聞こえてきた。岩を伝い伝いに零れる湧き水。乙女の涙のように美しく澄んだ湧き水だ。
「いくらユニコーンと言えど、水は飲みに来るはずですからね〜」
「かといって、ここの水を飲みに来るとは限らないんじゃないですか・・・・」
 透が湧き水をすくいながら言う。美味しい水だった。
「せっかちさんですね〜、それを今から聞こうとしてた処ですよ〜・・・・と、思いましたが、どうやらあちらさんに聞く方がいいみたいですね〜」
 湧き水滴る水場の上方、崖の上から一匹の小鹿がこちらを見下ろしている。ユイスはテレパシーを送り、鹿とコンタクトを試みた。
 小鹿は後ろを振り返り、歩み始めた。
「テレパシーは通じなかったのですか?」リースフィアが言う。
「ちゃんと通じましたよ〜、ユニコーンの居場所を聞いてみました。きっと恥ずかしがり屋さんなだけでしょう〜」
 ゆっくりと獣道を歩んで行く小鹿を追う。
「あの小鹿の両親はどこにいるのでしょうか・・・・?」透がふいにポツリと呟いた。「あの小鹿は“孤児か”・・・・」
「・・・・面白い」修一郎もまたポツリと呟いた。
 慣れた道、小鹿は身のこなし良く、岩から岩へと伝い飛び、林を抜けていく。どこまで行くのだろうか? この鹿は本当にユニコーンの居場所へと向かっているのだろうか? だが今は小鹿を信じるより他に方法はなかった。
 雑木林を突っ切ると、樹齢何百年というような立派な老木が聳えていた。この森全てを包み込むような雄大さを兼ね備えている。
「わあ〜、すっごい木!」
 思わず声を上げたエルの目に入ってきたのは、老木の根元に生えていた薬草。中々にお目にかかれない貴重な一品。
「わあお! ラッキー!」
 駆け出すエル。幸せそうにその手に掴んだ薬草。心は弾んでいただろう、まるで宙を浮くように・・・・とその瞬間、エルは本当に宙を浮いていた! 枝から長く伸びた蔦が巻きつき彼女を持ち上げたのだ!
「エルさんが“得る”物は・・・・!」透が拳を握り締め、
「・・・・面白い」修一郎が呟くと、
「笑えません! あれはガヴィッドウッドです!」ジークリンデが声を上げた。
 ガヴィッドウッド――人喰樹。一見、普通の樹木に見えるが、獲物を捕らえては貪り食う貪欲な食肉植物。
 その樹の根元に亀裂が走った。人喰樹はばっくりと口を開いたのだ。中には動物の白骨、そして人骨らしき物もちらほらと・・・・
「いや〜、放して〜! 食べられたくない〜!」
 宙吊りになったエルが泣き叫ぶ。
 その瞬間、鋭い疾風の刃が走り、エルの体を繋ぎ止めていた蔦を断ち切る!
 フィーナの魔法だ!
真っ逆さまに落ちるエルを受け止めたのは静夜。
「ありがとう、静夜! ありがとう、フィーナ!」
 フィーナはにっこりと微笑む。
「いえいえ、昨夜のハーブティーのお礼です」
 昨日、ハーブティーを貸してあげなかったら、救って貰えなかったのだろうか? いや、そんな事はないと信じたい。エルは身を震わせた。
「さて、どうしたものか・・・・木なんか切って刃こぼれしないかな?」
 憂鬱に剣を抜く絶狼にフィーナは言う。
「心配でしたら、攻撃は私達ウィザード陣に任せてもらっても構わないですけど。その代わり、体を張って敵の攻撃から私達を護って下さいね」
「なんか、やだなー」
 と言いつつも、絶狼は足を絡めとろうとする人喰樹の蔦を薙ぎ払い始めた。
 その後方から、ユリアルとエルの強烈な重力波が人喰樹に炸裂!
 イフェリアは途轍もない速さで空中を飛び回り、敵を翻弄、電撃を浴びせた。
 仕方ありませんね〜とばかりに真空刃で攻撃するユイスに、枝葉から地道に凍らせていこうと冷気を放っていくジークリンデ。
 しかし悪しき存在とはいえ、さすがに何百年と生きてきた生命力を持つ樹木。そう簡単に朽ち果てはしない。しつこく蔦と枝を伸ばして、冒険者達を疲れさせる。
「きりがありませんわ」
 鮮やかな剣技を誇るマミも、いつしか作業的な太刀筋で蔦を払っていた。
「とんだクリスマス・ツリーです」
 とリースフィアも苦渋の色を浮かべる。
 その時、樹木の蔦が小鹿を捕まえた! 鹿にまで気が回らなかったために起きた失態。小鹿は軽々と持ち上げられ、貪欲な洞の中に放り込まれた。
 どうする?・・・・と、誰もが一瞬悩んでいた瞬間に飛び出したのはマリア。彼女は人喰樹の口に半身飛び込み、小鹿の体を掴んだ。
 生命を食い散らかしてきた悪臭漂う口はまさしく冥界への穴。だが少女は決して小鹿を放そうとはしない。それどころか、彼女は気丈にも、あるいは生き延びるために必死だったのか、懐に携えていたナイフを口内に突き立てた。血のような樹液の飛沫が飛び、彼女の顔と服を赤く染めてゆく!
 人喰樹は痛みからか、貝のように口を閉じようとしていた。
「させるものですか!」
 危機一髪駆けつけた静夜は刀をつっかえ棒のように突き立て、
「無茶はしないでください、マリアさん・・・・という私もかねがね無茶しがちですが」
 と必死にマリアの体を引き出そうと力を込める。だが女一人の力には人と鹿の二つの命は重すぎたのか、ずるずると引き込まれていく。それを再度引き止めたのは透、修一郎、絶狼。静夜と共に少女を引っ張る。
 重なった力。一つとなった力は少女と小鹿を見事に日の元の世界へと引き戻した。
「今です! 皆さん、この口の中に!」
 静夜の掛け声に応え、一斉に魔法が乱れ飛ぶ。
 その直撃に幾百年の時に生命を貪ってきた樹木も遂に最後の時を迎えた。枝や蔦はだらりと垂れ下がり、醜く蠢いていた口は閉じられていった。
 マリアは大丈夫そうだったが、服も顔も樹液に汚れきっていた。身を清めなければ、ユニコーンも寄り付かないかもしれない。
 小鹿が低く鳴いた。どうやら、命を助けて貰ったお礼をしてくれるらしい。軽やかに駆けていく小鹿を、再び皆で追っていた。

 小鹿が案内した場所に広がっていた美しい泉。金色の陽射しが降り注ぎ、処女の肌のように透き通った透明の水面に反射している。白い靄が薄くかかり、幻想的な光景を紡ぎだしている。
 小鹿が言うには、ここにユニコーンがごく稀に水を飲みに現れる事があるという。どうやらここで野営を築いて、待ち続けるしかないようだ。
 寄ってくる小鳥を指先に休ませ、ジークリンデは話を聞く。小鳥が告げるにも、ユニコーンらしき白馬が姿を見せ、この水辺で眠りに就く事があるのだそうだ。ただひどく敏感で、小鳥が近寄るだけで目を覚まし、去って行くのだとも。
「私達に聖獣を引き寄せるだけの運があるかどうか・・・・」

 乙女は樹液に穢れた体を清めるため、泉に入る。
 解き放たれた金色の髪は月の艶姿を映し出す水面に梳かされ、広がった。
 マリアのきめ細かい肌の色は、その夜の月の色に似ていた。

 寝静まろうとする穏やかな森の吐息が風に流れてくる。
 凍えた体を毛布に包み、焚き火の傍で寒さを噛み殺すマリア。もう一枚毛布を少女の肩に乗せてくれたのはユリアルだった。彼は何も言わずに柔らかく微笑んだ。
 ここまで来れば、根競べ。
 昨夜と同じく、半分半分の人数に別れ、持ち回りで夜の番をする。
 そんな中、マリアはただ一人、まんじりともせずに夜空を写し取る泉を見据えていた。
「眠れないのですか?」
 と声を掛けたリースフィアは少女の横に腰を下ろした。
「どうしてもお祖母さまの事が気になってしまい・・・・」
「信じましょう」リースフィアは言う。「聖なる夜には奇蹟が起こるといいますから」
「すみません、せっかくの聖夜祭なのに、面倒をかけてしまい・・・・」
「いえ、聖夜祭を一緒に過ごす相手もいませんし・・・・」
 リースフィアがやや寂しそうに笑った。
「恋人さんはいないのですか?」
「そうですねえ・・・・私みたいに騎士として戦っていると、どんどん逞しくなっていくでしょう? 強過ぎる女性を好む殿方はいないのかもしれません」
「そんな事は」
 ナイトとは到底思えないほど可憐な少女リースフィアなら、言い寄ってくる男も多そうだった。
「私が高望みしているせいかもしれませんね。いつか白馬の王子様が迎えに来てくれたらいいなあ、なんて」
「私も・・・・同じようなものです」マリアは言う。「貴族様に見初められると夢見てましたよ」
「少女の頃なんて、皆そんなものでしょう」
後ろから澄んだ声が響く。マミだった。東洋の血を引いている事が肯ける艶やかな黒髪が夜風の最中に揺らめいていた。
「誰でも夢見がちな時期というのはあります。私にもそんな時期があったような気がします。ただ、いつまでも夢見がちなだけではいけない、とも学びましたわ」
「どうすれば良いのでしょうか?」マリアは問う。
「気持ちが強ければ行動に移せるでしょう? あなたがお祖母様の危機にこうして行動を起こしたように。行動に移さねば、何も起こりません。ですが、行動すれば、奇蹟だって起こるかもしれませんわ」
 なるほど。そうかもしれなかった。

 夜は深まる。限りない闇に身を染めていく緑。蒼白い幽暗たる月影に蠢く巨大な影。
 彷徨うもの・・・・彷徨えるもの。
 邪欲抱いた影が、伴侶の匂いを嗅ぎ分け、忍び寄る。
「何か巨大な生物が近づいてきます」
 逸早く感知したジークリンデが言うように響いてくる・・・・重々しい足音が。大地を割るような足音だ。
 木々を薙ぎ倒し、森の闇から出でる影の姿。
 漆黒の雄牛の頭部。ぎょろぎょろ卑しく光る両眼。巨大な人の体を持ち、手には体に見合う巨大な斧を携えている。
「ミノタウロスですわ!」
「何でこんな所に?」絶狼は顔をしかめた。
「きっとユニコーン求めてやってくる女性目当てでしょう。ミノタウロスは雄しかいないため、人の女性を攫うのです!」
「たく、女好きばっかだな」
 絶狼はテントに飛び込み、皆に呼びかけると、「ん・・・・ユニコーンですかあ?」とフィーナは毛布を頭からかぶってぐずり、「え・・・・ミノタウロス・・・・頑張って下さい」と再び心地よい眠りに就き始めた。
「てめえ!」
 と怒っていても始まらない。絶狼は案外冷静だ。仕方ない、とばかりに剣を引き抜いた。
 深夜の攻防が始まる。
 まず打って出たのは修一郎。少しは歯応えのある相手に巡り合えたとばかりに、闘気を込めた一撃を叩き込む!
 漆黒の血飛沫が飛ぶがミノタウロスはタフだ、唸りながらもまさに雄牛のように突っ込んでくる。
「聖なる夜を過ごす相手にはしたくないですね」
リースフィアは鮮やかに怪物をいなし、反撃。勢い余った怪物は樹木に激突した。
ミノタウロスは起き上がる。むくむくと火の手がある限り、立ち上る黒煙のように。
「脳天さっくり串刺しサンダアァァ!」
 風の精の如く宙を舞うイフェリアからピンポイントでの電撃が炸裂!
 そこにすかさず舞い飛ぶ静夜の居合いによる連撃。月夜に映えた刃が十字を切った時、怪物の胸にその傷跡が刻印された。が、ミノタウロスの反撃の斧は静夜を吹き飛ばす。
「相手の間合いは広い、充分気をつけて下さい!」
 マミは声を飛ばしながら、敵の間合いに入る。見事に胸に入った鋭い一太刀!
 その直後に全身全霊の力を込めた絶狼の斬撃がミノタウロスの胸から肩を切り裂いた。
 切られた大木のようにゆっくりと倒れ伏す怪物を背に剣を収める。
 戦いは終わった・・・・かに見えたが、ミノタウロスの息の根は止まっていなかった! 起き上がり、背を向ける絶狼に斧を振り下ろさんとした。
 剣に手をかける絶狼が見たもの・・・・真空波に飛ばされたミノタウロスの頭。
 フィーナの魔法が間一髪危機を救った。
「相手の生死を確認するまで油断はいけませんよ」
 と微笑む清廉なエルフ。彼は重い吐息を漏らした。
「余計な事を。俺だけで止めを刺せていたさ」
「素直じゃないですね」

 朝方。
 急に冷え込んできたかと思えば、ちらほらと胞子のような雪が舞い降り始めた。そのせいか、森全体が白く染まって見える。薄い朝靄に霞むせいもあっただろうが。
 その白く染まった闇の中から近づいてきた神秘的なシルエット。
 白い空気に低く伝わる馬の蹄の音。
 遂に現れたのだ――聖獣ユニコーン。
 ユニコーンは泉に口付けし、水を口に含む。
「あれがユニコーン・・・・!」
 マリアの声は震えていた。
「野生のユニコーン・・・・初めて見ました。確かにどこか神秘的な雰囲気がありますね」
 リースフィアがやや興奮気味に言う通り、そのユニコーンはどこか近寄り難い風格を漂わせている。侵される事のない険しい山岳に降り積もった雪のような純白な毛並みに、陽射しの如く金色の鬣が気だるそうに垂れていた。雄々しく聳える角の傍に光る両眼は聡明そうな蒼を灯していた。だが馬体が小さい。まだ成体ではないのだろうか。
 マリアは逸る心を抑えきれずに最初の一歩を踏むが、その一歩をユニコーンは警戒した。
 ユニコーンはじっとこちらを見据え、そして去ろうとする。
 透は忍びだけに許された技を用い、ユニコーンの行く手に回る。
「驚かせて申し訳ございませんが、あなたにお会いしたい人がいますので逃げないで下さいませんか・・・・」
 透が問いかけた時、ユニコーンの体を薄く紅い光が包み込んだ。神々しく。
『どきなさい、少年・・・・僕の行く手を遮る事何人たりとも許さぬ』
 透はその不思議な声に眉をしかめる。少年の声だ。いや、それよりも、完璧に女装したはずなのに、何故即座に性別を見破られたのか? ユニコーンの眼力は彼の業を凌ぐというのか? 透は唇を噛む。
「いえ、どけません。私の依頼人があなたの力を必要としています。命が掛かっているのです、彼女の話だけでも聞いて貰えませんか・・・・」
 ユニコーンの少年は人の少年を前にし、憂鬱そうに前足で大地を蹴った。威嚇だ。だが、透とて幾多もの視線を潜り抜けてきた忍び、そう簡単には引かない。いや、何があっても引かないだろう。
 その時、「まって、大宗院さん!」とマリアの声が飛んだ。
「私が・・・・私が直接お話してみます」
 今度は心を落ち着け、ゆっくりとユニコーンに歩み寄る。その後を追おうとするフィーナだったが、彼女はふと顔を伏せ、足を止めた。
 マリアはユニコーンの瞳から目を逸らさずに歩んでゆく。ユニコーンは逃げようとはしなかった。代わりに鋭い角を向けて、少女を待つ。試しているのだろう、この角に一突きにされる事を恐れぬならやって来いというわけだ。
 少女は恐れを見せなかった。ユニコーンを警戒させないよう、穏やかな笑みを浮かべながら近づき、そして誘いの手を差し伸べる。
「おいで。友達になりましょう」
 マリアの差し伸べた手は受け入れられた。
 乙女の前にユニコーンは膝を折ったのだ。
 その頭を乙女は胸に包み込む。
『何が望み?』
「聞いてくれますか?」
『友の頼みを聞きましょう』
「私の大事な人が今にも息絶えようとしているの・・・・」
『仕方のない事だよ。いつかは滅びるようにできている。それが世界だから』
「それでも助けたい・・・・お願い、力を貸して」
『友が望むなら・・・・だが、どのような結果になったとしても受け入れる事だ』
 ユニコーンは物憂げにそれだけ言うと、マリアの膝の上に頭を下ろし、目蓋を落とした。
 マリアは懐から小さなナイフと布切れを取り出し、ユニコーンの角の一面を優しく削っていく。なるべくユニコーンが痛がらないように。
「ごめんね、角をちょっと傷つけてしまう」
『友のために生じた傷、名誉と受け取ろう』
 広げた布の上に降り積もる一抹の粉。それで充分だった。マリアは布切れを折り畳み、大事に懐に仕舞う。
「ありがとう」
 乙女はありったけの感謝の念とともに純白の聖獣を抱いた。
「清楚な“乙女”が去るユニコーンを“お止め”になりました・・・・」
「・・・・面白い」透の駄洒落にまたも修一郎が呟いた。
「良かったですね・・・・といっても、まだここからですが」
 ユリアルがマリアと聖獣を眺めながら言う。
「傍によってみたいけど、ボクが近くまで行ったら逃げちゃうかも・・・・」
 しょんぼりとエル。結婚している彼女はユニコーンの好む乙女ではないかもしれない。
「そうですねえ、私も乙女ではありますが、残念ながら少々薹が立ち過ぎていますね。あと十年若ければ背に乗せて頂きたかった所ですけど」
 静夜がいうと、イフェリアも続く。
「うちみたいなうるさい女も邪険にされるかもしれんわ・・・・って誰がうるさいねん! うちみたいな控えめでしとやかな女を捕まえて! 何て事言うんや!」
「・・・・ん、まあ、気になるなら、皆さん、傍に寄ってみたらいいじゃないですか。そのくらいなら、大丈夫なような気もします」
 とユリアルは言う。
「お前は行かないのか?」
 一人踏み止まるフィーナに絶狼が問う。
「ええ・・・・私は」
「キヨラカになるんだろう? この舞い降ちる雪のように」
 フィーナの白い頬に温かい雪が乗った。
「そうですね、じゃあ私も・・・・」
 彼女も皆の後を追った。
 他人に触れられるのが大嫌いなユニコーンがフィーナの膝にも頭を休ませた事は皆の秘密である。その時、彼女が幼い少女のように無垢な笑顔を浮かべた事も。

 ユニコーンが去り際に教えた森からの出口。あれだけ迷ったのに、その方向をまっすぐに進むだけで、あっさりと抜け出る事ができた。

「お祖母さま!」
 もう何年ぶりかのような我が家の戸を開き、静かにベッドに横たわる祖母に駆け寄った。
間に合った! まだ微かに祖母の息がある!
「ユニコーンの角の粉、採って参りました。これを飲めば!」
 広げた布切れの中の妙薬を、一杯の水と共に、老婆の口に含ませる。
 これでもう大丈夫!・・・・一瞬の歓喜の後、マリアの顔は曇った。
 祖母が目を醒まさない。少女は耳をそっと祖母の胸に押し当ててみた。彼女の心の音色は途切れていた。
「お祖母さま・・・・お祖母さまあ!」
 マリアは祖母の胸に顔を伏せ、泣き咽んだ。悲しみに暮れた熱い涙は祖母の胸に零れる。
 その時、奇蹟は起こった。
 少女は気付き、はっと顔を上げる。そして再び祖母の心の音を聞いてみるのだ。
 脈打っている。確かに・・・・生命の音が紡がれているのだ!
 祖母はゆっくりと薄く目を開いた。そして孫娘のなだらかな髪を撫でる。
 少女は震える声で囁いた。
「夢じゃ・・・・夢じゃないの?」
「どうやら夢でもまやかしでもないようだよ。魔法よりも、確かな力が私を生かしたようさね・・・・お前の想いさ」
 少女は溢れる涙を押し止めずに、祖母の手を握り締めた。

「ユニコーンの角のおかげだったのでしょうか?」
 マミは夜空を見上げた。星が命のように散りばめられた夜空だ。
「どうでしょう? 森の鋭気に養われたあのユニコーンの角には薬効が宿っていたのかもしれませんし、マリアさんの強い想いが本当に魔法を越える力となったのかもしれません」
 ジークリンデが満足そうな笑顔を見せると、リースフィアも肯いた。
「そうですね。どちらにしても良かった」
「人の想いは、魔法も錬金術も越えるという事ですか」フィーナは嬉しそうに頭を振った。
「本当に大切なモノは何なのか〜、 それが解っていれば、自ずと歩は進められるモノですからね〜。私はそれを理解するまでにだいぶ時間がかかりましたけれど〜」
 とユイスは夜空に呟く。
「聖なる夜ならでは、という気がしますね」
 ユリアルが寒いはずの温かい夜に白い吐息を舞わせた。
「あの二人を見ていると、私も久々に家族とともに過ごしたいと思うようになりました・・・・」透が人知れず呟いた。
 冒険者達が見上げていた夜空。そこに一つの流れ星が大きな弧を描いていく。
 そう、これは聖なる夜にだけ許された奇蹟。
 その奇蹟を純粋に喜び、彼らはこの季節を、この夜を祝った。