悪霊巣食う教会

■ショートシナリオ


担当:HIRO

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月20日〜12月25日

リプレイ公開日:2006年12月25日

●オープニング

 古い教会がある。その教会には前々から幽霊が出るという噂だった。いや、噂ではない。実際に出るのだ。出るたびに神父が祓っていたから、それは問題にはならなかったのだが・・・・1体、2体程度ならばの話ではあるが・・・・

 ある夜。
「うわああ」
 好奇心から教会に忍び込んだ二人の少年たちの叫び声だった。
 彼らはひどく怯え、それから数日間一言たりとも言葉を発しなかったし、その後も教会で何があったのか喋ろうとはしなかった。
 幽霊を見たのだ、仕方ないことだと、村人は片付けた。
 その後からだろうか。幽霊はより頻繁に現れるようになった。
 村人は恐れを成し、誰も教会に近づこうとすらしなくなった。
 しかし聖夜祭は間近。教会に立ち入れないのは何かと困る時期でもある。
「神父様、幽霊を祓えませぬか?」
「このままじゃ、私たち、天に毎日の祈りを捧げることもできませんわ」
 村人達は口々に言う。
「ふむう・・・・」
 神父は雲のような真っ白な髭をさすり、険しい表情を浮かべた。
「教会のない神父もはなはだ滑稽。わしも居場所を取り戻さねばならぬが・・・・しかし、あの数は今までの比ではない。その上、祓っても祓っても、次から次に現れそうな邪悪な気配が充満しておる。いったいどうしてこんなことになってしまったのか・・・・」
「神父様でもどうしようもないのですか・・・・?」
「ふむ、しかしやるしかあるまい。このままでは、いずれ教会からあぶれた悪霊が村を滅ぼすかもしれん」
 神父は聖書を携え、教会の扉を開いた。むっとする重い空気が威嚇するように神父を取り囲む。一時でもここにいたくはない、そんな嫌な邪気に満ち満ちていた。
 神父は聖水を指先から撒き散らしながら、ゆっくりと一歩一歩祭壇に歩んで行く。
 祭壇に辿り着いたときの神父の顔は生気に欠け、一気に老け込んで見えた。
「我が教会に巣食いし悪しき影よ、御身の姿、我が前に現したまえ!」
 神父の声に呼応し、無数の悪しき御魂が虚空を彷徨い始めた。
 神父は十字架を握り締める。
「彷徨える魂! 怒りを鎮め、安らかな眠りにつきたまえ!」
 無残なものだった。神父の祈り届かず、悪霊は群れを成し、神父を襲った。
 神父は悪霊の成すがままの玩具に過ぎなかった。
「神父様!」
 村人は神父に駆け寄り、彼を肩に担いで命からがら教会を飛び出した。

 神父は命を取り留めたものの、かなりの重症。この傷では、何日もベッドから起き上がれないだろう。取り殺されずに教会から連れ出せただけでも、よかったとすべきだが・・・・
 さて、どうしたものか・・・・
 神父がこうも簡単に敗北を喫する悪霊、村人にはどうすることもできない。
 彼らには、ギルドに依頼するという選択肢しか残されてはいなかった。

●今回の参加者

 ea1674 ミカエル・テルセーロ(26歳・♂・ウィザード・パラ・イギリス王国)
 ea9589 ポーレット・モラン(30歳・♀・クレリック・シフール・イギリス王国)
 eb3087 ローガン・カーティス(22歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb5818 乱 雪華(29歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)

●リプレイ本文

「もうすぐ聖夜祭か、死者達は何を訴えているのだろうか?」
 博識なハーフエルフ、ローガン・カーティス(eb3087)は息を吐いた。
 一行が村に着いた時分は既に夜。
「せっかくの里帰り、ゆっくりしたかったかも〜」
 シフールのポーレット・モラン(ea9589)が弾むような独特の口調で言う。
「この季節にはどうしても里心がつくものですね」ポーレットと同じように故郷に戻ってきたミカエル・テルセーロ(ea1674)のふわりとした金の髪が風に揺れる。「この村に帰ってくる人もいるでしょう。人々の大切な祈りの場、取り戻しませんとね。 聖夜祭は皆さんが楽しめないといけません。喜びと笑顔で満ちる、そんな聖夜であるように」
 艶美なハーフエルフ、乱雪華(eb5818)は彼の言葉を継いだ。
「清らかな聖夜を迎えられるように」

 案内された宿からは教会の高い尖塔が見えた。不気味な影だ。
 ローガンは窓の外に視線を馳せたまま、蝋燭の火を移し変えている村長に問いかけた。教会に幽霊が出るという噂はいつ頃からあったのか。村長は自分が生まれる前からあったらしいが、よく知らないと答え、神父の家系がこの村では一番古いから、神父に話を聞けとも言い、部屋を出て行った。
 奇妙な話だ。ローガンは手を細い顎に添えて考え込んだ。
「・・・・墓にアンデッドが現れる事はあるが、教会内に現れるのは不自然な気がする。レイス達も現世に留まっていては苦しいだけだ」
「そうですねえ」肯くミカエル。
 その時、隣に部屋を取っている女性陣が入ってきた。
「きゃっほ〜、ミカちゃん、相変わらず可愛いね〜。雪華ちゃんと二人っきりだと寂しい〜、一緒に寝ない〜?」
「僕も一応男ですから」
 とミカエルはすり寄って来るポーレットに返事を返した。

 翌朝、ローガンとポーレットは神父を訪ねた。神父は未だベッドに寝たきりの生活。ポーレットは彼に治癒魔法を施したが、神父の傷は身体的なものであるより、精神的なものの方が大きいらしかった。魔法の効果もさほどは見られない。
「すまんな」
 無理に体を起こそうとする神父を彼女は押しとどめる。
「いえいえ、白き母様の許同じ兄妹ですものぉ。安静にしていて下さいな〜」
「話を聞かせて貰えないだろうか」ローガンが口を挟む。「幽霊の噂はかなり古くからあるそうだが、この村では以前何か事件でもあったのだろうか?」
「わしもよく知らん・・・・いや、もう誰も知らないのかもしれん・・・・それほど昔の事じゃ」
 神父は震える手で本棚を指し示した。
「そこにある文献を持って行きなされ。我が祖父が書き記したものじゃ。そこに手掛かりらしき記述があるが・・・・今となっては・・・・」
 古い書物だった。見開いてみる。どうやら、この村の歴史について書き綴られたものらしい。
「ただ一つ忠告させておくれ」神父は再び眠りにつく前に言う。「禁忌の扉を開くな・・・・」
 どういう意味だ? 聞き返す間もなく、神父は深き眠りへと落ちた。

 ミカエルと乱は教会に忍び込んだ少年二人を訪ねた。世話好きな乱や、見るからに親しみが湧くミカエルなら、塞ぎこんだ少年達の口を開かせる事ができるかもしれない。
「ね、教えてくれないかな?」
 膝を折り畳み少年達の目線に合わせて、乱は問う。だが少年達は噤んだ口を開こうとはしなかった。
「レイスだけではなく、違う『何か』を見たのかもしれないですね」とミカエルが呟く。
「君達が教えてくれると、すごく助かるの。怖いかもしれないけど、逃げるだけじゃ何も解決しないでしょ?」
 乱はそっと少年の手を取る。もう一人の少年の手の上にはミカエルの手が重なっていた。
「僕達は皆さんが安心して祈りを捧げられるようにしたい」
 彼らの気持ちと温かさは通じ、少年達は今にも泣きそうな顔を上げた。
「祭壇の下に・・・・!」

「これを見てくれ」
 ローガンは文献の一節を指し示した。
「今から150年も前に、不可解な事件が起こっている。突如村から数人の失踪者が出ている」
 彼は澄んだ声でその一節の朗読を始めた。

『彼らは一夜にして何処かへと消え去った。悪しきものに憑かれ、自らその扉を開く事を望んだのだ。その謎、あえてここに記そうとは思わぬ。彼らの尊き意志重んじ、口に伝える事、罪とす。忘却の彼方、そこが安眠の地である事を願い、祈り給え。そして禁断の扉、開くべからず』

「意味ありげ、ですね」
「悪霊に憑かれ、自ら死を望んだという事でしょうか?」
 ミカエルと乱が口々に言う。
「神父のお爺ちゃまも言ってたけど〜、その『禁断の扉』っていう言い回しが引っ掛かるのよねぇ〜」
 とポーレットが言うと、ローガンは沈みがちに呟いた。
「そうだな、その意味が解けねば、解決への道は開かれん」
「どうやらその意味は私達が逸早く知り得たようですね」
 と、乱が少年達から聞き出した情報を伝える。祭壇の下に隠された扉があって、その先は地下に続いているという。少年達は何とかそこまで話してくれたが、その後に見た光景はあまりに恐ろしかったのか、どうしても言葉にしてはくれなかった。
「その扉を開かねばならんようだな・・・・」
 ローガンは重い吐息を漏らさずにはいられなかった。
 
「やっぱり結構な数いるみたい〜。マイダーリン、ジーザス様のお誕生日が近いとゆ〜のにイヤンな幽霊さんね〜」
「死者のみが参拝する教会とは洒落になりませんね・・・・」
 闇は謎と同じように深まる。聖夜間近とは思えない陰鬱な夜に、ポーレットと乱は溜息した。しかし行くしかない。そうと分かっているから、乱は気を引き締めて先陣を切り、教会の扉を開いた。
 ローガンの操る炎が頑迷なほどに闇を保とうとする教会を照らす。祭壇までの道程に、4体ほど蒼白い炎が揺らめいた。悪霊のお出迎えだ。
「祭壇までの道程は遠いわよ〜」
 ポーレットが神聖魔法で皆に加護を与えている間、乱は鳴弦の弓を掻き鳴らし、レイスの動きを封じ込める。悪霊の動きは鈍くなったものの、教会を破壊するわけにはいかない、ローガンは得意の炎を生み出せず、戦いにくそうだった。
「破壊と再生の申し子よ、紅の精よ・・・・力を貸して。浄化の炎よ、彷徨う霊に終わりの時を!」
 しかし、ミカエルは家屋に傷を与えない優しくも熾烈な炎を大地から呼び起こし、不浄な霊魂を焼き尽くしていく。
 作戦は功を奏した。時間こそかかったものの、教会を彷徨っていた悪霊は祓えたようだ。しかし元を断たねば、いつまた現れるやも知れない。
 四人は肉体的というよりは精神的な疲労を押し殺し、祭壇に駆け寄った。
「覚悟はいいか? 禁忌と云われる扉だ」
「そんな事は元より承知の上です。開きましょう、この地に眠る御霊のためにも」
 ローガンの言葉に乱が力強く答えた。
 祭壇を押した後に現れた扉。その重い扉を開くと、訪問者を冥界へと誘わん階段が地下へと続く。薄暗い階段を降った先は一本道だった。狭く、天井も低い。
「あら〜、避けられない道かしら〜? 悪霊ちゃんに取り囲まれちゃった〜!」
 ポーレットが悲鳴を上げたように、行く手にも後ろにも幽暗たる命乾きし炎が灯る。先程よりも数は多い。
「やるしかないですね」
 いつもの穏やかな表情がミカエルから消えた。先程の戦いの疲れが残っているのだ。
 先程と同じ作戦で戦う。だが魔力も尽きかけている。動きを封じ込めていた乱の音も、徐々に効果を失い始めた。
「ならば!」
 乱はありったけの魔力を振り絞り、聖なる光を拳に纏う。その聖拳で悪霊を砕いた。しかし接近戦では危険も伴う。数がこちらを上回っていればなおさら。悪しき炎は乱の肩を掠めた。
 このままでは。ローガンは唇を噛む。追い詰められ、堅い壁に背が当たる。そこでふと思い当たる。頑丈な岩壁に狭い通路・・・・
「皆、伏せろ!」
 ローガンは叫ぶ! その声を信じ、床に倒れ伏す三人。
 普段は無表情のローガンの口の端が僅かに上を向いた。
「魂無き蒼き炎、我が紅き炎の前に滅びよ!」
 爆炎が狭い通路を吹き抜け、術者であるローガンごと悪霊を呑み込んで弾けた! 悪霊は滅び、彼の体は壁に叩きつけられる!
 炎が消えた後、三人は急いで彼の元へと駆け寄った。
「無茶するわねえ〜。ファイヤーボムをこんな場所で使うなんて」
 治療に取り掛かるポーレットに彼は答えた。
「無茶もするさ、こんな時はな・・・・」

 辿り着いた果てに見たもの。それは確かに凄惨な光景。壁に寄りかかり、あるいは床に倒れ伏したまま眠る数名の遺体。そのどれもがミイラと化していた。
 悪霊に取り憑かれ、ここで息絶える事を望んだのだろうか? 彼らが悪霊を呼び寄せていたのだろうか?
 聖職者でもあるポーレットは真摯に多くの死に向き合った。
「白き母様。御身の僕たる子等の霊魂に罪の赦しを与えて下さい。絶えざる光を照らし、彼等が安らかに憩う事を切に願います。アーメン」

 村人に地下の遺体を運び出し、きちんと埋葬するようにと告げた後、乱は星降る夜空を眺める。
「これでこの地に平安が訪れん事を・・・・」
「悪霊に憑かれた人々に冥福を」
 ミカエルが十字を切ると、ローガンは言い始めた。
「文献にある『悪しきもの』の正体は悪霊とは限らんな。遺体を見たか? 悪霊に憑かれたにしては、そんな傷跡も無く、綺麗なものだった」
「どういう事よ〜?」
「例えば、悪疫と考えるとどうだ? 感染した人々が村を護るため、隔離された場所で自らの死を選んだ。禁忌として忘れ去られた遺体は居場所を失い彷徨い始め、いつしか悪霊を呼び寄せ始める。昔の事、真相は闇の中だが」
「寂しかったのでしょうか?」ミカエルが問う
「そうだな・・・・」ふっとローガンは珍しく微笑んだ。「君達が言うようにこの時期は帰郷心に駆られる。彼らもそうだったのかもしれない。さて、未熟だが鎮魂の曲を演奏しようか、悲しい御霊が穏やかな聖夜祭を迎えられる事を祈りながら」