ハンス爺さんの恋路
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■ショートシナリオ
担当:HIRO
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:3 G 80 C
参加人数:6人
サポート参加人数:2人
冒険期間:01月14日〜01月19日
リプレイ公開日:2007年01月18日
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●オープニング
去年は実りの少ない寒々しい一年じゃった。そう、それはまさしく、年中冬のような。わしがいくら皆を励まそうと声を掛け回っても、悪しざまに拒絶されるという、人の荒んだ心を見たようなそんな悲しい一年じゃった!
しかし、わしは健気じゃ。道端にひっそりと芽を吹く雑草のようにいくら踏み荒らされても、めげずに明日を見据えておった。そしてそれは今も違わん。わしは、この厳寒の北風に吹き飛ばされることなく、いつもいつまでも人々の心に春を届けようと今日も道を行く。
さすれど、この極寒の世の中においては、わしの血潮の如き熱き想いも届かぬ! 今年も人々は、木枯らしのようにわしの横を冷たく通り過ぎてゆく日々。
ああ、新しい年を迎えても、人は変わらぬ・・・・そんな絶望の色に染まるわしに救済を与えてくれるあの可憐な少女!
そう、裁縫婦のアンナちゃん!
彼女だけが、いつもいつまでもわしを温かく迎えてくれた!
「あら、お爺ちゃん、また来たの?」
「また来ちゃったの〜、アンナちゃ〜ん!」
この寒い季節に日暮し淡々と裁縫を続けるアンナちゃんの手は少し荒れておった。
「かわいそうじゃのう! ああ、かわいそう! できることなら、わしが代わってあげたい!」
彼女の手をすりすりと頬に摺り寄せてみた。わしのしわがれた皮膚の上からでも、明白に伝わってくる手荒れ。何と痛ましいことか!
「寒さに凍てついたこの手とその心、わしの熱い口付けで温めて見せようぞ!」
わしが唇を近づけると、アンナちゃんは手を引っ込めた。
「そうですわね、手が悴んで、上手く縫えないようになってきましたわ。しばし火に当たることに致しましょう」
優しく微笑んで言う彼女の顔には、幾らか照れ隠しの意味もあったのじゃろう、その恥らう慎み深さもまたぐっと来るのじゃ!
暖炉の傍に座り込むアンナちゃん。
「それでは、背中や肩が冷えるじゃろ! よし、わしが!」
と、後ろからアンナちゃんの肩周りに手を回そうとした。が、アンナちゃんはすっと立ち上がって、
「そうですわね、お爺ちゃんの言う通りですわ」
と言い、椅子の背に掛かっていたショールを肩にかぶせた。
「お爺ちゃん、わたしね、今日はちょっと忙しいみたい。ほら、こんなに仕事が残っていますの。また今度来てくださる?」
「そうか〜、忙しいのか〜。なら、邪魔しちゃ悪いの〜」
その時、素直に彼女の傍を立ち去ったのがそもそもの過ちじゃった!
わしがこの時。彼女の穏やかな微笑の裏にあった陰りに気付いてさえおれば!
そう、数日後、アンナちゃんの仕事場を訪ねた時、彼女はもうそこには影も形もなかったのじゃ。
「アンナちゃん、どこに行ってしもたんじゃろう?」
「ああ?」
酒場の主人は不機嫌そうにこちらを振り向いた。
「アンナちゃんじゃい」
「裁縫婦の?」
「うむ、わしの心の恋人、アンナちゃんじゃ」
「彼女がどうしたい?」
主人はつっけんどんに言う。まるで街のゴロツキでも相手にしているかのような口ぶりじゃ。あまりにも態度が悪い。じゃから、わしは忠告してやった、広い酒場の満たされない空間を見やりながら。
「そんな態度じゃから、この店にはちっとも客が入らんのじゃ」
ずばりと図星を言い当てられ、主人はギロリと目を剥いた。
「客が来ねえのは、てめえがいるからだ。いつも無銭飲食しやがる上に、女客にちょっかいまでかけやがって」
「何を〜! いつわしが金を払わんかった?」
「逆に、いつ爺さんが金を払ったんだ?」
「わしは払う気持ちだけはいっぱいじゃ!」
「現に払わなきゃ意味ねえだろ!」
「貴様! 老い先短い老人を労わろうという気がないのか!」
「誰が老い先短いんだ? ツヤツヤ人より血色いい面しやがって!」
ふん! な〜んて奴じゃ。何が悲しゅうて、こんな奴の出す酒を飲まねばならんのじゃ! しかも金まで払って! 良識ある民なら誰でもそう思うわい!
「まあええ! 今、重大なのはアンナちゃんのことじゃ」
「だから、彼女がどうしたい?」
「アンナちゃんが消えちゃったんじゃ! な〜にを聞いとったんじゃ!」
まったく近頃の若いもんは、年寄りよりも耳が遠いんじゃろうか? 呆れ果ててしまったわい。
「そういえば、アンナは故郷の村に帰ったと聞いたな」
ふと思い出したように言う主人。
「何でそれを先に言わん? それで何ゆえ? 里帰りかのー?」
主人は腕を組み、しばし沈黙。
「さあなあ、そういえば、あの村近くの渓谷に化け物が現れるとかなんとか噂を聞いたな。ひょっとしたら、生け贄にでも選ばれたんじゃないか?」
「な、なんじゃと〜! 愛しのアンナちゃんが生け贄じゃと〜!」
わしは思わず主人の首根っこをひっ捕まえた。
「もっと詳しく話して聞かせい!」
「ちょっ・・・・苦しい、放せ、ジジイ!」
わしは手を放してやった。これしきのことで泡を吹き、青褪めるとは情けない奴じゃ。
主人は太い首根っこへ、しきりに手をやりながら、
「・・・・風の噂だよ! 村付近にそういった謎の化け物が出没するってのは。生け贄が用意されるってのもな・・・・」
「なんじゃと!」
これはいかん! わしがなんとしてもアンナちゃんを化け物の魔の手から救い出してやらねば〜! そして願わくば、アンナちゃんと・・・・ムフ。
わしは酒場を飛び出そうとした。が、主人が引き止める。
「引き止めようとしても無駄じゃ! わしの決心は揺らがぬ!」
「いや、引き止めはしねえけどよ。エール代は払っていけよ」
「貴様! 今から死地へと赴こうとする勇者から金を取ろうというか!」
「な〜にが。どうせギルドにでも持ち込むんだろうが!」
「だ〜れがあんな奴らに!」
奴らは以前、か弱い老人相手に殴る蹴るの暴動を働いた上に、忘れられないような幻覚で惑わしてくれた極悪非道な奴らじゃ!
「強がんなよ、爺さん。年なんだから」
哀れみをこめ、ポンとわしの肩を叩く主人。
むむ、確かに若き頃の勇ましいわしなら、化け物の一匹や二匹、赤子の手を捻るようなものじゃったが・・・・寄る年波は人を気弱にさせるものじゃからのう・・・・さて、どうしたものか。
●リプレイ本文
ぐふ。
旅立つ前から重症じゃ。こんな筈ではなかったのに。女いっぱい、くんずほぐれつ楽しい旅路になる筈じゃったのに!
セイクリッド・フィルヴォルグ(ea3397)。
男じゃ。
ヴァイン・ケイオード(ea7804)。
男じゃ。
陰守森写歩朗(eb7208)。
男じゃ。
オルロック・サンズヒート(eb2020)。
爺じゃ。
カメノフ・セーニン(eb3349)。
爺じゃ。
このカメノフというジジイ、この前、酒場で女性にやらしいちょっかいをかけておったスケベ老人ではないか。まさか奴と一緒になろうとは!
「ふ、マブダチの声には応えねばならんのう。お前さんの恋、このわしが手助けしてやろう!」
頭も禿げ上がったジジイがな〜にをカッコつけとるんじゃ! さしずめ、わしとアンナちゃんの恋路を邪魔しにきたのじゃろ! 嫌なジジイじゃ〜!
しかもオルロックというジジイもわしに妙な対抗心を燃やしておる!
「安心せぃ若造。アンナちゃんのハートは、わしが射止める!」
などと戯言をほざく上、自己陶酔気味というアブナイ奴じゃ!
「女子はの、わしみたいなダンディーな男に惚れるんじゃよ」
こんな長髪ジジイがほざくと虫唾が走るわい!
「アンナさん、ハンス老に嫌気がさして故郷に帰ったんじゃ・・・・?」
「俺もそう思った」
森写歩朗とヴァインが聞こえないようにひそひそ話しておったが、耳のいいわしには聞こえとる!
「それにしても、じーさん達やけに火花散らしてんな。仲悪いのか?」
「似た者同士だ、すぐに馴れ合うだろう」
このヴァインとセイクリッドの会話もみ〜んな聞こえとったんじゃ!
長い旅路になりそうじゃ、ぐふ。
ようやくわしらは村に辿り着いた! そしてようやく今回の女神に出会ったのじゃ!
「セティアちゃ〜ん! 会いたかったの〜!」
再開の抱擁をと思っただけなのに。
「あたしは会いたくなかったぜ!」
彼女の鉄拳はわしの顔にめり込んでおった。相変わらず気の強い子じゃ。でもそこがまたイイ・・・・。
セティア・ルナリード(eb7226)ちゃん。美麗な銀髪。愛らしいお顔。情熱的な赤い瞳に吸い寄せられそう。彼女は一足先に旅立ち、村での情報収集や連れてきたゴーレムについての説明を行ってくれていた模様。気の利くイイ子じゃ〜。老人一人の願いも汲み取れず、ノコノコついてきおったこ奴らに見習わせたいの〜。
「カメ爺、例のアレ、やってくれんかのー?」
「お約束のアレじゃな? よかろう」
カメ爺が念をこめると、セティアちゃんのスカートがふわりと舞い上がる! その先の景色に男は夢を見るのじゃ!・・・・と、思ったら、セティアちゃん、下に短いズボンを履いておった。
世界が終わりを迎えたかのように、わしらの頭はがっくりと垂れた。
「はあ、スカートを捲る意味がないのう・・・・」
行き場のない念動力でカメ爺が何度も何度も彼女のスカートを捲くる。
「鬱陶しいんだよ、てめえも!」
カメ爺はセティアちゃんの鉄拳に吹っ飛ばされた。自業自得じゃ。
「いつまでもそんな事をしておるから、幼稚じゃというんじゃよ、お前さんらは」
とオル爺。一体どうするというのじゃろ?
「わしのような知的派はこうするのじゃ!」
と何やら魔法を発動。その力によって、服の上からではわからない体の線が見て取れるらしいのじゃ。
「おう! 小柄なのに素晴らしいスタイルじゃ! むむ、しかし惜しい! もぅちょっとこうじゃったら安産型なんじゃが」
オル爺は腰辺りのラインを手で宙に描いては興奮しておった。わしはセティアちゃんの腰をさすって確かめてみた。
「そうかのー? わしにはとても良い腰に見えるがのー」
「このド変態が!」
純粋にセティアちゃんの身を思っての事じゃったのに〜。何でわしが張り飛ばされんといかんのじゃ〜。
「万年発情期爺さん三人の相手じゃ、彼女も大変だな・・・・」
セイクリッドの若造がほざいた。
渓谷に着いた頃には日が暮れておった。今日はここで野宿じゃ。
「ただの保存食では味気ないでしょうから」
森写歩朗が料理の腕を披露。セティアちゃんの手料理を味わいたいわしは食いたくもなかったが、これが中々に上手いのじゃ。
「こんなに料理上手いんだから、女に生まれればよかったんじゃ」
「てめえもな、ジジイ。そうすれば、少しは世の中平和になるってもんだぜ」
そんな酷い、セティアちゃん。
でもお楽しみはこ・れ・か・ら。就寝タイムじゃ!
テントは2人用と4人用が一つずつ。これは当然わしがセティアちゃんと共に〜! と彼女を追うわしの首根っこをヴァインが掴みおった。
「じーさんは俺達とこっちだ」
「たわけ! 四人用のテントにどうやって六人寝るんじゃ!」
「仕方ねーだろ。もう一個立てるスペースがなかったんだから」
「嫌じゃ嫌じゃ! 離さんか〜!」
テントの中は正に地獄! 狭い中、大の男が六人くんずほぐれつ凄惨に絡み合う!
「え〜い、森写歩朗! 貴様が寝る時までそんな頭巾を被っておるから、場所を食うんじゃ!」
「関係ないでしょ!」
むさい〜、死ぬ〜! そんな心地悪さで夢の中へと旅立った。
・・・・かに思わせた。誰もが寝静まった夜更けこそ、わしら爺達暗躍の場。
獲物に迫る豹の如きスリルを胸に、わしらはセティアちゃん眠るテントに忍び入る。
そう、男のロマン。夜這い!
「堪らんの、この匂い、肌触りこそが戦場よ! おう、可愛い寝顔じゃ。まさに天国」
わしらは声を立てずに笑い合った・・・・はずなのに。
セティアちゃんは目を醒ました。そして瞳に宿った憤怒の色!
「てめえら〜!」
テントの外にわしらを叩き出す彼女の髪は逆立ち、目は血走っていた。
「そんなに天国に行きたいんだったら、送ってやる! ヘブンリィライトニングでよ!」
「ちょ! セティアちゃん、そんなの喰らったら、わしらマジでヘブンに行っちゃう!」
「問答無用!」
上空から熾烈な稲妻が走り、わしらは吹っ飛ばされた。
「畜生、無駄な魔力食っちまったぜ・・・・」
テントに戻るセティアちゃん。それと入れ替わるように、男達が顔を出した。
「何だ、この音は? じーさん達がまた何かやらかしたか?」
大地に転がるわしらに呆れながらヴァインが言うと、セイクリッドが言葉を継いだ。
「老人達が夢の跡・・・・か。これで静かに広々と眠れるな」
奴らは嬉しそうにテントに戻る。こら、助けんかい。寒いよ〜、痛いよ〜。
大きなくしゃみを一つ。一夜あのまま過ごしたせいか、風邪を引いてしまったようじゃ。
「風が身に染みるんじゃ、セティアちゃん、あっためて〜」
「てめえの頭の中は常春だろうが。我慢しやがれ」
そんな時、わしらの間にピリッと辛い緊張が走った。
魔法で索敵していたカメ爺がトロルの気配を嗅ぎ取ったのじゃ! どうやら鼻が利くのは女に対してだけではない模様。
大きな足音鳴らし、木々を薙ぎ倒し現れたトロル! 決戦の時じゃ!
「現れたな、化け物! アンナちゃんを返せ! さもなくば!」
わしは先陣切って飛び出した! 長年修行を積んだ棒術を披露する時!
流星のように美しく落ちたわしの棒がトロルの顔面を殴打、ブチ倒す!
「じーさん、強え!」
ヴァインは声を上げるが、当然じゃ。お前達とでは積み重ねてきたもんが違うわい。アンナちゃん、わしの勇躍見てくれたじゃろうか〜?
しかし。
「危ない、ハンス老!」
おう? 森写歩朗の声に間一髪わしはトロルの攻撃をかわす!
「トロルは火の攻撃以外すぐに治癒してしまうんです!」
「何故それを先に言わん?」
「勝手に飛び出していっちゃうから!」
援護に飛び出そうとする森写歩朗を何故かセイクリッドは止めた。
「ご老体には、このまま盾になって貰おう。老い先短いからな・・・・派手に弔うためにも」
え〜! わし一人でどうしろと?
「よし、じーさんが敵を引きつけている間に攻撃だ!」
と火矢を放つのはヴァイン。ちょ、当たる、わしにも当たっちゃう!
「仕方ないのう、そろそろ助けてやるかのう」
カメ爺と森写歩朗のゴーレムがのっしのっしと近づいてきて、トロルに組み付いた。じゃが、それだけじゃった。ゴーレムはすっかりトロルに覆い隠したので、返って攻撃し難くなってしまいおった。
「だから言っただろう? ゴーレムなど当てにするなと。邪魔なだけだ」
セイクリッドが言うのも尤もじゃ。
仕方ないと、二人はゴーレムを引かせる。
むさいトロルに組み付かれて頭に来たのじゃろう、トロルは前にも増して暴れだした。
そのトロルの動きを封じたのは、セティアちゃんの魔法。トロルは縛られたように動かなくなる。最初からこうすればよかったんじゃ。さらにセティアちゃんはバーニングソードの魔法をセイクリッドと森写歩朗の武器にかける。
炎纏いし剣線浴びせ、セイクリッドはトロルの腹を裂くと、森写歩朗も負けじと胸を切り刻む。ヴァインの奴は相変わらず火矢で地道に間接を狙い撃ち。
爺達は魔法でしつこく攻撃を繰り返す。
タフとはいえ、相手は一匹。トロルが力尽き、倒れるまでさほどの時間も掛からんかった。
わしの愛と勇気の勝利じゃ。
早速わしは愛しのアンナちゃんを探す。
気まずそうに口を挟んだのはセティアちゃんじゃった。
「言い忘れてたけど、実はな〜、アンナは嫁ぐために村に帰ってきただけなんだ」
「何〜!」
「昔からの許婚らしくてな。そもそもおかしいだろ? トロルに生け贄なんてさ」
「全てはじーさんの勘違いだったわけか」とヴァイン。
「まあ、当然だな」とセイクリッド。
「馬鹿じゃ馬鹿じゃ!」と大笑いの爺二人。
ぱお。
意味不明の叫び声とともにわしの意識は途絶えた。
「大丈夫か、ジジイ!」
目を開くと、そこにはセティアちゃんの顔。
「わしにはやっぱりセティアちゃんだけじゃあ!」
接吻しようとするわしの顔面にめり込んだ鉄拳。
「永遠に眠ってろ、ジジイ!」
ああ、この痛みすら癖になりそう。