少女の目線 冒険者の姿
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■ショートシナリオ
担当:HIRO
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:4
参加人数:8人
サポート参加人数:7人
冒険期間:02月07日〜02月12日
リプレイ公開日:2007年02月14日
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●オープニング
わたしは行かなくちゃ。お父さんは大丈夫だと言ってたけど、わたしがお母さんのところに行かなくちゃ駄目なんだ。お母さんの傍にいなきゃ。
お母さんは去年、紅く染まった木の葉が落ちてきた頃に体の具合が悪くなった。だからお母さんは故郷の村に帰って体を休めるんだって。体のぐあいが好くなるまで、わたしたちはお母さんと離れて暮らすんだって、お父さんは言った。
どうしてお母さんと一緒に暮らせないの? って聞いたら、お父さんはお仕事があるから、ここを離れるわけにはいかないって。お母さんはすぐに好くなるから、お婆ちゃんもいるから信じて待っていようって。
それから毎日毎日待った。でもお母さんは帰ってこない。もうずっと待ってるのにお母さんは帰ってこないの。
「リィナ、本当にそんなに心配しなくていいんだよ。お母さんはちょっと働きすぎて、体調をほんの少し崩しちゃっただけなんだから。長引いてるのは、この機会に溜まった疲れをすっかり癒してもらおう、そう決めたからなんだよ。お母さんに今、無理して帰ってきてもらっても、またすぐに気分が悪くなってしまう。そしたら、またお母さんはいなくなっちゃうんだ。そんなの嫌だろう? だからもう少し辛抱しよう」
お父さんは口癖のように言うけど、お母さんが帰ってこないのは、ご病気がすごく悪くなっているからなんだわ。
だからわたしは決めたの。お母さんに会いに行こうって。
お父さんはあるお屋敷にお勤めしていて、昼間はいない。お父さんがいない間、お庭で育てているお野菜を育てるのがわたしのお仕事。わたしの面倒は隣のマーサおばさんが見てくれる。でもいつもってわけじゃないわ。わたしが大人しくしているか、たまに様子を見に来るだけ。だからいつでも抜け出すチャンスはあるの。
わたしは鞄に一生懸命育てたお野菜を詰めた。これを食べれば、お母さん、すぐに好くなるわ。
あっと、わたしがお母さんの村まで行く道で食べるものも入れておかないと。パン一つで大丈夫よね。
さて、これで用意はできたわ。後はおばさんに見つからないように家を出なきゃ。
「あら、リィナちゃん、今日はどこへお出かけ?」
家を出たところの道で仲良しのお姉ちゃんに出会った。お姉ちゃんはギルドとかいうところで働いている。
「お母さんに会いに行くのよ」
「お母さんって・・・・故郷の村へ帰っているのでしょう?」
「うん。お野菜を届けに行くの。お父さんたちには内緒よ」
すると、お姉ちゃんは、わたしがひとりで行くのは危ないから駄目だって言うの。
でもここまで用意したんだもの、止めるわけにはいかないわ。お姉ちゃんにはそう告げた。すると、お姉ちゃんは困ったような顔でこう言うの。
「じゃあ、私が何とかリィナちゃんと一緒に行ってくれる人を探してみるから。その人達と行くの。いい?」
「ひとりだと寂しいから、別にいいよ」
そう答えたけど、その人達ってどんな人なんだろう? いい人なのかな。
●リプレイ本文
街から出てすぐのところで、わたしに話しかけてくるお兄ちゃん達がいた。
「こんにちわ。お母さんの所に行くんだって?」
とシャノン・カスール(eb7700)さん。色白で細身の綺麗な人。
隣にいたのはイスラフィル・レイナード(eb9639)のお兄ちゃん。目が鋭くて、そっけない感じの人。お名前が長いから、イースお兄ちゃんと呼ぶわ。
レット・バトラー(eb6621)のお兄ちゃんは、髪の毛が火みたいに真っ赤。連れている犬が可愛かった。その犬とじゃれながら、しばらく野道を進んでいると、また違う人達が向こうからやって来た。
レイン・ホウクト(ec0201)さんという人と、ジノーヴィー・ブラックウッド(ea5652)というお名前の白い髪をしたお父さんと同じくらいの歳の人だ。ジノおじさんと呼んだら失礼かな。彼はにこにこ笑いながら、ロバに乗るかどうか聞いてきた。わたしはまだ疲れてなかったから、ていちょうにお断りした。
「よ、その子がリィナお嬢ちゃんでげすか?」
後ろから声を掛けてきた人は、どことなく怖い感じの人。お名前はコウロ・ゲーリス(ec0340)さん。その後ろには雲のように大きな人が山のように立っていた。お名前をノヴァ・デス・ガイス(ec1054)さんといった。
今日は不思議。色んな人と会う。それも耳の尖った人が多い。
「こら、ガキんちょよ、どうしてロバに乗らねえんだ?」
ノヴァさんが乱暴な感じで言ったの。怖そうな人でも、外見で判断しちゃ駄目。案外いい人って事もあるのですから。お母さんの受け売りだけど。
「ガキんちょじゃないわ。リィナよ。それに疲れてないから、乗らないと皆に言ったわ」
「道は長えんだ。疲れ切って泣かれちゃ鬱陶しいからな」
ノヴァさんは大きな手でわたしを子猫のように捕まえて肩に乗せた。わたしは下ろしてと声を上げたけど、彼は言った。
「人もロバも歩き続けりゃ疲れる。皆が疲れれば、お前さんは歩かにゃならん。今のうちに休んどけ」
わたしとお母さんのお見舞いに行きたい人はこれで全部なのかな。そう思った時に、ずっと前のほうを歩いている太ったオジさんがいた。前を歩いているから、わたしの真似をしているわけじゃないと思うけど、さっきからずっとわたし達と一緒の方角を歩いている。何だろう、怪しいな。
夜になる。どうやら今日はここでお泊りするみたい。大きな木以外何もないところだけど、お星様を眺めながら眠るのも素敵かもしれないわ。
皆は焚き火を燃やして、その周りに集まっている。
「大丈夫ですか? 冷えませんか?」
と、ジノおじさんはわたしにも火の傍に寄るようにと声をかけてきた。
わたしは鞄からパンを取り出した。今日食べるのはこの半分。
「おいおい、それだけで足りるのかよ」
レット兄ちゃんが呆れたように言った。すると皆が一斉に袋から食べ物を取り出し、わたしにくれたの。皆は顔を見合わせて、考える事は一緒だなと笑っていた。
「私もご一緒してよろしいですかな?」
昼間ずっと前を歩いていた太ったおじちゃんだった。狭間渾平(eb2840)という難しいお名前。くたびれた上着を羽織っていて、どこか気分が優れないご様子だった。
「この近辺は獣の類もおらず、安心して休めそうです」
「問題は明日ですね。順調に行けば、黄昏時に例の森に入ります」
と、ジノおじさん。事前調査でも大した情報はなかったとか、難しいお話を真面目な顔でしていたので、わたしはとても退屈だった。
「ま、大丈夫さ。何が出ても、オレが守るから安心しろよ」
レット兄ちゃんがわたしの目をまっすぐに見て、力強く言った。
ぶらぶらお星様を見上げて散歩。そんな時、レインさんが話しかけてきた。
「お母さんの事、心配なんですね」
「うん」
「リィナさんのお父さんもきっと同じくらい心配しているでしょうね。あなたが突然いなくなってしまったから」
「大丈夫よ、わたしはしっかりしてるから」
レインさんは笑った。
「そうですね。しかし、それでも子供が一人で遠出するのは危険でしょう。今回のように誰かが手伝ってくれる事が当たり前であってはいけないし、同行してくれる人がいい人ばかりとも限りませんからね」
これからは注意しなさいってことね。うん、そうね、お父さんに心配かけたら悪い子だもんね。
次の日は歩き詰めだった。とっても疲れたので、途中でジノおじさんのロバに乗せてもらった。わたしたちは順調に進んでいるらしく、昨夜話していたようにお日様が赤く膨れる頃には森に入っていた。ジノおじさんは険しい顔つきで、辺りの様子を窺っている。
「渾平さん、何か感じますか?」
「気配などは感じられませんが・・・・」
「殺気だな」イース兄ちゃんが言った。
「ああ、殺気が旨い焼肉みたいにムンムン匂ってきやがる。気配を殺しても、これだけ殺気を出してりゃ、嫌でも気付いちまうぜ」
レット兄ちゃんが冷や汗を拭ったそのとき、ざざっと藪が割れて、何人かのおじちゃんが飛び出してきた。皆、手に剣や斧を持っている。きっと悪い人達だ。
「貴様ら、何者だ?・・・・といっても、貴様らがこの森にまつわる不吉な噂の主である事に間違いはなさそうだがな」
イース兄ちゃんがいって、脇に差していたナイフを抜いた。
喧嘩になるのだろうか。
「へへ、そうともさ。ここ最近、この森に潜んで、通りがかった奴らを片っ端から殺って、近くの沼に沈めてやった。それもこれも皆、お前らギルドの野郎を誘き出し、復讐するためさ」
悪人のうちのひとり、とっても怖い目をしたぼさぼさの髪の人が刃の先を舐めた。きっとこの人がボスだ。
「俺も元は冒険者だったのさ。まあ、血を求めて、暴れていたかっただけだがな。それが依頼中、たまたまガキ一匹誤って殺っちまっただけで、ギルドからは追放さ」
「なるほど、ただの逆恨みか」
シャノンさんは低く笑った。するとボスはすごく怒り出した。今にも飛びかかってきそうなくらいに。
「さ〜てと。ようやく派手に暴れられるのかい? ま、暴れたいだけというのは、俺もそいつと変わらんか」
肩を回しながら、大きな声でノヴァさんは言った。
「これを頭から被ってろ。じっとして動くなよ。目も塞いでな。見ていても愉快なもんじゃないし」
不思議。レットお兄ちゃんのマントに包まれると、わたしの体は見えなくなっちゃった。でも見るなと言われると、見たくなっちゃう。わたしはそっと外を覗いていた。ジノおじさんがわたしを護ってくれるかのようにすぐ傍にいる。喧嘩はもう始まっているみたい。
みんな剣をぶんぶん振り回している。当たったら、怪我しちゃいそう。
あ、危ない、レットお兄ちゃん、後ろに悪い人が!
・・・・でも大丈夫だった。
「オレの背後に近づくなよ!」
お兄ちゃんは後ろに目があるみたい、剣の柄で後ろの人のお腹を突いた。カッコいい!
「ヴオオオオ!」
ノヴァさんが雄叫びをあげながら振るった大きな剣に、悪い人は吹き飛ばされ、木に激しくぶつかった。男は血を噴出して倒れる。わたしは思わず目を瞑ってしまった。
「あまり血生臭い事は・・・・!」
レインさんはボスの攻撃を流しながら、いいかけた。悪い人の数が多すぎて、皆、必死。
「こりゃあ、やべえでげすよ」コウロさんが言う。「森の中じゃあ、火の魔法も躊躇われるし」
この危機を救ったのは、シャノンさんと渾平おじさんだった。
二人は、ノヴァさん、レットのお兄ちゃん達が攻撃を必死に食い止めている間に、魔法で敵の動きを封じたり、眠らせたり。ちょっとずつだけど、お兄ちゃん達が敵を押し始めた。
「私もまだまだ捨てたものでもありませんね」
何人も何人も眠らせて、渾平おじさんが呟いた。
「おのれえ!」
雄叫びとともに斬りかかってくるボスの剣を止めたのは、レインさん。イースのお兄ちゃんがすぐさまボスの背を取って、彼の喉元に短剣を据えた。
「ここまでだな」
その言葉通り、ここまでだった。お兄ちゃん達は悪い人達をやっつけたのだ。
悪い人達は木に縛り付けて置いていくけど、すぐに通りがかった誰かが見つけて、捕まえられるだろうってシャノンさんは言っていた。
次の日、朝早くに起きて、ちょっと歩くと、お母さんの村が見えてきた。
「リィナの自慢の野菜を食べてもらって、早く好くなるといいな」とイース兄ちゃん。
「うん」
村に入って、先に行っていたシャノンさんが戻ると、皆はそわそわし始めた。見上げた皆の顔。ちょうどお日様に当たってよく見えなかったけど、笑ってはいなかった。
「会わせる事には問題ないだろうが・・・・」
「ショックかもしれないな」
そんな声が頭の上を飛び交った。
「どうしたの? 早く行こうよ」
するとコウロさんが腰をかがめ、優しい目でわたしを見据えた。怖い人だと思ったけど、昨日の人達と比べるとやっぱり違った。
「真実を見据える覚悟があるでげすね?」
わたしは肯いた。
「そうだな、リィナはお母さんが大好きだからな。大丈夫だろ」
と、レット兄ちゃん。
「なら行こうか」
イース兄ちゃんが呟いて、わたしの手を取った。
お母さんはいた。ベッドに上半身だけ起こして、いつものように優しい笑顔でわたしを迎えてくれた。わたしはお母さんの胸に飛び込んだ。柔らかくて温かかった。
お母さんはすぐに悲しい顔をした。
「真実を・・・・」
シャノンさんが言うと、お母さんが肯いて、わたしの顔をじっと覗きこんだ。
「落ち着いて聞いてね、リィナ。お母さんね、歩けなくなっちゃったの」
お母さんは病気が悪くなったせいで、足が動かなくなったのだと言った。
でも、そんなの大した事じゃないわ。
「お母さんはお母さんだもの。わたしのお野菜食べれば、足もきっとよくなるわ」
「そうね・・・・」
お母さんはきつくきつくわたしを抱き締めた、苦しいくらいに。
「家族か・・・・側にいるだけありがたいと思う事だ、ガキんちょよ」
ノヴァさんが微かに笑っていた。