消えた盗賊団

■ショートシナリオ


担当:HIRO

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:5人

サポート参加人数:2人

冒険期間:02月13日〜02月18日

リプレイ公開日:2007年02月20日

●オープニング

 キャメロットから歩いて一日程度のところの小さな村は、ある盗賊団に悩まされていた。
 その盗賊団は最近村付近の深い森に住み着いたらしく、度々村にやってきては田畑や家屋を荒らし、村人の日常を脅かしたが、村人達もいつまでも黙ってはいなかった。
 彼らは手を取り合い、盗賊達と戦う決意を固めた。武具といっても、剣や槍のような立派なものがあるわけでもない。せいぜい畑を耕す鋤や斧、あとは僅かばかりの弓矢があるだけ。それでも、皆で力を合わせれば、きっと盗賊を撃退できるはず。
 盗賊の隠れ家となっている森に注意を向け、罠を張り、夜半も見張りを置いて、万端の準備で村人は盗賊の来襲に備えていた。
 ところが・・・・。
 それからというものの、盗賊たちは一向に姿を現さない。
 警戒しているのだろうか? 村人達は考えた。
「いや、きっとこちらを焦らしているのだろう。焦れて、我らが討って出たところを叩こうという腹に違いない。単純に数だけを考えれば、我らのほうが上なのだ。こうして守りを固めていれば、恐れることはない」
 それが村長の言葉だった。
 彼らは明けても暮れても、辛抱強く、村の防衛に全力を注いだ。こうなれば根競べだった。だが、やはり一向に盗賊どもの動く姿が見られない。偵察に一人や二人をやってもよいはずなのに、それさえも見られなかった。もはや、気配すら感じられなかった。
 これはおかしい。ある青年は言った。いくらなんでも、突如消え失せたかのように姿を現さなくなるのはあまりにも不気味だと。
 しかし、何が理由であったとしても、盗賊がいなくなったのは幸いだ。それが大方の村人の意見であり、本音でもあった。
「本当にいなくなったかどうかすら、わからないではないですか!」
 青年は主張し、自分が偵察に向かうと言い張った。
「ここのところ続いていた緊張感に村人は疲れている。もし、本当に盗賊がいずこかへと去ったならば、皆、心身ともに休まることができるだろう」
 村長は言い、青年が偵察へ向かうことを許可した。


 青年は慎重に森の奥深くへと進んでいった。いくら行っても、やはり盗賊の姿、気配さえもない。本当にこの地を去ったのだろうか? いや、そう思わせて、油断させようという腹かもしれない。
「む?」
 森をずっと西へと進むと崖にぶつかる。青年もそれは知っていた。だがそこに奇妙な洞窟がぽっかりと口を開いていたのは知らなかった。
「あれは?」
 その洞窟の前に倒れ伏す人影があった。青年は駆け寄り、倒れていた男を抱き起こした。男は盗賊のひとりで、奇妙なことにすでに事切れていた。背中に裂傷があるから、おそらくは剣か何かで斬られたのだろう。
「どういうことだ、これは? 仲間割れだろうか?」
 青年は勇気を出して洞窟の中へと足を踏み入れた。どんよりと冷たい空気が伝わってきては、死臭のような嫌な臭いが肌に纏わりついてくるようだった。
「駄目だ!」
 青年はそれ以上進むことができずに洞窟を飛び出した。
 きっとこの洞窟に何かある。盗賊はきっとその何かにやられたんだ。
 もし、その何かが村に目を向けたら。そう考えると、青年はいても立ってもいられない気分だった。

●今回の参加者

 eb3087 ローガン・カーティス(22歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb5295 日高 瑞雲(34歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb7692 クァイ・エーフォメンス(30歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 eb7721 カイト・マクミラン(36歳・♂・バード・人間・イギリス王国)
 eb8942 柊 静夜(38歳・♀・侍・人間・ジャパン)

●サポート参加者

小野 織部(ea8689)/ 若宮 天鐘(eb2156

●リプレイ本文

「森には、特に脅威となるものはないみたいね。となると、やはり問題はこの洞窟か」
 クァイ・エーフォメンス(eb7692)が腕を組んだ。村の青年に案内されて、洞窟に辿り着いた時の事。確かに異様な邪気が漂う洞窟だ。呻き声を上げるように風を吸い込んでいる。
「フム」と肯き、エルフの賢人ローガン・カーティス(eb3087)は言葉を繋いだ。「仲間割れにしても最後の一人まで殺しあう事はないだろう。洞窟の死臭からすると、何かに襲撃され全滅した可能性が高い」
「そうね。そこのところを知っておく必要はあるわね。ローガンさん」
 カイト・マクミラン(eb7721)の差し伸べる手に、ローガンは手を重ね、彼の精神集中に力を貸した。
「何か見えたらいいんだけど・・・・盗賊殺したのはだ〜れ♪」
 この場で息絶えた盗賊の身に何があったのか。パーストで過去を探ろうとする。意識があらぬ次元を超えたかのように、カイトの瞳が一瞬彷徨い虚ろになった。
「どうですか? 何か見えたのでしょうか?」
 柊静夜(eb8942)が丁寧な口調で問いかけると、カイトは意識を確かに持とうとするかのように頭を振り、
「ええ。といっても、あまり愉快な光景じゃないけど。ここで死んでいた盗賊はお仲間によって殺されたみたい」
「てぇこたぁ、やっぱ仲間割れなのか?」
 と、日高瑞雲(eb5295)。引き締まった頑強な体をしているのは、服の上からでも見て取れる。
 カイトは深い思案に暮れるように手を顎に添えた。
「とにかく同胞を殺した盗賊は洞窟の中に消えていったわ・・・・なら、後を追うしかないわね」
「暗がりは好きじゃねえが、潜ってみるしかねえか。んじゃ、そうと決まったら、行くぜえ!」
 瑞雲の男気が皆を引っ張った。


 洞窟内は思ったよりも広かったが、湿気にじんめりしていて、妙にかび臭かった。すぐに入り口は遠ざかり点となる。当然、陽射しも費え、ランタンの灯火だけを頼りとせねばならなくなった。
 ランタンを持って先頭を歩くカイトのすぐ後にクァイと静夜が続き、その後ろをローガンがもう一つランタンを携え、瑞雲が殿を務めた。
 静夜は周囲を警戒しながら、口を開いた。
「あまり深追いはせず、村と往復しながら探索するのが望ましいと考えます、休息するにも村の方が安全ですし・・・・」
「そうねえ。夜になっても最深部に辿り着かないほど深いならそうすべきかもね」
 カイトの懸念が充分に有り得そうなほど、洞窟の闇は深みを増していった。


 カイトは2つ目の分かれ道を地図に記した。あまり分岐点が多くないのは助かるが、それでも正しい道を進んでいる確証はない。ほぼ勘と・・・・低く染み入るように響いてくる水の滴る音を頼りに進んでいる。それもかろうじて聞こえるくらいだが、他に手掛かりもない。殺気も気配も感じられない。とにかくその音を追ってみるしかなかった。
「何を読んでるの?」
 コントロールした火をお供に連れ歩きながら、分厚い書物を読み耽るローガンに、クァイが尋ねた。
「マッパ・ムンディという各地の伝承などを記した書物だ。今度の一件、不鮮明なところが多い。何故洞窟は突然に口開いたのか。ここに何があるのか。いくらかなりとも、手掛かりが記されているかもしれない」
「おーおー、勤勉だねえ。見上げたモンだ」
 瑞雲が茶化す。
「ま、俺の場合、何が出てきても、厄介なモンならぶっ潰すだけだがな。簡単なこった」
「諸悪の根源を探して叩かない限り、脅威は次々と溢れてくるかもしれないわ」とクァイ。
「なら、溢れてくる分だけ、ぶっ潰すまでよ!」
「随分と豪儀だな」
ローガンは低く笑った。


深く混迷を極める闇。道はただただ続く。蝙蝠以外の生物がいる気配はなかった。このコケやカビ以外実らぬような暗色の世界に好き好んで生を育むような愚かな種はいないだろう。ましてや、盗賊を全滅させるほどの獰猛で貪欲な生物がいるとは到底考えられなかった。
「やっぱり、アンデッドかしら?」
 クァイが呟いたとき、周囲を絶えず警戒していたローガンが異変に気付き、「危ない!」と、彼女を押し出した。
 クァイの立っていた辺りの地面から、激しい水飛沫が噴出し、天井にまで達した。
「熱泉だ。触れたら、火傷じゃすまないぞ」
「マジかよ? そりゃあ、たまんねえな・・・・」
 瑞雲が愚痴っている間にも、次々に大地の裂け目から、水飛沫が上がり、湯気立たせる。息が詰まりそうになるほどだ。
「まさかとは思うが、盗賊達はこれにやられちまったんじゃねえだろうな?」
「相手は斬られておりましたので、それはないかと思いますが・・・・」と、静夜。
慎重に噴水をかわしつつ進むと、広い空洞に出た。熱湯も噴いておらず、ひんやりと肌を伝う空気が今の冒険者達には気持ちよいものに思えた。
「やれやれね。アタシ達が当てにしていた水音はあれだったのかしら?」
「そうかもしれないわね」クァイがカイトに応じた。
「それに致しましても、随分と歩きましたわね。もう日が落ちる頃でしょうか?」
 静夜が空を見上げるように上を向いたが、冷たい暗色の岩が無味に広がっているだけだった。
「う〜ん、アタシの腹時計は夕食時だって告げてるわ」とカイト。
「戻った方がよろしいのでは?」
「あの熱湯地帯を引き返すのかよ? 勘弁してくれよ」瑞雲が口を挟む。
「フム、今は行けるところまで進んでみよう。引き返しても、村に帰りつくのは明日の早朝になりかねんからな」
 ローガンの提案に異議を差し挟む者はいなかった。
 辺りに敵意がないのなら、ここらで一旦、休憩を取ろうという事になった。朝から歩き詰めで、足も疲れていたし、お腹も空いてくる頃だった。
「あ〜あ、保存食って、どうしてこんなにマズイんでしょ」
 カイトは不満そうに、それでも白い丈夫そうな歯で保存食を噛み砕いていった。
「う〜ん、贅沢は言えないけど。ジャパンの保存食はどうなの?」
 と、粗石に腰掛けるクァイが静夜に問いかける。
「どうだったでしょう? ずっと帰ってませんから、忘れてしまいましたわ」
「こっちよりは上手いわよ、たぶん。イギリス人が料理より下手なものは、愛の手ほどきだけってね」
 カイトは言いながら、食べ物を飲み下した。


「こりゃあ、盗賊達が普通に遭難した可能性も出てきたんじゃねえか?」
 瑞雲が疑うのも道理だった。まさかこんなにも洞窟が深いとは、冒険者達にとっても予想外だった。
 そんな折、小石が転がるような音が微かに聞こえた。皆の顔が険しくなる。
「来るわよ」
 カイトの声が緊迫感に震えた時、十人程度の盗賊が暗がりから姿を現した。
「やっとおでましかい!」
 瑞雲は野太い大刀を構え、盗賊を迎える。少しでも戦の場数を踏んでいたなら、瑞雲がかなりの使い手である事は見抜けたはずだ。なのに、盗賊達は怯む素振りどころか、一切の感情も面に表さず、剣を構えた。
「妙だな・・・・」ローガンが顔をしかめる。
「あちらさんもヤル気だって事だろ!」
 意気揚々と、瑞雲は打って出た! 彼の豪剣は盗賊を斬り倒す!
「へ! 他愛もねえ」
 が、瑞雲の顔色は急変した。
 彼の一撃は確かに盗賊の急所を斬ったはずだった。なのに、倒れた盗賊は何事もなかったかのように立ち上がってくる。
「どういう事だあ、こりゃあ?」
「アンデッドね・・・・」カイトが冴えない口調で言う。「盗賊が悪霊に取り殺されたのね」
「要するに盗賊の体が乗っ取られたわけ?」
とクァイは五行星符呪を燃やし、対アンデッドの結界を作成。
静夜は鞘から剣を引き抜く。抜き身の両刃はきらりと銀に煌いた。それは彼女が愛用する刀ではない。
「こんな事もあろうかと用意しておいて助かりました。両手剣なので、少々勝手が違うところが難点ですが」
 瑞雲も仕方なく、アンデッドに効く武器に持ちかえ、先陣を切って突っ込んだ。
「うおお! 喰らいやがれ!」
 今度の一撃は間違いなく敵を仕留めた。他の冒険者達も瑞雲の勢いに乗じた。
 的確に飛んだカイトの月光の矢は敵の足を止め、そこにクァイの連撃が叩き込まれる!
 静夜の鮮やかな太刀筋は花を散らすように盗賊の空虚な肉体を裂いていた。
 印を踏んだ後、パチンと鳴ったローガンの指。炎の球が飛翔し、数体の悪しき者を巻き込み弾ける。
 一体、また一体。敵は確実に減っている。
 最後の一体、瑞雲が自慢の豪快で鋭い太刀で、彼流に言うなら、ブッタ斬った。
「これで全部か?」
「村人の話ではもう少しばかり数はいそうだが」とローガン。
「奥・・・・かしらね」
 カイトが憂鬱そうに息を吐いた。


 奥には祭壇があった。おそらくはここの亡霊を祭るためのもの。ローガンはひとしきり観察した後、口を開いた。
「おそらくは、この洞窟自体に悪霊を封じていたのだろうが、盗賊が偶然か必然か、洞窟の口を開いてしまったのだろう。ここは永久に眠らせておくべきだ」
「埋めるか、もしくは立ち入れないようにすべきですね。村の方々に相談致しましょう」
 静夜が提案した時、カイトが気だるそうに肩をすくめた。
「その前にお客さんみたいね。不健康なお客さんは好みじゃないわあ」
 彼らの後ろには数人の盗賊――悪霊に肉体を奪われた死者。
「こいつらを片付けるより、洞窟の外に出る手間の方がかったるいぜ・・・・」
「同感ね」
 クァイが瑞雲の言葉に相槌を打った。


 翌朝。
 洞窟の前。村中の人が見守る中、牧師による祈祷が始まろうとしていた。古の御霊に供養を捧げようと皆が天に祈りを捧げる。その儀式には、冒険者達も立ち会っていた。
 カイトとローガンが弾く竪琴の弦が物悲しい音を紡ぐ。


寡黙なる 彷徨う魂よ 漸く時は満ちた
戒めと 苦痛溢れる記憶に 今こそ決別を

おお赦しあれ 罪深き 逝ける彼らの 行く末に
おお光あれ 唱えよ 解放の歌を 慶びを

眠れ魂等しく 昇れ 主の御許へ
汝らの罪 苦しみの業
主はお許しになられた


 クァイの歌い上げた鎮魂歌が天高く空に昇っていった。