魔法使いガディーとデビの和やか家捜し
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■ショートシナリオ
担当:HIRO
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 31 C
参加人数:4人
サポート参加人数:1人
冒険期間:02月23日〜02月26日
リプレイ公開日:2007年02月26日
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●オープニング
僕はデヴィッド・クライマン。ちょっと前に冒険者デビューした新米冒険者だ。田舎からキャメロットに出てきたばかりで、まだ戸惑う事も多いけど、まあ何とかやっている。
今のところ、叔父さん夫婦の家に居候している身だけど、この前の依頼で入ったお金もあるし、独り立ちしたいと何となく思っている。叔父さん夫婦は気を使ってくれるけど、僕の食費だって結構馬鹿にならないわけだし。苦労ばかりかけられない。
こうして食卓に座ってご飯を食べていると、ホント、ありがたい気持ちと申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
なのに、この人は・・・・。
「叔母さん、この肉おかわり」
何で人の叔父さん夫婦宅に居座ってんの・・・・? しかもお代わりまでして・・・・。
マジ人をへこませる上手いこの人、ガディーさん。何だかよくわかんないうちに絡まれ、何だかよくわかんないうちに行動を共にする羽目になった。魔法の力は底知れない。そして常識の無さも底知れない。
「え? 肉もうないの。仕方ねえなー、じゃあ野菜でいいよ。野菜持ってきて」
「うお――! ホント、厚かましいな! しかも、何ちょっと妥協したっぽい感じ出してんの?」
ガディーさんはへらへら笑いながら、
「遠慮すんなって、デビ。ほら、叔母さんも笑ってるじゃないか」
「苦笑いだよ! それに何で僕が遠慮するんだよ! ガディーさんの方だろ、遠慮するのは! もう5回くらいお代わりしてるじゃん!」
「デビ。うるさい。黙れ」
軽く切れられたー!
「全く、食事中くらい静かにできんのかね、君は」
ガディーさん、言いながら、もしゃもしゃ野菜を噛み砕く。僕はもう何かすっごいヤル気なくなって、細々と食事を続けた。ホント、どうしてこんな変な人に気に入られちゃったんだろう・・・・?
まあ、へこんでばっかいても始まらない。依頼受けるなり、家捜しするなり、なんなり行動を起こさないと。前を向いて歩けば、きっといい事がある。
カチャンとナイフが皿とかち合う音が鳴った。どうやらガディーさんがようやく食事を終えたっぽい。食べすぎで、妊婦のようにパンパンになった腹を抱えながら、彼は言った。
「最近、ロクなもん食ってねえ・・・・」
「ふお――!! 無礼にも程があるだろ、この人――!」
ガディーさんはメシを食う以外の時間は大抵部屋でぐうたらゴロゴロしている。彼に付き合っていると、こっちまで怠け者に見えてくる。
「ねえ、ガディーさん・・・・いい加減そろそろ、依頼受けるなり何なりしようよ」
「そうだなあ。いつまでもデビと一緒の臭い部屋じゃ、気も滅入るしな」
「・・・・じゃあ、依頼を受ける気はあるんだ」
「当たり前じゃないか。はっはっは。君は僕をそんなに怠惰なエルフだと思っとるのかね?」
よかった。また何だかんだとケチつけられた挙句、依頼なんて知るかーみたいな事言われるかと思ったけど、大丈夫みたいだ。
ガディーさんは言う。
「ははは、先立つものがないと、君達もこの家を出て行けないだろ?」
「ちょっと何かおかしかったよ、今――!?」
「え? 何もおかしくない、カメが仰向けで一列に並んで歩くくらい、おかしくないよ」
「だいぶ、おかしいだろ、それ!」
「何をー! カメは一回の産卵でおよそ100個の卵を産み、それを産卵期に2〜3回繰り返すんだぞー!」
「だから何だよ!?」
「自然の・・・・神秘さ!」
・・・・・・・・。
「まあ、いいや。とりあえず、依頼受けに行こうよ」
ガディーさんは険しい顔で何やらう〜んう〜ん悩みだした。こんなガディーさんの表情を見たことない。いったいどうしたんだろう? 気分でも悪くなったのだろうか? そんな感じにも見えないが。
「どうしたの、ガディーさん?」
おずおずと話しかけると、ガディーさんは真剣な顔で上を向いた。
「・・・・カメの一回での産卵数っておよそ150個くらいじゃなかったっけ?」
どうでもいいぜ!! チクショー、カメのことはー!!
結局、その日もギルドには行きませんでした。
翌日、ガディーさんが午後の紅茶を楽しんでいる頃合を見計らって、叔母さんが僕だけを廊下に呼んだ。話を聞くに、どうやら叔母さんは手頃な貸家を何件か見繕ってきてくれたのだそうだ。
「あんたもそろそろ独り立ちしないといけないだろうしねえ」
叔母さんが言った時、食卓から、「ママン、アップルパイお代わりー」とガディーさんの上機嫌な声が。叔母さんはその要求を満たしてから、再び僕の元に戻ってきて、溜息をついた。チクショー、気まずいぜ・・・・。
「デヴィッド、あの人もいつまでも、ね・・・・ここにはいたくないと思うの」
よくわかるよ。
「でも、あの人、ああいう人だから、色々と難しいと思うんだ。僕一人なら、どの家でもいいんだけど。あの人、ああいう人だから。僕に上手く説得できればいいんだけど・・・・」
僕は我ながら頼りない息を吐いた。
すると、叔母さんガッツポーズ。
「大丈夫! ギルドに頼んできたから!」
「ええ〜!? そんな事をわざわざー?」
お金もかかるのに大丈夫なのかと叔母さんに問う。
「そのくらいのお金、あんた達が来てからの食・・・・ゴホッ・・・・ゲフッ・・・・に比べれば」
ゴメンなさい・・・・。
以下、叔母さんが見つけてきた貸家の詳細。家の名前は便宜的に僕がつけました。
●オンボーロ荘
場所:貧民街近くの路地にポツリと佇む。
外観:荘などとは呼べぬアバラ家。
部屋数:ワンルーム。2ベッド。つまり居間にベッドが二つあるだけ。
内装:ボロく、汚いです。
他:漏れなく鶏小屋がついてくる。
家賃:安い。
●フツーナ・ハウス
場所:ギルドからさほど遠くもなく近くもない路地。
外観:普通の小さな一軒家。
部屋数:1リビング、1ベッドルーム。
内装:特別綺麗でもなく、汚くもなく。
他:日当たり良好
家賃:普通。
●ドンヨーリ邸
場所:市街地の裏の通り。
外観:中々立派な家だが、何故か日が差さない。
部屋数:1リビング、2ベッドルーム。
内装:中々綺麗だが、日は差さない。
他:日の差さない馬小屋がある。
家賃:安め。おトク。だが日は差さない。
●ハイソ邸
場所:市街地のいい場所。ギルドからも近し。
外観:立派な見た目。微妙に近づき難い雰囲気すらある。
部屋数:2リビング、4ベッドルーム。
内装:お洒落。微妙に汚したくない感じ。
他:庭がある。
家賃:激高。
以上の四軒。果たして、ギルドの冒険者達は魅惑のセールストークで、ガディーさんを口説き落とすことができるか!?
●リプレイ本文
●オンボーロ荘
予想以上に小汚いアバラ屋を前に僕らの顔は曇った。
「これは中を見るまでもないだろ・・・・」
ガディーさんが呟いた時、戸が開いて中からやけにテンションの高い人が姿を現した。
「ようこそ新居へ! 今日からここが二人だけのお城♪ コッコちゃん達も祝福の歌を謳っていますよっ!」
グラン・ルフェ(eb6596)さんだ。もちろん今日出逢う人々は皆冒険者だけど、それはガディーさんには内緒。それにしてもよくこんな依頼に人が集まったなと思う。冒険者にも暇な人がいるらしい。
「どうですか! 素晴らしい小屋でしょう?」
どうですかって言われても・・・・壁や天井の穴は板や紙で修復してあるのが見え見えだし、思っきし小屋とか言ってしまってるし。頑張ってくれたのはわかるけど・・・・。
あとこの家、隙間風ヒューヒュー吹いてきて寒い。
「部屋の中にいても風が感じられるって素敵ですよね? 特に春夏は涼しいですよ!」
とのグランさんのセールストークに肯くガディーさん。
「ふんふん、な〜るへそ〜! その割に家賃も激安? これは僕ら貧乏人にはお得な物件だね! ・・・・て誰が大貧民だ、コノ野郎!!」
「ヒイィ! そんな事言ってねえ!」
とグランさん。ガディーさんは今にも人を殺しそうな目で捲くし立てる。
「その長い耳に熱く煮え滾るジューシーな肉汁注ぎ込むぞ、コラァァ!!」
「怖! 予想以上に怖いぞ、この人!」
さしものグランさんもビビッたようだ。ヤバイ。この嫌な空気は僕が何とかしなければ。
僕は窓の外を見やった。
「あれ、見て! 鶏小屋があるよ!」
「え、デビの寝床?」
「何でだよ! あ、ほら、鶏もいる」
「え、ええ。せっかく小屋があるんですから。鶏のコッコ、サービスです。卵が取れるし、イザという時いいでしょ?」グランさんが言う。
「ホントだね、毎朝卵食べれるのは大きいなあ。ね、ガディーさん」
僕が振り返ると、ガディーさん、
「コッ・・・・肉・・・・いや、卵イイ」とヨダレ垂らしている。
思いっきりコッコ食べる気だ――!!
「仲の良いお二人にはワンルームが嬉しいでしょ? ホラ、ちょっと手を伸ばせば、なんでも取れるしっ!」グランさんが慌てて話題を変える。
「問題はデビがどこで寝るかだな」
「ベッドで寝るよ! 二つあるんだから!」
「それは無理だろう、臭いし。それに俺、寝相悪くて朝起きるといつも脚だけが向こうのベッドまで跨ぐからさ」
「ベッドこんなに(3メートルくらい)離れてるのにー?」
「ああ、俺、見かけより脚長いから」
「見かけよりって何だよ! 見ればわかるよ、脚の長さー!」
ここでグランさんがおずおずと口を挟んできた。
「え〜と、この会話の流れはこの部屋を気に入ったって事ですよね?」
ガディーさん、真顔で「いや、全然」
「コンチクショ――!!」
この時、グランさんは久々に泣いたという。すごくイイ笑顔で。
●フツーナ・ハウス
この家を紹介してくれるロッド・エルメロイ(eb9943)さん。ガディーさんとは違い、理性的なエルフで面倒見よく部屋を紹介してくれる。
「家の楽しみはある程度のリフォームが可能な点だな。簡素な工房の設置や、鉢植えの管理、ペットの育成など、楽しみ方は人それぞれだ。平凡且つ全ての条件が均等な、『フツーナ・ハウス』から始めるのが最適だと思う」
「ふんふん、つまり、家を形作っていくのが楽しみだと?」
しきりに相槌を打つガディーさん。
「ふむ、そういう事だな。普通と言う事は、自分で道を選び、好きな色に染め上げられるので楽しみが広がるだろう。欠点を克服しながら楽しみを見つけるのも良いが、自らの足で稼ぎ、その稼ぎの楽しみの為に使える家は、自分の帰る場所を作り出す事になり、生きる楽しさが広がるだろう。あと、ギルドまでそれ程遠くないのも嬉しい事だ。近ければその分、条件の良い依頼を人より早く見つけられる。条件の良い依頼は早い者勝ちだからな。それからこの家賃なら、君らでも直ぐに稼げるさ」
ロッドさんはひとしきりアピールし終えた後、机に手をつき、まっすぐにこちらを見据え、力強く高らかにこう話を結んだ。
「というわけで、フツーナ・ハウスをお勧めする!」
僕達は拍手して、家を出た。
ガディーさんはフウと息をついた。
「普通だったな」
「うん、普通の家で普通に正論をアピールされちゃったね。ツッコミ所すらなかったね」
「完敗だな」
「そうだね」
「・・・・次の家に行こうか」
「そうだね」
「ウフフフ」
僕らは笑い合いながら、次の家に向かった。
●ドンヨーリ邸
「シ、シフシフ!!」
部屋はどんよりしていたが、ガディーさんのテンションは一気に上がった。彼はシフールのリデト・ユリースト(ea5913)さんを掴まえ、激しく頬ずりする。
「ちょ、ガディー氏! よすであるよ! 私はそんな風に扱われて嬉しい歳ではない! もう44であるからな!」
「聞いたか、デビ! この若作りシフール、44でこんなに可愛いんだぞ! シフールは新世界の神になる!」
「新世界!? いや、その前にさり気なく失礼な事言うな――!」
リデトさんが同情的に僕の耳元に囁いた。
「あの御仁と共同生活とは、相当お人よしであるな。いっその事、ガディー氏を追い出す依頼にすれば良かったと思うであるが」
それができるほどガディーさんが弱ければ・・・・。
「ま、何はともあれ、芸人には下積み期間が必要である。スターの道もまず下積みから。『下積みの心が分からずしてスターになるなかれ(私が今作った格言)』というであるからな」
芸人!? 変に勘違いされてる?
「私はその下積み期間を過ごす場所に『ドンヨーリ邸』を推薦するである。日が差さぬなど些細な事。二人のお笑いパワーでこの家を明るくすれば無問題。キミ達にはそれが出来ると私は確信してるである!」
要らん信頼得た――!!
「ウフフ、そうだよね〜! このシフールの花園には明るい日が差すぜぇ〜!」
「花園!? シフール一人しかいねえのに?」
などという僕らのやり取りに、リデトさんはますます無用な確信を深めていった模様。
「大体こういう家はイワクがあって幽霊が住んでるとか、そういうケースが多いであるが。今の二人のやりとりを見ていれば幽霊もあきれて出て行く事間違いなし。幽霊がいなくなれば明るくなる(かもしれない)」
「だよねー」
「『だよねー』じゃないよ! そんな怖い家やだよ、僕!」
するとガディーさん。
「ハハ、馬鹿だなあ。幽霊なんて本当に出るわけないじゃないか。せいぜい壁に謎の白骨死体が埋まってる程度さ」
「余計、怖ぇえ!!」
がくがくブルブル震えていると、リデトさんがそっと耳打ちしてくる。
「この広さ、この立派さでこの値段は破格であるよ。それに絶対ベッドルームは二つある方が良いであるよ。ガディー氏と同じベッドで寝たいと思うであるか? この様子ならガディー氏も妥協するだろうし、ここで決めたらどうであるか」
とりあえず、最後の家を見てから決めよう。この家は怖すぎる。
●ハイソ邸
市街地のいい場所にある立派な邸宅だ。微妙に拒まれている感じがする。
「なれない異国故、言葉が不自由な点はお許し下さい。今日は精一杯アピールさせて頂きますわ」
僕らには勿体ないくらい礼儀正しく迎えてくれた人、九紋竜桃化(ea8553)さん。見るからに上品な人なのだが・・・・何か前が結構はだけていて、豊満な胸が目にチラつくぜ! それに興奮気味のガディーさん、
「おのれぇ! 上流っぽい雰囲気と豊満な肉体のギャップで俺達を丸め込もうという気だなー! そんな事しても俺達は、明後日背中が痒くなる時間は自分達で決める――!!」
「うおー! そんな意味わかんねえ趣旨じゃねえ! ちょっと落ち着けー!」
しかし、歴戦の猛者桃化さん、ガディーさんの支離滅裂な発言を軽く聞き流し、物腰柔らかに話を進めていく。
「このハイソ邸の立地条件は最適ですわ。ギルドに近く足を運び易いですし、日当たり等環境面も文句無しですので、過ごし易いですわ。生活空間も十分ですので、趣味を優雅に楽しむ事も出来ます。又、庭が有るのは嬉しいですわね」
「むむ、魅惑のトークでも、背中が痒くなる時間はずらさねえ・・・・」
何言ってんの、この人・・・・!
「パーティや、星を眺めてのワイン等、優雅な楽しみが出来ますわ。四季折々の景色が楽しめるのも利点ですわね。一人で暮らすのには広すぎますが、同居人が居られる場合には丁度良い家ですわ」
「決めたんだ・・・・痒くなるのは明後日だって!」
どうでもいい! どうでもいいけど、しつこい!
「家賃を稼ぐ方法は色々有りますわ。武道大会で勝ち続け巨万の富を築いている方も居りますし。又、自らの得意分野を生業に活かし、高給を得ている方も居りますわ。家賃を稼ぐのはそんなに難しくありませんわ」
「ああ、そこはデビに体張って貰おう」
「ええ〜! 背中の話は? ていうか、何かもうよくわかんねえ!」
●結論
「どの家も良い所あったけど、やっぱ普通がいいよね」
「そうだな」
日が沈まんとする頃、ガディーさんが大きな息を吐いた。
「じゃあやっぱり・・・・」
「ドンヨーリ邸だな」
「何でだー?」
「そりゃ、お前、シフールだの幽霊だの白骨死体だのシフールだの盛り沢山でお得だからさ」
お得っていうのそれ――!?
お父さんお母さん。お元気ですか? 僕はとても元気です。家も決まって何とか軌道に乗って少し自信がついたみたい。落ち込む事もあるけれど、僕この街が好きです。(デビの手紙抜粋)
部屋の空気がどんより濁った暗い部屋。ガディーさんは膝を畳んで座っていた。そして陰気にぼそりと呟く。
「・・・・シフールも幽霊も何もいねえ。ハメられた・・・・」
落ち込みっぱなしだ、僕・・・・