斗え、血代粉麗斗の為!

■ショートシナリオ


担当:本田光一

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや易

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月16日〜01月23日

リプレイ公開日:2007年01月25日

●オープニング

 冒険者ギルドには、今日も様々な依頼が寄越されてくる。
 何処の好事家が入れたのか、戦時には必要なさげな美術品や骨董品を探し出して持ってこいと言った類の依頼や、敵を屠るための助っ人という、正に命懸けの仕事まで。
 ただ、一つだけ言えることは全ての依頼が『ギルドの規定を通過した依頼である』と言うことだ。
 だから、正当に依頼を受け、特に不履行となる理由がない限りには、依頼は全て遂行されなければいけない。
 それは冒険者達の中に不文律としてある掟であり・・・・。
 同時に、誇りでもあった。

●食材を取ってきて!
「あ〜。天界人が最近『ちよこれいとう』なる物の材料を求めているそうでな」
 腕組みで考え込んでいたギルドの男が頭を掻いている。
「南の海の沖にある島に、それが結構大量に生えて有るんやけどな、実は最近その島に猿が大量発生して、材料の実を根こそぎ喰うらしいんや」
「木になっていると?」
 この季節にですかと、尋ねた人間に依頼書を軽く見渡して続ける男。
「ま、それも喰うし、収穫前でも喰うし、収穫後も味を占めて喰いに来るらしいわ。で、ここ最近出荷が増えたのに、猿に持ってかれて洒落にならんので、猿の群れを何とかして欲しいっちゅう依頼や。あ、ついでに言うとな、持って行かれたのは樽ごとで、出来たら樽も奪い返して欲しいちゅう話やで」
「‥‥何匹くらいですか?」
「確認されているんでは三十頭前後やな。あーあとな、女の子は‥‥」
 おっとと、口を紡ぐ男。
「何です?」
「いや、なんでもあらへん。ここからはこれを見たってや」
 歯切れの悪い返事を残して男は依頼書を壁に貼ると、そそくさと逃げ出すようにしてその場を離れていった。
「‥‥んーなになに? 『大量の猿が出没して困ります。特に、女性とスキンシップをしたがる猿が多く‥‥』 ‥‥これって、つまりセクハラ猿が多いと?」
「‥‥」
「‥‥」
 女性の冒険者と男性の冒険者の間で気まずい沈黙が降りた。
「あーまー猿だし?」
「猿だから」
「猿じゃないか。どうせ、飼い慣らされていた猿が野生化して、飼われていた時の記憶が残っているだけだって。な?」
「‥‥そ、そうかな?」
 微妙に空気が持ち直したかのように見えたのだが‥‥。
「ほら、よく見ろよ。被害はお尻を触ったり胸を触る位らしいぞ?」
「‥‥」
 十分すぎる位の沈黙が再びギルドに満たされた。
「さ。猿の全滅に行きますか」
「え? そういう依頼か、これ?」
「‥‥なー、ここ見てみろ。女顔した男も触られてるって話だぜ?」
「‥‥」
 また、微妙な沈黙と共に微少な囁きがギルドに満たされる。
「あー‥‥まー‥‥あれだな。うん。何とかに付ける薬はないと言うことで?」
「そだね。うん。依頼は『カカオの実』を無事に守れと言うことと、奪われた物があったら取り返してこいと」
「そうそう。そう言う話で、うん」
 色々納得しながら、取り敢えず自分の身は自分で守ろうという不文律を唱えながら港に向かう冒険者達だった。

●今回の参加者

 ea1757 アルメリア・バルディア(27歳・♀・ウィザード・エルフ・イスパニア王国)
 ea5066 フェリーナ・フェタ(24歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・ロシア王国)
 ea7641 レインフォルス・フォルナード(35歳・♂・ファイター・人間・エジプト)
 eb3445 アタナシウス・コムネノス(34歳・♂・クレリック・人間・ビザンチン帝国)
 eb4372 レヴィア・アストライア(32歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb7875 エリオス・クレイド(55歳・♂・鎧騎士・人間・メイの国)
 eb7900 結城 梢(26歳・♀・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 eb8357 クリスティン・ロドリゲス(29歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb9422 佐倉 望(25歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb9700 リアレス・アルシェル(23歳・♀・鎧騎士・エルフ・メイの国)

●リプレイ本文


●ボッチャン♪
「‥‥あ!」
 佐倉望(eb9422)が指差した方向で、水音を立てて何かが川に落っこちた。
 『チョコレート』なる天界人の伝えた菓子を問題の村で参考までに食べさせて貰っていた時の話だ。
 村人が猿除けに仕掛けていた罠に、猿が掛かったらしい。
「これが地球なら、農園の周りに高圧電流の流れる柵を設置してたんだがなぁ‥‥。ま、無いもの強請(ねだ)りしても始まらねえか」
 毒づくクリスティン・ロドリゲス(eb8357)だが、無い物は無い。
「はじめに上空から探した時は、一匹も捕まえられなかったのに‥‥こうなったら、捕まえて、皆で住処に戻るまでを徹底追跡するしか!」
 息巻く佐倉望(eb9422)は二丁十手で走り出す。他の者も、急いで
「お話を聞く限り、猿は殺さずに済む‥‥」
 アタナシウス・コムネノス(eb3445)の説明が村人に続けられようとした時だった。

 キャーーーーーーーーーーーー!!

「‥‥殺さない方向で行きたいですが、彼女達の気分‥‥いえ、皆さんの生活を守る為にはやむを得ない場合は仕方ありません」
 内心、猿に対しても祝福を祈らざるを得ないアタナシウス。
 果たして、彼が聞いた叫び声の人物は‥‥。
「確か、探しに行ってる?」
「ええ。結城さん‥‥かな?」
 ブレスセンサーで探しにと、結城梢(eb7900)がエリオス・クレイド(eb7875)と共に村を出たのは少し前。
 いきなり襲ってきたら魔法を唱えて引き離すと言う方針の梢と、基本的には槍で猿を見つけ次第急所を狙っていくと言うエリオスが組んでいるのだから、先ず大丈夫だという油断があったのかも知れない。
 島の調査の為に、空飛ぶ絨毯を持ち出してきたエリオスと一緒に、猿が何処にいるか、その調査に出たばかりだったのだ。
「美味しかったな」
 走りながら、うっとりとなるフェリーナ・フェタ(ea5066)に同意して頷くリアレス・アルシェル(eb9700)とアルメリア・バルディア(ea1757)。
「カカオ豆を使った天界人さん達の料理って、どんなのかな? と不思議に思ってたんだよね。とっても気になってー。だから、例えお猿さんでもえっちなのは良くないと思うんだよ、お仕置きだね♪」
 リアレスに至っては、自身の勘違いを棚の上に投げ捨てて、捨てたことさえ忘れている始末。恥ずかしさを敢えて猿にぶつけている嫌いもある。
 何せ、リアレスはカカオ豆から『ちょこれいとー』なる食べ物を作るイベントを『鬼は外福は内』と言いながら、炒ったカカオ豆を投げつけてオーガ種を退治して回る物だと信じていたのだ。
 話した瞬間に、場を埋めた冷たい空気でリアレスは咄嗟に明後日の話題を振ったのも、フェリーナ、アルメリアらには記憶に新しい。
「兎も角、食材は沢山有った方が良いだろうから、 全部持って行っちゃう様なお猿さんは懲らしめないといけないよね!」
 一度口にしたチョコレートの味は、小さく握り拳を造るフェリーナを見て、アタナシウスは猿へ二つの意味で同情したくなってきていた。
「食料を得ることには猿達にも言い分はあるでしょう。ですが‥‥女性を襲った上に破廉恥な行為を行うことを許すわけには行きません。ただ‥‥」
 ちらと、今回の同行者達を見るアタナシウス。
「殺さないように逆刃にする」
「‥‥」
 レインフォルス・フォルナード(ea7641)はサンソードの峰でと話をしているのだが、彼がその剣を振るえば人間より小型の生物は只では終わらないだろうし‥‥。
「話を聞く限りは、尋常な数ではないが、やれるだけやるまで。問題は、エロ猿相手に何処まで理性を維持出来るか、だな‥‥」
「‥‥」
 ふっと、鼻で笑うのは鎧騎士のレヴィア・アストライア(eb4372)。
「‥‥適度に攻撃し、巣に逃げ帰るように仕向ける方向‥‥ですよ?」
 走りながら、一応説明して置いた方が良さそうだと声を掛けるアタナシウスだった。

●黄身、踏みたもう事なかれ
「人なら食が満たされれば他の欲に走る。 猿も同じと言うことか‥‥」
 冷静な感想を述べるレヴィアだが、彼女の前に広がる光景は有る意味凄惨で、又ある意味では壮絶に‥‥なりつつあった。
「くすすす‥‥そう言えば、聞いた事があるんだよ。天界ではお猿さんの脳みそを材料にする料理があるって。これだけいっぱい居るんだもん‥‥二、三匹調理してみても良いよね‥‥」

 シャーコ。
 シャーコ。
 シャーーゴリッツ!

 レアリスが俯き加減にダガーを石で研いでいるのだが、最後にゴリッと来たのは石を削り落としたような嫌な音だった。
「うふふ」
 ゆらり、立ち上がった乙女の足下には、バターナイフに切り取られたバターの様に滑らかな切断面を覗かせる石が一つ。
「お猿さんでも、痴漢は犯罪だよ、めっ!」
 小さく頬を膨らませ、ダブルアタックで攻撃をして猿のお触りを十手で防いだ望が少し誇らしげに猿に向かって可愛く叱ってみせるのだが‥‥。

 キッキーー!

 後ろ脚。
 と、いうべきか、この場合は後ろ手というのだろうか?
 器用に片足だけで立った猿の、宙に浮かんだ足がヒラリと望のスカートに潜り込む。
「ッキャーーーーー!」
 堪らずに飛び逃げる様に後方に下がる望の横を、ライトニングサンダーボルトが飛来して猿の群れに突き刺さる。
「やりました!」
「おを!」
 梢のいう『やる』が『殺る』に聞こえた様な気もするのだが、それは女性陣の殺気‥‥いや、意気込みを身近に感じる男性陣の気のせいかも知れない。
「‥‥え゛?」
 声が裏返り、ズボンとシャツに着替えて逃げる用意も万全な梢が回れ右。

 ウッキーーーーーーーーーーー!

 サル、サル、サル。

 貴奴らは奇襲に熱中せり。
 ギルドで聞いてきた通りに、男性陣は白い目で見て素通りする猿達が、女性に対しては嫌に積極的に突進してくる。
 特に、梢はライトニングサンダーボルトという熱烈歓迎を特にお気に入りとしたのか、十重二十重とお猿さんの群れが向かう。
 その怒濤の波状猿の中で‥‥。
「こンの助平サルが! アタシの胸は、エテ公ごときが触れるほど安くねえんだよ!!」
 叫び声。
 常には明るい声が怒声と怒気を発して、右から左に木霊の様な音を残して突っ走るクリスティンの様子を見て、互いに顔を見る男二人。
「‥‥触られたんですね」
「胸‥‥」
 ホーリーフィールドを展開しながら、アナタシウスとエリオスが黙祷する。
 勿論、猿の為に。
「女性にとっては由々しき問題と聞きましたし、少し厳しいお仕置きが必要と、仕事を受けるときには考えておりました。ええ‥‥」
 笑顔で冷気を感じさせる者もそうざらには居ない。
 アルメリアの笑顔の裏にどれだけの殺意と憤怒が隠れているのか等、およそこの世の男は知り得ることはないのだろうが、ブレスセンサーで猿の気配を探りつつ、フェリーナ、梢達に遠距離攻撃の方向を教え、レヴィア、クリスティン、リアレスには隠れた位置の猿を教え‥‥。
「この猿達。普通の動物だとしても野放しにも出来ません。追い払ったとしても、他で同様の被害が出るでしょうから、手加減は致しません」
 きっぱりと、頼もしくも恐ろしい台詞が妙齢のエルフの唇から零れて、ウインドスラッシュとライトニングサンダーボルトが空気と猿を切って焦がしてと離島の静けさを打ち破っていく。
「絶対に、身は守ります‥‥ッキャーーー!!」
 堅い誓いと共に、胸を守る梢の腕が突き出され、ライトニングサンダーボルトが迫る猿の脳天に直撃!

 ウッキーー!

 ‥‥しなかった。

 矢張り、猿の尻は赤いからだろう。
 仲間の数匹がやられたライトニングサンダーボルトが来ると判断した猿が、華麗に身を翻し、三倍の速度で梢に迫る。
「だめだよ!」
 フェリーナが威嚇で投げるダーツも、既に殺意はないと見た猿はかわすこともなく、不必要に機敏さを見せて、彼女にも迫る。

 ウッキー!!

「はい、ご苦労様ですよ」
 死角から迫った猿を退けたのは、アタナシウスのホーリーフィールドだった。
「‥‥ホーリーで退治できるかと思いましたが‥‥微妙ですね」
 本能はどこまで悪意であり、敵対なのだろう。
 思考するアタナシウスを他所に、レヴィアと望が猿相手に立木の間を所狭しと駆けめぐる。
「痛い目を見ねば分からぬようだな。私の都合だが、これも依頼。悪く思うな!」
「お猿さんって、よくHな男の子のことを云うけど、本っ〜〜当に、猿何だからっ!」
 力一杯に十手を叩き付けて、気絶する猿はそのまま置いて、駆ける望達。
「ふふふふふ」
「こんのエテ公共がぁ!」
 笑顔が怖いリアレスと、八面六臂の活躍で猿を追いつめるクリスティンの二人が戦場の輪を小さく縮めていくのを、横でエリオスは基本的に忠実に槍で一頭一頭を仕留めていた手をしばし休めて頷いていた。
「滅殺、完了‥‥」
 ボソリ呟かれた不穏な台詞の通り、猿は残すところ一匹というまでに成敗されて、撤退するエテを追って一行は着かず、離れずの距離を置いて追跡を開始した。

●嗚呼、小麦粉だらけ
「そこです!」
「アー一寸、また触ったぁ!!」
「うふふふふふ−!! 猿は外ー!」
「ライトニン‥‥!」
「ちょーっとまてーーー!」
「‥‥」
「うわ、こんな所で振り回すな!」
「樽、確保っ!」
「えーい、このっつ、このっつ!」
「‥‥祝福を」
 阿鼻叫喚の地獄絵図。
 最も、それは猿にとって、だが。
 猿が確保していたのはカカオ豆の入った樽だけではなかった。村から持ち出された小麦の入った袋や、卵を入れてあった箱が飛び散り、或いは踏み抜かれ。
 何処の台所を荒らしたのかと言いたくなる程に、猿達の集落は何処かで見たことのある物が飛び散っていた。
「諸行、無常‥‥」
 誰が言ったか、呟いたのか。
 退治した猿達がその後その村に来たという話は聞かないが、もしかしたら他の集落に現れるのかも知れないし、現れないのかも知れない。
 帰りの船の上で。
 そんな不安を、収穫物と共に乗り込んだ彼らの中に呟く物が一人。
「あれが最後の猿とは思えない‥‥」
 本気で、誰もがその言葉を呪いたく、同時に頷いてしまう様な重みを持っていた。

【END】