創れ、血代粉麗斗の為!

■ショートシナリオ


担当:本田光一

対応レベル:8〜14lv

難易度:易しい

成功報酬:5 G 97 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月31日〜02月07日

リプレイ公開日:2007年02月16日

●オープニング

 冒険者ギルドには、今日も様々な依頼が寄越されてくる。
 何処の好事家が入れたのか、戦時には必要なさげな美術品や骨董品を探し出して持ってこいと言った類の依頼や、敵を屠るための助っ人という、正に命懸けの仕事まで。
 ただ、一つだけ言えることは全ての依頼が『ギルドの規定を通過した依頼である』と言うことだ。
 だから、正当に依頼を受け、特に不履行となる理由がない限りには、依頼は全て遂行されなければいけない。
 それは冒険者達の中に不文律としてある掟であり・・・・。
 同時に、誇りでもあった。

 多分。

●食材を潰して!
「イッシューカンでこのソウコいっぱいのカカオ、ゼンブツブシてクダさい」
「えー!?」
 地図を指されて覗き込めば、何だか貴族の邸程もある大きさの倉庫だ。
 冒険者ギルドで、そんなアホな依頼が出た時の冒険者達の様子は、概ね驚くか呆れるかだった。
「あ、ついでにゼンブかるくヘブンリィライトニングとかライトニングサンダーボルトで、【サッキン】カネツも♪」
「えー!?」
 ついでに仕事をしてこいと、語る男の顔色が何時になく蒼い。
 加えて言うと、なんだか口調が堅いのだ。
「どうした? そのついでの殺菌という部分で非常に顔が‥‥あれだ。変というか、デッサンが崩れていたぞ?」
 優しい冒険者が突っ込んでみると‥‥。
「トナリのソウコに、ネズミがデたってね‥‥へー」
「‥‥」
「‥‥」
 ツンドラ地帯という物を冒険者達は知っていただろうか?
 いや、知らなくても、ギルドの男の調子はずれな口調は充分に寒いのだが‥‥。
「おい、真面目に大丈夫か?」
 昨今は色々と世知辛い世の中だが、異様な状態のギルドの男に、つい親切心を発揮してしまう冒険者達。
「うふふふふーねずみが、ねずみさ、ねずみで、ねずみの、ねずみだ、ねずみに、ねずみろ、カカオ」
「‥‥誰でも良いから、訳してくれ」
 これは使い物にならないと、ギルドの男が語った依頼を翻訳して貰う冒険者達であった。

●倉庫街のネズミを倒せ!(byギルド見習い店員の翻訳より)

『港にある倉庫街に、最近巨大なネズミが出没しています。
 このネズミは、穀物を食べるばかりか、倉庫番を虐めて襲って、大変です。
 ネズミに耳を囓られると、蒼くなるんですよ。
 寝ている間に耳をガブリと‥‥。
 そらもー、痛くて化膿して、腫れて地獄の苦しみですよ。
 蒼くなるの、判って貰えるでしょ?
 だからネズミは抹殺して下さい。
 本来の仕事は、2月14日の商戦に向けて準備されたカカオ豆を粉々に潰すのに、全く人手が足りないので、その人員確保なんだぜベイベー!』

●‥‥
「‥‥ホントに、そう言ってるのか?」
「さぁ?」
 信じる者は救われるかも知れない。
 ただ、確かにギルドに張り出された依頼書には、倉庫街の巨大ネズミ退治とカカオ豆の粉砕が依頼だと、はっきり書かれている。
「‥‥鼠、嫌いなんだねぇ‥‥」
 川の向こうに行ったまま、中々帰って来ない男に『お大事に』と声を掛け、冒険者達はカカオ豆を潰す作業と、鼠退治を受けようかどうか悩むのだった。

●今回の参加者

 ea0356 レフェツィア・セヴェナ(22歳・♀・クレリック・エルフ・フランク王国)
 ea0479 サリトリア・エリシオン(37歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea7553 操 群雷(58歳・♂・ファイター・ドワーフ・華仙教大国)
 eb3445 アタナシウス・コムネノス(34歳・♂・クレリック・人間・ビザンチン帝国)
 eb4141 マイケル・クリーブランド(27歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb7875 エリオス・クレイド(55歳・♂・鎧騎士・人間・メイの国)
 eb7900 結城 梢(26歳・♀・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 eb8357 クリスティン・ロドリゲス(29歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb9700 リアレス・アルシェル(23歳・♀・鎧騎士・エルフ・メイの国)
 eb9803 朝海 咲夜(32歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

○創れ、血代粉麗斗の為!
「神よ、すべての方に祝福を」
「そこの神父様、口じゃなくて手を動かす!」
「‥‥神よ‥‥」
 アタナシウス・コムネノス(eb3445)に突っ込んで、同時にゲシガシゲシガシッツ!
 と、蹴りを入れるのはマイケル・クリーブランド(eb4141)。
 自称、『んな茶色かったり黒かったり白かったりする板っきれなんざ俺がもらえることなんて絶対にありえない』仮面だ。
「‥‥うむ。良い蹴り脚だ」
 別の意味でマイケルのことを感心しているのはサリトリア・エリシオン(ea0479)。
 彼女の居た世界では『チョコレート』と呼ばれる菓子の事は知られていない――と、言うよりは彼女が知らないだけなのかも知れないのだが――筈なのだが、気に掛かったという事情だけでカカオ豆から作られるその甘美な響きの料理について、作り方を聞き、それを参考に必要な道具も一式揃えて来たのだという。
 鍋に、しゃもじに、すり棒に、鉢に、焚き火の用意。普通、誰かに手伝って貰うだろう雑事を、サリトリアは独りで済ませてしまっていた。
「凄いですねぇ」
 そつなく終えたサリトリアに拍手しながら、結城梢(eb7900)は遠い目をしている。
「カカオ豆を潰す作業‥‥本当は、水車か何かあれば楽なんでしょうけどねえ‥‥」
 無い物は無いのだが‥‥。
「まぁ、手で潰せと言うことですので、何とかしましょう‥‥」
 と、細い腕を腕まくりで、はたと気がつく梢。
「‥‥ライトニングサンダーボルトで殺菌‥‥出来るんでしょうかねえ?」
 有る意味、韜晦している梢の横に、リアレス・アルシェル(eb9700)は何処から運び込んで来たのか巨大な石と頑丈そうなロープと滑車を持ち込んでくる。
「えっへん」
 と、なだらかな曲線しか描いてない胸を張って、リアレスは少し頼もしげだ。
 ほんの少し前まで、『だ、駄目だよーー。こんないっぱいなカカオ豆、手で潰してたら日が暮れても終わらないよー』と、悲惨を絵にして顔に貼り付けた風に真っ青だったリアレスである。
 だが、ついぞ仕事で出向いた先で見た工場の天井からつり下げられたハンマーを持ち上げ、落として鉄板の加工をしていた真似で、簡単にカカオ豆を粉砕できるんじゃないかという算段らしい。
 都合の良いことに、倉庫は吹き抜けの上に天井を支える梁は港に嵐が来ても、100人乗っても大丈夫な強度を誇っている様子だった。
「そんな滑車何処から?」
「一寸、知り合いのところで」
 梁に固定した滑車に垂らされたロープの端を、うんしょこどっこいしょと岩に結びつけたリアレスは満足げだ。
「後は〜〜カカオ豆はその袋の中に入れて、下に石じゃ心許ないから、あの鉄板を宜しくね!」
「あれ?」
 リアレスの視線が丁度交差した位置に立って、首を傾げるのはレフェツィア・セヴェナ(ea0356)。
 家事については少しばかり心得があるのだが、まさかカカオ潰しに工事現場に来るような現状が飛び出るとは思わなかったのだ。
「これ、ね‥‥」
 一応、家事だけなら出来るからと、作業を教わる気概はあったものの、力が無いのを自覚しているだけに、今回の作業を見て頭を抱えたくなるレフェツィアだったが‥‥。
「それでも、一生懸命やることに意味があるのかな! うん、きっとそう!」
 立ち直るのが早いことも、冒険者の資質なのかも知れない。彼女自身、完成品がどんな形なのか、味なのか知れずに楽しみでもあり、その好奇心こそがレフェツィアを突き動かしているのかも知れない。
「取り敢えず、やるだけのことはやるつもりですが‥‥何処まで使えるんでしょうかねえ?」
 梢も苦笑するばかりなり。
「‥‥正直鼠達に全部くれてやりたい気分だ」
 依頼主が聞いたら卒倒しそうな呪いの言葉を吐くマイケルだが、仮面に隠れた彼の表情は仲間達からも見えなくなってしまう。
「これは依頼だし、そんなことは出来ない‥‥」
 呟きはまっとうなのだが、彼の身から感じられる禍々しい気配はただ者ではない。
 恨みで人が殺せそうな勢いで、色々と情念込めてロープで岩を引き上げ、手を放して落下する岩を凝視続けている。
 岩は冒険者達の手によって上下を繰り返し、落下のたびにその自重と落下速度による破壊で真下に在るカカオ豆を踏みつぶし、磨り潰し、粉々にしていく。
「ふふふふふふふ」
 仮面の下の謎の人。
 その正体は誰もがみんな知っているマイケル仮面だが、そっとしておいてあげましょうという暗黙の了解でカカオ豆が砕かれていくのを、生温かい目で見守る冒険者達。
「妬み嫉みが篭ったカカオ豆、色惚け供よ存分に味わえーげへへへ‥‥」
「‥‥人間、あそこまで落ちたくはないというものですね」
「言っちゃうし」
 さっぱりと言ってのけるエリオス・クレイド(eb7875)に苦笑するリアレス。
 持参したランタンを隣の倉庫にあったフックに掛けて、明かりを確保して作業を終えたところだった。
 鼠をおびき寄せる餌として、保存食もばら撒いて来たところだが、成果を知る為には少し時間が掛かると様子を見に来ていたのだ。
「作業の方は?」
「やるだけのことは、終えた。後は待つだけ、だね」
 石臼に手を掛けて、自分のウォーホースに碾(ひ)かせるだけでは足りないだろうと判断したエリオスは小型の臼で自身も石で潰されたカカオ豆を更に細かく砕いていく。
『面倒だがこれも依頼だ、がんばるとするかね』
 お題目としては良いエリオスの提案だが、いざ仕事に就いている者達にとっては、単純作業が延々と続く退屈この上ない仕事だったりする。
「っく! こ、このような‥‥作業‥‥」
 朝海咲夜(eb9803)に至っては、自己存在意義との葛藤を飛び越して、軽く豆へのトラウマが刻まれそうな作業時間だったりする。
「大丈夫ですか?」
 唯一、『チョコレート』なる菓子を作ったことがあるという梢に心配されて、咲夜がはっとなって首を振る。
「い、いやなんでもない!」
 年下の少女に気遣われるなど、咲夜の自尊心が許さなかったのだ。
 それは、作業に入る前の姿を見られたことに起因する毛恥ずかしさも手伝っているのには違いないのだが、流石にその事は気付かれたくないのか、咲夜はある願いを胸にメイスを振るい続ける。
「今なら出てきても良いぞ! 鼠でも鬼でもどんと来い! 返り討ちにしてくれるっ!」
「まぁ、気合いが入ってます」
「そうかい? アレって、只の照れ隠しって奴じゃないかい?」
 いそいそと、休憩時間になって鼠除けに荷物をバックパックに隠すリアレスがお茶を飲みながら咲夜の様子を評して言うのに、鍋の様子を見ていたクリスティン・ロドリゲス(eb8357)は苦笑いである。
 咲夜は作業前には『豆を潰す』という行為そのものに何やら思うところがあったのか複雑な表情をしていた。
 彼女の故郷の慣習が原因らしいのだが、ややふさぎ込んでいた彼女も、倉庫に入った瞬間にカカオの山と手持ちのメイスを見比べて途方に暮れていたのをクリスティン達も良く覚えている。
 その瞬間のギャップが、咲夜をして気恥ずかしい様子にしているのだが、願いが通じたのか‥‥。
「鼠ネ」
 ボソリ、履き出すように呟いた操群雷(ea7553)が幽鬼の如く立ち上がる。
「我等、料理人にシテ、黒き羽虫と同ジ仇敵ヨ」
「出たのか!」
 隣の倉庫から、響く仕掛けの音。
 間違いなく、餌に飛びついたのだろう。
「行くぞ!」
「おう!」
「単純作業に嫌気がさしていたところだ!」
「あらら‥‥」
 飛び出す本音と勢いを見送って、頬を掻いていた梢も後を追うように作業の場から離れるのであった。

●鼠
「‥‥」
「これは、また‥‥」
「凄いネ‥‥」
「さ、行ってみようか?」
 ペットのプリンにも言うと、レフェツィアは手近な処に居る巨大な鼠目掛けて『コアギュレイト』で束縛する。
「よーし、先ずは一匹! ‥‥ん?」
 高速詠唱を会得していないので、鼠捕縛には役立つかなと考えていた矢先の成功だったので、思わず握った拳を小さく振り上げたところだった。
 足下に、プリンの気配が。
「‥‥っきゃーーー!! いいから、見せなくて良いから!!」
「‥‥忠狼ネ」
 群雷に言われても、レフェツィアにはそれを喜んで良いものやら、悲しんで良いものやら判断が付かない複雑な表情で。
「あー。宜しいですか?」
 アタナシウスが厳かな口調でプリンに尋ねると、主人に褒めて貰おうと頑張ったはずなのに怒られてシュンとなっていた(と、思う)フロストウルフの口から巨大なネズミが転がり落ちる。
「食材に紛れ込むことが出来るような大きさではありませんが‥‥これもより多くの、全ての方々に祝福がある為の‥‥」
「ボクは鼠はその『みんな』とは少し違うと思うけど‥‥」
「同感だ」
 アタナシウスが抑揚を込めて唱えるお題目に、レフェツィアとサリトリア、同門の神を奉じる者達から否定の意見が上がっている。
「‥‥壁の手入れでも、しておきましょう。ええ。壁の手入れを‥‥」
 本命の、カカオ豆のある倉庫と面した壁を見回る為に歩き出したアタナシウスの背中が煤けて見える。
「気をつけるね。鼠、爪と牙と唾液に良くナイ病気持ってそーアルね」
「‥‥」
「仕事終わったら手洗いするアルよ」
 言いながら、メイスで鼠を撲殺していく群雷である。
「倉庫番の皆さんが蒼い耳無しにならない為にも、ここで始末させて貰います!」
 咲夜が振りかざす『飛鳥剣』が両の手の中で閃き、切り裂かれた毛皮が床に落ちるよりも早くに『縄ひょう』で追い払ったリアレスが、横で引きつっている。
「齧りすぎーー!! いくら齧られても困らないように可愛くない旅装束と防寒着で来たって言っても、囓り過ぎーー!! 駄目だってばもーー!」
 服の裾からカジカジと元気に囓ることを止めない鼠達。まるで、そこにうら若き女性の服があるから囓るのだと、登山家が言いそうな‥‥もとい。
 異常な執着心を見せて囓り倒す鼠たち。
「はぁ? ‥‥神様有りガトーー!! 祝福ですか、祝福ですね!」
 恐らく、彼の目に映ったのは白い肌にも負けない白い物だったに違いない。
 マイケルの突拍子もない大きな声に、アタナシウスが作業の手を止めて鼠退治に戻ってくるのだが、あられもないリアレスの様子を見て回れ右。
「祝福? ‥‥ホーリー、効きそうですよ?」
 ボソリと、照れ隠しの意味を込めてかアタナシウスが揶揄するのに、首を傾げてエリオスも事件の元凶を見定めるために首を巡らせて‥‥。
「わ、私は見て!? 見ない努力をした! まぁ、食品倉庫だし地道にやるしかないか‥‥ああ、仕事だ!」
 エリオスの微妙な言葉尻を捉えてクリスティンと咲夜が怖い顔をしながらも、鼠への怒りに転嫁して再攻撃を始める。
「怪我をされた場合には仰っていただきたい‥‥」
 アタナシウスが男性陣の挽回と考えたのかどうかは定かではないが、申し出を女性陣が聞いていたのどうかも知れない倉庫の中に、打撲と、チューチューと、バテレンタインへの呪詛と独り身の雄叫びが木霊するのであった。

●完成、そして配達
「こ、この山をですか‥‥」
 作った張本人達が、辟易とした表情になる。
 倉庫の中央から端にかけて、ヤマとなったチョコレートの数々を見渡して梢は開いた口が塞がらない。
「‥‥」
「あの人、大丈夫かな?」
「倒れているようだが?」
「いえ、彼の場合は、その‥‥」
 真っ白に燃え尽きて倒れているマイケルを指して言うレフェツィアとサリトリアだが、どう言って良いのか判断に悩むアタナシウスが結んだのは‥‥。
「きっと、彼なりの祝福ですよ」
 と。
 非常に、取りようによって変化する言葉だった。
「バテレンではなく、バレンタイン‥‥」
「いーっぱい、だねっつ!」
 そうだったのかと、ようやく作業を通じてバレンタインの全容を知った咲夜と、一杯お土産にチョコレートを貰ってほくほく顔のリアレス。
 破けた服のことを考えると、全然割に合わないのだがそこはそれ。
 女の子には恥ずかしい過去と、これから身に付く食事のことは見えない、聞こえないというのが世の常なのだ。
「あ。それ、あたしが粉砕した奴だ」
「面倒でしたが‥‥粉砕って言わないで下さい。お願いですから」
 にこやかに言うクリスティンに、エリオスが儚い幻想を叩き潰されて少しめげている。
「残念なことに、流通が不完全ネ」
 これでは多少なりとも売れ残るだろうと、群雷が呟いたところで依頼主からのメッセージが届けられていた。
「なになに‥‥」
 覗き込んだサリトリアが目を丸くして、リアレス、梢、エリオスとアプト語の読める者達が手紙を読んでは固まっていく。
「一体、何が‥‥」
「起きているネ?」
 色々棚の上に上げたマイケルと群雷が尋ねると、山となって残るチョコレートを指してリアレスが引きつった。
「これ‥‥特別手当で、全部持っていってくださいですって‥‥」
「それも、仕事の一環だそうです‥‥」
 憎しみで人が殺せたら、今日のエリオスは恐獣だって殺せるかも知れない。
 震える拳を握りしめ、血の汗流して歯を食いしばる鎧騎士に、仲間達はその一瞬心が通じ合った気がしたのだった。

【END】