陸戦・砂漠の風
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■ショートシナリオ
担当:本田光一
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 56 C
参加人数:9人
サポート参加人数:1人
冒険期間:02月17日〜02月23日
リプレイ公開日:2008年03月13日
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●オープニング
●警備
「毎度っつ! メイの冒険者ギルドへようこそ〜!」
「‥‥」
ここはメイの国メイディアにある冒険者ギルド。
そして素っ頓狂な客引きに似た声を上げているのは紛れもない、このギルドの一員で、冒険者達にギルドからの依頼を斡旋する者達の一人だったりする。
元は冒険者だったと言うことで、冒険者達の思う所を察している様子ではあるが、大げさな立ち振る舞いと大きな声は何処の芸人かと一瞬考えさせられる。
「いやぁ、皆さんホント良い時に来られましたわ。実は今さっき入ったばかりのイキの良い物があるんですわ」
「‥‥」
何処の料理屋だと、喉元まで出かかった言葉を飲み込んで冒険者達は男の言う依頼を聞いてみる。
「実はでんな‥‥」
最近、街を旅して回る吟遊詩人からの報告があった砂漠のオアシスの町を防衛するという依頼だった。
吟遊詩人の話というものは、町のオアシスに関する奇妙な話で、つい最近新月の夜に砂漠のオアシスに立ち寄った者がオアシスの湖面に『謎の光』を見たというのだ。
「満月とかなら、それが浮かんでと言う話は判りますやろ? それが、新月の深夜に急に浮かんだかと思うと、ふっと消えたっちゅう話ですのや」
問題はそれだけではない。
このオアシスはメイの国にとっては砂漠を縦断する途中の補給点で、国としては政治、経済、文化‥‥更には軍事的に重要な地点ではあるのだが、位置が余りに離れた場所にある為に、常駐の国の兵士という者が存在しない、いわば空白の拠点なのだ。
「ま、ここまで言えば判ると思うんですが〜」
今回の依頼は、このオアシス近辺で行われる予定の軍の敵軍の掃討作戦という動きに合わせて、討ち漏らした兵士の逃亡先になりえるオアシスを防衛して欲しいというものである。
展開している敵の兵力から見て、凶獣を操る獣騎士や騎士だけでなく、精霊魔法使いも存在しているだろうことは想像するに固くなく、派遣を考えた時に柔軟に現場に対応出来る冒険者ギルドに白羽の矢が当てられたという話だった。
「今回の依頼については、現場は砂の砂漠やのうて荒野の砂漠ですさかい、移動用にフロートチャリオット、グライダーの貸し出しの許可は戴いておますで。グライダーやったら操縦出来る人数の半分、チャリオットは最大一台まで、ですな」
万が一、グライダーに同乗の形で精霊魔法を行使するには瞬時に魔法を用いるだけの技量が有されるだろうが、チャリオットであれば安全運転で有る程度気をつければそこまでの技量は必要ないだろうと男は付け加える。その程度の悪路だと捉えて欲しいという、比喩だそうだが‥‥。
「あ、後ついでに。先に話しました『謎の光』ですけどな。万が一、敵さんが現場を調査していたとしたら、現場の地形には詳しいという話ですさかい、地の利はないと思いまっせ?」
「‥‥」
敵がオアシス周辺を要所と捕らえて偵察を行っていた場合にはと、男は締めた。
「ま、何にせよ‥‥物騒でんな‥‥」
それが飯の種にはなるんですけどなと、寂しげに締める男だった。
●リプレイ本文
●極寒の砂漠
砂が凍てつき、空気が肌に突き刺さる。
荒野の早朝に、オアシスのある町に走る緊張感が冒険者達の神経を鋭敏に目覚めさせる。
「なんとしても、食い止めねばならぬな」
夜番から連絡を受けたシャルグ・ザーン(ea0827)がルイス・マリスカル(ea3063)と共に武器を確かめて走る。
彼らの頭上では、翼閃く白馬に跨った者達の姿が見える。
「導達ですね」
「うむ」
精霊魔法使いのエル・カルデア(eb8542)を乗せて、導蛍石(eb9949)が頭上からの援護に就き、同時に二人で敵の監視に当たることになっている。
「‥‥凶獣は見かけないな?」
「ええ、そうですね。この薄暗闇の中では、凶獣を使役するには視野が不足すると言ったところでしょうか?」
明らかに、機体にバの国章を認められるフロートチャリオットの姿は認めたのだが、予測される強敵の凶獣の姿は見あたらない。自分達、人間の視野でも薄明かりに目を慣らさない限りは視界の確保がまだ難しく、凶獣が出てくるまでには時間があると踏んだエルと導はゴーレムチャリオットに向かう。
「街の人々が苦しむ姿など、見る訳には行かない、敵は全て打ち払うぞ」
意気を上げ、グレイ・ドレイク(eb0884)も戦闘馬の上でランスを構えて敵に備えている。
依頼を受けた後、この地に起きる戦乱に眉をひそめた彼だが、戦火が絶えないからこそ自分の力が役立てばと、鐙に乗せた両足にも力が込められる。
主に哨戒任務に重きを置いていたグレイの疲労具合が一番激しいのだが、それを差し引いても冒険者達の意気は高い。
馬上から見つめる敵に闘志を漲らせながら、自身にオーラパワーとオーラエリベイションを付与し、一撃一撃の重みを増してグレイは馬の歩みを進める。
「‥‥ん?」
行く手に、何やら空気を引き裂く轟音が響き渡った。
「あちらも、であるか」
ルイスが認め、シャルグが呟いた音こそ、オアシスでの戦闘開始を伝える、精霊魔法使いの一撃だった。
「始まった様ですね」
オアシスの怪しい光源について思いを馳せたルイスは、夜襲を想定していたが故に夜番を欠かさなかったことに安堵した。
「不規則なここ数日の生活も無駄ではなかった‥‥成果、でしょうね」
女性陣に寝顔を見られ、日中に叩き起こされずに済みましたねと、一瞬だけ微笑んでルイスの瞳が闘う者へと鋭く替わる。
「村を固めて、周囲の警戒を!」
自警団の者達に、村を固めて周囲の警戒を怠らないようにと告げたルイスに数名の若者が頷いたのが見えて‥‥。
●先制一撃
「さて‥‥右の陣形は崩れました」
先制攻撃に備えてテレスコープ、フレイムエリベイションを用いていたルメリア・アドミナル(ea8594)は一翼を担う敵集団を半壊させて満足げに頷いた。
遠目にだが、全壊とはいかなかったことが悔やまれるが、それでも敵の出足を挫いたのは十分だ。
超長距離からの一撃に慌てる間こそ、人員の少ない防衛側である彼女達に必要な時間なのだから。
「移動します」
精神力を回復させることも忘れず、ルメリアが敵の動きを呼んでいる間に、シファ・ジェンマ(ec4322)はルメリアを乗せたゴーレムチャリオットを攻撃に有利な位置へと静かに移動させる。
「凶獣‥‥居ないですね?」
「そうですわね。でも‥‥」
遠目に見て、シファでは判らない敵の様子も、ルメリアだったらはっきりと判る。だからこそ、シファの質問にルメリアは自身の決意を言い聞かせるように続ける。
「全力全開、ですわ」
戦士達ならば、出来れば凶獣と出会いたくはない。勿論、肉体的な能力でルメリアも凶獣などとは出会いたくないが、距離を取ることが出来る、障害物がない荒野では出来れば現れてくれた方が嬉しかった。
と言うのが先制攻撃を掛けたルメリアの本音かも知れなかった。
「‥‥あ」
ルメリアが合図を寄越したのに、シファは直ぐに反応してチャリオットの機動を静止状態に変える。
停止していると言っていい、浮かんだだけの状態。
そのゴーレムチャリオットの上で、ルメリアの朗々と響く詠唱の声が、大地から顔を出した陽光に影となる彼女の口元から、荒野に吹く風に乗って流されていく。
「天の力、地を薙ぐ剣よ、今こそ敵を貫け‥‥」
まだ散開出来ていない敵を、最大数その攻撃範囲に納めたのを確認し、解き放たれる精霊魔法。
「ライトニングサンダーボルト」
つ、と。
伸ばされた手の先から雷光が空気をも引き裂いて奔る。
風よりも早く、天の力を地上に現出させた『かみなる力』が、地上に当たることなく一直線に敵を薙ぎ倒していく。
「あとは、精一杯戦うだけ」
チャリオットの動きから、地平線に見える土煙を敵の残存戦力の動きと認識出来たリオリート・オルロフ(ea9517)も、動向を決めたらしく、オアシスを背に、しんがりにいた位置から一気にセブンリーグブーツにより踏み出す両足に加護を受け、走る。
「争う者にも理由はあるのだろうが、巻き込まれて不利益をこうむる者がいるのだから共に自重してくれれば良いのだが‥‥そうもいかないのだろうな」
自嘲気味に言う。
己の口元が苦い笑みに歪んでいるのは、リオルート自身も闘う者の是非を問いかけているからだろう。
だが、今は荒野の中のオアシスと町を守る為に出来る限りの努力を誓い、片手に握る竜羽の剣を確かめるように登り始めた太陽の光にかざす。
「月と光‥‥と言うと思い浮かぶのは月道か、それに類する何かじゃないか‥‥」
久遠院透夜(eb3446)は新月の晩に見られた謎の光という存在に想いを馳せていたのだが、今は闘うべき時。
透夜はグライダーを駆ると、リオリートの頭上を遙かに駆け上り、陽光に目映く輝き始めた地上に、人物の立つ影を見つけて直上よりゴーレムチャリオットにその位置を知らせていく。
「‥‥」
真一文字に結ばれた唇。
作戦参加前には、自身を『ゴーレムグライダーに乗って実戦に参加する技量はまだ無い』と評していた透夜。
確かに、ゴーレムグライダーであっても一人で搭乗したまま戦闘するとなれば、その技量を求めるのは果てしなく長い時間と鍛錬が必要だろう。
だが、いま闘うのは彼女一人ではない。
「こちらだな!」
透夜の動きを見ながら、ゴーレムチャリオットの位置を把握してリオリートは攻撃の範囲に入らぬ場所へと駆け抜ける。
それは、同時に広範囲の魔法から逃れた敵を食い止める為の最後の防衛線とも言える。
「逃がしはしない!}
閃く竜羽の剣の走った後に、敵兵の鎧が粉砕された鎧留めと共に宙に舞う。
「ここから先は、行かせはしない‥‥」
既に大局では勝敗は決していると見たが、それでも、もし討ち漏らしてオアシスが汚されれば被害は甚大だ。
リオリートの剣が斬るのは敵と言うだけでなく、平穏に暮らす者達へ忍び寄る悪意もだ。
「シファ。次は?」
「‥‥グライダーの場所からだと、こちらです」
チャリオットの上で、片膝をついて転倒を防ぎながら精霊魔法の連発で費やした魔力を回復し、ルメリアが天空のグライダーを見て示す先に、ルメリアは地形を確認して僅かに位置を変更を求める。
「左に少し。丘陵の手前に向かいましょう。相手の確認は、発動前に行えば十分の距離もあります」
冷静に、距離を取って闘うことに重きを置いて指示するルメリアを背に、周囲の地形を確認しながらシファもチャリオットを急がせる。
揺れる機体を巧みに操りながら、移動を急ぐ荒野はシファの技術を嘲笑うように険しく、チャリオットの機体底が何度も激しく削られるのが判る。
「しっかり捕まっていて!」
思わず叫ぶシファ。
その声が、風に巻かれて彼女の背に押し流されていく。
「‥‥着きました!」
地上の緩やかな傾きを無視し、水平に保たれたチャリオットの上でルメリアが立ち上がる。
「上々です」
立ち上がりった彼女の視界。
それこそが丘陵を僅かに超えて敵を見渡せる位置にある。
「リオリート」
「判った!」
背後から、駆け抜ける風と共に頭上を走る透夜の声。
それが撤収を意味すると一瞬で判断して、リオリートは精霊魔法の攻撃範囲から真横に走る。
「‥‥逃がさない」
その間にも、透夜はグライダーを水平に地表まで降ろして敵の動きを攪乱する。
「ルメリアさん!」
「!!」
透夜が動きを阻み、リオリートが蹴散らした敵兵達。
その人の流れを一直線に、ルメリアの放つ精霊魔法が薙ぎ倒していく。
●帰投
「急ぎましょう」
敵兵の残存勢力を確認し、シファは皆がチャリオットに乗るのを促して急ぐ。
「自分は先に走ろう」
リオリートが途中から一気に自分の脚で大地を蹴って駆ける。
「わたくしは、このまま行きましょう」
「私も先に行こう」
ランスをゴーレムグライダーの脇に取り付けて、透夜もチャリオットから飛び出していく。
「‥‥」
先に走るリオリートの進路目掛け、一気に飛んだ透夜の目に、地表に蠢く巨大な影が。
「凶獣‥‥」
と、同時に天に閃く白亜の翼も透夜はその目に納める。
「エル、蛍石!」
「‥‥!!」
背後からの声に気がついたエルと、蛍石がペガサスの背で透夜に向き直った横を、グライダーは滑るように飛び抜ける。
「太鼓の音を聞いたのですか?!」
「いや、そうじゃない。あちらは片がついたのだ」
エルがシャルグの合図を聞いて駆けつけてくれたのかと問うのに、透夜の返した言葉。
「成る程。それではこちらもそろそろ片を付けませんとね」
エルは残った凶獣の数体に順番に精霊魔法を叩き付けていく。
その間にも、蛍石は自らが操る天馬に指示を飛ばし、自らも体躯の小柄な凶獣を選択してその動きを封じていく。
「援軍来たれり、ですね」
余裕の声を響かせながら、回避に専念していたルイスが攻撃へと転じる。
「うむ!」
ならばと、攻撃優先で敵を屠るシャルグ。
勿論、先程までも彼はその一撃の重みを生かして敵兵を削ることに重きを置いていたのだが、援軍有りの報は思いのほか、彼の見切り、気迫を常時のそれより凌駕させるのか。
「仕上げる!」
脇を締め、馬上で構えたランス諸共に戦場を駆けるシャルグ。
小型の恐獣を歯牙にも掛けず、一気に鋭きランスの切っ先を向けるのは頭上見上げるような凶獣の喉元に。
「貫くッツ!」
刹那の引きと、一瞬の腕の筋力の爆発が、シャルグのランスを凶器に変える。
「やりますね」
賞賛の声を上げながらのルイスの足下に転がるのは小型と言えどその腕に掛かれば民草など襤褸くずの如く破壊される凶獣が三体。
「危ない!」
「ん?」
真一文字に突っ込んでくるグライダーに、躱したルイスの頭があった位置を、鈍く輝く凶獣の爪が走る。
「今です」
「御!」
エルの指示に、蛍石が凶獣の動きを絡め取る。
「最後の‥‥!」
走り込んできたリオリートの剣が閃き、避けて返したルイスのスニュルティルと共に滑らかなバターを切り取るように凶獣に突き刺さっていく剣。
「今だ!」
大音声で指揮するグレイの声に、町の壁の上から放たれる矢の雨がバの兵士達に降りかかる。
「残ったのはお前だけだ!」
どうするつもりなのかと、問うよりも早くに見せた敵兵の殺意に、グレイの体は彼の思考よりも早くに反応する。
「‥‥これを、愚かと言わずにどういうべきか‥‥」
死して花実は咲かない。
だが、最後の一人となっても町への攻撃を止めなかった敵兵に、グレイは怒りと共に哀れみを持って剣を振り抜いた。
「夜明けか‥‥」
見上げると、屍の横たわる荒野に昇りきった太陽が冒険者達を目映く照らしている。
「オアシスを、守りきったのですね‥‥」
「ああ」
エルと蛍石は魔力を使い切ったお互いの健闘を無言で語り、チャリオットの進むに任せて上がる砂煙の向こうに、蒼く輝くオアシスの湖面を見て呟いた。
辺境のオアシス。
その美しき蒼の影に、冒険者達の汗があることを国中の人々は知り得ないかも知れないが。
空と、大地と、そして町の人々は決して忘れはしないだろう。
【END】