一ヶ月1G生活(2)
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■ショートシナリオ
担当:本田光一
対応レベル:8〜14lv
難易度:難しい
成功報酬:3 G 98 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月06日〜11月13日
リプレイ公開日:2006年11月14日
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●オープニング
冒険者ギルドには、今日も様々な依頼が寄越されてくる。
何処の好事家が入れたのか、戦時には必要なさげな美術品や骨董品を探し出して持ってこいと言った類の依頼や、敵を屠るための助っ人という、正に命懸けの仕事まで。
ただ、一つだけ言えることは全ての依頼が『ギルドの規定を通過した依頼である』と言うことだ。
だから、正当に依頼を受け、特に不履行となる理由がない限りには、依頼は全て遂行されなければいけない。
それは冒険者達の中に不文律としてある掟であり・・・・。
同時に、誇りでもあった。
●一ヶ月1G生活・2
「‥‥これって」
何人かの冒険者達が、冒険者ギルドの壁に貼られた阿呆な依頼を見て絶句していた。
「誰が行くんだ? (微妙に、気まずくねぇか?)」
「料理とか、狩猟とかが巧い奴だろ? (つうか、何だこの周囲危険って‥‥)」
「あ、一応報酬在るみたいだぜ? (思い切り目減りしてるけどよ)」
「家屋一ヶ月無料貸し出しは同じか‥‥。(ここだけ同じってのも腑に落ち‥‥)あ‥‥」
流し読みで見て、目と目で話し合う者。
家屋が貸し出されると見て、その真下に違う点を見て唸る者。
人それぞれの反応を産みだすきっかけとなったのは、静かな農村で村興しの企画に出された『一ヶ月の生活費全てを1Gで賄う』という勝負‥‥の、続報だった。
勝負と言うからには勝敗が存在していて、一人に与えられた資金をどれだけ効率よく残すことが出来るかが問題になっていた。
途中で使い切った時点で失格であるし、資金以外で買い物、物々交換をしても失格であるという、部分も一緒であった。
だが、一カ所だけ‥‥。
「‥‥あの依頼を受けたとして、さ‥‥村の警護も含むって、何だ?」
「ん〜? ノンビリしている場所の、村興しって話だっただろう?」
夕食を取りながら会話する冒険者達の意識が、伝承をつま弾く歌い手の声が途絶えた一瞬の静寂の中で静かに落ちていくように広がっていく。
「あのさ、依頼の‥‥連絡先。村長の名前が変わっているの、見たか?」
「‥‥っぷ! ゲホゲホゲホ‥‥」
「‥‥謎だよな‥‥」
微妙に‥‥本当に‥‥謎な問題だったが、今回主催の村は前回と同じ村の筈だ。
「まさか、な。ははははは‥‥」
ギルドマスターに話を聞きたくても、依頼主のプライバシーまでは話してくれそうにないだろう。
尋ねたい事は山積みだが、聞き出したら話が纏まらない上に良心の呵責が小さじ一杯位乗っかって来そうなので、村の都合と言う事で闇に滅する事にする冒険者達。
一ヶ月の間の居住用家屋、基本的な生活用具一式、共同の水場と浴場が設けられていて、後は全て自身の力で生き抜けと言う依頼。
薪は山で刈ってこいと言うが、伐採後なので数は少ないだろうという注釈付きだ。
山野での狩りも勿論有効だが、凶暴な猿やら熊やらに『狩られて』帰って来なくても知らないというのが大らかな田舎の村らしいと言えばらしいルールだった筈だが‥‥。
『野盗にも注意』
「‥‥」
資格は特になく、他者を妨害さえしなければ全てが許されるという、言わば生活の知恵を競い合うものらしかった依頼が、何故か、きな臭い事この上ない。
「‥‥」
「どうするよ?」
野盗はつい最近になって現れていて、その数は30は下らないそうだ。
その出現は昼夜を問わず、村の家畜や畑の収穫物、山の恵みも軒並み荒らされていると聞く。
報酬は非常に少なくなっている上に、夜盗も出る村を護りながら一ヶ月1Gで生き延びろと言われている自分達を想像して、つい匙が止まる冒険者達だった。
●リプレイ本文
●どうしようか、コレ
「しふしふ〜☆」
「れっつちゃれーんじ一ヶ月1G生活ぅ! どんどんぱふぱふー!」
「‥‥」
「‥‥」
「‥‥」
『しふしふ〜』はシフールの共通挨拶と宣言して憚らないクリスタル・ヤヴァ(ea0017)を見つめる冒険者達の目、目、目。
おまけに、フィオレンティナ・ロンロン(eb8475)が微妙にかみ合っていない合いの手を入れるものだから、視線が温度を持つのならば周囲は氷点下か氷河期かといった具合だった。
「父様、見てて! ワタシ、メイの鎧騎士の星になってみせるよ!」
「そーそー。きっとお父さんも草葉の陰から見守っててくれるよ♪」
御在命のお父さんが聞いたら、怒りで(別の意味で)昇天しそうなフィオレンティナの言葉だったりする。
「一ヶ月を1Gで暮らすのか〜うちは料理とかあまり得意じゃないから、今の内に山の中に入って果物とかを沢山採ってきて保存しておこうかな〜」
等と浮かんで踊っているクリスタルの下には、色々山で取ってきた彼女曰く『食べる事が出来る』野草で一杯だったが‥‥。
参加した六人の中で、圧倒的に有利な筈なのに、何故かそれを感じさせないのは‥‥。
「その前に‥‥」
「反則でしょ」
「シフールだし‥‥」
「‥‥教えてあげた方が良いのでしょうか‥‥」
アルフレッド・ラグナーソン(eb3526)が少し困った表情で『妙な輝き』を入れた檻を片付けながら笑う。
「しふしふは、食べる量が少ない分、こう言うとき楽だよね〜☆」
「‥‥間違えているなら、教えてあげた方が危険じゃないと思いますけれど‥‥」
結城梢(eb7900)も笑顔だが、その表情の隅には強張りも見え隠れしている。
一括りに『天界人』と呼ばれる彼女達だが、梢が元居た世界はクリスタルやアルフレッドが居た場所とは微妙に違うらしいと判っていた。
お互い、異世界に渡って来て慣れぬ事に色々難儀をしていただけに、ほんの少しでも安堵できるのは、互いにこの地が自分達が居た場所ではないという、異邦人としての共通の意識だったのかも知れない。
「私はあの依頼書を見て悟ったんです! ええ! ただならぬオーラを放つ今回の依頼書を見て、きっとこの村の人達は困っている、と参加を決意したんです!」
「‥‥」
「お父さん、大変だったんでしょうねぇ‥‥」
「同感」
梢と共に頷くアトラス・サンセット(eb4590)の目は赤く、数日間の野盗賊による襲撃に疲労の色が濃くなっている。
「まあなんだ、山賊が出たらそいつら優先つーのには了解。つーか‥‥はっきりいって邪魔だし、俺らにも村人の為にもならんしよ。これ以上睡眠時間を削られるのは性にあわねぇ!」
言って豪快な欠伸を見せるのは王風門(eb5247)だ。彼もアルフレッドやアトラス達と同じ世界からここアトランティスに来たのだという。
「昨日、村の猟師と共に猟に行って、手伝い賃代わりに安く売ってもらおう‥‥って思ったんだが、やられたぜ」
少し癖のある髪を掻きながら風門が盗賊について愚痴をこぼす。
「俺一人だと効率悪いし、土地勘も無い、加えて山賊の危険もあるんじゃ‥‥って、猟師の前衛に立っていくって約束をしたんだが、奴らが乱獲しやがってるらしい」
「‥‥それは困りましたね」
細かいことは苦手に見られそうな豪放を絵に描いた様子の風門こそが、真面目に1G生活に挑んでいる一人だったりする。
「こういうの好きだしな」
と、宣言して憚らないのも風門らしい。
彼と意気投合といかないまでも、前向きだったのはアルフレッド。
清貧を志すクレリックたる彼は、快くこの依頼を受けた上で、依頼をギルドに出した村長と先に話し、生活のルールを教えて貰っていた。
魔法で食物を出し、それを1Cで譲る事を打診したアルフレッドに、是非そのような素晴らしい見せ物は専属の契約を結んで頂いてこの村に滞在して頂きたいとまで言われ、悪い気はしなかったが神の存在を真っ向から否定されたような気もして少し悩んだものだった。
結局、何か解らない力で食事を作り出すという話は村人も同じ力を持てるならと言う話で有耶無耶の内に否定されてしまっていた。
「あ〜野盗〜♪」
近況感の欠片もないクリスタルの声が、彼ら冒険者の眠い目を開かせるには充分な音となって響く。
●盗人の理
「ムーンアロー、とー!」
「とーですか‥‥」
クリスタルのかけ声に脱力しながらアルフレッドが放つホーリーは命中した盗賊の半数を打ち倒し、残る半数は耐えたか、効果がない様子だった。
「‥‥必ずしも邪悪ではない、と言うことですか?」
それならば耳を貸すことも出来るはずと、コアギュレイトでの束縛に切り替えるクレリックの横で、アトラスは自分達の宿舎でもあった村外れの小屋を防衛線の限界と踏んで戦い続けている。
「有言不実行は私の趣味じゃありませんからね‥‥」
並の野盗なら5人や6人を同時に相手どる程度の力はあると言って、自分達の住む場所に『道楽者の商人がやって来た』という偽情報を流すことで野盗が引き寄せられるかと思ったのだが、その噂を流した事が巧くいったのかは定かではない。
「こ、来ないで下さいね」
ライトニングサンダーボルトで打ち抜かれた野盗が馬上から地面に転がり落ちるのを見て、一瞬梢が怯んだ。
「‥‥あ」
痛めた身体を庇って逃げ出す野盗の姿を見て、安堵する梢の姿は、牽制で攻撃を仕掛けていたフィオレンティナには微笑ましく、同時に自身を発憤させる材料にもなっていた。
「戦力としては頼りにならなくてもっ!」
野盗の注意を逸らすこと位は出来るからと、フェイントアタックで挑む彼女には、自身の攻撃で産まれた隙を仲間が突いてくれるということに誇らしささえ浮かぶようである。
「やるな、メイの人間も!」
負けてはいられないと、賊に挑む風門の手には二振りの日本刀が握られている。
「捕まりたくなかったら俺の一撃を受けて帰れ! 其れが嫌ならお縄に付きな!」
どちらも嫌だと言われそうな台詞を叫びながら、振り抜く刃が風を纏って敵を斬り、走る剣旋が生み出す真空の刃が離れた敵さえ引き裂いていく。
「こっちは六人なんだ、ちまちま来ないで、一度に数人ずつ、来やがれ!」
潰すのが楽だからなと風門が唇の端を上げて笑うのに、やれやれと言いたげにアトラスが振りかざす大槌が、見上げる野盗達には身に降りかかる災厄を形にしたかのように見える。
「無茶をされる方ですね。自分の怪我を厭って下さい」
ピュアリファイで浄化し、リカバーで回復させる。クレリックの面目躍如と言った形でアルフレッドが活躍する中で、アトラスも何処か笑顔で戦線に立っている。
「味のない食事や粗末な建物も気にしません」
雨露をしのげる屋根のある部屋で暮らすことが出来るという、かけがえ無い機会を奪う野盗は、彼にとっては真実、悪であり躊躇せず叩き潰せる存在だった。
「雨風に晒される心配のない建物と、白の司祭様の手による食事。冒険者になる前には、そんな幸せな場面など想像も出来ませんでしたよ‥‥それを、破壊する輩は許しはしません!」
既に食事出来るという意味だけでは破壊されているのは心の棚の上に置いて、アトラスは怒りを転嫁する先を見いだしていた。
有り難いことに、それは村にとっても共通の敵である野盗だった。
「こちらですよ。死にたくなければ引きなさい!」
大きく振り抜くハンマーが敵を吹き飛ばし、後方に行かせまいとする彼の動きは全くの手加減無しで、野盗達に死への恐怖という洗礼を降り注いでいく。
「もっと、強くなりたいなあ‥‥」
いいなぁ、アレと指さしそうな程に羨望の眼差しでアトラスを見るフィオレンティナだった。
●殲滅の、後に
「裕福な村??」
「いえ〜い!」
「私達の村の、何処がですか!?」
捕らえた野盗の一人から、村を襲った理由を聞き出した冒険者達は頭が痛くなってきた。
一人、何か判らずにはしゃいでいるのはシフールの人だけだったりする。
「一人1G出して一〇人、その上報酬に5G以上も出せる‥‥これの何処が裕福じゃないって?」
「‥‥それは、先の村長がご自身の資産を崩して準備した村興しのための資金ですよ‥‥」
今の村にそのような余裕はない。
今回の村興しの企画と資金は先の村長が残した資産を全て売却したことでようやく出来た物であった。
失踪した彼が残した資産は彼が持ち逃げした村興しの資金に比べて僅かであったのだから当然というのが村に暮らす主な者達の意見だったが、その実は村興しの企画そのものが先の村長が自腹を切っていたことだと、現在の村長、先の村長の信頼厚かった人物だけが知っていた。
「メイディアの冒険者ギルドでは誰も来てくれなかったからと、他の場所を探してみると聞いて‥‥それっきり帰ってこられなかった。仕方なく、私がその後を次いだのですが‥‥」
「街道で生き倒れていやがったさ。路銀にしちゃぁ裕福すぎる金貨に、全く手を付けずに、な‥‥」
「‥‥可哀想に」
アルフレッドが盗賊の言葉を聞いて、献身でありながらも死出の旅に発ってしまった先の村長を思い、神に祈りを捧げる。
「あたし達、それじゃぁ今度こそ先の村長さんの思われていた村興しをお手伝いしないと‥‥」
梢が袖の裾でそっと目頭を押さえていた。
保存食をと、準備を始めた彼女に付き添う形でフィオレンティナとクリスタルが続き、ようやく一ヶ月1G生活は続きを行えるようになったが‥‥。
微妙に、心の底に何かが引っかかるような重さを残し、冒険者達は村を後にするのだった。
【END】