壊して逃げろ、敵城砦

■ショートシナリオ


担当:本田光一

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月25日〜11月30日

リプレイ公開日:2006年12月03日

●オープニング

「あ〜さてっと。あんまり目立たない所でお仕事やで♪」
「目立たない?」
 吹きすさぶ風に深紅を基調とした裾の長い服装。
 非常に端から見ていて、目立つことこの上ない服に身を包んだ三十路の男。
 冒険者ギルドで料理の腕を振るう人物である。
「……えー。皆様、地図中央をご覧になったら、ここ廃墟の向こうにそびえますは、最近流行のカオスニアン風総丸太り、城砦にございま〜っす♪」
「何の宣伝だ、それは」
 つい突っ込みたくなるのは当然のことだろう。
「けっけっけ♪」
 突っ込まれても、全然反省の色がない辺り確信犯なのが良く分かる。
「んで! 今回君達に与えられた任務は、このうっとうしい建築物を地震が来なくても崩れるようにしてまうこと♪」
「要するに、破壊工作とか、粉砕計画とか、壊滅作戦とか言われる類の?」
「ま、そんなもんや」
 討ち入り前の食事とばかりに、炒め上げた飯を大皿に盛り上げる男。
「来る前に聞いた話をそのまま伝えるけどな。君達の目の前の城に関しては、ヴェ……ロキラプトル……舌噛んだ……」
 涙目になる困った人物を置いて、溜息混じりの冒険者達。
「……いいから。で?」
「ん。で、敵さんの人数自体は余り多くないんやけどな。恐獣のヴ……5体が、君らが相手せなあかん敵やて。他にも相手のカオスニアン風味な兵隊は居るらしいけれど、あんまり数えんでエエみたいやで。敵は兎も角、あの城まで行く道が、曲がりくねった一本道を外れたらヌチャヌチャのグッポングッポンな沼地状態で、その辺が今回の最大の難関なんやて……まぁ、今回の城砦は破壊しても怒られへんのやさかい。多少の苦難はヘでもないわ〜」
 ふっふっふと笑う男が微妙に怖い。
「……沼地を迂回してみるのは?」
「あ〜ま〜それも言うたけどな。それやってたら多分敵に見つかって仲間を呼ばれるんがオチ臭いわ。結構、ヌチャヌチャな場所は広いみたいやで? おまけに、この城砦の向こうには更に敵さんかも〜って感じで、まぁ取り敢えず頑張って目の前の城砦を破壊して、敵に囲まれる前に逃げて来いっていうお仕事やって」
 一本道を突っ切ると、もれなく敵に見つかって攻撃は受けるものの、最短の道程はそれしか無いらしい。
「ま、先ずは城砦破壊、。思い切りブッ潰そうか!」
 晴れ晴れとした表情で言う。
 破壊や破壊やお祭りや〜と言う辺りが、最近色々溜まっているんだねぇと、煤けた背中を見せている男に寄せられた視線だった。
「あ、そうそう。全力疾走したら、もれなくヌチャヌチャやと思うで」
 振り返って言う男の言葉通り、確かに城砦に続く道は曲がりくねって沼の中を走って見えたのだった。

●今回の参加者

 ea0827 シャルグ・ザーン(52歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 ea3063 ルイス・マリスカル(39歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea3446 ローシュ・フラーム(58歳・♂・ファイター・ドワーフ・ノルマン王国)
 ea3892 和紗 彼方(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb0746 アルフォンス・ニカイドウ(29歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb4590 アトラス・サンセット(34歳・♂・鎧騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb4604 青海 いさな(45歳・♀・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 eb8475 フィオレンティナ・ロンロン(29歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)

●リプレイ本文

●壊して逃げろ、敵城砦
 アルフォンス・ニカイドウ(eb0746)の顔色が優れないのは、カオスニアンとそれが操るヴェロキラプトルの驚異を知ったからだけではないかも知れない。
「‥‥どうした?」
 元来なら、自分は作る側なのだと自問自答していたローシュ・フラーム(ea3446)が自然と覗き込む形になって尋ねると、アルフォンスは胸と胃の間辺りを押さえて眼前の湿地帯を睨んでいる。
「いや、あの沼に居るアレを食べたかと思うと‥‥」
 冒険者ギルドで出た飯を『賄い』だと言うことで無料で楽しく食べたところ、確かに無料は無料なのだが、依頼を出すに当たっての下見を行った者が獲ってきたモノだと後から聞かされてしまった。
 つい今し方、生きた姿を先程見てしまい、文化の違いは恐ろしいモノだと胃袋で理解したアルフォンスだった。
「‥‥酒に合うと思うのだがの」
「‥‥さ、行くとするのである」
 ボソリと呟いたローシュの真剣な言葉に更に胃を重くしながら、気合いを入れ直している横で、シャルグ・ザーン(ea0827)がアトラス・サンセット(eb4590)と共に荷を軽くする算段を立てている。
「荷を捨てるのも、移動力を落とすのも双方危険であるからな」
 シャルグの有する戦闘馬なら、戦場で恐れを抱くことなく仲間の荷も預かって進めるだろうと言うのだが、アトラスは自分の荷は置いていくことを告げる。
「私は防御は受けではなく回避なので、少しでも身を軽くした方が良いんです。行きも最前列に居ると敵の矢を避けた結果、後の人に被害が行ってしまうかも知れませんので、私は中列か最後尾で移動したいと思っていますから」
「‥‥この地形だと、矢を避けるのにも一苦労という気がしますけれど? 距離はそれ程でもなくて助かりますが」
 ルイス・マリスカル(ea3063)が冒険者ギルドで提示された地図から突入経路と帰還の経路を確認して肩を竦めてみせる。
 砦攻略時にテント等の野営道具は不要だと、ルイスは我が身に纏う武具と僅かばかりの荷のみを残し、残る全てを愛馬に託していた。
「誰かが言っていた‥‥力こそパワーだと!! ならば、速さこそスピィイド!! 」
「‥‥ま、要は壊すだけの依頼さね。‥‥だよね?」
 ルイスが気合いを入れるのに対して、自身の言葉と想いに温度差を感じて、青海いさな(eb4604)が聞き返した瞬間に‥‥。
「疾風の名のごとく戦場を駆け、雷斬の剣もて破砕する!」
 雄叫び、と言うには声量を抑えた叫びで走り出したルイス。
「‥‥んーと、丸太造りの城砦を壊してくれば良いんだね?」
 走り出した仲間を見送って、和紗彼方(ea3892)は久しぶりの仕事にルイス同様気合いを入れていたのを削がれた形になっていた。
「ですとろーい!」
「‥‥楽しそうだよね」
 一本道を、ルイスに負けじと走り出すフィオレンティナ・ロンロン(eb8475)の背を見守る様にしていた彼方といさながようやく我に返り、後を追いかける。
 時は早朝。
 まだ日の昇りきらない薄明の刻限に、彼らは走り始めたのだった。

●砦にアタック!
「小さな事からコツコツと〜!」
 何処か楽しそうに目を剥きながら、手にした手斧を振り下ろすフィオレンティナ。走ってきた時に、湿地帯で先を走る者が跳ねた泥がホッペタに綺麗な化粧を施しているのだが、恨みや呪いや、複雑な乙女心は手斧に託して手斧を振るい続けている。
「ローシュのおじさん!」
「うむ! ‥‥そこじゃわぁぁぃっつ!」
 少し離れた位置から助走して、槌を叩き落としていくローシュの指摘に、乙女達は些か腰が引けている‥‥筈だが。
「ワタシもいつか、ローシュおじさんみたいにドでかい斧とか振りませるよーになるんだっ!」
 瞳に星を輝かせているフィオレンティナも居たりするから、世の中は不思議だ。
「動きやすい洋服に替えてブーツ履いて正解だったなぁ」
 細腕でメイスを振るい続けている彼方に並ぶ形で、到着時からハンマーの音も高らかに『スマッシュ』で破壊の限りを尽くすハーフエルフも居る。
「諸行無常、という奴であるな‥‥どっせーい!」
 叩くことが無常なのか、壊れることが無常なのかはさておき、時々城砦の城壁に顔を覗かせる敵兵に気合い一閃の『オーラショット』で――邪魔すんなコラ――と、無言でもにこやかな会話も成立する関係をカオスニアンと築きつつあるアルフォンスだったりもする。
「ふふふ。さぁ、来なさいその他の皆さん!」
 走り過ぎてハイになり、更に体力自慢の面々と並んでハンマーを振るっていたことで遂に何かを越えたアトラスも、城壁上で弓矢を構えた者、投石攻撃を使おうとする者目掛けて『ソニックブーム』を見舞っていく。
「‥‥ふふ。射程が少し長いですからね。恐獣もシャルグさんやローシュさんなら真正面から易々と粉砕できるでしょうが、予め手傷を与えておけばより確実に、しかも被害を軽減しつつ戦えるでしょうから」
「‥‥」
 何故か、アトラスの顔をまともに見たらハンマーを嘗めながら微笑んでいる姿を想像してしまう一同。
 それ程、今の彼の声は疲れ、何かに憑かれている様な気配だった。
「私は対多数戦闘なら、それなりにこなせるのですよ」
「それなり‥‥自分で言いますかね。‥‥兎も角、犬連れてきたかったんだけどさ、連れてたら後で洗うのがち〜っと骨が折れるから置いてきたけど、正解だねぇ」
 足下の汚れを見れば、いさなが溜息を漏らすのは当然かも知れない。汚れを気にはしないのだが、後の処理を考えると面倒臭くて溜息が出るのだ。
 思ったより木材が露出する部分が少なく、大斧で叩き壊す際にもローシュの指示を貰って確実性を目指すと、勢いがどうしても殺されているのがいさな自身でも判っていた。
 そして、それは彼女に鬱屈としたモノを蓄積させて、溜まったモノは吹き出す場所を求めて斧を握る力に変換されて‥‥。
「たーおーれーるぞー!」
 嫌な音を立てて、半分程に削り落とされた柱がいさなの最後の一撃で吹き飛んで折れた。
「ノォォォ、美しくなぁ〜い!」
「大変だな、貴殿も」
 バーストアタックで解体作業に勤しんでいたルイスはシャルグから遠い目で見送られて湿地に落下していく。
「ええい、ヴェロキラプトルが何するもの! 作戦を却下されても恨みはしないのがお約束! 恨みは力に、力はスピードに! スピードこそ速さにっ!」
「‥‥大変だな、相手(カオスニアン)も」
 実直に城砦破壊に力を注ぐシャルグを守る形でルイスが敵を防いでいるのだが、敵と相対しながらルイスが呟く言葉がまるで呪詛の様にシャルグには聞こえてくる。
「『飛んで目立ってキラリ光って急降下(仮称)』作戦は皆さんの反応薄かったので、まっとうに一本道を進んでいたらっ!」
「‥‥」
 鬱々したモノを力に替えて、正義と言うには程遠いかも知れない『ノーマルソード「雷斬」+1』の斬檄を叩き込んでいるのを真横で見るシャルグだが、今のルイスに怖いものは居ない様にも見えて、在る意味では頼もしくも感じられる。
「恐獣等という不条理な輩が出るのならば、我が輩も力を貸そう!」
「エエ、その時はお願いしますよ!」
 一瞬振り返るルイスの歯が白い。
 余所見をしながらも剣で受けた相手の一撃を逸らして次の攻撃に繋げる動きは手練れのそれで、シャルグも彼の力量を見て己と同等の力に納得がいく。
「では、その言葉を信じて!」
 背を任せる者がいればこそ、振るう力に寸分の迷いも曇りもなく確実に粉砕することに専念するシャルグの大槌が城壁を粉砕する。
「燃えろーよー」
 鼻歌交じりで破壊した上に火を付けて回るフィオレンティナ。
 その姿を知らない誰かが見れば‥‥。

「ママーあの人何してるのー?」
「しっ! 見ちゃいけません!」

 とか。

「おねしょしますよ。エエ。火遊びしてるとね」

 とか言われそうな姿なのだが、城砦を破壊しに来ている今の彼らには全く問題ない上に、カオスニアン達が消火作業を行う者が必要な様子で、彼ら冒険者たちへの対応が若干遅れて見える。
「あ、そこに火を付けると良いかもしんない」
「そうじゃな」
「ラジャラジャ♪」
 冒険者達の手間を埋める様にして彼方が着火ポイントを指摘して、ローシュが後押しする形で確認してフィオレンティナが喜びながら仕事する。
 非常に効率の良い破壊工作も頃合いと、一気に逃げ出す一同の殿をアトラスが買って出ていた。
「好んで殿を引き受ける趣味はないですが、これが適所適材ですからね‥‥」
「今回の依頼内容は、あくまでも『城砦壊して逃げろ』!」
 自分からは喧嘩を売らないことを宣じながら走るいさなだが、今回は彼女の言葉が誰にも頷けられるものだったらしく、むしろ避けられるものなら徹底的に避けて逃げることに専念していた。
「うむ。あれ程の巨体ならば、通常の盾は壊れてしまうが、オーラの盾なら壊されずに済むはずである」
 足止めするとなれば我が輩がと、シャルグは何時でも立ち止まれる様に後方を警戒しながら走るのだが、ヴェロキラプトルの姿は一本道を走って戻る彼らに追いつく前に、湿地に足を取られている様子だ。
「大丈夫! 私も並んで受け止めて見せよう! やはり、逃げ還って『ただいま』を言うまでが破壊工作ですよ!」
「‥‥だと良いのであるが」
 何となく、ルイスの自信満々な言葉に不安が浮かび、間が開くアルフォンス。
 彼の脳裏には、盾を構えて立ち向かい、重量の差で軽くヴェロキラプトルに跳ね飛ばされて飛んでいく姿が浮かぶのだが、それは口に出さないで墓場まで持っていくことにしようと誓っていた。
 ただでさえ不慣れな場で、無駄口を叩くことも留まることも得策ではないと判断したからだ。
「確かに体格差はあるが、あの程度なら膂力を持ってすれば‥‥いや、ここは矢張り逃げるが勝ちか?」
 ローシュもヴェロキラプトルをこれ程間近に見ることは初めてだが、彼程の背が在れば圧倒的な身長差での有利不利はないと判断できる。
 ただ、今は闘いに身を投じることよりも、目的を完遂する為にこの場から去ることを良しとしていた。
「来おったな!」
 だが、巨大なだけに足場が不利となるヴェロキラプトルより飛び降りたカオスニアンだけは、彼らに追いついてくる。
「甘いわ、その程度!」
 勢いを込めて突進してきたカオスニアンを真っ向から槌で受けたまま『パワーチャージ』で沼に落としていく。
 単独の攻撃で、しかも完全武装ではなく彼らの襲撃に対応しただけの軽装の存在など、ローシュ達の敵ではなかった。
「急げや急げっ、と!」
「お待ち!」
 全力疾走の彼方といさな。
 汚れと殿方を気にする様なお年頃でもないいさなに、兎に角逃げ足だけはと言い切る彼方は既に湿地帯を抜ける勢いだった。
 こうして、カオスニアン風城砦破壊作戦は一応の幕となったのだった。

●闘いすんで
「何とか、成ったと‥‥」
 月が雲に隠れていたことを安堵して、日が徐々に昇るのを眩しげに見るアルフォンス。
「‥‥出来れば、お湯が欲しいなぁ」
 取り敢えず、顔を洗ってさっぱりしたいと思うのはいさなだけでは無かったらしく、フィオレンティナに至っては「覗き厳禁ー!」とばかりに陰で着替え始めるのに、回れ右の男性陣。
「うむ。些か思うところもあるのだが、良い仕事をしたと思うぞ!」
 ハンドタオルで、付着した泥を拭い、磨いていたローシュの頭に陽光が反射して、キラリとルイスの歯と共に輝いたのを、冒険者達は何処か遠い目で見つめていた。