盗賊を救え
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■ショートシナリオ
担当:本田光一
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月26日〜12月01日
リプレイ公開日:2006年12月03日
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●オープニング
冒険者ギルドには、今日も様々な依頼が寄越されてくる。
何処の好事家が入れたのか、戦時には必要なさげな美術品や骨董品を探し出して持ってこいと言った類の依頼や、敵を屠るための助っ人という、正に命懸けの仕事まで。
ただ、一つだけ言えることは全ての依頼が『ギルドの規定を通過した依頼である』と言うことだ。
だから、正当に依頼を受け、特に不履行となる理由がない限りには、依頼は全て遂行されなければいけない。
それは冒険者達の中に不文律としてある掟であり・・・・。
同時に、誇りでもあった。
●盗賊を救え
「まず、誤解しないで聞いて欲しいんやけどな」
冒険者ギルドの男が頬を掻きながら続ける。
「この依頼を見て、盗賊を庇護しているとは思わんとって欲しいんや」
言って、取り出した物は一枚の羊皮紙。
走り書きで何やら書き連ねられているその羊皮紙は良いなめし具合を見てギルドの依頼を書く程度に用いられるにしては高価な物だと知れるのだが‥‥。
「この羊皮紙が怪しいと?」
冒険者の一人が早速その点に突っ込んでみる。
「あ、ちゃう、ちゃう。これはわいが使う羊皮紙を間違えてえらい怒られた‥‥放っとけっちゅーねん!」
独り呆け突っ込みを欠かさない男のサービス精神はこんな時には豪快に空回りを見せている。
「コホン。せやなくてな。盗賊を助けろと言うことは、異例で異常っちゅうか‥‥まー要するに変・な・依・頼なんや〜♪」
「‥‥」
変なのはお前だと、最後には鼻歌交じりで踊り出しそうな男に獲物で突っ込みたくなるのを頑張って耐える冒険者達。
「‥‥で? 普通は盗賊を助ける事などしない『まっとうな冒険者ギルド』が、今回何故その信義を曲げてまで依頼を出すんだ?」
「依頼されたさかいな」
するっと、冒険者の質問は素通りして依頼の書かれた羊皮紙を指さす男。
「問題なのは、この男が追われてる連中やな。イレニウス伯爵領地に近い場所でどうやら暗殺者の類に追われてるらしいんや。ステライド領でも端に当たるんで、派手に動いたら人目をひくさかい、こっちも余り大げさに捜せんのやけどな、よりによって交易都市に逃げ込んでしもうてるんで、接触は困難やな‥‥冒険者ギルドと通じてる、幾つかの商売人には話を通してるさかい、武器屋、香辛料店、パン屋には話が行ってるわ。あと、その街の盗賊関係を束ねている、所謂そっちの方面の‥‥『盗賊ギルド』と言うたら語弊があるけどな、そこにも話は通してるらしいで」
と、話の途中で溜息を一つ吐き出して続ける男。
「でもな、問題は探し出して助けなあかんのは、その街の盗賊と違うのでその話を通してある連中は本来は盗賊にとって敵側になるって言うことやな」
「追っ手は何処の手の者なんだ?」
「何処の‥‥と、聞かれたら今情報が無いだけに厳しいけどな‥‥強いて言えば、厄介な連中やと思うで。魔法を使う奴も紛れて居るみたいやという話や」
本当に判らないのだと締めた男は、最後に急ぎの用事だからと特別に行きについては船の便を準備出来ていると告げた。
「馬やお国のチャリオットよりは早く着くと思うで。隠れてる盗賊の名前は『ザルツ』や。通り名やと思うけどな、腕は確かやという話で今回の任務には符丁としてターバンに青い玉の髪留めを付けているっちゅう話やけど‥‥おーっとここで追加の情報やで! ‥‥」
奥から飛び出してきた羊皮紙を掴んで読みふける男の顔が、興奮した赤い色から青く血の気が引いて、羊皮紙よりも白くなって冒険者達の前でその笑いが凍り付いていた。
「‥‥あー‥‥どうもこの盗賊、厄介な連中を相手にしているみたいや‥‥マジでな‥‥確証は7、8割やけど敵はカオスニアンの暗殺部隊、らしいで」
「!」
背筋に氷を投げ入れられた様に、座していた椅子から飛び上がる冒険者達。
「急ぐぞ。港の南の端の桟橋だな?」
「そやけどな‥‥死なない様にな‥‥」
初めの勢いは何処へ行ったのか、冒険者達を送り出す男の顔色は真っ白になったまま、何時まで経っても血色を取り戻さなかった。
●リプレイ本文
●冒険者ギルドにて
「はーい、しつもーん」
「ほい、なんやろか?」
無天焔威(ea0073)の声に冒険者ギルドの男が振り返る。
「達成条件だけで、依頼の経緯とか依頼主とか色々と説明無いけどー」
「要るんかいな? 説明」
尋ねる焔威に、にこやかに応える男。
「つか、ザルツ何したの、暗殺部隊て? これ秘密?」
「そんな、一遍に聞かれてもなぁ〜」
はっはっはと、頭を掻き上げながら焔威を頭一つ低い位置から見上げる男。
「実は、高価な紙使ったのも依頼主が高貴な人だから、ついとか? 」
「ちゃうちゃう。『ミスって怒られた』っちゅうたけど、聞こえんかったんやな。ま、そう言うこっちゃ」
ヒラヒラと手を振って、笑う男。
「依頼受けたなら黙ってやれと思うかもだけどー説明無しに厄介事に放り込んでくれたらー……怖いよ?」
「嫌やなぁ。わいら冒険者ギルドが悪意持ってそないなコトするかいな。信用と信頼、そして確実さがモットーやで。ま、相手がヤバそうやったら言うし、この世に完全なんて言葉だけやさかい、ギルドが騙された時は謝るしかないけどな」
カラカラと笑いながら背を向ける男に、肩を竦めて見せて焔威が呟く。
「面白そーだから行くけど」
「そか? ま、宜しゅう頼みますわ。何せ依頼人は皆さん冒険者と同じ、無天はんと同じく信用のおける……。ん〜、ギルドとの付き合いの長さで言えば、もしかしたらちょっとばかり多く信用の於ける方からのたっての願いやさかいな。ザルツが何ヘマしたのかは知りまへんが、カオスニアンの暗殺部隊に狙われるんやさかい、ヤバイ仕事なのはご存じの通りですからな」
立て板に水でヘラヘラと話す男に向き直り、焔威が呟く。
「……冒険者が探していると知ったら、ザルツは逃げるか保護を求めるかは教えてね、これ重要」
最後に抑揚を置いて言う焔威に、振り返った男が細めた目で笑いながら返す。
「せやね。ザルツのコトはギルドにも情報がないから判らんけど……」
焔威を見て続ける男。
「わいなら『相手次第で保護を求め』ますわ」
笑顔で冒険者達を送り出す男だった。
●港町で
潮の香りが届く倉庫の区画を入って、通り一つ離れた場所が商品柄、船の交易に関わってそうな香辛料店へ向かったのは焔威とイェーガー・ラタイン(ea6382)だった。
「居場所を変えながら潜伏……ですか」
「追っ手のせいで、貴方の商売仲間に迷惑かかるかも。だから、急ぎでこっそりとー。ごめんね」
「いや、ですからお客さん。先程から何度も言っていますがね。うちの従業員にザルツなんて人間は居ないし、お客さんの名前を全て知っているという訳じゃないんですよ」
店の代表という男が困惑した表情で焔威に応対しているのに、イェーガーと焔威も長時間の押し問答はこれ以上は難しいと判断して、その場を離れることになった。
「それじゃ、さっきの。近日に出発する大きな船とか……隊商については聞かせて貰えるかな?」
「今日の便が出ましたから、暫くは無いですよ」
何件かの商店でも同じ様なやり取りだった。
その様子を見て焔威が興味なさげな表情でボソリと呟いた。
「カオスニアンがザルツ狙うから、街の近くに居ると厄介な事がありそうだな……」
恨まれるのはギルド員だし、と心中で呟く焔威。
「そ、そんな! 物騒な話止めて下さいよお客さん!」
混乱して騒ぎ立てる店員を残して、歩き出す焔威の後を、イェーガーが追う形でその場を離れた。
「無天さん、さっきの店員、嘘は言っていないように見えましたけど?」
「そうか?」
観察は二人ともしていたのだが、確証は得られなかった。
出来れば捜査の前に盗賊のギルドらしき場所に筋を通す為に挨拶に行きたかったイェーガーだったが、半日を費やしても場所やその構成員の姿を見つけ出すことは出来なかった。
仕方が無く、情報を聞き出す為に町の中を移動していたのだが、香辛料の店をほぼ回り終えて、残りは冒険者ギルドと繋がりのある店の残り数箇所だった。
「暗殺者の動きって、噂位でしたね」
何者かがこの町に入り込んでいるという噂が、既に情報通の中では知られている様子だった。
ただ、目的となる『ザルツ』の足取りは未だ知れず、正体不明の集団の動きも収まっていない様子で、まだ『ザルツ』が相手に捕らわれていないと言う位の予測が立つ程度だった。
「『青い玉のついたターバン』ですか……ゾマーヴィント……」
空を見上げて大きな翼に風を掴んで飛ぶ鷹の姿を眩しげに見つめても、相棒は何も返しては来なかった。
「お前達、ここに居たのか」
「バルディッシュさん?」
バルディッシュ・ドゴール(ea5243)が二人に声を掛け、彼の直ぐ後ろからスレイン・イルーザ(eb7880)と暁幻二(eb8985)が付いてきていた。
幻二の表情は暗い情念に捕らわれた笑みに満ちていて、時折彼が呟く『邪悪だ』という言葉が薄寒く感じさせる。
「一刻を争う。もしこの町に残るのなら、戦いは厳しくなりそうだ」
「?」
スレインの言葉に顔を見合わせた無天とイェーガーに歩きながら事の詳細は後でと船着き場に急がせる幻二とバルディッシュ。
「楽しみだぜ? どんな邪悪がもたらされるか、それを確かめない方はないだろう?」
「漸く、盗賊のギルドらしい場所で連中と繋ぎが取れた。そこでの話で、『ザルツ』から連絡があったらしい。奴は急ぎ町を出るので、俺達もここから逃げろと言う話だ」
彼ら冒険者に逃げるように勧めたのは、町のギルドらしき集団に所属する者達かららしい。
「カオスニアンの暗殺部隊との抗戦など……この人数ではな」
脱出は時間との勝負だと、話を付けてスレインは足早に船に飛び込んでいく。
「尾行の類はないと信じたいがな……相手がその道に長けた者なら、俺には良く分からん」
元々の逃げる算段をしていたバルディッシュだけに、バルディッシュの誘導は的確で直ぐにこの地を経つ船に乗り込むことが出来た。
「いったい、皆さんの方では何があったんですか?」
流石に全力疾走を言われ、息の切れているイェーガーに暁が肩を竦めて続ける。
「奴らの邪魔をして屈辱を与えるのが今回の目的だった。俺達が直接手を下した訳ではないが……結果が全てだからな」
肩を振るわせながら笑う幻二の姿は周囲の船員達から距離を置かれる様な姿だったが、本人は依頼の成果に満足げだった。
「何しろ、今回の保護対象たる盗賊とは敵対関係の連中がご丁寧にも俺達に逃げろとご忠告下さったんだ! 保護対象は余程不味いヘマをやらかしたに違いないぜ」
有力な情報が得られることは期待していなかっただけに、バルディッシュと共にようやく辿り着いた場所で聞かされた短い話は幻二には甘露な響きがあったらしい。
「ギルドに赴き情報を買う為に金貨を準備したのだがな。予算を考えているところで相手からこの手紙を預かってきたのだ」
懐から一枚の折り畳まれた羊皮紙を取り出して、バルディッシュがギルドでの顛末を短く話した。
●ギルドで
三人でギルドに赴いた時に、既に彼らの噂は知れ渡っていたらしく、町のあちこちで騒いでいる人間の仲間として冒険者ギルドから教えられた通りに話は付いていることが判った。
「なんでも、商人に喧嘩を売るようにして噂だけを巧く使ったらしいな、恐れ入ったぜ。お前達の機転で、奴は早々に町を出て行ってくれたらしい。俺達には有り難い話だ。ついでに、『ザルツ』からの預かり物を渡しておくから、お前達も速くこの町を出るんだな。二度と来るなよ? 厄介事は御免被るぜ。お互いに、な?」
笑いながら、愉快そうに言うギルドの男が指を鳴らすと、何処から近寄ったのか三人の周りを囲むように陰から人が現れて、退出を勧められたのだと言う。
「スレインさん?」
話を聞いたイェーガー達は、アプト語で書かれた羊皮紙をスレインに託して、彼は畳まれていたそれを静かに広げていった。
「はい。……」
周りから見られないように配慮しながら、船庫に集まった五人の中心でスレインは窓から入る微かな陽の明かりで羊皮紙を読んでいく。
「……」
暫くの間文字を見ていたスレインは、口に出して羊皮紙の内容を読み上げた。
「『先に街を出る。俺を捜していると騒いでくれた連中に感謝を。カオスニアンの目標は奴らの秘密を持ち帰った俺だ。これ以上はお前達も危険だ。直ぐにも、この町から逃げろ。調味料の男より』……だそうです」
船が出て、町が徐々に遠くなっていくのを冒険者達は見つめていた。
「ククク。カオスニアンの秘密! さぁさぁさぁ! どんな邪悪が込められているのやらなぁ!」
嘲笑に似た笑みを浮かべる幻二の横顔に、夕焼けの灯りが赤く映っていた。