【月道】見果てぬ夢を追う

■ショートシナリオ


担当:本田光一

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:9人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月15日〜12月20日

リプレイ公開日:2006年12月25日

●オープニング

●富のもたらすもの
 アトランティスで『天界』と呼ばれる現代世界には、かつて『三角貿易』と呼ばれる貿易方法があった。
 二国間で貿易のバランスが合わないときに、もう一国を加えその三国間で貿易収支を均衡させる方式である。
 『かつて』といっても、別に現在も無い訳ではない。現在は交通や輸送手段が遙かに進み、三国にとどまらない『多角貿易』という方式になっている。
 歴史上、有名なのは18世紀にみられたイギリスの綿織物、西インド諸島の原綿、西アフリカの奴隷を取り引きした三角貿易である。この貿易の結果、イギリスは莫大な富を手にし、産業革命による『世界の工場』への素地をつくった。
 ――では、アトランティスではどのような状況になっているのか?

 アトランティス西方に位置するウィルの国は、多数の月道で多くの国と繋がる貿易立国である。月道貿易は既に三国どころか多角貿易の域に達しており、それがウィルの地勢価値を高め、国力の高さを維持する原動力になっているのだ。
 ウィルの国は、その月道貿易によって非常に潤沢な財務状況にある。
 もちろんゴーレム発祥の地、ジーザム ・トルクの運営する領もその恩恵に預かっている。国が豊かなら、その分国領主が豊かなのも当然だ。
 歴史的な考察を行うのであれば、前王の善政と地勢により富の集中するウィルの国の領土であるがゆえに、ゴーレム兵器なる金食い虫が完成するに至ったとも言える。これが他の国なら、そもそも予算がつかずにゴーレム兵器そのものが発生しなかったであろう。
 あるいは、その完成と進化はもっと遅かったに違いない。
 トルク領において、近年次々と開発され実用化される新型ゴーレム兵器の様相を見ても、この実情がかいま見える。
 そのトルク領にゴーレムニスト、オーブル ・プロフィットが来落したのは、果たして偶然だったのであろうか?
 ともあれ、月道貿易関連には非常に多くの『余録』がつく事はご理解いただけるであろう。それは政務に関する外交大使のようなVIPの移動から、技術や文化の流入に至るまでと、様々だ。
 当然、冒険者ギルドにも声がかかる。
 仕事は、結構いろいろあるのだ。

●月道貿易隊商護衛
 定例の、月道関連依頼の頒布時期が来た。
 毎月この辺の時期になると、月道関連の依頼がちらほらと見えてくる。重要な任務であることが多いが、月道が月に一度しか開かない都合上、正規の兵士や騎士を送ると一ヶ月国を留守にされてしまう。故に、多数の正規兵が月道関連にかり出されることは少なく、その多くは冒険者にお鉢が回ってくるのが現状だ。
 今回の冒険者達への依頼は、隊商の護衛である。
 ウィル国内での仕事は無いに等しいが、メイに移動した後には隊商に随行して交易品の卸し等まで――荒事を含めて――を請け負う必要がある。
 つまりは、いざという時の用心棒のようなものだ。
 月道の通行料は依頼主が持ってくれるので問題はない。むしろ、不案内なメイの国での仕事の方が問題であろう。メイの国は言語が違う。ゆえにアトランティスの不思議パワーでも文字は読めないから、結局のところ道案内の看板などは結構手こずることになる。多少差があっても万国共通の宿屋の看板とは、勝手が違うのだ。
 何もなければ何もない依頼だが、何かあっても盗賊程度の襲撃で済む予定である。間違っても、噂のカオスニアンや恐獣なんかとやりあうことにはならないはずだ。
 それよりも、旅を楽しむべきだろう。

●今回の参加者

 ea0258 ロソギヌス・ジブリーノレ(32歳・♀・レンジャー・人間・エジプト)
 ea0447 クウェル・グッドウェザー(30歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea7906 ボルト・レイヴン(54歳・♂・クレリック・人間・フランク王国)
 eb2449 アン・ケヒト(27歳・♀・クレリック・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb4260 ヴィクトリア・ニカ・ウオナ(34歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4368 験持 鋼斗(26歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4372 レヴィア・アストライア(32歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb7012 神堂 麗奈(33歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb9636 アデル・モーブリッジ(28歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)

●リプレイ本文

●【月道】見果てぬ夢を追う
 月道を通り、移動するには様々な制約が発生する。
 移動は一瞬。
 だが、その一瞬を待つ間、そして一瞬を経験した後に、無駄という一言に集約される拘束時間と、手間暇が待ちかまえている。
「えーと『でぃす いず あ ぺん』『まい ねーむ いず なんしー』‥‥ってこれ、アプト語じゃないですよ」
「‥‥」
 時間との闘いに向けて、ロソギヌス・ジブリーノレ(ea0258)が個人的に切磋琢磨している間にも、戦闘馬のカルネアデスに騎乗し、クウェル・グッドウェザー(ea0447)が商隊周辺の警護に就いている。
「レンジャーの血が、新天地へ私をいざなう感じなんですよ。ああいえ、別にウイルで職にあぶれたとか、そういう話じゃなくて、ですね‥‥」
「‥‥聞こえていますから、ここまで‥‥」
 馬上でそっと目頭を押さえたくなるクウェルが目にしたのは二人の同行者達。
 友人でもあるロソギヌスが快活に笑うのを、ボルト・レイヴン(ea7906)がどう反応して良いのか判断のしようが無いという表情で苦笑している姿だった。
「その気持ちは分かりますよ‥‥」
 と、首肯しているのはアデル・モーブリッジ(eb9636)だ。
「色々ありましてね‥‥ええ‥‥」
 遠い目をして、浮かんでは消える闘技場の敗退の姿、オークションの競り負け、他にも色々思い出しただけで溜息が出てきそうな思い出の数々に、心機一転で新天地を目指す覚悟を決めたのだと振り返る。
「そう言うことで、旅を楽しもうと思います」
「成る程。其れは良いことだ。私も引っ越しがてらなので、難しい事は考えなくて良さそうなこの依頼を受けたのだ」
「‥‥?」
 女性の声がして、誰かと振り向いたアデルの視界に、模擬刀と全身タイツといった出で立ちで立つ女性が飛び込んできた。
 依頼を受ける際に、聞いた彼女の名は神堂麗奈(eb7012)。
 一緒にメイの国に移動するのだが、アン・ケヒト(eb2449)の勧めとやらでロバに荷を預けている為に、他の者に比べて非常に身軽なその姿は、健康な男性なら惹き付けられる魅力に溢れている。
 ――筈だったが。
 何故か、今回の護衛依頼に付いた男性陣は二名のみ。
 その内の二人、クウェルと験持鋼斗(eb4368)は夜半の護衛を買って出ており、麗奈の魅力的な肢体を見る機会が非常に限られている。
 裏を返せば、麗奈も反応を見て楽しめる機会が限られているという状態であった。
「‥‥ここ」
 ピッピと、アンがこめかみを指差して見せるのに、麗奈は僅かに瞬きする間で表情を改めてみせる。
「まぁ、トラブルなど無い方が良いに決まっているが‥‥」
 アンが初めに想定していたトラブルとは、また違った意味での事件が起こりそうな気配を麗奈から感じ始めていた。
 麗奈が内心では豊満な身体に自信を持っていると言うことは薄々気がついてきたアンからすると、ほんの僅かな表情の変化を見分けられる‥‥と、言うよりは、ここ数日は護衛対象の商隊の男達の目の前をこれ見よがしに歩いている時もあるので、流石に判ってしまっていた。
 だが、敢えてその辺りを黙っていて、鋼斗やクウェルという、未だに積極的に視線を独占出来ていない相手が存在していることに苛立ちを覚えるのは同じ女性として確かに‥‥ある程度‥‥恐らくは納得出来ても良いような気がしないわけではなかった。
「うん。多分」
 自分の意見に納得して頷いたアンに、商隊の男が声を掛けてきた。
「アン様、先程の話ですけれどね。到着してからなら構わないと店主も言っていましたよ」
「そうか。有り難う」
「いえいえ、滅相もないアン様達にはお世話になっていますし」
 商人特有の笑顔でアンに返す男だけでなく、アンは商隊の人間から、どういう経緯からか『様』を付けてその名を呼ばれていた。
 確かに凛と背筋を張って歩む彼女の姿は威厳があり、自然とその敬称が付いた様子だ。
 依頼人に輸送品について見せて貰えるかを打診していたアンだが、忙しい中で梱包を解くことは出来れば控えたいとの話で、到着後にはとようやく許可が出たことで、旅の終わりにも楽しみが出来たことに安堵する。
「アンは、あちらの国について興味があるのですか?」
「ああ。矢張り、新しい土地だ。そこに住まう人々の生き様‥‥とでも言うべきか‥‥人々が美しい、素晴らしいと感じる物にも地域性が大いに関連していると思うのだ」
「ふむ‥‥」
 遥かメイの国への移動とあって、緊張気味なヴィクトリア・ニカ・ウオナ(eb4260)は見張りを交代して戻ったばかりであった。
 修行の一環とはいえ、異境の地への旅は矢張り緊張する物で、自分を叱咤しているヴィクトリアから見れば、アン達の姿は非常に頼もしく映って見えたのだ。
「何にせよ、まずはこの依頼を成功させねば!」
 自身に気合いを入れる為、頷いてみせるヴィクトリア。彼女の言葉は行動にも表れており、毎日の見張り等、交代で行う際にも相談に準じる形で丁寧に時間と場所を記憶して仕事に当たっている様子は、商隊員達にも非常に受けが良かった。
 今回の依頼主は比較的安全な街道、海路を押さえてある様子で、冒険者ギルドで言われていたとおり油断をして足元を掬われない限りは無事に目的地に到着出来そうだった。

●初めての遭遇
「‥‥あれは何でしょうか?!」
「何ですか?」
 夜目が利くロソギヌスが指差す方角を、朝一番に起きてきた鋼斗とアンが目を細めてみる。
 そこでは、何かの影が動いていた。
「何だろう? 見えないな‥‥」
「いや、馬車だ」
 二人よりも、夜目の利くアンが断言したとおり、暫くすると風上の影の方角から轍を踏みしめる音が他の人間達にも聞こえてくる。
「矢張り来たか! メイに着いたかところで気を抜くと思っているのか、甘い!」
 レヴィア・アストライア(eb4372)が寝起きの髪を押さえつけながら立ち上がり、何時でも戦える準備を整える内にも影は徐々に近付いて来ている。
 レヴィアはメイに入ってからも気を抜くわけにはいかないと、力説して居ただけに、この火急の事態にも勢い込んで装備を確認する。
 だが‥‥。
「あの、ウィルの国からいらした‥‥?」
「ああ、お待ちしていましたよ」
「!?」
 直ぐ後ろから声がして、振り向いた先には彼らの依頼人が立っていた。
 彼の横には、謎の集団と依頼人の間に何時でも滑り込んで行けるように立つ鋼斗とクウェルの姿がある。
「? 大丈夫ですよ。魔法なんか使わないで下さいね。大事なお客様ですよ」
 一触即発の空気を感じ取ったのか、自ら前に出て相手が安全だと示す依頼人に毒気を抜かれる形で、皆は相手についてを再度見る機会を得た。
「‥‥下がりましょう」
「え? 何だって?」
 クウェルに言われ、鋼斗は一瞬自分の耳を疑った。
「クウェルが言うのでしたら、大丈夫でしょう」
 ロソギヌスが、恐らくクウェルが自信満々に言うのはホーリーフィールドを張ったのだと察して微笑むのだが、鋼斗にしてみれば寝耳に水の状態であった。
「そう言わないで下さい。これでも、僕達は神に仕える身ですからね」
 ボルト、アンを見ながら片目を瞑ってみせるクウェルに押される形で、依頼人と来訪者を囲むようにして待機する一同。

「‥‥暇だな」
「そうね」
 まだ納得がいかないのか、横にいるアデルについ愚痴ってしまう鋼斗。
「‥‥カオスや精霊の研究を通じて、アトランティスや地球の世界の原理が知りたいなあ‥‥」
 と、アデルに話題を振ったつもりで彼女の表情を覗き見ると、アデルは周囲を気にした様子で見て、鋼斗に直ぐに向き直る。
 彼に黙るように言い、少し困った風に続けるアデル。
「カオスの研究だなんて、普段は人前では言ってはいけませんよ。あまりおおっぴらには」
 最後だけは茶目っ気で混ぜ返すように言われ、鋼斗はそれがこの世界での禁忌に属する物だと悟るのだった。

 あまり時を置かずして、一行は目的地に到着する。
 大量の荷物を紐解き、依頼人共々その行方を見定めて、ようやく彼らは仕事の完了を感じ取る。
「ご苦労様でした。もし、また仕事がありましたら、宜しくお願いしますよ」
 にこやかに、最後の締めに依頼人から礼を言われて冒険者達は己が道を歩き出す。
 それぞれの、歩むべき道を。