プリティ・キャット捜索中!

■ショートシナリオ&プロモート


担当:鳳千輝

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月21日〜03月26日

リプレイ公開日:2008年03月27日

●オープニング

 小さな屋敷の子供部屋で、柔らかいクッションの上にちょこんと乗っかる一匹の成猫がいた。短毛種だが、真っ白な毛並みは艶やかである。
 ゆらゆらと揺れている長い尻尾の先だけが、まるで染めたように鮮やかな赤毛なのが珍しい。
 キラキラと輝く丸い大きな眼はゴールドで、それと同色の首輪をしている。
「キティ、キティ!」
 聞こえてきた声に猫はピンと耳を立てた。同時に、子供部屋に小さな女の子が飛び込んでくる。
 悠々と寛ぐ猫を見つけると女の子は思わず満遍の笑みを浮かべたが、ハッと自分が今まで何をしていたのか気が付くと、あどけない顔を精一杯厳しく見せようと眉を寄せた。
「ここにいたのね。家中探し回ったんだから!」
 ぷんぷんと怒る女の子を気にした様子も無く、猫は「にゃー」と鳴いた。
「もう…」
 気を削がれた女の子は苦笑すると、小走りで猫に近づき、その柔らかい毛に覆われている頭を撫でた。
「どこに行っちゃったのかと思ったじゃない。気が付かないうちにすぐいなくなるんだから」
 猫は洞毛をひくひくと動かし、眼を細めると咽を鳴らす。それがまるで謝っているように感じられるから不思議だった。
「あんまり心配させないでよね」
 女の子の言葉に応えるように猫は鳴いた。

 冒険者ギルドは今日も賑わいを見せていた。
 そんな人込みの中から受付にやってきた小さな女の子に、ギルドの受付係は首を傾げた。
「こんにちは、お嬢さん。今日はどのようなご用件ですか?」
 俯いていた女の子はガバッと顔を上げた。涙ぐんでいるその表情に受付係はぎょっとする。
「ど、どうしたんです。何があったんですか…」
「ね…猫が…」
「猫?」
 鼻を啜りながら女の子は悲壮な顔つきで嘆いた。
「わたしのキティが行方不明なんです!」
 わあっと泣き出した女の子を何とか宥める事に成功した受付係はさらに詳しいことを聞くことにした。
 さめざめと女の子は話し出す。
「三日前に庭でキティと遊んでて…私だけお母様に呼ばれて、少しだけキティから離れたんです。用事が終わって庭に戻ったらキティが居なくなってました」
「家の中とか隈無く探したのかな?」
「もちろん隅々まで探しました。…今までもいつのまにか居なくなることはありましたけど、何時だって必ず家の中のどこかに居たのに、こんなこと初めてで…」
 ぎゅっと自分の手を握り締めると女の子は震えだす。
「お母様はキティは賢いからすぐに戻ってくるって言ってくれました。でも今日、お母様とお父様の会話を聞いてしまったんです。……最近、飼い猫が居なくなる事件が多発してるって…。それで居ても立ってもいられなくなって…」
 女の子は身を乗り出した。
「お願いします、私のキティを探してくださいっ」

●今回の参加者

 ea3277 ウィル・エイブル(28歳・♂・レンジャー・パラ・ビザンチン帝国)
 ec2048 彩月 しずく(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ec3959 ロラン・オラージュ(26歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ec4441 エラテリス・エトリゾーレ(24歳・♀・ジプシー・人間・神聖ローマ帝国)
 ec4676 トゥエニエイト・アイゼンマン(27歳・♂・ナイト・ジャイアント・フランク王国)

●リプレイ本文

●女の子の不安
 依頼を受けた冒険者達は早速女の子に詳しい話を聞くことにした。
「キティが居なくなったのは三日前。最後に見たのはキミで、居なくなった場所は家の庭なんだね?」
「はい」
 ウィル・エイブル(ea3277)の確認に女の子は頷くとおずおずと尋ねる。
「あ、あの…キティを探すお手伝い、私も一緒にしては駄目ですか?」
 驚く冒険者達に女の子は必死に言い募った。
「キティが心配なんです」
「この依頼はミー達が受けた依頼であ〜る。申し訳ないがミー達に任せて、ユーはここで待っていてほしいであ〜る」
「そうですね、その方がいいと僕も思います」
 トゥエニエイト・アイゼンマン(ec4676)は長身だったので小さな女の子を見下ろしながらも、その無謀を諌めた。
 ロラン・オラージュ(ec3959)も、頻発している猫の失踪を人為的なものと予想できる危険性があると考えていたのでトゥエニエイトに同意する。
 きゅっと口を窄める女の子の目線にあわせるように、彩月しずく(ec2048)は屈む。
「ちゃんと連れて帰ってあげるから待っててね。家から出ると行き違いになっちゃうかも知れないから…」
「そうだよ。キティさんが帰ってきた時に家に居なかったら、不安になっちゃうよ?」
「家で迎えてあげれば、きっとキティも嬉しいんじゃないかな」
 エラテリス・エトリゾーレ(ec4441)とウィルも追従し、女の子の不安を取り除くように微笑んで言った。
「わかりました。家でキティが帰ってくるのを待つことにします。キティのことよろしくお願いします」
 彼らの言葉に不安も幾分か解消されたのか、女の子はぺこりと頭を下げた。

●行動開始
 ウィルは、しずくとエラテリスと共に依頼主である女の子の家へと赴いた。
「調査のために庭を見せてくれないかな?」
「もちろんです、こちらへどうぞ」
 キティが居なくなったという庭へと案内される。
 ウィルとしずくは何か手がかりが無いか庭を捜索することにした。
 その間、そわそわしている女の子を落ち着かせる為にも、エラテリスは話の相手をすることにした。先ほどより顔色が良くなった女の子に、キティが居なくなった日のことを聞く。
「キティさんが居なくなった日にあったことを話してくれないかな?」
 考え込む女の子に微笑む。
「些細なことでいいんだよ」
「えっと…、あの日はおもちゃを持ってキティと外へ出たんです」
「そうなんだ、キティさんとはいつも外で遊んでるのかな?」
 女の子はふるふると頭を振った。
「いいえ。いつもは家の中で遊ぶの。でも…三日に一度は庭に出て遊ぶよ。キティをのびのびと走り回らせてあげたくて…あの日は外で遊ぶ日だったし」
 エラテリスはそれを聞くと考え込んだ。
「定期的に外で遊ぶ日は決めていたのかな?」
「うん」
 女の子を少しだけその場に残しエラテリスは庭を探索しているウィルとしずくに声をかけて、女の子から聞いたことを話した。
「もしキティが誰かによって外へと連れて行かれたという可能性があるなら、その人物は事前にこの家のことを嗅ぎ回っていたかもしれないわ」
「その可能性は大いにあるよ」
 ウィルとしずくは頷き、エラテリスに今まで調べていた辺り指差した。
「ここからは視界になっていて見えにくいけど、壁の付近の地面に足跡が残ってたよ」
「踏み荒らされていたような、不審な形跡だったわ」
 しずくもそう付け加える。
「誘拐である可能性が高くなったわけだね」
 三人は女の子には分からないように視線を交わした。

 ロランとトゥエニエイトは、女の子以外に猫の失踪についてギルドに届出がでていないか調べた。すると何件か該当があった。
 育ちのよさそうな顔立ちをロランは少し顰める。
「やはり裕福な家の猫が失踪する事件が多発しているみたいです」
「ここまであると逆に不自然である」
「…もしかすると猫を誘拐して、そのまま売ってしまおうと考えている人がいる可能性もあります」
「一理ある」
「僕は商家の人間です。だからその伝手を使って噂を調べてみます」
「ならばミーは使用人などに聞き込みをしてみるである」
 お互い各方面に働きかけることにした。
 トゥエニエイトは届けを出した家へと赴き話を聞いて回った。
 飼い主達からはこれといった情報は特に手に入らなかったが、使用人達に話を振ってみると意外と情報が集まった。猫が居なくなる前に付近をうろついていた怪しい人物達を目撃したという使用人が何人かいたのだ。
 一方、商人としての伝手を使い情報を集めていたロランはというと、有力な情報にぶち当たっていた。
 何件目かに訪ねた知人の一人が紹介してくれた商人が、珍しい動物や美しい愛玩動物を愛好家に高値で売りつける性質の悪い奴等を知っていると零したのだ。
 ロランはさり気無さを装って詳しい話を聞くことにした。

●悪事は見逃せない
 それぞれ休憩を挟み日没にはギルドへと集合し情報を交わす。
 そうして五日目の日没前、ギルドへと先に着いたエラテリス、トゥエニエイト、ロランは、ウィルとしずくの到着を待っていた。二人はすぐにやってきた。
「待たせしてごめんね。でも、粘ったかいがあったよ」
「居所をつかんだわ」
 一言断りを入れ早速本題へと入った。
 ロランは商人達から不法に愛玩動物を取り扱っている盗賊達の縄張りを聞き出すことに成功していた。しかし、居所の特定までは情報が少なかった。そこで、その付近をしずくとウィルは重点的に調べていたのだ。
 夜の闇にまぎれて行動していたウィルが目星をつけた怪しそうな場所に、しずくがたろとじろを連れて回っていたのだ。事前にしずくは女の子からキティに使用していた布を借りていたのである。
 じろは手間取っていたが、たろはしずくの信頼に応えた。
 匂いを辿り行き着いた場所は街から少し離れた場所にある古びた小屋だった。
 周りは人気がなく閑散としていたが、慎重に探る為、鬱蒼と生えている茂みに身を隠して辺りを窺う役目はウィルが請け負ったのだ。
「袋をかかえた盗賊達が何回か出入りしていたし、猫の鳴き声も聞こえたよ」
「おそらく、一旦は小屋に攫ってきた猫を隠して世話をしているんじゃないかしら」
「その間に買い取り先に算段をつけるってわけですか?」
「売り飛ばすまでは大切な商品という事であろう」
「動物だって大切な家族だよ。心配してる人がいるのに、許せないよ…!」
 決意を新たに彼らは攫われた猫を取り戻すために行動を起こすことにした。

 日が落ちた夜。辺りはしんとしているが、時折猫の鳴き声が聞こえてくる。小屋の中に動物の気配はあったが、人の気配は無い。
 忍び込んだのはウィル、エラテリス、しずくだ。トゥエニエイト、ロランは外で見張りしている。
 古びた小屋には不似合いな頑丈そうな檻が置かれており、十匹程の猫が入れられていた。猫達はじっとこちらを見つめている。
 その中に、真っ赤な尻尾の先端を揺らす白猫を見つけた。キティだ。
「よかった。無事だね」
 エラテリスは自然と呟いていた。ウィルとしずくも安堵する。
 檻の中ではニャーニャーと猫達が鳴き声を上げていたが、キティは金の眼をキラキラと輝かせて静かにこちらを窺っている。その横にぴったりと引っ付いているキティより小柄な黒猫はふるふると怯えていた。その黒猫を守るようにキティは寄り添っている。
「鍵がかかってるわ」
「まかせて」
 ウィルが進み出る。
 三人は早速檻から猫達を救出しようとしたが、外から荒々しい足音が聞こえてきたので全員に緊張が走る。
 音を立てて扉が開いた。
 入ってきた盗賊の一人が怒りの形相でウィル、エラテリス、しずくを睨みつけた。外ではトゥエニエイト、ロランが残り二人の盗賊と睨み合っている。
 ウィルとエラテリスは、キティや黒猫達を守るように立つ。けれど、臨機応変に動けるようにしずくへ意識を向けることも忘れない。しずくはそれを守るように立ち、瞬時にかんざしを抜いて構えた。牽制だ。
 向かってきた攻撃を防いだしずくは、盗賊の隙を見抜きスタンアタックで気絶させる事に成功した。
 外ではトゥエニエイトが繰り出される攻撃をガードで受けつつ前に詰め、ジリジリとプレッシャーを与えていた。盗賊は威圧感に怯む。それを見逃さず、横からロランは拳を叩き込む。たまらず盗賊は昏倒した。
 トゥエニエイトとロランも、あっという間に二人の盗賊を気絶させた。

●プリティ・キャット
「キティ!」
 女の子の家を訪れると真っ先に飛び出してきたのは、依頼者である女の子だった。
 渡されたキティを胸にしっかりと抱きしめるとわんわん泣き出した。
 後からやってきた女の子の両親はウィル、しずく、トゥエニエイト、ロラン、エラテリスに頭を下げて御礼の言葉を口にした。
 しずくがにっこり笑う。
「ね? 約束したでしょ。ちゃんと連れ帰るって」
「はい。ありがとうございます」
 泣き止んだ女の子も、五人に何度も頭を下げた。そしてふとエラテリスの腕の中にいる小柄な黒猫を見つけるときょとんとした。
 気が付いたしずくが苦笑する。その横に立つトゥエニエイトが説明した。
「この猫の飼い主だけが分からないのである」
 そうなのだ。保護した他の猫達は無事に飼い主の下へと戻っていったのだが、この黒猫だけは飼い主が見つからなかった。
 寂しそうにニャーと鳴く黒猫を見ていた女の子の鼻の頭をキティがぺろりと舐めた。びっくりする女の子をキティはキラキラ輝く金眼でじっと見つめた。
「……そうだね、一人は寂しいよね」
 女の子は両親を振り返り黒猫を指差してこの子もうちの子にしていいかと尋ねた。子供の言葉を予想していたのか両親はしょうがないと笑った。
 エラテリスの腕の中から女の子の腕の中へと移動した黒猫は心なし嬉しそうだ。
 キティは自分を助けてくれた冒険者達の方をじっと見つめると声高らかに鳴いた。
 まるでありがとうと言うように…。