踊り子の休日

■ショートシナリオ&プロモート


担当:鳳千輝

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月14日〜05月19日

リプレイ公開日:2008年05月22日

●オープニング

 にぎやかな音楽にあわせてシャン、シャンと鈴が鳴り、身体に纏う色鮮やかな布がその後を追うようにヒラヒラと舞いあがった。
 化粧を施されている顔に妖艶な笑みを浮かべた少女は、しなやかに伸びる白い足で軽やかなステップを踏み、後方で楽器をかまえた楽手達が奏でる音にあわせて、水の中を自由自在に泳ぐ魚のように舞台の上を全身を動き回る。
 踊り子ターニャを一目見ようと集まった観客達は音楽にあわせて時折手をたたいてはやし立てた。
 歓声をうけて、少女は時に炎のように激しく、時に氷のように洗練な踊りで人々を魅了した。

 本日の演技が一段落つき、舞台裏で身体を解していると名前を呼ばれて少女は顔を上げた。
「おじさん、どうしたの?」
「ターニャ、今日も素晴らしい踊りだった! お前のおかげでこの一座も引く手数多だよ」
「ありがと!」
 少女は、ほくほく顔の一座の長に向かってはにかんだ。
 化粧を落としたその顔は先ほどまでの妖艶さが嘘のようで、まだあどけなさを残している女の子そのものだった。
「それでだねターニャ、次の町へ行く前に色々買出しをしなけりゃならない。楽手達の楽器も調整しなくてはならんからな」
「じゃあその間は自由行動してもいいんでしょ? あたし、この街で色々見たいところがあるんだ!」
 無邪気な子供のように目を輝かせる少女に一座の長は頬を緩ませたが、少し考えるように顎に手を当てた。
「もちろんだ、好きにするといい‥‥と、いいたいところなんだがなぁ」
「? どうかしたの?」
「お前の顔も売れてきた。一人で行動させるには、ちと心配でな‥‥」
「おじさんは心配性だよ」
 苦笑した少女に一座の長は真剣な顔になる。
「いんや、こういうことは心配することにこしたことはないぞ」
「ふーん‥‥。そういうものかな」
 不思議そうに首を傾げる少女に一座の長は「そうだっ」と手を打つ。
「護衛を雇おう!」
 名案だと言わんばかりの一座の長に少女はおずおずと伺うように言う。
「え? でもいいの‥‥? 護衛って雇うにもお金がかかるんでしょう?」
「なに、心配は要らんぞ! お前のおかげで懐は暖かい。資金のことなら気にせんでいい」
 頭をぐしゃぐしゃと撫でられて少女は困ったように微笑んだ。

 次の日。
 賑わう冒険者ギルドに一座の長と少女へと足を運んだ。
 少女はニコッと笑ってギルドの受付係に軽く頭を下げる。少女に受付係も愛想のよい笑顔を向ける。
「こんにちは」
「こんにちは。今日はどのようなご用件ですか?」
 咳払いをした一座の長は受付係の視線をひきつけると話し出す。
「この子の護衛をしてくれる人達を探しているんだ」
「護衛ですか?」
「うむ、といってもそんなに堅苦しいものじゃなくていいんだ。この子が街で行動する昼間だけ、わしらは別の予定があって見ていてやれん。その間、この子の保護者代わり‥‥面倒を見てくれる者達を探している」
 頷く受付係の前で少女はぴょんと跳ねた。
「お小遣いも貰ってるから買い物もしたいし、できれば色んな所を見て回りたいの」
 少女の可愛らしい主張に受付係はにっこり笑った。

●今回の参加者

 ec4441 エラテリス・エトリゾーレ(24歳・♀・ジプシー・人間・神聖ローマ帝国)
 ec4676 トゥエニエイト・アイゼンマン(27歳・♂・ナイト・ジャイアント・フランク王国)
 ec4900 イェルン・マイアー(27歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ec4934 ベルセリオス・ユキ(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●挨拶
 依頼を受けた冒険者達は、一座が宿泊しているという宿に集まった。
 待っていたのは動きやすい服装に肩から鞄袋を提げた踊り子ターニャだ。
 ぴょこんと存在を主張しているラビットバンドを銀色の髪に乗せたエラテリス・エトリゾーレ(ec4441)がにっこり笑う。
「ボクはエラテリスって言うんだ。よろしくだよ」
「こちらこそ、よろしくおねがいしますエラテリスさん」
 ターニャの視線が自分の頭の上をうろろうろしているのに気がついたエラテリスは、照れながら言った。
「へ、変かな? うぅ。可笑しかったら外すよ?」
「いいえっ」
 ターニャは驚きの声を上げて首をぶんぶん振った。
「ラビットバンド、とってもかわいいです!」
 ターニャはうっとりとラビットバンドに釘付けだ。
「あの‥‥もし、よかったら少しだけ触らせてくれませんか?」
 期待にキラキラと瞳を輝かせているターニャに苦笑して頷いた。触りやすいように少しだけ膝を曲げ、身をかがめる。
「エチゴヤさんで見かけてつい買っちゃったんだよ〜」
「エチゴヤ‥‥。おじさんから話は聞いてます。とっても品揃えがいいお店ですよね?」
 おずおずといった感じでラビットバンドを触っていたターニャは満足したのか手を離した。
「ありがとうございます」
「どういたしまして。エチゴヤさんに興味がある? よかったら案内するよ」
 エラテリスはおどけたように笑い、小声で内緒話をするように付け足した。
「何でもエチゴヤさんには色々秘密があるらしいんだ」
 ターニャは好奇心に膨らんだ胸をドキドキさせて「ぜひお願いします」と答えると、大柄なトゥエニエイト・アイゼンマン(ec4676)と向き合った。
 身長差があるのでターニャが見上げる形になってしまうが、そんなことは気にならない。
 一座の中にも長身の者はいるが、ターニャはこんなに大きな人をはじめてみる。トゥエニエイトは大きく、とっても立派に見えた。
 いつも身に着けている鎧や兜などの装備は外しているトゥエニエイトは、帯剣はしているが、ぴしりとした礼服を着こなし髪型も髭もばっちりと整っている姿は様になっている。
「ミーはトゥエニエイト・アイゼンマンである。レイディ、此度はよろしくであ〜る」
「こちらこそ、よろしくおねがいしますトゥエニエイトさん」
 礼儀正しいトゥエニエイトに習ってターニャも挨拶する。
 厳ついカイゼル髭にもターニャは怯まなかった。むしろ子供ながらの無邪気さを発揮する。
「トゥさんって呼んでもいいですか?」
 驚いて目を丸くしたトゥエニエイトだったが、それを隠すように一つ咳払いをする。
「かまわないが」
 にこっと笑ったターニャにトゥエニエイトも好感を抱く。
「動物が好きだと聞いたが馬も好きであるか?」
「ええ、もちろん」
「それはよかったである。ミーの友も今回は一緒なので、仲良くして欲しいである。名はワンセブンと呼んでやって欲しいであ〜る」
 馬のワンセブンを後で紹介してもらうと約束すると、ターニャはイェルン・マイアー(ec4900)と握手を交わした。
「よろしくお願いします、イェルンです」
「こちらこそ、よろしくおねがいしますイェルンさん」
 少し緊張しているのか口調は少し固かったが、それでもイェルンの晴れ渡った空を思わせる青い瞳は、やる気に輝いていた。
「ギルド初の依頼だけどがんばります」
「あたしも護衛してもらうのは初めてだよ。とっても楽しみにしてたんだ!」
「‥‥実は、俺もです」
 にっと笑ったターニャに噴出しつつイェルンも頷いた。
 まだ新米だが、若々しく燃え立つ希望を胸に秘めているイェルンと接していると、おのずと気合が伝染するようだった。
 自然とターニャは、これから見知らぬ街を見て回る事への好奇心と期待がよりいっそう膨らんだ気がした。

●麗しき城で
 予定にいた一人が現われなかったので、一行は宿を出発した。
 まず向かったのは、この街の象徴とも言えるべきコンコルド城である。
 まるで白鳥が翼を広げているような優雅な佇まいと威厳に満ちたウィリアム三世の居城であるコンコルド城に、ターニャは頬をばら色に染めて見入った。
 エラテリスやイェルンもやや緊張気味で、トゥエニエイトはそわそわとしていた。
「騎士として、城は外せないであ〜る」
 エラテリス、イェルン、トゥエニエイトはお互いに顔を見合わせて笑った。
 ターニャは聳え立つ城に、ほうっと吐息を漏らす。
「とっても立派なお城ですね」
「ウィリアム三世陛下の居城ですからね」
 イェルンは頷いた。
(いつかこういう大きなお城で、大勢の人たちに踊りを披露してみたいなぁ‥‥)
 ターニャは心の中で呟いた。素敵な城を拝観しただけでターニャの夢は広がった。
 門番は快く冒険者たちを通してくれたので、まずは宮廷図書館へと足を向けた。
「ようこそ、宮廷図書館へ」
 入ってすぐに、司書らしき人に声をかけられてターニャは驚いた。
 エラテリスやイェルンやトゥエニエイトは驚いた様子はないので、これが普通なのだと思いターニャは笑顔で頭を下げた。
 金髪が美しい司書は、優しい笑顔を返してくれた。
 入館時にしなければならない身分確認を済ませ、静粛な空気が流れる図書館の中を歩く。持ち去り対策が施されている本がぎっしり詰まっている棚がずらりと肩を並べている様子は圧巻だった。
「世界の成り立ちや国の歴史に関する資料が沢山置いてあるんだよ」
 興味津々と本棚を覘くターニャにエラテリスが説明していった。

 宮廷図書館を出ると一行は宮廷絵師の部屋へと向かう
 扉の向こうには様々な肖像画が壁のいたるところに飾られていた。絵画特有の匂いが香り、図書館とは違った精錬な空気に包まれている部屋に圧倒された。
「宮廷絵師の部屋へようこそ」
 今度は横からかけられた声にも驚かなかった。ターニャたちの視線の先には黒髪の凛とした青年が立っていた。
 エラテリスやイェルンやトゥエニエイトから話を聞いた青年は快く宮廷絵師の部屋を案内してくれた。
 色とりどりの彩色に目を瞬かせて、ターニャは感嘆の声を上げる。
 その様子を見た青年は、どんな絵をどういった絵師が描いたのか、吟遊詩人が綴った勇ましい詩のエピソードなどを教えてくれたので、さらにターニャを喜ばせてくれた。
 エラテリス、イェルン、トゥエニエイトは絵画を指して次々と質問しては一喜一憂するターニャを微笑ましく見守った。
 宮廷絵師の部屋は、多くの芸術家たちが集うサロンにもなっているらしく、時折すれ違ったりする絵師達はターニャに手を振ってくれた。

 宮廷絵師の部屋を案内をしてくれた親切な黒髪の青年は、別れ際にお城の前庭へと行く道を教えてくれた。
 入ることはできないが、見ることはできると悪戯っぽく耳打ちしてくれたのだ。
 丁重にお礼を告げて青年と別れると一行はお城の前庭を覗き、その美しさに感心し、そしてお城を後にした。

●旧聖堂から冒険者街で
 手入れが施されている花壇に咲いた花が誇らしげに揺れ、動物たちがゆったりと寛いでいる。
 旧聖堂は誰でも好きなときに出入りできるようになっていて、建物を見学したターニャは、エラテリス、イェルン、トゥエニエイトと連れたって冒険者街へと向かって歩いていく。
 閑静な公園のようだが、それでも時折人が行きかっているし、沢山の小動物がちょろちょろしているので、心が温かくなるような光景が広がっていた。
 道を横切っていく猫のつがいや、鳥の群れ、犬の親子を見つけるたびにターニャは触りたそうに、うずうずしていた。
 その度に寄り添うように闊歩しているワンセブンの鬣や胴体を撫でまくるので、ワンセブンは少し困ったようにブヒンと嘶いた。
 エラテリスとイェルンがターニャに向かっている冒険者街の説明をしているその後ろから付いていくトゥエニエイトは、周囲に目を光らせていた。
 どうやら危険なところはないようで安心し、静かに三人の会話に耳を傾けた。

 冒険者街では大勢の冒険者達が行き交っていた。賑やかで活気のある場所だ。
 エラテリス、イェルン、トゥエニエイトはすれ違う冒険者達と気軽に声を掛け合った。
 知人に出会えば、ターニャのことも紹介してくれた。色々な冒険話をしてくれる気のよい冒険者もいた。
 これから冒険に出かけようとする者もいれば、冒険から帰ってきたばかりなのか、土埃に塗れながらも清清しい顔をしている冒険者もいた。
 彼らはそれぞれ違う生き方をしているけれど、ターニャには誰もが輝いて見えた。

 冒険者街には多くの冒険者達がいると同時に、沢山の動物達もいた。
 冒険者達の友であり、かけがえのないパートナーであり、時には危険を共にする勇敢な動物達だ。
 動物達の中には瞳の奥に知性を伺わせるものもいたので、ターニャが近寄っても野生の動物のようにすぐには逃げたりはしなかった。
 逆にターニャを観察しているようにも見えた。
 冒険者達の中にはターニャに自分のパートナーであるペットを紹介してくれる者もいたので、お言葉に甘えて触らせてもらったりもした。
 ターニャは、エラテリスやイェルンやトゥエニエイトに見守られながら冒険者街で楽しい一時を過ごした。

●買い物
 昼間の日差しの強さにエラテリスは日焼け止めをターニャに分けてくれた。
 踊り子として美容には気を使けるようにと一座の長から言われていたので、ターニャはありがたく使わせてもらうことにした。
 ターニャは自分のお小遣いを持参していたので、この街で買い物をしたいと考えていた。
「買い物も大事ですよね! 形に残る物があるとやっぱり違うし!」
 イェルンはそう言うとターニャを様々な店が軒を連ねている場所へと案内してくれた。
 事前に細工物屋やハーブを売っている店を調べておいたイェルンは、その他にもターニャが入りやすそうな店へと案内してくれた。
 女の子が好きそうな可愛らしい雑貨が売っている店には、やはり年頃の女の子達がたくさん足を運んでいた。
 ちらちらと視線を向けながらも自分を晒すのは恥かしいと思っているのか、躊躇するエラテリスの手を引いてターニャは女の子の戦場へと飛び込んだ。
 女の子達の熱気に圧されて店の中で所在無さ気にしていたイェルンとトゥエニエイトは、戦利品を掲げて戻ってきたターニャとエラテリスに思わず噴出してしまった。
 もみくちゃにされたのか二人の髪はぐしゃぐしゃになり、ピョコンとあちこちにはねていたからだ。

 ターニャが買い物に夢中になっている間、危険が一つもなかったわけではなかった。
 店が犇めき合う場所には裏道も多い。邪な輩もいる。しかし、エラテリスとイェルンとトゥエニエイトは、そうした血なまぐささを巧みに避けながらターニャを案内した。
 雑貨屋を一通り見て周ったターニャは、イェルンが勧めてくれた店へと入ることにした。
 そこは細工物屋で、繊細な造りが見事な小物類や櫛といった品物が並んでいた。
 真剣に品定めしながらエラテリスやイェルンやトゥエニエイトの意見も聞いて、ターニャが最終的に選んだのは、銀装飾のアンクレットだった。
 細やかに彫りが施された細い輪が何連にも重なっているので、鈴がついていないのにシャラシャラと涼やかな音を奏でる。
 とてもシンプルだが手の込んでいる一品だ。
「それでいいの?」
「これがいいの。踊りを踊るときにつけようと思って」
 ターニャは照れたようにはにかんだ。

●みんなで‥‥
 依頼の最終日には、エチゴヤへと一行は向かった。
 店内には商品が沢山陳列されて、ターニャには使用方法がわからないものから日常的に使用するだろうものまで多種多様だった。
 ここではターニャよりエラテリスやイェルンやトゥエニエイトの方が興味を引かれていたようだ。
 見れば、店内には冒険者たちが品物を物色している姿が多く見られた。
 ターニャも三人に質問を投げかけながらエチゴヤの雰囲気を楽しんだ。
 エチゴヤを出た一行が向かったのは酒場のシャンゼリゼだった。
 踊り子であるターニャは酒場の雰囲気に慣れているようだった。
 陽気な店員に案内されてターニャ、エラテリス、イェルン、トゥエニエイトは席に着いた。
「今日はおじさんが多めにお小遣いを持たせてくれたんです。皆で何か美味しいものを食べるといいって」
 ターニャはそう言うと皆の食べ物を注文した。
 そんなターニャにトゥエニエイトは新巻鮭を取り出した。
「これも一緒に食べるであ〜る」
 新巻鮭を焼いてもらう間、話を咲かせた。
「ターニャちゃんは一座で踊って長いの?」
「う〜ん、物心ついたときには踊ってたよ」
 イェルンの問いかけにターニャはこくりと頷いた。
「あたしの母さんも踊り子だったんだ。すごく踊りが上手い人で、あたしもいつか母さんみたいな踊り手になるのが夢なの」
「お母さんが目標なんだね」
「うん」
 エラテリスにターニャは誇らしげに笑った。
「ユーならきっとなれるである。応援しているである」
「ありがと、トゥさん!」

 日が沈む前に宿へと戻ったターニャは、送ってくれたエラテリス、イェルン、トゥエニエイトに頭を下げた。
「皆さん、ありがとう。皆さんのおかげでとっても楽しい休日が過ごせました」
「ううん、僕たちこそ楽しかったよ」
「そうだよ。あ、そうだ‥‥これ」
 エラテリスに同意したイェルンは兎のぬいぐるみを取り出した。
「手作りだからちょっと不揃いな所もあるかもしれないけど‥‥プレゼントです。受け取ってくれますか?」
「もちろん! ありがとうイェルンさん。嬉しいです」
 兎のぬいぐるみを抱きしめるターニャにイェルンは頬をぽりぽりとかいた。
「寂しいが、またいつか会えるであ〜る」
「うん。今度この街に来たら、必ず会いに来ます。その時はあたしの踊り、見に来てくれる‥‥?」
 おずおずと聞くターニャに三人は「もちろん!」と答えた。
 ターニャは花開いたように笑った。