決められたとおりにやってみよう

■ショートシナリオ


担当:紺一詠

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや易

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:04月04日〜04月09日

リプレイ公開日:2005年04月14日

●オープニング

 春の陽気に、水がぬるめば人もゆるむ。南からの危機はたしかにこの世における所行だけども、しかしそれもいまだしかとした報の届かぬ地においては、明け方の夢のごとくどこかふわりと頼りない。ましてや、昼もようやく永くなりしこのごろ、義務も希望もいくらでもある。種も植えたいし、山にも入りたい。あぁ忙しなや。せっかくの緊張もだんだんと日々の仕事にうすめられ‥‥あとは春雪のごとく消え去るのみか‥‥。
 それではいかん、と誰かが言った。
 その誰か、という人、余計な程度に責任があった。行動力も立場もあった。企画する、ここは一度きちんと訓練しませんか、と。火災ならば日常と隣り合わせ、すこしは身も入りましょうや。しかし吾々だけでは自信がない。先導として、経験のある冒険者を雇う。そんな経験あるやつおるんか、とか云われても、いるかもしれん、で強引に押し切る。やっぱりいないような気もするけど。
 なぁに、心配ない。やることはこちらで決めてある。
 簡単な流れ図になおせば、以下のような具合。このとおりのことを彼ら冒険者にはやってもらう。そして、適当に盛り上げてもらえれば、それでいい。
 つか、盛り上げやがれ。命令形だった。

−−−−−−−−−−−−−

 火災発生
  ↓
 火元確認
  ↓
 消火開始
  ↓
 火が燃えている
  ↓
 愛が燃えている
  ↓
 漢は燃えてなんぼ
  ↓
 そこまでやったら「萌えなきゃ」だろ
  ↓
 そろそろツッコミ発動
  ↓
 はよう消火しやがれ
  ↓
 『唱歌』
  ↓
 死者が出ない程度に第二ツッコミ発動
  ↓
 オチかな、そろそろオチなきゃかな?

−−−−−−−−−−−−−

「‥‥‥‥‥‥これ、全部このとおりにやれと?」
「やらなきゃ報酬は払いませんから」

●今回の参加者

 ea0235 周防 佐新(37歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea0722 東樂坊 春慶(36歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 ea1543 猫目 斑(29歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea8837 レナード・グレグスン(30歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb0601 カヤ・ツヴァイナァーツ(29歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb1565 伊庭 馨(38歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb1635 白岐 三叉尾丸(29歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb1865 伊能 惣右衛門(67歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)

●サポート参加者

御形 樹(eb1628

●リプレイ本文

●準備
 舞いあがる花びらが空のあわいに溶けて消える、風の強い晴れの四月。
 周防佐新(ea0235)、雲の流れる方向を見やっていると、ふと一部が迫り上がってきたような気がして仰天した。カヤ・ツヴァイナァーツ(eb0601)が突き出した布束が視界いっぱいに広がったのだ。そういえば、揃いの法被を着ようということになっていた。村の人が貸してくれるということだから、それだと思うけれど。
 その法被が、どうも、おかしい。後ろみごろ、佐新にとっては怪奇、でもカヤにとってはまったく逆の意味をもつ模様がある。二つの円は艶めかしくも煌々と、さながら少女のうるんだ瞳のごとく、というよりはそのまんま。それに負けぬくらいきらきらしく笑みながら、僕が描いた、とカヤは説明する。
「怒られなかったか?」
「全然。西洋の火除けの紋様なんですって云ったら、逆に喜んでくれた☆」
 あ・もしかして、とカヤは手を打つ。
「別のがよかった? 手足をつけて『メダマノオヤジ』とか極端な白目で『オソロシイコ』とか」
「カヤ。嘘八百って知ってるか?」
「やだなぁ。僕はツヴァイだよ」

 で、(・・)←点目

 白岐三叉尾丸(eb1635)は天秤竿を肩からおろした。水を湛えた木桶が、これで、丁度二十、こんなものだろう。傍らでは、猫目斑(ea1543)も、細かくはしこく立ち働いている。ぱしんぱしんと膝を払い手を払い、細工は流々後は仕上げを御覧じろ。
「こっちの準備も終わりました」
「それじゃ。始めますよー」
 三叉尾丸の声音が山鳴りになっていた理由は、伊能惣右衛門(eb1865)に呼びかけたからだ。あとは若い者に任せてとばかり(始まってもないけど)、筵をひいた簡易座席で、惣右衛門は村の年寄りと交流を深めている。
「わたくしも若い頃には焼け出されたこともございまして、あの時は煤塗れになって必死に火を消したものですじゃ‥‥」
 だんだんと思い出話に移行しているようだ。自然消滅を待っていたのでは遅い、と、三叉尾丸はひときわ強く名を叫ぶ。
「伊能さーん」
「はい。今行きますじゃ」
 少し名残惜しそうではあったが、いただいた白湯の礼は忘れない。他の面子も三々五々と集合するなか、潰された佐新がカヤに引きずられてきたけど、それはそれ。このなかでは若輩の三叉尾丸、労働の汗を手持ちの扇で冷ましながら、何故だか引率者の気分の溜息をこらえて、「そろそろ」と云おうとした矢先。
「皆さん、訓練は遊びではありません。心してかかりましょう。気を抜くなら身が入るようにお宅に火をつけますよ、火事場泥棒ならいつでも手配できますよーっ☆」
「あぁ、私の台詞がものすごく派手目にとられてるっ」
 もののついでに扇子まで引ったくっていった犯人の名を、伊庭馨(eb1565)。彼の法被だけ、妙にでこぼこな女性が染め抜かれている。ぐらびああいどる・め●みちゃん、とかいうんだそうだ。
「先生『ぐらびああいどる』って何?」
「『グラビティキャノンを使う』『あいくるしい』『ぶんどる人』の略です!(カーンと後光)」
「僕のこと?」:カヤ@グラビティキャノン使用直後
「冒険者にもいろいろなお人がおりますのぅ」:惣右衛門@感心@なんとなく憧れたり
 も、どうにでもして。三叉尾丸は空を仰ぐ。どこをとっても青いか白い。地上の喧噪があるからこその、天の閑寂、延々と。

●火災発生⇒火元確認⇒消火開始⇒火が燃えている
「昔取った杵柄だ」
 火を付ける係を買って出たのは、東樂坊春慶(ea0722)。自負するように、一連の作業の手際はよい。飛ぶ鳥まで落とさんと、高く強く燃えさかる炎。佐新、なんとはなしに、春慶の過去を訊いてみた。
「ガキの頃かな。よく悪友と面白がってそこらの家に火をつ‥‥けるわけないだろう、いやいや、仮にも僧籍に身を置くものが」
「本当か?」
「ちょっと恋の火遊びを言いまちがっただけよ。ふっ。涙や涙じゃない汁が出たり、まぁ、いろいろあったものさ」
「いいのか僧籍?」
「やっ」
 佐新は春慶の返答を聞けなかった。レナード・グレグスン(ea8837)が鈍器のようなものを、春慶の後頭部に打ち付けたからだ。銀杏葉の弧をえがいて傾いでゆく、六尺二寸。ものいいたげな佐新に、レナードは背中にしょった『ショージョマンガ』のように無垢な瞳を向ける。
「だって放火魔はつかまえないと」
 まちがってるけど、正論だ。でも、もっとまちがってる人たちもいる。
「春慶選手、レナード選手の凶器攻撃のまえに屈したかぁっ?! こんなところでひるんでいてはNY=ないす吉原にはほど遠いぞーっ!」
「違うものの実況しないでください。というか、それ返してくださいよ!」
 勇ましく拳を突き上げる馨から、奪われっぱなしの扇子を取り返そうとする三叉尾丸。激しいもみあらそいのすえ、やっと取り戻した扇を手にしたとたん、三叉尾丸、両目ピカーン両足バシーン親指ゲシ!豪華三段変形だ!!
「おおっと、火災が発生した模様だ。これは大変だあっ! 選ばれし消防隊よ、君たちの活躍に期待している!」
「馨のが感染したかな」
「みたい」
「はしかみたいなものですじゃ。若いですし、すぐに治りますじゃろう」
「云ってることはまちがいじゃないですしね」
 斑の冷静な指摘に思い出した、これを消さなきゃなんにもならないんだってこと。火は裾野をのばし、いつのまにか七つの分裂を果たしている。とりあえず『火災発生』はいいとして、『火元確認』も終えた、お次は『消火開始』、でもそのまえに。佐新は村人に人員確認をするようにつたえ、自分たちもとまわりを見渡せば。
 寝っ転がったままの、たんこぶ僧兵・春慶Ω
「みんな元気だな」
「待たんか。今、俺のこと、見て見ないふりしたろ」
「起きてるじゃないか。俺も訊きたいことがある。やけに火勢が強すぎないか?」
「俺がわざとやったってゆうのか? いつかこんな大惨事が起こったときを想定しての、親心に決まってるじゃないか」
 嘘だ。ぜったいに嘘だ。佐新がそう云おうとしたとき。
 ぱん・ぱん・ぱーん。すぱぱぱぱぱん。鼓膜をやぶる衝撃、上へ下への大爆発が、炎から。いっけない、と斑がちろりと舌を出す。
「生の竹を入れちゃったみたいですね」
「竹って爆発するの?」
「節に穴を開けないとそうなります。失敗しちゃった☆」
「へー。じゃ、試しに、僕といっしょに愛も爆発させてみない?」
「ダメですよぉ。私には心に決めた人が」
 レナードの誘いを避わした斑が視線を走らせたさき、佐新が腹這いで突っ伏している。もしかすると愛という名の爆風をくらったのかもしれない。ないだろうけど、十割。

●愛が燃えている⇒漢は燃えてなんぼ ⇒そこまでやったら「萌えなきゃ」だろ⇒そろそろツッコミ発動⇒はよう消火しやがれ
 とかやっててもしかたないので、消火することにする。実行その一、水をかける。火元を先頭に人々は一列にならび、水のつまった手桶をうしろから順繰りに手渡しする。実行その二「灰でもよく消えますぞ」、これは惣右衛門の案。あとから使わせてもらおう。ありがとー惣右衛門さーん、なんだか列から離れてほっこり白湯飲んで休んでますけど、それでもあーりーがーとーーーとーー(涙)
 実行その三、「ものを毀す」。佐新の台詞。カヤは、うん、と頷いた。
「そう、破壊ね」
「ぐらびああいどる。グラビティキャノンの射程範囲に、司会を入れるのはやめようね?」
「ファイヤ〜! どんな意味か知らないけど、とにかくファイヤ〜〜!」
 己の危機を知らない、幸せな三叉尾丸は、ますますの加熱・熱狂状態。カヤは舌を打った。
「僕もアレやりたかったんだもん。いいよ、僕、航空班するから」
 ついっと、グラビテーション。カヤが空へ逃れたので、佐新のうしろがひとつ開く。きちんと順列を詰めてもらわなければ、木桶の手渡しはうまくゆかないのだが、いつまでたっても、すかすかした間隔が矯正される気配がない。不審に思った佐新がふりむくと、新しいうしろの人になるはずの春慶、やたら真剣な顔をして後じさっている。
 が、それも長くは続かなかった。誰かが背中から春慶の肩を捉まえたからだ。くくっと悪役笑みをこぼし眦に剣呑な光を宿しながら、正体は――馨。
「どこへ行く気です? せっかく佐新・春慶・馨の三漢がそろって、確変が始まるところですのに」
 ジャンジャンバリバリ。自分も勘定に入れているところが、いっそすがすがしい。そして、今、訓練の段階は『愛が燃えている』『漢は燃えてなんぼ』にさしかかっている。つまり、
「出ます出します取らせます! 出玉出血大奉仕(←微妙に卑猥)! こうやって隣同士になったのも何かの縁、お二人、さぁ手と手を取り合って愛を燃え上がらせてください!」
「おことわりだ! ここはむしろ佐新と馨だろう。非公式恋愛助言資格五級(低い)のこの俺が、この日のために学んだ説法術と声色で、おまえたち二人の関係をすてきにどどめ色に飾ってやる!」
「どっちにしろ、俺は被害者ってことか」
「やだあ! 周防様を勝手に売り買いなさらないでくださいー!」
 ドガン、ゲシン、とさよーならー。
 具体的には専門2の正確な投擲。空の木桶が春慶と馨のつむりを連撃する。春慶にとっては二度目の、馨は初回限定版、二人仲良く、地に果てた。と思ったら即座に復活して、とっくみあう。なんとしてでも相手を不幸に陥れたいらしい。
「斑、助けてくれたらしいから礼は云うが‥‥俺、水、かぶってる」
「まぁ」
 空の木桶を投げるには、まずは中身をどこかにやらなければならない。全身をぐっしょりといい男にした佐新、さすがに気持ち悪くなり、上半身をはだけようとした。ところを、斑に抱きつかれて止められる。
「周防様、こんな人前で着替えなどなさってはイヤです。脱ぐのなら、私の前だけにしてくださいませね。でもどうしてもというなら、これをどうぞ」
「木桶を、どうやって着込めと?」
「やん。そんなふうに困ってらっしゃる周防様も、かわいくて好き♪」
「うるわしきかな、尽くす女・無償の愛! これぞ真の『愛が燃えている』だー!」
 些細な疑問をはさむ余地のない、三叉尾丸の絶叫はまだまだ続く。
「『漢は燃えてなんぼ』、見てください拳で語り合う春慶と馨を。これまたうるわしい真の友情です! つづく『そこまでやったら「萌えなきゃ」だろ』‥‥萌えって何?」
「斑のこれ、でどうだ?」
「いいんですか? いいことにしましょう、僭越ながら『そろそろツッコミ発動』は、私、三叉尾丸が務めさせていただきます!」
 やおら三叉尾丸が、屈伸運動、準備満タン、いってらっさい元気よく。ツッコミ突っ込む、頭から炎の中へ全速力。見守る人間の脳裏に、殉職、という言葉がよぎる。よぎっただけ。

 そのころのレナード、やれやれ、と首を回しながら、
「じゃあ次『はよう消火しやがれ』ー(ものすごく投げやりに)。はい、終わった。僕、もうお役ご免だよね。女の子口説きに行ってこようっと」
 まじめだった。

●『唱歌』⇒死者が出ない程度に第二ツッコミ発動⇒オチかな、そろそろオチなきゃかな?
 レナードは大まじめなんである。「そんな風に君は子供なんだ!」大袈裟、「壊れたものを集めて繋げばまた元通りになると信じている」まぎらわしい、「俺は違う‥‥壊れたものをただ眺めていたいんだよ」熱風で外套をひるがえしてみたり、たとえ通りすがりのかわいそうなお嬢様が引いていたとしても、彼はまじめにやっている。
「ジャパン風に言い換えれば、半端にはだけた着物をとりつくろうより、いっそすぱっと全部脱げ、とそういう意味ですかな?」
「うん、そう。たぶん。そうだっけ?」
 違う。しかしレナードに考える暇は、あたえられない。お嬢様の裏拳が彼のあごに炸裂したからだ。
「ほっほっ。お若い、お若い」
 注釈した人、惣右衛門がズズリと白湯をすする。その目前、どうっと崩れる二人の漢。春慶と馨。馨、よろめきながら、なんとか立ち上がろうとする。
「‥‥よく考えれば、こんなことをしている場合ではないんです」
 あんまりにも今更だ。事態はすでに終わろうとしているぞ。だが、拳を交えてほんのり篤き友情(いつのまに)の生まれた彼らに、そんな常識は通じない。
「ここはひとつ協力して、『唱歌』を終わらせませんか?」
「分かった、馨。俺に名案がある!」
 それから、
 あー、あんまり、書くと京都御所の検閲を受けそうなかんじだけど。
 要約する。なんか三叉尾丸っぽい炎のまわりで、泣いて踊る野郎どもが、いた。「西洋では炎のまわりで火を囲み歌い踊り狂う風習があるらしいぞ!」とは春慶の弁。
「ないよ!」
 当然の反論は、上方から、巌のかたちをとってやってきた。グラビティキャノンじゃなくサイコキネシスを使う人はなんというのだろう、と訪ねようにも、先生はお友だちといっしょにまたも倒れていらっしゃる。
 カヤ、ふわり、と地上へ帰還。
「失礼しちゃう。でもこれで『死者が出ない程度に第二ツッコミ発動』も終わったね」
「死者は出たほうが、お持ち帰りしないですむだけマシだったんじゃあ」
 三叉尾丸の主の、御形樹さーん。もしよろしければ黒こげの三叉尾丸、ひきとってってくださーい。や、厭がる気持ちは分かるけど。
「でもぉ。岩を落としたから、火も消えたし」
「っつうか、何故それを先にしない?」
「あ、いい匂いがする」
 きっと今日の佐新の疑問は永久に解決されない運命にあるのだ。でないと、こんなにも無視されつづける理由が分からない。そうやって自分を無理矢理納得させる、佐新。遠いところに思いをはせる彼を、現実へひきとめるのは、カヤが云うように胃をくすぐる芳香。
「はい。皆さんの分も用意してありますよ」
 斑、せっせと取り分ける。あらかじめ燃材の下に、竹筒に入れた桜飯と魚の香草蒸し焼きをっしこんでおいたのだそうだ。きちんと人数分だけ用意したはずが三つばかり余りそうなのは、数えていかない方針で。
「はい。周防様、食べさせてあげますね」
「ちょ、ちょっ、斑」
「おいしいですよ、はい、あーん。‥‥それとも周防様、これはお嫌いでしたか?」
「あ、もう分かったよ。だから泣くな。ほれ、あーん」
「ほっほっ。若い、若い」
 やけっぱちに口をひらく佐新、幸せそうに箸をはこぶ斑。惣右衛門、レナードに贈ったのとおんなじ言葉を、ここでもう一度繰り返す。そして、すぐそば、倒れ伏した男どもが約三名。なんて世界はうつくしい。

 というわけで、『オチかな、そろそろオチなきゃかな?』のお時間なわけですが。
「文句があるなら、京都御所へいらっしゃい」(やだ)ってなノリで。
 よっしゃあ。今日の被害はとっても少ないほうだったね(爽)