黄色囃子

■ショートシナリオ


担当:紺一詠

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月17日〜05月24日

リプレイ公開日:2005年05月25日

●オープニング

「小鬼退治は冒険者の基本」
 特定の誰かがあからさまに講釈たれたわけではないが、暗黙の了解をあえていなむような冒険者もすくなかろう。満月の彼岸ではゴブリンとも呼ばれる彼らは、世界中でありとあらゆる悪辣をしかけては、人々を泣かせたり困らせたり悩ませたりしている。かといって腕っぷしがとびぬけているわけでもなく、適切な注意さえおこたらなければ、駆け出しの冒険者でも撃破はむずかしくない。ちょうどよい力試しにもなる。
 だからその依頼も、まずはじめに、ぴかぴかの新人諸君のまえに提示されることとなる。
「ちったあ心得のあるやつでもいっしょに行ってくれれば、安心なんだけどな」
 からかいぎみの枕とともに。

 ※

「社にまつられていた太鼓が盗まれたんだとよ」
 京をいくらかはなれた村の話だ。
 ある日をさかいに、村のはずれから、とてんたたん、と、どこかで聞いたことのあるような、けれどもひどくくるった囃子の音が聞こえてくるようになり、村のものたちは仰天した。何人かを見にやらせたところ、彼らのもちかえってきた報告に二度仰天する。社にたいせつにしまわれていたはずの太鼓を、小鬼たちがたたいているというのだ。あわてて社を確認すれば、申し訳程度のちゃちなかんぬきはこわされ、たしかに中身は持ち出されている。
「小鬼たちのあつかいがまったくなっちゃいないせいで、日一日と太鼓の響きはわれてきてるそうだ。このまま放っておいちゃ、そのうちがらくた同然にばらされちまうだろう。そのまえになるべく傷をすくなく取り返して欲しいってのが、おおかたのあらまし」
 それさえ取りもどせれば、べつに小鬼たちはどうしようとよいらしい。だが、小鬼らにだって悪戯者なりの矜恃というものがある。話し合いが通じる相手ではないし(というより、そもそも言語が人間たちと同一でない)、そうやすやすと目標を奪還できるともおもえない。戦闘はまぬがれえないところか。
 少々かたくなった面持ちの冒険者をくつろがせようとでもいうのか、冒険者ギルドの手代はすずろな一言をつけくわえた。
「そういえば小鬼が太鼓たたいてるあたりって、まだ菜の花が咲いてるらしいぞ」
 菜種、油菜――さまざまな名をもち、実用にも観賞にもたえうるきいろい花。
「さぞかし綺麗だろうな。‥‥いちめんのなのはな、ってな」
 きままな端唄。拍子も音程もそろっていないそれに不思議とがっかりしたりしつつ、冒険者たちは方法を練りはじめる。

●今回の参加者

 ea6433 榊 清芳(31歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea7125 倉梯 葵(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea9275 昏倒 勇花(51歳・♂・パラディン候補生・ジャイアント・ジャパン)
 eb1565 伊庭 馨(38歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb1865 伊能 惣右衛門(67歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 eb2049 本那 武司(34歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 eb2301 史 亮(31歳・♂・僧兵・ジャイアント・華仙教大国)
 eb2395 夏目 朝幸(23歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文


 冒険者とはなんぞや?
 冒険をいとなむものあまねく冒険者と称するのもまちがいではないが、ジ・アースのならいでは各地に点在する冒険者ギルド、ここに所属するものへ冒険者の呼称がおくられる。さて今、ギルドを介しはじめての依頼をうけたものたちが三名。史亮(eb2301)、本那武司(eb2049)、夏目朝幸(eb2395)。
 まず何事も自己紹介は基本でしょう。見本をば、と初手を打つのは、五名の先達のひとり、昏倒勇花(ea9275)。髪を小指ですきつつ、
「あたしは、花の乙女こんとーちゃん。決して『最終兵器彼氏』でないわ!」
 自ら二つ名喧伝してしまう。無意識の抑圧ほど口をつく、複雑な乙女心はせつなくて。華国出身の巨人族の亮、ジャパンで目撃するちょっと特別な同族に目をぱちくりさせる。ジャパン語を解さない彼は、ふたつの言語をこなす武司を通じ、ぽそぽそと思う丈を世に発した。
「ええと。ならあなたは『美中年戦士ぼんごれを』か、って云ってますけど」
「美、までは許可。あたしもあなたのこと『ちゅうかなりょんりょん』って呼ぶわよ」
 版権とか世代格差とかがびみょうな会話は、また今度にして。
 特徴きわだつのは先達ばかりにあらず。たとえば冒険者にしても社会的にも新米であろう、朝幸、職業は秘密、だそうな。
「朝幸は世を忍ばなきゃいけないから内緒なのですー。ごめんなさいー」
「うーん。なんとなく分かっちゃったかもしれません」
 伊庭馨(eb1565)、苦笑。紋付きを着られるようになったばかりの十三歳に、本気のツッコミはできません。
 ところは、とっくに現場である。小鬼たちの目につかぬ死角での暇潰し、そこへ帰ってくる、倉梯葵(ea7125)と伊能惣右衛門(eb1865)。朝幸はぱっと顔をかがやかせる。惣右衛門が両腕でつくる輪におさまって、一匹の猫が幸せに喉を鳴らしていた。
「にゃんにゃーん」
「夏目殿は猫はお好きですかな?」
「お煎餅をとられたから、お猿さんはちょっときらいですー」
「タマは煎餅をとりませんので、ご安心ください。タマ、ご挨拶は?」
 彼ら、猫を拾いに行ってきたわけではなくってね。
 依頼した村へ委細確認だのに行ってきたところなのだ。今日より前の小鬼被害状況(ちょこちょことはあったが、それほど大きな悪さはしていなかったらしい。さすがに今回ばかりは見逃せなかった)、場所の特定(一箇所からほとんど動いてないそうな)、どの小鬼が太鼓を叩いているか(これは不明だ。小鬼を見分けるのは慣れたものでないと難しい)その他、彼らがいる現地点すら地元の人々からもたらされた穴場だ。
 葵たちからの報告を、武司は真率に聞き入っている。情報収集というのは簡単そうで、じつはけっこういろいろな技倆が必要とされる。なかなか厄介なものだ、と、武司はすなおに感嘆した。
「参考になります」
「慣れだろ」
 小川のようなきらきらした瞳を向けられると、むずがゆい。少々ぞんざいな葵の態度にも、武司の感服は翻らない。
「だけど、あとは任せてくださいね」
「頼もしいな」
「ばっちりです。遠足もとい小鬼退治のしおりには、おやつは一両までと記しておきましたから」
 一両=1G。バナナはおやつにふくみません(月道貿易で入手可。高価だけど)。
「‥‥報酬より高いおやつ代は、いかがなものでしょう」
「つか、しおりがいらん」
 馨の価値観、葵の常識、彼らのうしろで榊清芳(ea6433)は内心検討。結論「‥‥一両でも少ないと思う」。清芳のまぶたのうらでは、砂糖、甘葛、蜂蜜、麦芽が陽気な円舞をはじめている。
 しおりの是非はともかくとして、実行あらねば応報も得られず。勇花が、さぁ皆様、と声掛けて、
「愛あるかぎり、がんばりましょう! 命燃え尽きるまで!」
「おぅ!」「みゃあ」
 威勢よく同意の拳を突き上げる面々、でも一人まちがっちゃった模様。
「亮さん、なんでうしろ向いてんの」
「?」
 史亮、方向感覚にちょいと面倒あり。


 お椀のような空の下。たわわの黄をすべる、打楽器の調べ。
「こんとーちゃん十八歳(嘘)、たいこたたきまーす☆」
 葵から借り受けた太鼓を打っていると、まばらな拍子、数を累ねるうちにこなれてゆく。あら意外とおもしろいものね。夢中寸前に、小鬼たちの囃子をすっかり追い上げた潮合い、勇花は小鬼たちへ手をひらつかせる。
「こんにちは。どう、あなたたちのそれとあたしのこれ、交換してみるってのは?」
 小鬼には話し合いが通用しないが、この春風駘蕩の状況で、相手の意図がくみとれぬこともない。小鬼たちは毒をぬかれたように、勇花の挙動を見守っていた。
「送料と手数料はこちらで負担。おまけに、なんとっ。あたしの愛情一本までおつけしちゃうわよ?」
 小鬼、襲撃。
 しかも異様に、猛々しいし。
「どうして怒ってるのかしら?」
「言葉は通じずとも、共通の恐怖があるからだろうな」
 勇花のつぶやきが耳に入らないはずの位置で、葵はふぅっと明後日を見た。小鬼たちに太鼓を渡してもいいとは伝えていたが、その前後はなんかちがう。種族の壁を乗り越えてるといえなくもないが、とにもかくにも依頼遂行、と葵は馨や清芳とともに所定へ。
 小鬼たちの思考回路は、木の洞から手を引き抜けなくなった猿ぐらいに、たんじゅんだ。出発に多少の差はあったけれど、そろって勇花にむかって突進する。その、彼らの征く道の前方に、ぱららと。一つめの砂利に二つめのつぶて、三つめの石くれ。
「えいやー」
 朝幸、あらかじめ集めておいた石やらを啖呵を切って投げつけている。水飴のかたきですー、甘酒のかたきですー、あられのかたきですー。‥‥たぶんその小鬼は、朝幸のおやつを横取りした小鬼とはちがうだろうが。
「お煎餅のかたきですー」
 最後の一投は、朝幸のあたまほどの大きさもある。頬を猩々にあかくしての投下。茶を一杯飲み干せるていどの寸刻をおいて、鼓韻とはまったくちがった打撲の音が零の低さからあがる。ひょこ、と顔を上げた小鬼、あ、たんこぶ。朝幸はなんだか呆れてしまう。さすが御仏の加護――というか、惣右衛門のグッドラックの効果。てきとうな軌道のわりには命中している。
 でもそれはほんとうに幸運だったんでしょか。だってさ、小鬼さん。ただでさえ怒ってたところに、石とかぶつけられちゃったわけだから。
 大事を予感した朝幸。背走・逐電・ほうほうの体。でもめくらめっぽうでもない、しっかり言い合わせた方角めざして一直線、しかし惣右衛門とタマの待つ場所まではそれなりにある。朝幸の逃げる速度と小鬼の追う速度はどっこいどっこい、いや、地の利をみたならむしろ小鬼のほうが有利で、朝幸にすがるすがらないのとき。
 待て、と。
 二人の華国人、亮と武司。たちはだかる。
「子どもをいじめるのは感心しないでござるな、と、亮さんが云ってるんでね」
「‥‥」
「え? 待って亮さん。それ、ジャパン語でなんて云うか、私も知らない」
 通訳はたいへんだ。自分の台詞をおちおち決めちゃいられない。が、芝居じゃないので、そんなの小鬼たちは知ったこっちゃなく、五対二、数を頼みに二人へおどりかかる。
 刃の欠けた斧が六尺棒をせめぎ、鉄塊で抑えつけられたような負荷が亮の肩にかかった。が、耐えられる。無造作に横様へ薙ぐと、たいした抵抗もなく小鬼はごろりと転がった、しかし亮に息つく余裕はない。べつの小鬼のふるう柄の一撃にしたたかに脚を打たれ、切れ切れの闇が稲妻にひらめく。道場では味わえない多角的な攻撃に、小さな隙を衝かれた。
 それが冒険者なのでござるな、と亮は思わず知らずに笑う。どんどんはずむ呼吸を、それこそ太鼓のようだと考える。
 しかし、少々不自然な戦闘のはじまりに、違和感をかんじた小鬼もいたらしい。それが振り返ると残してきたさきに、菜の花とはまったくことなる大きな影がゆらめいている。警告の叫びが小鬼たちを満たした。
「待て!」
 元いたところに還ろうとする小鬼たちを追いかけて、武司は前に出る。ここで戻られては陽動の意味をなさない。体を張ってでも引き留めろがんばれ私! 失敗しても次はある(かもしれない)けどやっぱりあんまり失敗したくないから、だいじょうぶきっとうまくいく! 身軽な体を遮二無二に運び、けれど武司ははっとする。
 やばい、少し突出しすぎた。囲まれてる? おまけに小鬼たち、
「ものすごく怒ってないか」
 今までが今までだから。

 小鬼が西向きゃ太鼓は東。油断のあいまに葵たちは、小鬼たちのうしろからそれへ足早に接近する。あまり上等な太鼓であるとも思えなかったけれど、地べたに直接放り出されている風情は、秋風索漠とものがなしい。
「三人で交代にもつか?」
「では、私が最初に」
 馨が両腕を伸ばす、けど。
「って」
「はっはっはっ。これはとてもたおやかな太鼓ですね」
「伊庭、てめえぇぇぇ!」
「‥‥伊庭さん私は‥‥いくら図体が丸く見えたからといっても‥‥」
 どさくさにまぎれで(ほとんどまぎれてないが)、いつかの惣右衛門が猫を抱いていたように、清芳を横抱きにかかえてぴょいこら離脱する馨。残された肝心の太鼓を持って、しかたなしに葵はうしろから追いかける。馨の腕にもたれながら、清芳は逃げようとするでもなく、深く考え込んでいるようだったけど、しばしのあとに「クリエイトアンデッド」と謎の一言をつぶやいた。
「どうしました?」
「ほんとうはクリエイトアンデッドで、あちらをてつだいたかったのだが」
 しかしクリエイトアンデッドで死体を使役するには、前提として死体が存在しなければならない。そして生成されたズゥンビ=死人憑きの能力は生前の能力に左右される。要するに、強者は死後も強者なりや。
「‥‥伊庭さんなら、優秀な死人憑きになれるだろうな」
 ずざざざざーっ。
「おい、こら。女性をかかえながら転ぶな、んなことしてるからだろ」
「い、いえ。ちょっと斬新な殺し文句を聞かされたもので」
 たしかに、忠実な意味での殺し文句かもしれぬ。死んでも喇叭を離しませんでした的に、清芳を転倒の土埃に捲き込まなかったのはあっぱれ、馨、このまま水平を続行していては――にされかねない、と、はねあがる。
「こんなところで囀っているひまはないんですよ。はやく太鼓をもって還りませんと」
「いや、先にやったのはおまえだろ」
「クリエイトアンデッド‥‥」
「離れましょう!」
 逃亡。
 能力以上にみえなくもない機微を発揮しながら、馨は両の脚をはたらかせる。云ってることはまちがいではないと思うし、すぐにあとを追わねばと思うけど、そのまえにどうしても葵は清芳に尋ねずにはいられなかった。
「榊サン、何かやったのか?」
「さぁ? 私は伊庭さんを褒めただけだが」
 清芳、大のつく真剣。

「とうちゃくですー。一着ですー」
「夏目殿、よくがんばりましたな」
「景品はお煎餅がいいですー」
「団子もお茶もありますぞ。しかしあとからですな、もうすこしタマで我慢してください」
 無事に逃げ切った朝幸がもふもふを楽しんでいたころ、武司は存亡の危急にたたされている。気付いた亮がなんとかしようとしてくれているのは見えるが、彼の場所は必要よりも遠い、星を乞う子どもの気持ちが痛いほど分かった。
 金属を被せた右の拳を、たしかな相棒として、なぜる。こうまで来たら覚悟を決めるしかなかろう。技にはあまり自尊をいだけなかったけれど、膂力ならばそれなりだ。ええい、こうなりゃ差し違えてでも――真拳勝負だけどね――と覚悟を決める。右手は敵にやり、左手は己に。軸足の重心を移して武司が打ちかかる小鬼を迎えようとしたそのとき。遅れてきた救いの女神がぬっとあらわれる、六尺四寸の彼女にして彼。
「ほら、今のうち、とっととやっちまいなさい!」
 勇花だ。
 ごつごつとする小鬼の胴を、乙女のふくよかな全身でしめあげる。ぎゃ、と挽き潰した声の小鬼を、興味をなくした男を捨てる仕草で、勇花はぽいと投げ出した。あとは好きにしていいわよ、と、武司のほうに。
「飛び出しには気をつけなさいね」
「ありがとうございます」
「分かればいいの」
 唇に人差し指でなでて、勇花は、決め。さーどんどんいっちゃうわよー。手工業な緊縮を、片端から試す。そうしてのびた蛙のような小鬼たちを、遅れてきた亮といっしょになって、武司は小鬼たちへ順当に引導をわたしてゆく。
 も、こうなりゃ、わけもない。放されたとき、五匹の気絶寸前の小鬼たちは半べそかくようにしてどこかへ去っていった。太鼓? そんなものはもはやふりかえるゆとりはない。あたら遠くをみやれば、基地をあたためていた惣右衛門たちはともかくとして、葵たちも無事らしい。
 あ、と思いつき、武司は馨のそばへ寄る。どうしても云いたかったことがあった。
「転んだからって、泣いちゃダメですよ。明日がありますからね!」
「‥‥よくそこまで観察できましたね」


「専門的なことはよく分かりませんが、皮さえ張り替えれば‥‥」
「なんとかなりそうですかな?」
「おそらくは。筒が割れていたりはしませんから」
 馨がかるく筒をはじくと、カツ、と木製の響鳴が初夏の日差しへやさしくにじんだ。惣右衛門は目を細める。古物商にみせれば二束三文でしかないような安物だろうと、村にはどんな言い伝えがあるともしれぬ。農業を生業とするものが口承を親からの財産ほどにたいせつにする気持ちは、隣人のようによく知っている。傷のない状態で返してやりたいというのは、冒険者の意地や見栄ではなかろう。ひっかきたいのかうずうずするタマをおしもどすため、「あとで煮干しをやるからに」と惣右衛門は背中をひとなでしてやった。
 と、お仕事はそうそうにきりあげて。
「花見、はなみーーーっ!」
 ある意味、こっちがほんもののお目当てだったというか。すでに調達しておいた甘味だの食料だのを、魔法でもかけられたような手際のよさでひろげる。特に、がんばったのが亮と清芳。好きこそものの上手なれ、は、なにかちがう?
 どうせなら村の方もごいっしょに、と、馨が村へ呼びかけに行ったので、開始はもうすこしあとになる。亮は改めて周囲を見渡した。黄色、黄色、春の海、みどりの芳香とともに十字の微少な花弁がどこまでも。
「ジャパンはいかがですかな?」
 惣右衛門に話しかけられ(もちろんあいだに武司ははさんでいる)、亮はひとつうなずく。能弁よりもおしゃべりな沈黙もあるのだ。皆、それなりに活躍できてよかったようだな、と、清芳の安堵が静寂を縫う。いざ訪れた平和はまるで照れ屋で、太鼓のとてん・たたんも恥じらいながら顔をかくす。
「いいお天気ですな」
 いわずもながなが、これほど似合う。昼下がり。

 武司のしおりには、最後、こう付け加えるべきであろう。
『冒険者ギルドに帰るまでが小鬼退治です』