二儀の人探し

■ショートシナリオ


担当:紺一詠

対応レベル:1〜5lv

難易度:易しい

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:06月11日〜06月16日

リプレイ公開日:2005年06月19日

●オープニング

 パラだ。パラの、男性で、子どもだ。幼児体型のなせるちょこまかばしりでギルドに駆け込んできたかと思えば、踵をあげてよいしょと高坐にもたれる。
「ごめんください。人探しをおねがいしたいんですけどー」
「はいはい。どんなお人を、どのような事情でお探しで?」
「たぶん、じゃないや、ぜったいに冒険者の人です」
 なんだか辻褄のあってない表し方だが、それも幼さゆえのてちがいか、そういう仏心は次の瞬間、無様に霧消する。
「あのね男の人のおっきい人肩幅がこーんなにあって胸板もこーんなに厚くってまさに精悍ってゆうのてのひらも鉄鍋みたいに大きくってたぶんジャイアントじゃないかなぁって思うんですけどもしかしたら人間のおっきい人かもしれません僕はみてのとおりパラですけどでもジャイアントの人っておっきくってかっこいいですよね僕もジャイアントの人みたいになりたいなぁ本当はジャイアントのお兄様ができるのが一番なんですけどぉでもかっこよい肉体派ならこのさい誰でもいいかも(ここまで息継ぎなし)」
「‥‥ちょっと待て」
 このまま放置しておけば季節がめぐるまで延々しゃべりつづけるんじゃなかろうか、のいきおいを、ギルドだってお仕事ですから、無理矢理に中断させた。
「それは本当に人探しなんだな? まさかこの期におよんで自分の好みをべらべらくっちゃべってるだけじゃなかろうな? 後半はもはや、それですらなかったが」
「ちがいますよー」
 パラの少年は、けらけらと、さも軽そうに笑った。
「僕の好みは、『兄貴』、それだけです」
「帰れ」
「やだ。帰りません」
 負けるもんか、とギルドの柱にかぶりつく。おまえは気の早いかぶとむしか。
「見つかるまでここにいるんですー。決めたんですからー。図書寮でお見かけして以来ずっと気になってて、今日やっと勇気をだしてここまで訊ねてきたんですもの。僕って恥ずかしがり屋さんだから、なかなかいいだせなかったんです」
「恥ずかしがり屋さんは柱にしがみつかないだろう。‥‥ん。図書寮?」
「はいっ。あ、自己紹介が遅くなりました。僕、西中島二儀です。京都御所の図書寮で小間使いをしております。十二歳です」
「いや、年齢まで訊いてないし。つか、おまえみたいのがよく御所に入り込めたな」
「見る人にはなにかが見えるからでしょうねー」
 つまり、見ないヤツはなにも見ない、と。
 おとなってきたないね。
「図書寮か。図書寮にゃあうちのもんもけっこうお世話になってるからな‥‥」
「ね、ね? そうでしょう? だから僕の依頼もうけてくださいよ。ねー?」
「しゃあねぇな」
 ぜったいに関わらないほうがいいような依頼が通された理由は、図書寮に私的な人脈をつくっておくのは悪いことではないだろう、という思惑もある。やっぱりおとなってきたない。
「で、最初にもどるけど、おまえはいったい想い人を見つけてどうしようってんの?」
「それは」
 二儀は、ぽ、と頬を染める。その様子だけなら子どもらしくもあるんだけど。
「一晩じっくり暗い部屋で二人っきり、手取り足取り。あ、手取りっていっても実質のお給料のことじゃあないですよ。足取りっていっても相撲の決まり手のことじゃないですよ。最後に『腰取り』のつく『手取り足取り』です。腰だけでもいいですよっ」
 云ってることは問題外に子どもじゃないんだけど。

●今回の参加者

 ea0722 東樂坊 春慶(36歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 ea7125 倉梯 葵(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8502 大空 北斗(26歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea9032 菊川 旭(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb1865 伊能 惣右衛門(67歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 eb1963 蘇芳 正孝(26歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb2074 不破 和馬(37歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb2245 佐紀野 緋緒(37歳・♂・陰陽師・ジャイアント・ジャパン)

●サポート参加者

伊庭 馨(eb1565

●リプレイ本文

●ギルドにて
 その人、とはいつどこでどのようにかちあったか――お日さまの照っている時分図書寮で運命の出会いをはたした。外見の特徴は――すばらしくかっこいい。せめて髪とか眼とか――神々しく荘厳でさながら明星がきらめくよう。
「かのように、のたもうておられましたな」
「つまるところ、いっそ爽快なくらいどうでもいい、と」
 依頼がとおったとみるや、とっととギルドを退出した二儀。伊能惣右衛門(eb1865)の質疑に応じるいとまぐらいはあったものの、その、あまりの中身のなさに、倉梯葵(ea7125)はほとほと疲れる。惣右衛門にまかせてよかったな、と。帳尻がそれでは、自分だったらばぜったいに途中で何事かをやらかしてたいたことだろう。種々の風雪をしのいだ年功ならではの、惣右衛門のようなしなやかさがあってこそ耐えられる。葵、再度の溜息を惣右衛門への返信がわりにもちいる。
「そんなん冒険者にあふれてるって。つか逆に‥‥花とか星とかしょってそうな、キラキラしたやついたか?」
「さぁ? いろいろなお人が冒険者ギルドには出入りされますからな。ふむ、こちらもなんだか二儀殿に探し人にお会いしとうなりました」
「‥‥俺は遠慮する。しかし、なんでそんなに一切合切がうやむやなんだ」
「なんでも、その人に会ったとたん世界が薔薇色につつまれたそうで、しっかりしたことを憶えておられないそうですよ」
「あぁ、そう。薔薇。そろそろ花をつけるころだな」
 薔薇はきれいね。少女のごとくつつましく貴女のごとくあでやかに、かぐわしき童子たちが庭のそこかしこにほころびかけよう。ただ‥‥なんでか‥‥白日夢を描こうとしたとき、妙なまぼろしもいっしょにちらつくのだが。それは葵の知己の面影をともしており、あまつさえ、薔薇とパラって似てますよねーふふふ、といった幻聴を耳朶に吹き込むのだ。背筋をなであげる悪寒。よろめきかけた葵を、惣右衛門は気の毒そうにみやった。
「夏風邪ですかな? こじらせてはいけませぬ、しょうが湯でも頼んでまいりましょうか」
「だといいんだが」
 世の中には風邪よりもたちのわるいナマモノがいくらでも存すること、葵はよく承伏している。そしてそれは案外ひっそりと隣人として息づいている。とりあえずは、湯呑みをくるむぬくもりをかいこんでそっと心を癒そうか。

●寺田屋にて
 東樂坊春慶(ea0722)、蘇芳正孝(eb1963)、佐紀野緋緒(eb2245)はかの「寺田屋」に立ち寄っていた。少なからぬ数の冒険者が出入りする酒場。冒険者の情報を入手せしめんとするならば、ギルドに次いでここが適している。梅雨時にはいろうと変わらぬ繁昌をみわたして、正孝はなんとなしに安堵した。きっと手がかりがあるだろう。
 正孝ひじょうに前向きで、というのもいくばくかの誤謬をいだいているせいなのだが。――パラとジャイアント(それとも人間)の兄貴? その組み合わせはありえなくはないのか? 義兄弟か。それも違う? 義兄になってほしいと今から頼むわけだな。ひたむきな。これはぜひともかなえてやらねばならぬ。
 どこもかしこも合ってないよ、な正孝の思いこみを添削してやろうというほど、春慶も緋緒も人はできていない。特に、春慶、
「なんでこっちに来てんだ」
 緋緒へうざったげな視線をおくる春慶(←正孝に吹き込んだ当人)。雄弁よりもありありと「あんたがいなきゃ好き勝手できるんだけどな」という本音を湛えている。春慶の吹かせる険呑な風をしりぞけて、緋緒、人いきれにつらしかんだ。
「いえ、なにがしかが本能に警鐘をもたらすものですから。ですが、ここは‥‥」
「豊作だな」
 基本、冒険者は肉体労働。仕事量のわりに筋のつかぬものも大勢いるが、もちろん見合った体格をほこるものだってたくさんいる。雲霞のごとく、はいいすぎだとしても、わきたつ人に人、人。すぐさま声をかける気力もわかず、緋緒はしばらく所在を亡くす。
「‥‥先日は犬。今回は、兄貴。次は魅惑のお姉様でも探してこいというのでしょうか、ギルドは」
「それはあり。月道の巫女さんの氏素性とお誕生日と胸囲と胴囲と腰回りを調べろって依頼だったら、こっちからギルドにおねがいしたい」
「して依頼料は?」
「ねぇ」
 不毛だよ。年少の正孝がせっせと情報収集にはげむかたわら、いいおとなが二人して何やってんの。しかたがないな、と春慶ものろのろと酒場をまわりはじめた。はしのほうからてきとうにあたりをつけて、なにやら不穏当な発言で、
「少年は好きか? いいのが居るんだけど‥‥そうだ、蘇芳こっちゃ来い」
「何用だ?」
 呼ばれてすなおにちかづく正孝。春慶はてばやく彼の両肩をつかむと、彼の体を回転させる。事情についていけぬ正孝が勘づいたときには、彼、見知らぬ男性の目前におしだされている。うしろから、声色もつかってないのに、邪悪げな色ありありの春慶の呼び掛け。
「手付けとしてこのあたりでどうだ? ぴちぴちでお買い得だと思うが」
「待ちなさい。そこな生臭坊主」
 細い刃、分かつは空の、春慶の二寸以前。
「‥‥佐紀野。酒場で薙刀はふりまわしちゃいかんぞ、薙刀は。仮にも陰陽寮仕えの陰陽師とあろうものが」
「そういう春慶殿こそ、僧兵が公共の酒場でみょうな商売をもくろむのはやめたほうがよいのでは?」
 ただひとり正孝とりのこされて「ぴちぴち?」自分はいつとれたての蟹料理になったんだろう、と考える。って地域限定ネタすぎたわー。

●図書寮にて
 『兄貴』求む。心当たりのある方は図書寮の西中島二儀、または冒険者ギルドまで。
 と、図書寮の門戸にたてつけられた木板が、風にゆられてコトコトと鳴る。
「これで見つかったらいいんですけど」
「わーい。僕、字には自信がないから助かりますー」
 字のキレイキタナイはさして問題ではない、と教えてやるべきか。それとも元々の根底からしつけなおすべきか。菊川旭(ea9032)はたいしてわずらうこともなく結論に至る。後者だ。が、それはしばらくあとまわし。大空北斗(ea8502)ときゃっきゃとやってるうちは、無罪の北斗をまきこんではわるい。
 図書寮はひっそりと静閑にしずむ。うすめの日射しにちらつく金色の塵埃が、ゆるりと内部を対流する。図書寮はめったに訪れぬ旭だが、知識の伽藍に似つかわしいつつましさは嫌いではなかった。逍遥のつもりで一足、が、それは半歩のところで断たれた。懐炉をあてたわけでもないのに、背中がやけにぬくい。ふりかえれば二儀が熱中のまなざしで旭を見ている。
 射程範囲か?!
「旭さん。お身内にもう少しお背の高い方はおられます?」
「兄はいるが‥‥。無理だと思うぞ」
 よかった。間一髪。しかし旭の安寧はたいして長くは続かなかった。
「旭さん、お兄さんがいるんですか。二儀くんとおなじですね」
 北斗の爆弾発言。ちがう。その『兄』とこの『兄貴』とは、ほんとうに、まったく、ひっくるめてちがっている。ただ「あ、そうか。二儀くんは実の兄君を探しているんじゃなかったんでしたっけ」とはやばやと気付いてくれたのが幸いだったが、油断はできない――天然な北斗と人工の二儀が会話をはじめて、できようわけも、ない。
「二儀くん、無事に見つかるといいですねっ。手取り足取りおそわるんでしたっけ?」
「はい。手取り足取り腰取りです!」
「それってどんなことをするんですか。腰‥‥?」
「ええと、実際にやったほうがはやいのかなー?」
 旭、またまた窒息寸前におちいった。こんなところでそんなもん講座してくれるな、二儀殿にやらせるくらいなら代わって俺がやってやるから! 旭、それは立派な恐慌だ。上げられたり下げられたりで、判断に狂いが生じているらしい。しかし好奇が充たされるときを今か今かと待ち望む北斗が、その猟奇に気付くわけもない。危うし北斗。危うし旭。食って食われてしまうのか?! べべんべん♪
 が、こういうときこそ、どちらさまにもご愛敬のこと。
「あぁ、探した。こんなところにいたのか」
 すこし遅れて登場の不破和馬(eb2074)。邪魔ではないようだとは勘づいたものの、歓迎ともまた異なる空気。ひらたくいやぁ、びみょー。
 依頼を受けたはいいものの肝心の依頼人をなかなかつかまえられじ、で、図書寮へ自らがおもむけばいいのだと気がついたのが、和馬、ついさっき。とばぐちの断り書きにいっしゅん惑いはしたが、云われたことはやってやろう、と人を訪ねてここへ来た。そしたら不思議な殺気を漂わせていた、という次第。
「――‥‥悪いことをしたか?」
 とんでもない。ようやく理性をとりもどし「俺はまだ正常の此岸で生きていかれる」と旭、滂沱の涙で彼を出迎える。それ以上に喜んだのが図書寮の小間使いであった。理由――それは和馬の特徴をあげていけばことたりるだろう。和馬、二十六歳の男盛り、背丈は五尺八寸、北辰流の精練で鍛え上げられた身柄はひきしまっており抜き身に走る露のごとき修羅気をひめている。二儀がよだれをぬぐいながら和馬に飛びついたのも無理からぬことなのかもしれない。
「『これ』! この人『で』いいです! やったあ。みなさん、ありがとうございます!」
 ――『これ』? 『で』? ほとんどものあつかいなのだが、もしかしてジャパン語の基本までもしつけなおさなければいけないのか? 旭、新たな頭痛の種をかかえる。しかしまぁ、犠牲者ならぬ探し人も見つけられたことだし、これで依頼は無事終了なのかと思ったら、二儀はいますぐギルドに行かねばならんと主張する。
「なにかすごくいいものが待ってそうな気がするんです」
 おそらくそれは二儀にとって「だけ」いいものなのだろう、と、旭は思う。和馬は「図書寮で騒ぐのも迷惑だからよかろう」と思う。北斗は「いいものってお菓子かな?」と思う。三者三様とはこういうこと。

●一周まわってまたギルド
「おかえりなさいませ。いかがでしたか?」
「ダメだもう。佐紀野のやつが薙刀ふりまわすからよ、追い出されちまった」
「それが生命減衰の呪まで持ち出した人のいうことですか!」
「‥‥そんなわけだ」
 惣右衛門でなくとも、まともに探し回っていたのは正孝だけだと勘づくのは容易であった。二十六歳同士のおとなげない二人のあいだに火花が散っているから、惣右衛門は正孝にのみ椅子をすすめる。正孝はいくらか気落ちしているようだ。寺田屋での聞き込みが成果をあげなかったゆえだが、しかしそれは、その場に居合わせなかったものにすら、正孝のせいではないと分かる。惣右衛門はこまごまと茶のしたくをはじめた。
「そう、落胆するのははようございますよ。旭殿たちもまだお帰りにはなっておりませぬ。」
「そうだといいのだが‥‥」
「おっじゃましまーす!」
「ほ、ほ。そら来ました」
 噂をすれば影がさす。まもなく意気揚々とギルドへわってはいってくる二儀と冒険者たち。和馬の腕を勇んでひっぱりながらギルドの暖簾をくぐった二儀は、ギルドの人員を見渡したとたん、たいせつな和馬の腕すら放り出しかねないほどの歓喜をみせた。
「こんなところにも僕のお兄様が!」
「うわーあまりにそーぞーどーり」
 やっぱり誰でもよかったんだな。意識を読まれたようにどんぴしゃな展開に、棒読みとおりこして、葵は仮名しゃべりになっている。けれども二儀は小首をかしげて期待はずれを訴える。
「でも、僕の予想では、もっとたくさんお兄様がいるはずだったんですけど」
「はぁ?」
「伊庭馨さんって方がくださった資料によれば、『倉梯葵』って人がいいよーって」
「そいつはいない。今朝、遠くへ旅立った」
 咄嗟に自分を葬ってまで身を守ろうとする葵。細い体を少々わざとらしく見せつけて、肉のすくなさをうったえる葵。馨やる、を内心にしかときざむ葵。けっこうけなげだ。
 二儀の瞳はまっすぐに緋緒へ向けられていた。しかし緋緒、ついさっきまではたしかに春慶ととっくみあっていたし、肉体の条件ならば春慶だってそう変わらなかったはずなのだけど。緋緒がはっとしたときには、春慶さっさとギルドを退出する支度をはじめている。
「俺は今から、月道の巫女さんの氏素性と(略)を調べにいかねばならん。あとはまかせた、佐紀野!」
「依頼の最中に勝手に依頼をこしらえて、それを実践しないでください!」
 もう遅い。緋緒はがっちりとパラにおさえこまれている、二儀、もう片方の手には当然和馬をつかまえたままだ。両手にある意味あでやかな薔薇の花。嬉々とでたらめな歌までさえずる。
「どっちも僕のお兄様ー♪」
「よかったですね、豪勢で。青い鳥ってやっぱり近くにいるんですね」
 北斗、よく分からないままに、二儀を祝福する。二儀は、さ、それではいますぐ参りましょう、と緋緒と和馬をギルドの裏へといざなう。それを緋緒が、私の家にしましょう、と制する。運命を受け入れる準備はようようできたところ。
「僕も行っていいですか?」
 と、北斗。
「あ、でも、二儀くんはふたりっきり‥‥三人きり?のほうがいいんですよね。僕、お外で待ってますから」
「どうぞ。かまいませんよ」
「うん。みんなでやるほうが楽しいですもの」
 二儀のあいもかわず一線を越えた言動に、旭、もはやツッコミの余裕もない。息も絶え絶え、生ける屍同然にギルドのすみで突っ伏している。それを惣右衛門、
「衆道はお武家さまのたしなみと聴いておりますが‥‥慣れぬ人もおりますのですなぁ」
 なまんだぶ、と旭の成仏を合掌でおくりだした。

 その夜の京。もれだす声は悲鳴じみていて、北斗をはらはらさせる。
「どうしよう。だいじょうぶなんでしょうか――?」
 でも、けっこう楽しそうですよ?
「そう力まず楽にしてください」
「あぁん、もう♪」
「硬いから‥‥そう、その調子‥‥」
「あつーい♪」
「腰がふらついてますよ、止めます?」
「や、ですぅん♪」
 ♪が最後についているのが、二儀のものだとは説明せずともよかろう。
 翌朝。
「刀鍛冶はいかがでしたか?」
「刀をきたえるのに刀の味を知らぬとは情けない話。稽古はどうであった?」
「やーん。とっても最高でしたーー♪」
 緋緒と和馬の問いに、二儀はくねくねっと。刀はできなかったが、そうそうたる被虐趣味者がいっちょできあがり。って冒険者たち責任とれぃ。
「僕も?」
 そばで聴いていただけの北斗、わけもわからないまま、ごめんなさいをどこかへつぶやく。精神の純潔はいまだ守られていた。よかった、とりあえずひとりは助かって。
「いや、なんなら俺が教えてやろうか?」
「すまん。そろそろ俺にもあばれさせてくれ」
 二儀にふるえなかった鉄鍋の拳を旭がちからいっぱいたたきこみ、ゴーン、と響く鐘で依頼が終了するのである。

 ついでに、
「月道の巫女さんどこーっ?」
 ほんとうに捜してたんかあんた。もちろん、成果は、ない。