はむはも

■ショートシナリオ


担当:紺一詠

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月16日〜07月21日

リプレイ公開日:2005年07月24日

●オープニング

「‥‥巨大ハモ」
 いかにも、京!夏!名物!(「巨大」の部分だけ抜かしてくれぃ)な依頼は、端的にあらわせば「巨大ハモが出たみたいだから、なんとかしてほしいかも」とごくごく単純だ。しかし、内容には炎天下のかぎろいのごとく、なんだかんだで奇特がおおい。それは、みたい、かも、の複数使用からもうかがえる。どうにもすべてがあやふやにすぎるのだ。
「証言が一致しているような、一致してないような」
 ある海辺で「なぜか」巨大ハモの目撃証言があいついだ。その時間帯は符合している。おおよそ一日のうちの明るいほうの引き潮の時間。妙なのは、目撃の場所だ。あるところでは見えて、あるところでは見えない。同じ方向を同じ時間に(‥‥まぁ、これにはすこし嘘がある。ジ・アースのこの時代にすぐれた時計仕掛けがあるわけないのだから、距離をおいた場所での同一の時刻なぞ精密にはたしかめようもない。が、太陽の傾度からだいたい等しい時刻であろうと知れた)眺めたにも関わらず、だ。
 そして、次なる謎は、巨大ハモの挙動。
 なにをしていたというわけでもない。なにもしてないのが、問題だった。海面から鎌首もたげ、獰猛な牙そろえた口角ひらいて日浴みをしていた――表現はたがえどどれも似たり寄ったりの、こんなかんじの供述ばかり。あぁ、べつにもあったか。なにをしていたかよく分かりませんでした、って、それほど視力が悪くないはずの人が云う。何も行動を起こさぬ巨大怪物なぞ、かえって気味が悪くてどうしようもない。
 最後の謎は、ちょっとひねってこんなもの。
「巨大ハモの見えたあのあたりって、遠浅じゃなかったかしら?」
 いっけんなんでもなさそうだが、ほら、おかしい。巨大らしい魚類が、浅瀬をふわふわ漂流してることなんてあると思う? たしかにそこまでは舟をかなり漕がなければならないが、行って行けない距離ではない。が、実際に間近で巨大ハモに遭遇したというものはあらわれなかった。
 靄でかためた砂糖菓子のように、おかしなことばかりの、この依頼。
 でも、海で遊べる口実だと思って、気楽にやってきてくださいな。おみやげ、誰かが期待してる「かも」。

●今回の参加者

 ea0062 シャラ・ルーシャラ(13歳・♀・バード・エルフ・ロシア王国)
 ea3192 山内 峰城(34歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea8115 セシル・アークライト(36歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 eb1048 グレン・ハウンドファング(29歳・♂・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb1790 本多 風華(35歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb1963 蘇芳 正孝(26歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb1975 風樹 護(40歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2688 阿須賀 十郎左衛門暁光(62歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 蜃気楼――光の異常屈折により出現する幻像。「蜃」と呼ばれる大はまぐりの呼気が凝ったものと考えられた。

●蜃気楼――マジカルミラージュっていうのはね、
「怪現象の正体は蜃の悪戯――蜃気楼でしょうね、おそらくは人為的な」
 すっきり水際だつまなこに光る沖を入れれば、銀河のごとく繁るまぶしさ。日常より一歩はやい程度のまたたきして、風樹護(eb1975)はつぶやいた。文被月の海洋は、蒼と碧がひとつになるほどかたく互いを抱き寄せる。あけすけな放免の季節が灼きつく。
 阿須賀十郎左衛門暁光(eb2688)もひとつうなずき、護の所見に同意する。そしてまた蘇芳正孝(eb1963)もひかえめに共感をしめす。
「蜃気楼だとするなら証言がおぼろなわけも‥‥頷けるな」
 昼日中にしか観察されないことも納得がゆく。私意ある蜃気楼――なにものかがマジカルミラージュを行使しているという条件を附加すれば、他の多くのなぞも解き明かすことができる。いささか多すぎる目撃の頻度も、金色の光の存在も、いまだ実物がどこにもあがっていない原因も。しかし、暁光はもう幾分、奇妙をかかえているようだ。
「陰陽の蜃気楼の術は、方向により見え方が違うものであったろうか」
 じつは、これもまた、マジカルミラージュの現象だととらえれば不思議はきえる。焦点は方向ではなく、距離だ。マジカルミラージュの幻影は近接ではまったく視認できない。事実、あとから本多風華(eb1790)が確認してきたことだが、おばけハモがあらわれたという日、見なかったと証言するものの多くが海に出ていた。
 が、グレン・ハウンドファング(eb1048)はどこかしら険の相。彫りの深い顔立ちに、不満と気儘と計略をきざむ。
「蜃気楼か‥‥。今まで人の腹に収まってきたハモたちの恨みが集った怨霊であれば、興味深いのだが」
「不吉な想像はやめとけって」
 ちょっとおもしろいけど。
 山内峰城(ea3192)、把手くるぐるするよう、かかえた釣り竿をぴょいと回す。そのてっぺんに、破顔もきらびやかな、秘伝のてるてる坊主。マジカルミラージュをたしかめるならば当然、晴れの日でなければならない、だから埃かぶっておやすみのところをわざわざ七月にご出勤いただいた――ちょっと嘘だけど。
 それをどうしていまさらふらつかせてるかといえば、そうやるたびにシャラ・ルーシャラ(ea0062)が飼い猫といっしょになってじゃれつくので、ついついおもしろがって、幾度もためしているのだ。
 しかし、もともと熱にはよわいシャラだ。炎天下でよけいな運動をかさねれば、ゆきつくところまでゆきつく。
「ふみぃ。つかれましたーとけちゃいますー」
 へろへろ、とシャラがくずれたとたん、暁光のげんこがようしゃなく峰城の後頭部に衝き込む。そのあとしばらく、峰城は釣り竿でなく、シャラの持参の団扇をシャラにむけて振る仕事を余儀なくされました。
 ジャパン語はまだ充分把握できてないから、と、セシル・アークライト(ea8115)は、冒険者たちの相談におとなしく、けれど熱心に耳をかたむけていた。ほんとのことをいえば、ハモがなにかすらまだよく分かっていないセシル、会話のながれについていくのがどうにかこうにかで、細部の意までは分かっていない。切れ目をみつくろい、ついには質疑をさしはさみ、
「シンキローってなんですか? 神拳きわめてそうな、かっこいい名前ですね」
 あんた、ほんとはジャパン語、達者だろ。

●聞き込みをするさいは「なにを知りたいか」はっきりさせましょう。
 引き潮までには、両腕ひとかかえにしてもあまるほどの時間があった。それまではちょっと泳いで一休み、というしきたりのゆきとどいてない時代のこと、冒険者たちは漁村をめぐり、情報収集。‥‥およごーよーはっぱー(←?)。
 しかし正孝はひとり、借りた舟を陸で漕いだ。たどたどしく櫓櫂をあやつり、舳先はああして艫はこう、と、空想の舫をつむぐ。なんとかなりそうだ――水がなければ、って、それはなんともなってない。
 そうこうしているうち、風華がはやめにもどってくる。育ちのよい性質には潮風がここちわるいのか、あまり機嫌のよろしくない風華だが、それを通知するときははちょっとほこらしく、顔色をあかるくした。
「事件を解決できたら、ハモを供するお店を紹介してくださるそうですよ」
 マチナサイ。
「私は梅肉添えが好きなのですけれど、ここらではどう料理するのでしょうね。‥‥正孝さま、変な顔をされてどうされました?」
「それは、まっさきに報告しなければならぬぐらい大事なのだろうか」
「たいせつなことじゃないですか」
 やる気をのばすのはたいせつなことでしょう。
 そりゃ自分もハモは食べたいけれども。正孝が風華のことばをどうあつかっていいものか、あぐねていると、他のものもみとおしがついたらしく、正孝の修練ぶりをのぞきにきた。なかでセシル、さも重大なことだというふうに、
「このあたりの人は『ハム』を食べたことがないそうです!」
 力説。こぶしふって。
「厚切りをあぶってパンにはさめば、あんなにおいしいものを、もったいない! ‥‥――ん? じゃあどうして食べたことのないものをまのあたりにできたのでしょう? それに、ハムは魚肉ではなく獣肉だったような。もしかして『カモ』のまちがいだったのでしょうか? ‥‥どうしたんです、正孝さん倒れて? 暑さにやられましたか?」
「『ハム』でも『カモ』でもない。『ハモ』だ」
 グレンがセシルを諭す。ものごしだけは絹のようにやわらかく、しかしどこかが井戸の真下のようにどすぐろい。
「ハモというのはね、ジャパンの魚の一種だよ」
「どんな魚なんでしょう?」
「それはね、ジャパンでは仏と神のつぎに位置するくらいに神聖な魚類だ(嘘)。しかし最近は、黄泉人とおなじように黄泉ハモも出現してね(大嘘)、その上位級として強大なる黄泉ハモ大神というものもいてエビやタコの平和をおびやかしているのだ(大海原のごとくどこまでもかぎりなく嘘)」
「じゃあ僕たちはいまから、黄泉ハモ大神を退治しにいくんですねっ。大役ですね!(どきどき)」
 ようやく立ち直った正孝、海の安寧を太陽に約束するセシルのものかげで、グレンの袖をこっそりひく。
「‥‥ほんとうにそんな言い伝えがあるのだろうか」
「あるわけないだろう? 村の人からおもしろいハモの伝説を聞かせてもらえなかったのでね、ちょっと創作してみたのだが、セシルくんにはよろこんでもらえたようで、なによりだ。ではご要望に応えて、お次はとっておきの『ハモとハマチの海岸物語』を」
「すまぬ。しばらく首をしめてもよいだろうか?」
 いや、情報収集の結果が、こんなんばっかりだったわけではない。――大半ではあったが。
 シャラが村の住人から教えられたことには、おばけハモが見られるようになったのは、梅雨があけたかあけなかったか、くらいかららしい。ちょうど海流の具合に変化の出る時季だ。だが、それ以外にとくにめあたらしい情報はなかった。怪しげな人影も、物音も、掃いてきよめたように、なにも、なかった。聞かされるのは、海の異変と生活の愚痴ばかり。
「妙ですね‥‥?」
 護、思案のしどころだ。
 不自然なくらいに、まったく魔法の証拠がえられない。陽の精霊魔法を行使できるのはジプシーか陰陽師、しかしジプシー=異人は僻村ではめだつし、公家の出身である陰陽師とて似たようなもの、そう身分をかくしきれるものでもないだろう。なにか見落としてるような気がしてならなかった。暁光も、ふむ、と首をひねる。
「ハモの食べられる店があったか。では、帰りに、ぜひともシャラ殿とともに立ち寄らせていただこう」
 そっちか。

 冒険者たちの失念は「海に金色の光が見えた」理由だ。「金色の光」が陽の精霊魔法の発動時の点灯だと仮定したとき、なぜ「海に」なのだろう? これは術師が沖合に存在したことをしめすが――マジカルミラージュの効果範囲は半径10km、陸地からでもじゅうぶんな遠洋に蜃気楼を出現させられる。だのに、どうしてわざわざ足場の不安定な海へ出なければならない?
 それは、

●うみーっ。りくーっ。
「おえかきしてるひと、どこにもいなかったです。げんこうはんさん、みつからなかったです」
 げんこうはんっていうのはね。夏の江戸のちかくの海で手作りの春画やら根付けやらを売り出す人々――あわれんでくれなくていいから。それは原稿班っていってくれなくていいから。
 あたりらしいあたりをひけずしょんぼりのシャラに、暁光は、なぁにまかしておけ、と胸をたたいてみせる。拙者が犯人をみつけてあげるから、シャラ殿は大船に乗ったつもりで待っておりなさい。浜で。
「じゅーろーざん、がんばってください。シャラのかたきをとってくださーい」(※被害者出てません)
「はっはっはっ。きっと大漁旗をかかげて帰ってくるからなーっ」
「‥‥旗なんぞないようだが」
「竿ならあるぞ。てるみちゃん(仮名)付き」
 けっきょく陸上ではみるべきものがみられなかった。こうなったら海へ出るしかないんちゃう? 峰城の提案のんで、引き潮の時刻へ海へ出ることになったのは、四名。「えんえんと浜のシャラに手を振り続けている」暁光、「ミミクリーでお魚になってのんびり遊泳」セシル、「正孝の教育係」峰城、「残り物には福がある。漕ぎ手当番」正孝。
「あぁ、ほら曲がってもうた。片側だけに力入れすぎるからそうなるんや。しっかり漕ぎ」
「てつだってはもらえないのか?」
「俺までやったら、もっとひどいことなるやろ」
 峰城がしっかり見張るようにして正孝を指導しているから、不慣れな正孝の腕でも、嵐のなかの木っ葉のごとく大揺れに揺れながらも、なんとか小舟はめざすところに進めていられるようだ。しかし、いいかげん腕もしびれてきた。少しぐらいは交代してくれてもいいではないか。正孝は不承不承に――とかんがえてはいけないのかも、と、ふと思い直す。これは、未熟な正孝を心配した峰城が試練をくだしているのだ、と。そうなれば俄然、正孝のやる気は二倍三倍。櫓の前後運動ははげしくさせた。
 や、ほんとうのところ、峰城にはないしょの目的があったから、舟なんかのんびり漕ぐつもりなかっただけなんだけど。
「どや?」
 海のなかにいるであろうセシルに声をかけたが、そういえば、彼はいま魚類。口がきけなかった。峰城はただそのときを待つ。
 出発するまえ、峰城はセシルととりきめを交わしていた。なにか海でみつけたらおしえるように、と。金色の光、それを精霊魔法の象徴ととるのは時期尚早、海底にしずんだ大判小判の反射光かもしれないではないか? それとも、ハモの描かれた高価な絵皿の影絵?
「そしたら俺は一攫千金、がっぽがっぽーっ」
「峰城さん。こんなものをみつけました」
 と、ミミクリーをきらしたセシルが、ざばりと海面から顔をあげる。夢中で泳いできたか、きれいな銀色の髪に藻屑がついてだいなしだ。それもかまわず舟に体をもたせながら、セシル、ほがらかにかかげたのはやわらかな色合いの巻き貝。
「とっても大きな貝がありましたよ。ちょっと持ってこれませんでしたけど」
「貝かぁ。貝は儲けにならないな‥‥どれくらいだった? てのひらくらい?」
「もっと大きいです。私の身丈ほどはありました。ジャパンの海産は大胆ですね」
 ほー、そりゃたしかにチョーきょだい。
 ――つまり「海に」金色の光がみえたわけは、
 ――ほんとに海の生物がやってたからだったりして。
「はまぐりやったか?!」
「はま‥‥? こんなかんじの貝でしたよ」
 峰城の急迫な問いに、セシルはてのひらあわせてぱくぱくさせる。二枚貝の所作。
「蘇芳、全速前進!」
「承知!」
 いつのまにやら峰城の舎弟あつかいされてる正孝、しかしそんなちっぽけなことなど気にせず、峰城のしめすままがむしゃらに漕いだ。もうなんにもかんがえず、漕いだ。あたまがからっぽになっていたから、分からなかった。峰城はセシルにたしかめていなかった、『どこ』で『貝』をみかけたか?
 あとの海域にのこされたセシルは、もういちどミミクリー唱えて、水気にてきしたからだでのんびり平泳ぎ。
「‥‥私、海のまんなかで、全裸で放り出されちゃいましたよ。どうしましょうかねぇ」
 ミミクリーは衣服まで変化させられないですから。

 なんとかなるよ、と、甚大はまぐりがセシルのうしろで跳ぶ。カチ、カチ、と笑い、波間に消える。

「おや?」
 陸にのこったひとり、グレンは海になにかを見たような気がした。が、それはつかのまの蜃気楼。まばたきもしないうちに失う。
「‥‥黄泉貝将軍というところかね?」
 が、けっこう、きちんと見ていたグレン、日陰からひとりごつ。微笑みは影にかくされる。

●ほんとがっかり系ですね
 実際、なんとかなった。というより、それから四半刻もたってようやく方向をさだめていなかったことを悟った正孝がもどってきてセシルを回収しただけだが。はまぐり――蜃が彼等のまえに姿をあらわしたのは、その、一度きりだ。
「まこと、蜃、でしたか」
 陸での残留を、護はたいへんに悔やむ。水中に存しながら陽の精霊魔法をつかう事情から察せられるように、蜃はけっこうまれなる陽の精霊である。世界のことわりを求道しつづける陰陽師にとって、なによりも自然にちかい精霊を間近で観察できる機会は至宝だろう。しかし、おなじ陰陽師でも風華の反応は真逆である。
「蜃気楼の主が蜃、だなんて。そのまんますぎます、ひねりがないです」
「うんにゃ。俺の背よりでっかいはまぐりやでっ?! 味噌汁にしたら十人前、や、二十人前はいく!」
 だから精霊だって。食べられないんだって。しかし、峰城があやしい関西弁べとべとになるくらい惜しがる気持ちは、まぁ、分からないわけでもない。つまり、推定・財宝は、そうとうずれた意味であたりだったわけでした。たしかに「蜃」を生け捕りにすれば、その手のものずきには相当な高値で売れただろうから。
「あぁっ、俺の沈没船が! おたからが!」
「ではシャラがおてつだいしますです」
 ん?
「シャラ殿、なにをされたのだ?」
「しん(蜃)さんのかわりに、シャラがイリュージョンまぼろしみせたげたのです。しんさんのりっぱなおすがたなんです」
 が、ちょっとマテ。シャラ、蜃、知ってんのか?
「それでは、村のものに報告をしてから、みなでハモの店に寄るとしようか」
「はーい。じゅーろーざさん、あとからおれいにおこしもみますです」
「シャ、しゃら殿。拙者もおねがいしてよいだろうか。ちょ、ちょっとがんばりぎたものでめきめきいってるのだが」
「まかせてください☆」


「みーんみんみん‥‥どうして巨大なミンミンゼミが泳いでるーーっ?!」