●リプレイ本文
●つくっている(いちおう)
みーなさーん。今日は僕のアニキづくりによーこそー♪
「ちがうでしょ、おかしづくりでしょ」
ごっつん。カヤ・ツヴァイナァーツ(eb0601)、12歳パラの頭上に、とりあえずは、漬け物石のグラビティーキャノン添ビザンチン帝国風、落としてみてから我に返る。はっ。今日はお笑い系一日ではなかったはず。
「あーもー、今度こそコワれないって決めてたのにっ」
それを小耳に挟んだ狩野琥珀(ea9805)は、心底、不思議そう。立って歩く猫をみたくらい。
「カヤは他人をコワす専門じゃなかったのか?」
「あ、そーか。あはははは」
「あはははははは」
氷塊のごとく、時と場のすきまはぴきんっ、硬質。
「ちがうもん、僕はツヴァイだってばっ」
たぶんそれだけでない理由で、おなじく漬け物石を頭にのせて、ってーよりわかりやすく打撲されて、琥珀・三十三歳ころがった。だく、だく、といきおいよく噴き出す液体、定期的な脈動。じゃ、享年じゃないね。
その日、冒険者たちの戦場は都市でも平原でもなく、狭小の空間、しかしそこでは昼夜を問わずに森羅をあいてとする作業が決行される、つまりは並みの戦場だ――厨房。高槻笙(ea2751)は琥珀の寸前の床に放置された食材を拾う。
「こら。埃がたつでしょう」
埃のまえになんかすでに赤いものが流れてるけど、それは気付かないふり、しました。めっとにらまれて、ツヴァイは「はぁい、ごめんなさい」と、とってもよいこのお返事。材料をしわける笙をてつだった。
しわけ、と聞いて、味見係と決め込んでいた来須玄之丞(eb1241)も、それぐらいなら、と補助台のまえにたつ。しかし、いったいどのようにしたらよいのだろう?
「あの。それやったら、粉を計てもろてええどすか?」
香辰沙(ea6967)、頬に薔薇の色相をきざしながら、玄之丞に道具をわたす。玄之丞――異性にとりちがえられることしばしばだが、そのみめかたち、むしろ男らしいとは対局にあるといってもいい。佳人といいあらわそか。りりしいおもだち、若木のように細くもくっきりとした輪郭、王子様的なところがあって‥‥辰沙が分銅ばかりを玄之丞に手ずから分けるとき、手と手がかさなった。
剣になじんだ指は鉄のようだが、きちんと生き物のぬくもりがあって、それが辰沙の指にやけになまなましく温度をうつす。
――‥‥まずい。<本音>嫌いじゃないが</本音>、<もっと本音>つかだいすきです</もっと本音>、今はまずい。正気にもどった辰沙、てててっ、と短いところを小股に裏の水場へ駆けてゆく。とりのこされた玄之丞、ただただ不得要領にさいなまれて首をひねる。あたしなんか悪いことしたかね?
「軽い火傷だろう、すぐに帰ってくる」
「あたしは火の魔法なんかつかえんぞ」
似たようなことは、ふいに、むこうからやってくる。蒼眞龍之介(ea7029)に硬骨に言い含められて、そんなものか、と心に落とした。玄之丞は、それなら辰沙のいないあいだにこそしっかりしようと、竿ばかりに分銅をのせる。しばし無言の格闘、白い粉は四散する、戦場の砂塵もかくや。
「‥‥料理ができるものはすごいな」
ぽつり、と、玄之丞の雨音のようなつぶやきを、再度、龍之介が聞きとがめる。
「どうした?」
「こんな味のないものから、あんなみごとなものをあつらえるのだから、感心するよ」
たとえば、龍之介が堀田小鉄とてわけして調達してきた干し柿も、これも木にあるあいだは渋柿で。おばあちゃんのおばあちゃんのおばあちゃんから伝えられた庭訓がそうさせる。まったくもって深淵だ――と、龍之介こうべめぐらしかけて、ちょっと待てよ、己のものでない過去を知った。
「食べたんだな。材料を。生で」
「そーそ。すごいよね。もごもごしてるのが、ほんと、魔法みたいに変わっちゃって」
「‥‥どうも私の考えている以上に、つまみぐいは一般的な行為らしいな」
「ちょっとだけだよ、ちょっとだけ」
ツヴァイ、玄之丞、ともに口許がふかふかと白い。そこできづくべきだった。
「そんなの食べちゃおなかこわしますよー。瓜を冷やしてあるから、あとでみんなで分けましょうね」
大空北斗(ea8502)、準備と称して干し柿に蜂蜜揉み込みながら――ツッコもうかと思ったが、それはそれで意外においしそうな気がしてきた――鈴をふるように、にっこりと笑う。ちなみに、西瓜はジャパンにもあるこたあるんだけどちと値が張るんで、今回はなしね。でも、真桑瓜もらしくていいと思うの。お公家様のような金色の果皮、白い果肉はしゃっきりとみずみずしく、と聞いちゃあだまっておられないもの一名ふっかーつ。
「瓜か! 生でよし、漬けてよし。よーしがんばってお菓子をつくっちゃおう」
「おはようございます。琥珀さん、だいじょうぶですか?」
「はっはっは。息子をおいて、俺がこんなところで、くたばってたまるかっちゅーの」
「‥‥二儀さんがまだ死んでません?」
「そっちは息子じゃないし」
「おめざめになってすぐのところ、申し訳ありませんが、狩野様よろしいかしら?」
「はいはーい?」
リュドミーラ・アデュレリア(ea8771)に呼ばれて、琥珀はまだちょっといたむ頭を片手でささえながら、彼女のもとに寄る。リュドミーラは鉢いっぱいの粉と、おなじく鉢いっぱいの水をまえに、ひたすら途方にくれていた。
「おまんじゅうの生地がよく分かりませんの。どうしたらよろしいのかしら」
上質粉を水でふやかしただけでは、当然ながら、饅頭皮にはならない。卵を入れたらいいのかしら、それともミルク、とロシア出身らしくなやんだリュドミーラだが、さすが家事に精通した琥珀は、京の台所事情にもくわしかった。
「つなぎに山芋は、どう? 京都の芋はうまいぞー」
やまのいもはうるさがたにも定評があるし、ほとんど年中手に入るし、なにより安価である。なるほど、と了解したリュドミーラ、琥珀の助言を実行にうつす。
でも、ひとつ難点が。山芋の場合、まずはすりこぎで、ぎーこぎーことつぶさなきゃなんない。これがかなりの、重労働。
「うっ‥‥けっこう汗をかきますのね‥‥」
「おてつだいいたしましょうか?」
「だ、だいじょうぶ‥‥だと思います」
一度、最初から最後まで、きちんと自分でしあげてみたいのです。いわれて笙は恭順に、ただ一足だけ、その場を退いた。ほとんど生まれての作業を真心こめておこなうリューシャが、初色にはにかむ娘御のように、全身をうっすらと上記させながら棒をまわすのをみやって、笙は笑みに思いをとじる。もちろん、ほんとうに必要なときには助力を惜しみませんが‥‥。
「そんなら僕に血を分けてくださーい。そんで血のちぎりかわしましょー(from流血パラ)」
「琥珀さん、私にも黄身餡のつくりかたをおしえていただけませんか(さりげに無視)」
寒い日の炉端のような、おだやかな時間が、すぎた。一名ぬいて。
●できあがりました(おめでとう♪)
すねてやる。だれも助けてくれないのです。図書寮に「冒険者はいじめっこ」って書いた札を下げてやります、でも僕好みのお兄様がお茶にさそってくださったら、ゆるしてもいいです。
「そんなところで日陰をつくってないで、こっちで茶でも飲んだらどうだ?」
「はーい♪」 ←ゆるした
不幸中の幸いというより、おそらく不幸のどまんなか、二儀のアニキ観にあてはまってしまった⇒龍之介は菓子づくりのあいだに茶会の席をしたくしていた。そだね、ただあじけなく批評しあいながら食べてくより、きっとそっちがいいさ。
今回、対象となった品はぜんぶで四品。それぞれの名が書かれた札は、玄之丞の筆だ。順番は不同、あみだくじの神様の提供でおおくりしまーす。
「あ、一番、俺だわ」
と、琥珀、おおっとのっけから本命が来たっ。家庭できたえた料理は玄人はだしで、息子を家庭で毎夜むせび泣かせてるという噂(どう泣かせてるかまでは、責任もてん)。じゃん、じゃん、じゃーん。と、とりいだしたるは、
「開運団子!」
「『月に群雲団子』‥‥とでもしゃれこみましょうか」
基本の路線は、琥珀の開発。あれんじどばーい笙。
楊子をすこしだけのばしたような枝に、お団子が二つばかり刺さっている。上はなかにしこんだ小さなみくじで吉か凶かの運試し、下のは「はずれても案ず(杏)るな」の干杏を、笹の小舟にのせてどーぞ。琥珀のそれが持ち帰り用なら、きなこをまぶしたり、泡立てた白身を閑雲にみたてたものを皿に添えた笙のは店内のための応用編だ。
「そんじゃ、いっただき☆」
ツヴァイ、いただきますもでそろわないうち、手を伸ばしてぽいっと口に入れる。琥珀はどこかよこしまに、口許を弓なりにしならせる。ツヴァイは噛みきるしまいまで、琥珀の笑みの意味に気が付かなかった。
「あー‥‥はずれだ」
あたりは黄身餡だったはず。からっぽだ。まずい、ってわけじゃなかったけれど、むしろその反対で、これももしかしたら自分がまるめたやつかもしれないとおもえば(ちゃんとふつうにてつだったのよ)、かみしめるほどに増す甘さまでいとおしい。ふたつめの杏団子のこまぎれ杏を奥歯ですりつぶしていると、含み笑いをかみころす琥珀と視線が行き当たる。
「残念。当たっても八卦なんとやら、ま、あんまり気にするなよ」
「琥珀さーん、もしかしてわざとでしょ? 僕のじゃないからいいけど」
そのころの、江戸。
今、斧が、熱い。ア○スディアという意味ではなくって。
「菓子作りのたしなみはなきものですから、いたらぬところも多いでしょうが‥‥」
リュドミーラが胸にかかげた小皿は素朴なやきもので、そのうえにかざられたおまんじゅうの食紅の瞳はふくふくしく皆をみあげている。名は、柑子饅頭『望月兎』。うさぎのすがたの蒸し饅頭。まんじゅうだから、うさぎにしてはちょっと太めかもしれないけれど、それもまた愛嬌、焼き印でつくった耳はぺっとり寝ているのもまたいいよね。
「それじゃあ、いただきます」
「『厄払い』ということばがよく分からないものでしたから、的はずれになっておるかもしれませんが」
「この黄色は柚子でしたっけ?」
「ええ」
ジーザス教の祭典である復活祭においてふるまわれるイースターエッグに、ジャパンで月といえばうさぎさん、リュドミーラの菓子は和洋折衷。笙の食べ様は上品である。一口大に黒文字で切り分けてゆく。
「柚子か‥‥香りがきついんだよな、人によっちゃ好き嫌いもあるし」
「え」
「でも、保存にはいいな」
ぺろっと一口。玄之丞の食べっぷりは豪快だ、それでいて唾もとばさず、事細かに指摘をつらねる。しかしそれは重箱をほじくる、というよりは、升目でくぎるように正確に欠点と長所を交代にあげていく。だからリュドミーラは内心の誓いをたてるのだ。
「御試食ありがとうございます。次こそおいしいといってもらえるよう、励みますわ」
三番めは辰沙だ。自分も入れて九名分をてぎわよくくばってゆく。玄之丞の前にたったときだけ、寸刻、時間がながかった。
「あたしのだけ、大きくないかい?」
「あ、あの、毎日剣の練習でおつかれやってきいたさかい、甘いもんでつかれをいやしてもらお、おもて」
「‥‥俺も同門なんだが」
それは三十九歳にもなって女の子にちやほやされたいとは思わないが、と、龍之介。「じゃ、僕の半分こはいあーん♪」これこそほんっとにっいらんが、なんとなく首の下を指ですりあげてみたら、それで満足してるみたいだから、まいっか。
辰沙のつくったのは、いわゆる『月餅』。華国風の焼き菓子、本来は中秋の名月に食べられるもの、というところでは日本の月見団子に通じるものがあるだろう。友人の佐紀野緋緒につくってもらったという焼き型には、これも、うさぎ。墨絵のようなかざりけのない線でえがかれている。
「俺の干し柿もつかってもらったんだったか」
「はい、おおきにどす」
龍之介は、小鉄が熱を入れてかたった大陸の話を思い出しながら、一口一口をゆっくりと味わう。小豆餡、蓮実餡、木実餡、水蜜桃、黄身餡、干し柿餡と中身は多彩だ。
そんで、おおとり。‥‥。しまった。今日、袖の下をわたすべきはパラじゃなく、あみだの神様だったのかもしれない。
「はーい、はい。僕でーす」
おおとりは大空北斗、と発音だけみれば、だじゃれのようだ。ものすごーくたのしそうに、蜂蜜――ジ・アースではまだまだ砂糖は高級で、ジャパンで入手しやすい甘味料といえば、蜂蜜、甘蔦、水飴、こんなところだ――をこねていた、ついさっき。
いまからでも遅くない。あみだの神様につけとどけしてこい、っていや、もう遅いっ。
「(食べられるのかよく分からない)くだものを(よく分からないけど)ゆでて(よく分からないけど)そのあと蜂蜜にからめて、そしたらよく分からないものができあがりましたっ☆」
たしかに。それは形而下に文法を越えており、形而上に感覚をなぎたおし、総体的には――逃げさせて。ね。
しかし、そこに勇者がひとり。ひとりっきり。
こうゆうときのために図書寮の小間使いを用意しておいたんじゃないか(笑顔)
「はいっ。二儀さん、おかわりもたーくさんありますよ」
北斗、爽快。得意満面の笑みで提供する。しかしパラは逃げられないっ。
で、
で。
で‥‥。
いちおうは審査員待遇の二儀がめざめるまで、約二日。冒険期間のずいぶんがそれに費やされたとなると、かなり悲しい。なんとか回復した彼、おしごとだから、と推したのは、辰沙の月餅である。
「月餅って名前からして『月』でしょう? ‥‥ジャパンはいまのところ華国と正式な国交はないもの。近くて遠い国だから、めずらしいですし、それにジャパンの人の口にもありますし」
うわ、進行の都合とはいえ、すっげえまともなこといってるよ。槍降るぞ。+2がいいなぁ。と、俗世の言い分のけるように、辰沙は神聖にほほえむ。
「おおきにどす、西中島様。ほなこれ。お約束の佐紀野様の直筆の書状」
「あ、どーもすいません」
「待て。そこ」
安いなおい。
しかし、云ってることには理があった。ツヴァイの発案、精霊文字の『月』をかたどった紋様の雁皮紙に、笙と琥珀が共同で割引券もつけたそれは、もうすぐ一般にも開放される月道前で売り出されることになる。
さて寺田屋がこいつを採用するかどうかは、乞うご期待♪
●質問があったので
問:アニキソバってなんですか?(笙さん、ツヴァイさん、玄之丞さんからのお便り)
答:えーと、まず容れものにアニキひとりを準備(以下略) アニキソバとアキバ系ってちょっと似てるよね。なんとなく。