●リプレイ本文
●脛腿特防すねこすりン:主題歌「ゆけゆけ ぼくらの絶対領域」
(各々、魂のおもむくままの節回しで)
♪絶対領域 それは足袋と身頃の境界 輝かしいふともも(ハァハァ) ←合いの手
♪神聖不可侵 それはどんなに激しくアクションしても何故か見えないその奥(ハァハァ)
♪見えちゃダメなんだ! 見えないからいいんだ! (いくぞ、必殺の裾めくり!)
(以下、すさまじく省略)
(注:一部にジャパン的な修正をほどこしました)
「なんでうちが、もっけからこんなことさせられるねん」
紅珊瑚(eb3448)、かすんだ目付きになるかたわら、海龍院桜がぼそりとつぶやくことには、
「責任問題」
●前半戦(つーか、はよ、はじめれ)
「これはまた、見事に塵も積もったもので‥‥」
金秋と申しまして、黄から紅への臈長けた漸次、朽ち葉のさらさに降り積む季節にはまだ少し早けれど、しかし雑草のごときは今日もしたたかに緑をそびやかし、それらは譲歩は無縁に、互いの名前を誇示しあう。ぶっちゃけ、こりゃぐちゃぐちゃだわ、と。
凛々しく引き締めたたすきがけ。老いても士気は高らかに、をはじめるまえ、阿須賀十郎左衛門暁光(eb2688)はそらにおぼえてつぶやいて「いっそ火をつけた方が早いような」そうそう、そんで、なかに根菜のたぐいを仕込んでおくの、ほくほく、でも味見するまえにしょっぴかれるだろうけど。
しかし、犯罪を喚起させるひとことは、夏目朝幸(eb2395)をこのうえなくよろこばせた。木の実によく似た黒い瞳くるんくるんさせる。
「ヨゴレなお寺ですー、体を張って笑いをとるしかないのですー」
で、じっさい誰が体を張りに行くの?
「ん? なんか、見られているような気がする」
狩野琥珀(ea9805)、たしかに見られているみたい。視線の主は、さがすまでもなかった。
「お。朝幸坊か。どした?」
「にゃんにゃーん」
「これか? 忍者なら――うんうん、朝幸がちがうのは分かってるって――おなじみ忍者刀、斬ってよし踏み台にしてよし、なんにでも使えるすぐれもの!」
「にゃーんにゃーん」
「今回は、これを、剃刀がわりに使用したいとおもいまーす。実験台になってくれる、おっきなお友だちは誰かなー?」
「にゃむにゃむー」
どこにも把握のない会話をいったん閉じ、琥珀、抜き身をあらいざらしの陽光にきらめかせながら、ぐるりと首を巡らす。
女性陣⇒女性に手をだしたら犯罪だしね。
男性陣⇒朝幸それこそ「は『え』てない」。暁光はたぶん終わっている(ごめんなさい)。遅参のため面子がひとり欠けているから、のこるは結城冴(eb1838)ただひとり。
夜色の衣にすっぽりと身をくるむ冴、外套が神経まで昏くさせているのか、冴は身をそびやかす危険にちっとも気が付いていない。哀れ、けずられてしまうのかっ?
「‥‥はぁ」
ね こ
「‥‥ほぅ」
ね ん ね ん ね こ ね こ にゃあにゃあ
「‥‥いいことばですよねぇ」
「冴、やーい。なぁ俺と遊ばない?」
「‥‥ねこ‥‥ねこまともいうんですよね‥‥ねこ、ねこま‥‥どっちの云い方のほうがかわいいでしょうか‥‥」
「冴くん、冴さま、冴大明神。あそぼーぜ。なぁ、なぁ、ちっと実験に協力してくんない?」
「‥‥どちらでも、きっと、かわいいですよね」
「ねぇってばー。すねこすりはどんな足にいちばん反応するのか、名付けて『●●はお好き』作戦やるのに、スネ毛処理して三日目の足が必要なんだよ。だから、なー、やっちゃっていい?」
「美形にむだ毛がないのはお約束ですから、わたくしはご協力できないとおもいます。ねこ、いいですよねぇ、ねこ」
「そうか、じゃあ俺がやるしか‥‥。ってじつはすっごい地獄耳なうえに、さらりと自分が美形だと公言してる高級技術っ?!」
「なにしとるべか。いいかげんおっぱじめるべよー」
でないと、すねこすりに会えないではないか。おなかをたゆんたゆんすることも、おしっぽをぱたぱたすることも。
和服の、特にたもとのあたりは、活動するときじゃまっけになるものだ。御厨雪乃(eb1529)はじゅんじゅんに他のものへ、たすきをくばっていくが、自分のはちょっと特別、捲くだけで力のわいてくるちょっと不思議なもの。それほどの力の入れよう、戦意のたぎりよう。
「にしし。待っててけろ、すねこすり。おらが思う存分かわいがってるべな」
しかして、人も人じゃないのも、悲喜こもごも。出会いもあれば別れもある(すぐ合流するけど)。天鳥都(ea5027)は、せっかく伴ったかわいい愛犬・犬一郎を、寺からかなり距離のおいたところにつないでいた。すねこすりは猫っぽい、柴犬の犬一郎におびえてしまってはかわいそうだというので。
‥‥もし、すねこすりがほんとうにおびえて出てこなかったら、それはそれで、依頼の遂行にたいへん貢献するのではないかとおもわれるが、
「この依頼を受けた意味がない!」
「ねこ! ねこ! ねこ!」「よろしい、ならばにゃんにゃんだ」「猫耳を! 一心不乱の肉球を!」
ものすごいいきおいでばってん付けられたので、しかたなく犬一郎は待ちぼうけのはめになる。後ろ足のあいまにたれさがるしょんぼらした尾が、彼の気持ちを如実にあらわしていた。
「ごめんなさいね、犬一郎さん」
「くーん」
「‥‥うぅ。そんなにうるうるきゅーな瞳で見上げられては、心がゆらいでしまいそうです。お掃除が終わったら、すねこすりさんにごあいさつできるようおねがいしてみますから、しばらくよい子で待っていてください」
「くーん」
「朝幸も負けないですー。にゃーん」
「おお、かわいい、かわいい。でも、かわいさなら、俺の息子も負けねぇぞ。こんなふうに、にゃー(「かわいくねぇっ」の怒声とともに、世界の果てから飛んできた草履で人事不省におちいり、一回休み)」
「努力はみとめますが、やはり天然もののねこには勝てませんよ。略して天ねこ」
あぁ、なおさらわけがわかんねぇ。
これで、マジで、依頼は完遂できるのかっ。後半戦を乞う、土下座で、ご期待!
●脛腿特防すねこすりン:挿入歌「あぁ、絶対領域よ永遠なれ」
〜絶対領域! 神聖不可侵! それはジャパンにおいては遥かなる夢に過ぎない〜
〜だが、月道を越え遥か彼方。剣橋なる町には「それ」があると言う(ほーそうなのかー/書き手感想)〜
〜いつの日か、訪れてみたいものだ‥‥と思わぬ者はいないと言う〜
〜これは、そのような厳しい制約下において、尚も、いやそれ故にこそ! 強く! 熱く!〜
〜萌えを追い求めんとするもののふの物語であった〜
語り、ここまで。それでは唄っていただきましょう、挿入歌『a
「つうーか、これ以上、好き勝手させるかああ!」
珊瑚、日本刀からシュライクEXぶちかましで、あぁっ、せっかくの歌詞を、せめて十文字くらいは、ちょ。
●後半戦(なんとか、本番)
竹箒、熊手、ちりとり、などなどの装備を手にしたとき契機にして、まるで数珠つまぐるように、六匹はおぎょうぎよく一列になっておいでました。にゃーにゃーにゃー。
「出てきたですー」
「ほんと、ふかふかべな。綿帽子みたいだがや」
「まっしろほぇほぇななかにも、ぽつんとふたつの黒い目と、ちょびんちょびんの銀のひげが要素となって、いかにも猫らしく、愛らしく‥‥。い、いかんっ。これこそが彼奴らの罠。心頭滅却しても猫はまたかわゆし!」
朝幸や雪乃は贔屓にまかすまま、すねこすりに突撃されるまえに突撃しよう、なふうでかまえる。しかし、暁光、六十歳、腰痛持ちだが今日も元気、は態勢だけですませるほど、手ぬるくはない。攻撃こそ最大の防御なりィ! ぜんぜん心頭滅却してないようなこと宣告しながら、竹箒を突き出して吶喊する。針千本の細枝が地をすべる、わだちの痕跡付けてるだけで、まったく清められてはいなかった。
竜虎もかくやの暁光の迫力、すねこすりはふるえて撤退するかとおもいきや、なんと右に三匹、左に三匹の鶴翼の陣。どうやら、すねこすりの転倒魂に火を付けたらしい。
「その意気やよし、受けて立とう。すねこすり! しかし、拙者はころぶわけにはいかんのだ。転べば腰痛が悪化して、ぼったくり商店こと、寺院にお布施をおさめねばならんからな! 老後の安定したたくわえ(←おそらく、現在でもりっぱに老後です)のためにも‥‥ああああ」
と、女心と秋の青空が、すねこすりがわずかにのこしたけばだちにかぶさり、さかさになった暁光の視界を染め上げる。
「むー。一番乗りとられちゃったですー」
「そっか。すねこすりって、意外に冒険家なんだな。‥‥六十歳男性のおみあし・マルっと」
ころんだ暁光を冷静に観察するまえに、あなたがたお年寄りはたいせつになさい。
暁光を助け起こしたのは、都と冴だった。でもふたりとも、暁光の足元で『やったよー、ころばせられたよー』と勝利を誇っているような、すねこすりのほうにまず駆け寄ってしまったってのは、なんとか内証にする方向で。
「あ、あの、ちょっとまちがっちゃっただけです。‥‥すねこすりさんのほうが、ちょっとだけ、愛くるしいかもとはおもってしまいましたけど、いえ、その、暁光さんをないがしろにするわけでは」
「暁光殿、休まれたほうがいいですよ。依頼人の方がお茶を入れてくださったようですから、あちらでしばらく養生されてはいかがです?」
「あとはまかせてけろ。暁光さんの仇は、わしがとるべ!」
「朝幸もー。この日のための、マタタビ手裏剣なのですー」
生きてます、暁光。ということは、小指にひっかけるにも足らない些事らしい。
まっさきにねらってもらえなかったことが、悲しかったり。うおりゃー、とばかり、雪乃と朝幸は特攻だ。見た目に反し、ますらおぶりを発揮するすねこすりたち、両雄は正面よりはちょっと下のところで激突する!
掃除はどこさいっただかなふんいきで盛り上がるなか、ぽつねん、と、手持ちぶさたなのが、琥珀。
「なんかヒマだなぁ」
どうやらここのすねこすり、集団戦法を愛し、挑まれればすなおに向かってしまう義理堅い性分でもあるようだ。なわけで、せっかく琥珀が用意したさまざまな扮装道具、袴とか洋装とか着ぐるみとか竹馬とか米袋とか、生かされる機会もなく、放置されている。
「しゃあない。脚まで剃ったことだし、俺がすねこすりになってみよう。みゃあん☆」
「申し訳ありません。私、私っ、琥珀さんの全力投球な生き様はいっしょう忘れません!」
「ちょっと待ったー! なんで一目で逃げるの、都さん。いっしょにお掃除しようよー!」
――‥‥いわずもがな。
そのころ、一時実況を中断したすねこすりVS雪乃&朝幸は、すねこすり軍勢の魚鱗の陣(たんに、もじゃもじゃかたまっただけ)のまえに、でんぐりがえしを余儀なくされていた。しかし! 真のつわものは、敗北からも勝利をひきだす。雪乃、朝幸、溺れる者は藁をも掴む、ならぬ、ひっくりかえりし者はすねこすりを握って離さない。
いわゆるホールドってやつかしら。って、ありゃ? たしかホールドってふたりとも習得してなけりゃ、ホールドをかけるための条件『その動物(?)に関して、生態の知識を有していること』も満たしてないような‥‥。
「愛があれば、なーんも問題ねぇべ。すね子、すね美、すね太郎、すね兵衛? うー、どこもかしこも、ぽにぽにしとんべなぁ」
腕の長さの差で獲得数は、雪乃・四匹、朝幸・二匹。これですねこすりは、ぜんぶ。
「うぅ、くやしいですー」
「転んでも泣かないの、男の子でしょ!」
「わたくし、転んでも泣きませぬが、すねこすりさんの少ないのだけは、がまんがならないのです」
「‥‥ちょっと、分かる」
琥珀、納得。しかし、今のうちなのもたしかなのであった。琥珀、逃げ出した都を呼び寄せ、刷新はじめ。このぶんなら魔法をつかって閉じ込めなくても、依頼はやりとげられそうである。魔法と偽ホールドとどっちがましかといわれたら、それ、微妙かもしれないが。
「そうですね。朝幸さんたちが犠牲になってくれているあいまに、ささっとすませてしまいましょう」
‥‥けれど、都の足付き、まるで水に遊ばれる笹舟のごとく、ふらふらら〜。
「都さん、どうしたの?」
「今日は風がつよくて‥‥。なんだかうまく歩けないようです」
しかし、都の流されてゆく方向は風上で、なおかつそこでは、そろそろちゃんと依頼をせねば、と、雪乃がすねこすりをふんじばりはじめている最中なのだった。
さて、少々視点を変えまして、冴。
暁光を寺の縁側にとどけがてら、自分も依頼人からちゃっかり、茶などの御相伴にあずかっている。
「ごあんしんください、あのように皆、力をあわせて努力しています故、清掃もほどなく終わりましょう」
と、月映えする瞳を弓張りにほそめて眺めわたし、依頼人のお隣で、ただし、向こう側にも、もうひとり。
「そ、そ。だからあんさん、なーんも心配せんでもええんやで。ところで、いっつもお寺で働いてるん? 暇なときとかあったら、遊びにいかへん?」
武技の流派はテコンドウだけど心は男女の二天一流(謝れ。俺様、武蔵に謝れ)、珊瑚こそ、すねこすりよりここに賭けている。二人にはさまれ、いくらか居心地わるそな、依頼人。
彼らよりはるか前方では、都、雪乃からまぬがれたすねこすりの一匹を邪険にしようとしてるのだが追い払う手つきはどこか骨抜き、頬は桜色に染めて、みょうに幸せそうである。
「‥‥あ(ぽてっ)」
「おや。とうとう都さんまで。わたくしは助けにいってきますから、珊瑚さん、ここはおゆずりしますね」
「はい、なぁ。がんばってきてや、うちもがんばるさかい」
「拙者も行くぞ!」
と、復活の阿須賀十郎左衛門暁光、おもわずぜんぶ書いちゃった、名前!
「お腰は平気でしょうか? 無理しないほうがよろしいですよ」
「なに、こうすれば」
がば、と全身を伏せてはいつくばる暁光、腕の力だけでの進行、いわゆる匍匐前進を執行する!
――すねこすり、とうにねじふせられているようですが、とは云えなかった冴、
「それでは、ごいっしょにまいりましょうか」
と、うつろう秋風のごとく、涼やかに笑む。柱を拭くための空雑巾、片手に。
そんなこんなの奮闘、笑、を夕暮れすれすれまで、烏の鳴く時分には、境内の片隅に小山のような落ち葉が積み上げられていた。芋を焼けばおなかもいっぱい、気力充実。明日もすねこすりとともに、がんばってみようか。雑草抜いてね♪
●次回予告。←信用するな
・暁光、すねこすりをめでながら腰痛養生にはげむ
・雪乃、すねこすりもちかえろうとして叱られる
・都、犬一郎さんをすねこすりから引き離すのに苦労する
の豪華三本立てでおおくりしま〜す。じゃんけんぽん☆
いや、予告っちゅうか。ぜんぶ現在進行形なわけだけども。