氷上戦

■ショートシナリオ


担当:紺一詠

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月30日〜07月05日

リプレイ公開日:2004年07月13日

●オープニング

 氷室を御存知だろうか?
 冬に切り出した氷や雪を保存するために、茅などをかぶせて保存する穴や洞、小屋などをいう。魔法を利用すれば涼を得る方法はいくらでもあろうが(もしかすると、凍るほうが先かもしれないけれど)、魔法はそれほど一般的でもないし――だからもしものときには冒険者が雇われる――、天然の氷雪の風合いを格別だとかんじるものもすくなくない。地方によっては、そうしてとっておかれた氷雪は神様のおさがりものだと純朴な信仰を形成したりもする。
 切りくずした氷に蜜をたっぷりかけて、匙ですくって、一口。好みで楓や朝顔などを横に添えるも、また一興。――氷室に保存しておいたとしても、夏までにのこる氷はほんのすこし。庶民には手の届かぬ高嶺の花だ。
 さて、件の村にも氷室はあった。その村の氷室は、地面に垂直に掘り下げた深穴へ真冬のうちに白雪をぎゅうぎゅうに踏み固めて詰め、そのうえに簡易の小屋を建築してかくす方式の氷室だ。もちろん、氷室は山陰などの暑気からのがれた場所に設置される。つまり、夏日でもそのあたりは比較的過ごしやすいところであるわけで‥‥。

 ◇

「ちょっと目を離したすきに‥‥。小鬼の家族が、氷室の小屋にいついてしまったのです」
 冒険者に依頼をもちかけた村人は、臓物をすべて吐き出すかのような深い深い吐息をつく。
 不幸中の幸い、といっていえないこともなかった。たとえば、小鬼たちはいまだそのあたりに氷室があることを知らないでいるようだ、とか。氷室がひらかれていないことは、遠目から確認されている。気付いたらとっくに掘り出して、小鬼は自分たちだけで夏の寒をたのしんだにちがいないだろうから。
 小鬼たちは――わりに善良なほうだといってもよいだろうか――いまのところ村に悪さをしかける気配はない、氷室と村のあいだもだいぶん距離がある、だから村人も殺傷をほのめかすような真似はしなかった。
「氷をとってきてください」
 もともと氷室以外には用のない場所だ。たいせつなものさえ運び出せれば、小鬼にゆずりわたしてもよかろう、というわけだ。しかし前述したように、肝心の氷室のうえに小鬼が居をかまえている以上、いくら知恵のたりない彼らとて下手に刺激すればなにか気付くかもしれないし、そうしたら、ちょっかいをだされた腹いせに小鬼が氷をぐちゃぐちゃにする可能性だってある。そうなれば、もちろん依頼は失敗だ。
「氷をはこぶのには、筵(むしろ)を利用します。氷の全面に巻き付けて、日光や陽気から氷をまもります。これはこちらからお貸ししますね」
 まぁ、冒険者のなかには冷気をあやつるものもいるそうだから、そのようなものの力を借りれば筵は不要かもしれないが。

 さて、この依頼、うけてみるかい?

●今回の参加者

 ea0262 茅峰 帰霜(47歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2833 結城 夕刃(29歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3044 田之上 志乃(24歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea3055 アーク・ウイング(22歳・♂・ウィザード・人間・ロシア王国)
 ea3402 エドゥワルト・ヴェルネ(19歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea3550 御子柴 叶(20歳・♂・僧侶・エルフ・華仙教大国)
 ea4005 フリーズ・イムヌ(29歳・♂・ウィザード・エルフ・イスパニア王国)
 ea4141 鷹波 穂狼(36歳・♀・志士・ジャイアント・ジャパン)

●リプレイ本文

●冒険者たちは氷室へ続く道を、ぽくぽく進んでいる。
「でもね。夏までのこった氷が貴重だってのは分かるんだけど」
 木々のあわいからさしこんだ陽の光が、白い意匠を大地にえがく。夏咲きの花に似た輪郭のひだまりに、アーク・ウイング(ea3055)は杖をこんと突き立てた。
「クーリングでも氷は作れるよね。どうしてそんなに貴重なのかな?」
「坊主には粋とか艶とか、難しすぎるか?」
 囁くような笑い声と、坊主、ということばに敏く反応し、アークがふりかえると、茅峰帰霜(ea0262)が底意地の悪いような、なにかを遠く懐かしんでるような表情でこちらを見ている。アークがだまって唇を尖らせると、帰霜はいっそう破顔を募らせた。
「あぁ、悪い。バカにするつもりじゃなかったんだ。たしか、アークはウィザードだよな?」
「そうだよ」
「だったら、猶更ピンと来ないのかもしれないな。この国じゃあいわゆる精霊魔法が使えんのは、おまえみたいに外国から流れ込んできたの以外は、志士だけなんだよ。神皇家に忠誠をちかった志士さまが、賜り物の魔法の安売りで日銭をかせいじゃあ、神皇家の威信も地に落ちるだろ」
「ぎく」
「穂狼?」
「い、いや。なんでもねぇ」
 この状況では冗談だとしても言い出しにくい、まさしく自分がそのようなことを考えていたとは。志士・鷹波穂狼(ea4141)はひとり素案の再検討をはじめる。帰霜はああいうが、民衆にとびきりの低価格で――無料じゃないらしい、只より高いものはないというし――冷を提供することは、仁愛の理にかなってはいないか?
 アークは利発げな瞳をしばたかせて、おとなしく聞き入っている。片親が東洋の出身である故か、大陸をはずれた島国の風土は興味深い。エドゥワルト・ヴェルネ(ea3402)がよく云っていることだけど「学問なき経験は、経験なき学問に勝る」というのには、こういうふうにいろいろな常識の見方を学ぶことも含まれるのかもしれない。
 とうのエドゥワルトはといえば、同行の結城夕刃(ea2833)になにくれとなく話しかけている。ともすればしんがりからおとなしくついてくるだけの夕刃、ひょっとして自分がつまらなくさせてるかと思うと、エドゥワルトはどうもじっとしていられない。
 べつに夕刃は性分でそうしてただけだが。けれども、自分から話しかけるきっかけをなかなかつかめないでいたのもたしかだから、エドゥワルトの気遣いはうれしい、思いきってずっと気になってたことを質問することにした。
「‥‥あの、エドゥワルトさん。小鬼のことって‥‥分かります‥‥?」
「うーん、ごめん。エレメントとかドラゴンなら、少しは知ってるんだけど」
「えれめんと?」
「精霊。ドラゴンは龍です」
 イギリス語にもジャパン語にも多少あかるい、フリーズ・イムヌ(ea4005)が助け船を出す。夕刃、フリーズと、女性めいたところのあるはかない顔立ちにかこまれて、エドゥワルトは少々妙な気持ちだ。
「僕、死人憑きなら〜」
 と、混じったのは、童顔の御子柴叶(ea3550)(で、エドゥワルトはどうしてだかやっぱり動悸がはげしい)。僧侶であるから黄泉がえりの類には多少なりの心得はあるが、
「でも、これのことじゃないですよ」
 あれ、それ。
「こいでか?」
 田之上志乃(ea3044)がかかげたのも、たしかに屍。ただし元は人であったようなものを振り回すような極悪非道をするわけもなく。夕餉のおかずにするには少々薹の立った魚を五尾ほど、ふくいくとは真逆の香りに刺激されて、叶はくしゅくしゅと鼻をひくつかせた。
「け、けっこうすごいですね」
「うっかり3日手をつけてないっちゅう話だべ」
「3日? もったいなーい。なむなむ。魚さん、成仏してください」
 やがて、冒険者たちは一度立ち止まる。夕刃は慈しみのあらわれた仕草で愛馬の鼻面をなでてやる。
「すぐに‥‥戻ってきますから‥‥おとなしくしていてくださいね」
 ここから先は道も細くなるし、なによりもそろそろ小鬼の住む場所だ、気配はなるべく限ったほうがいい。馬にひかせていた荷台から、穂狼が率先して、村から借りてきた荷を下ろす。水を張った小さめの樽、筵に、縄、綱や。巨人族の穂狼が右と左に別々の物品をかかえて平気な顔をしているのはさすがというしかないが、帰霜もひょいっと苦もなく持ち上げる。
「これを運べばいいんだな?」
「おう。気ぃつけろよ」
「へい、へい」
「わ!」
 そして、各々が各々の荷重にみあった量を分担して、移動を再開しようとしたときの、一瞬の気のゆるみが発生した瞬間だ。悲鳴をあげて、アークがしゃがむ。
 なにかが、彼に、全力の体当たりをはかった。
「小鬼!」
 一体。
 それを視認し、アークは反射的に杖をにぎりしめた。ライトニングサンダーボルト、魔法の発動を試みようと、しかし、叶のコアギュレイト、超常の速度を得た神聖がときにして勝る。
「アークさん、ちょっと待ってください!」
「そう。俺の術が終わるまで!」
 エドゥワルトが詠唱を終えると同時に、道のかたわらから緑が、土の中から浮き上がった草木の根が、禽獣のふるまいで小鬼の足を打つ。痛手としてはたいしたことはないが、部位は部位、小鬼は前のめりになった。完成をになうはフリーズ、氷の棺をもちいてひとまずは小鬼を封じ、静寂をとりもどした。
「びっくりする気持ちは分かりますが、まだ夜にもなってないうちに始めちゃうのは、まずいですよ」
「ありがとう」
 フリーズが地に膝をつけたままのアークを助け起こす。軽い傷害ならごまかしようもあるが、生き物相手の殺傷沙汰ではそうもいかない、何度もくりかえすがここはもう依頼の現場の間近なのだ。かかえた荷のせいで手を出しかねた帰霜、なるほど、とうなずく。小鬼の出現した原因に感づいた。
「魚の匂いに誘われたんだなぁ」
「どうする?」
「同じ轍を踏むわけにいかん。しばらく筵に閉じこめとくか」
 あい、と志乃は筵にくるくると手持ちの魚をつつんでゆく。帰霜とおなじ理由で見守るだけだった穂狼は、顎でしゃくって別の方角をしめす。
「そっちじゃなくって、こっちも」
 氷結された小鬼。帰霜は舌打ち、ひとつ。
「悪いが、しばらく見はらせてもらうか。縄、あまってたよな?」
「しゃあねぇな」
 殺すよりはずいぶんとマシだといえ。もっともアイスコフィンの氷が完全に融解するまでは時間にかなりの余裕がある。突発の事故で追加された荷物は、全員で交代しながら、地面をひきずって移動させる。自分の番になったとき、フリーズは仲間ではなく氷塊の芯にむかい、ごめんなさい、と消え入りそうな声でつぶやいた。

●冒険者たちは着々と準備をすすめる。
 いまだ、宵。夕の残した破片が、西の彼方で砂のように煌めいている。
 とらえた小鬼の見張りもおこないながらなので、全員でがんばってはみたのだが、作業に少々の遅れが出ている。手元もそろそろ闇色にはまる時分にしあがった罠に利用するつもりの落とし穴は、予定よりもだいぶん手頃な大きさである。
「けんど、これで充分だ」
 要は、どんなものでも、利用の方法が肝心要。しっかりと確実におびきよせれば問題ないはず。というような内容を、拾ってきた小枝を組んで穴をおおい、そのうえに葉っぱをばらまいて、かとおもえば、穴の側にさした小さな枝に目印の紐をむすびながら、そしてあぁだこぅだと天と地と人とを指さし、草ををかぶって体臭を消し、とめまぐるしくたちはたらきながら、志乃が独創性にあふれた口調で話す。目が回りそうだ、とエドゥワルトはまぶたをこすりあげた。
「で、お魚は? もう焼いてもいいんじゃない?」
「あ」
 忘れるところだったらしい。急いでとりだし、志乃は火をつける。たちあがる白い煙、いりまじる香ばしさ、隣に酒を置く。「いくだよ〜」ふぅふぅ、と息をふきかけて、臭気を送り込む。
 これで、引き寄せる。
 じゃ、だめおしに。ヴェントリラキュイの能力を通じて、離れた小屋へ囁こうとしたアークへ、志乃がふと思いついたささやかな疑問を投げかける。
「小鬼って人間のことばが通じるんだばって?」
「‥‥無理かな?」
「無理っぽいなぁ」
 じつは、無理なんである。彼らは人とはちがった言語圏に生きている。
 ただし、今回にかぎり、それは重要な短所ではない。人間の声、それも少年の透き通った高い声色は自然界においては異質であり、それだけで小鬼の気をひくに充分だった。
 カタ、とつっかいをはずした音につづいて、戸から全部で5体の小鬼がパラパラと出てくる。似たり寄ったりの体型と顔立ち、家族かもしれない。彼らがいぶかりながらも罠の方角へ引き寄せられるようにしていく、じゅうぶん小屋から離れたと見計らった叶と帰霜は、おたがいに目配せを交わし合った。
「もう、よさそうですね?」
「あぁ」
 志乃たちとは真逆の場所でひそんでいた彼らは、忍び込む。気をつけたつもりではあったが、気配を隠すのには慣れていない、やはり、音もなく、とはいかなかった。
「はやく!」
 戸を開くときにたててしまった、ゴトン、と案外に大きな音にうろたえた夕刃を、穂狼が首根っこをつかんで小屋のなかにひきずりこむ。
「そんなの無視して、とっととやっときゃ、空耳かなって思われんだよ」
「は、はい」
「男だったら、返事はしっかりしろ」
「はい!」
「つうか、穂狼もとっととしろ」
 薄暗がりのなか大急ぎで小屋のまんなからへん、床板をはねあげると、視認するよりさきに冷気が肌にはりついてきたような気がした。
「灯り、つけたほうがよさそうですね?」
 叶、数珠をたぐった。
「魔法と提灯、どっちにしましょう」
「魔法でいいだろう」
 袈裟の袖にかこみ明度をおさえながら、ホーリーライトを灯す。
「すぐ終わらせる!」
 光にみちびかれて穂狼が氷室の縦穴にとびこんだ。手際はよい。細部にわたった手はずをあらかじめ準備しておいたからだろう。夕刃がほぅ、と感心の吐息をついた。
「なにやってんだ。俺だって手伝ってくれなきゃ、どうしようもないんだからな」
「は、はい」
「返事はしゃんと」
「はい!」
 穴の上と下に別れても、力関係のほうはほとんど入れ替わりのない、穂狼と夕刃。
 やれやれ、と帰霜は、肩を下ろす。ここまできては「あとは若い者にまかせて」と得意の逃げを打つこともできやしない。穂狼の持ち上げた氷に巻き付けた縄を不承不承、しかしさぼっていると思われないぐらいには力をこめて引っ張った。
「さて、退却すっか」
 だが、氷に筵を巻き付ける係、叶がなかなか手間取っている。
「氷さん、なかなか筵を着てくれないんですよ。ごわごわだから、いやなのかもしれませんね〜」
「着せ替えじゃないって」

 一方で、小屋の外。
 そろりそろりと進む小鬼たちを、じっとじぃっと見守る冒険者たち。じれる気持ちをおさえる。焦ってはいけない、焦ってはいけない、焦ってはいけない、焦ってはいけない‥‥。
 と。
 一番先を歩いていた小鬼が穴のふちに蹴躓く。まるでそれがあらかじめ定めておいた合図のようだった。紙を折り重ねるように、ひとつのうえにひとつ、次々と倒れていった。
「やった!」
 エドゥワルトが拳で歓びをあらわすとほぼ同時、
「こっちもやったぞ!」
 氷室の小屋から冒険者たちが転びまろびつ脱けてきた。志乃はたのんで、筵の端をそっとめくって一度見せてもらう。魔法できんきんに冷やされたそれは触ると痛いくらいだったけど、
「夏の氷って‥‥綺麗だべなぁ」
 星よりも星らしい、季節はずれの光の塊。お姫様の瞳みたい。それをかかえ、捕縛の小鬼の縄をといて、志乃の頭にたたきこんである道行きどおりに、一路、村へ。

●冒険者は肩の荷を降ろす。
「よし、あとはまかせたぜ」
 穂狼が投げるようにして渡した氷を、村の力持ちの韋駄天数人が分担し、よいしょ、と肩にかついでいる。身軽になった穂狼は、体の芯を伸ばすかたわら、ちろ、と空を見上げた。明けの明星が、白みはじめた空で直ぐな光を、孤高に保っている。
「いい星だ。きっとあんたの身を守る」
 行ってこい、と豪快な笑顔で送り出し、もう一度伸びをした。
 けっきょく、ほとんど徹夜仕事になってしまった。昨日の昼から立ち止まるひまもなく移動したり穴を掘ったり穴を取り囲んだりまた移動したり、てんてこ舞いを踊り狂った1日だった。もう、くたくた。
「いい若いモンがだらしねぇなぁ」
「だってー」
 アークが弱々しく帰霜(体力温存型の彼は、一行のなかで一番余裕があるようにみえる。が、じつは一番もともとの体力が高いのも、じつは彼であった。アークがきっちりなしをつけたいのもそのへんなのだが、眠気でよく口がまわらない)に反駁したのはまだいいほうで、罠を見張りつづけた緊張感もあって志乃やエドゥワルトは息も絶え絶えだし、叶は‥‥。
「キャア。道の真ん中にエルフのお坊様が行き倒れて!」
「すみません、そいつ泥のように寝ているだけです」
 迷惑なので、しばらく軒先を借りて休ませてもらうことにする。
「叶さん、残念ですね。せっかく氷を分けていただいたのに」
 起きるころには融けちゃいます。もったいないから、おなじエルフのよしみで私がいただいちゃいましょう。
「俺もエルフだけど」
「はい、じゃあ一口だけあげます」
 ぜったいなまちがっている。エドゥワルトはそう思ったものの、主張が形をなすまえに、氷を上乗せした匙が口のなかにおしこまれたので、とうとう何も言えなかった。
 対して、ご満悦のフリーズ。冷たいものを大急ぎでかきこんだときの幸せな頭痛をかんじながら村人に尋ねた。
「これ、もうすこしもらってもいいですか?」
「これ以上は、銭をもらうだよ」
「かまいません」
 ほんとうはいくぶん惜しかったけれど。しかたがない、氷はほぼ完全なかたちで持ち帰ることができたので、報酬もかなり多くなっている、そこから引き落としたとおもえば。フリーズは氷をかるく盛った器を、村のはずれ、氷室のある方角に近いところに供える。
「ごめんなさいね」
 あの、小鬼。赦してくれるわけもないが。それどころか、これを見つけてくれるかどうかも怪しいものだが。
「‥‥食べてくれるといいですね」
「あれ、夕刃さん。見てたんですか」
「ご、ごめんなさい。つい」
 ちょっと気になって。だって、なんとなく、あの小鬼の痛みが分かるような気がしたから。
「いえいえ、かまいませんよ」
 二人は微笑みあう。一人は快活に、一人は儚くもしっかりと。

 東の地平線より太陽がすっかり顔をだして、千本針のような日光に地上がさらされるころ。
 半分以上は水びたしの竹の器に、パラよりも小さなてのひらがそっと伸ばされる。