【伊賀<江戸の募金>】 草を結ぶ

■ショートシナリオ


担当:紺一詠

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや易

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:7人

冒険期間:12月15日〜12月20日

リプレイ公開日:2005年12月23日

●オープニング

 唐突だが、この時代、よっぽどの大国でもないかぎり、各国は、源徳・藤豊・平織、いずれかの派閥に属しているのがふつうである。伊賀は――共和制である以上、細かいところで意見の食い違いはみられるが――おおよそ源徳寄りの恭順をしめしている。理由はいろいろあるが、煩雑な話題になるので、割愛しよう。
 源徳のおさめる江戸は、先日、大火災によって尋常ならざる大被害をこうむった。委細ははぶくが、現在でも大勢の人々が喰うものどころか一晩の宿すらみつけられずに、十一月の火花によく似た粉雪がちらつきそうに寒空のなかを着の身着のままでふるえているという、話で。江戸より西へはるか離れたこの地でも、義捐をさしのべようとの声がたかまっていた。‥‥といっても、夏から秋にかけて大和の驚異をのりこえたばかり、人斬りの世情不安も色濃い京で、そんな風狂なことを言い出すのは腹にいちもつある権力者側と相場はおさだまり。
 つまり、これを契機に源徳に恩を売ろうという輩が出てきてもおかしくないってわけ。伊賀も、そうだ。そうなんだけど――‥‥、
「ずばり資金がありません」
 冒険者のまえでちっとも誇れないことをきっぱりした声音で云いきったのは、伊賀の幹部、三上忍のひとり。千賀地保長。
 権力者(いちおう)だからって、いつでも財布が潤沢だとはかぎらない。ましてや彼は先日、冒険者をだしにして一般の大店から少なくない金銭をしぼりとったくらい。『煙りの末』という団体を設立するためやむをえず、と、うそぶいていたが、ほんとうのところはどうなんだか。
 とにもかくにも、彼の談判はまだまだつづく。
「ですからちょいと、くじでもつくってもうけたいかと思いまして」
「くじ? 福引きとか富札とか‥‥」
「では、なくて。おみくじ。辻占のようなものですよ、それなら予算がほとんどなくてもどうにかなりますから」
「あぁ、そっち」
 辻占といっても、四つ角での易断や手相見じゃなく、花街のおあそびで使われているほうの。でも今回は、特に色遊びは関係ない。
「単純な募金活動では、なかなか大衆は身銭をきりたがらないものですよ。そこに『くじ』という媒介を得ることで、取引がなったような感覚をおぼえ、財布の紐もすこしはゆるむでしょう。‥‥ほんとうは、それはなんだって、かまわないんですけどね。干菓子だったり講談や放下だったり。辻占をえらんだのは、たんにおもしろそうだったからですけれども」
 話の流れは本題にはいる。台詞の最後のあたりはあまり気にしないほうがいい、かもしれない。
 千賀地の依頼は、その、くじの文面と売り出しの手段を、冒険者に考えてほしいというものだ。寄進というとうとい目標がある以上、結果が売れませんでした、では、やるせないものがある。斬新、先鋭、は、冒険者の十八番。さぞや愉快なものができあがるでしょうね、と、嬉し顔。
「‥‥そういえば、『七方出』は忍びの常套ですもんね」
「まさか。それだったら、もっと地味なものをえらびます」
 時と場合と状況と、その日の気分によりますが。
 ――‥‥しかし、だんだんと本性がわかりやすくなってきたな。千賀地保長。

●今回の参加者

 ea3880 藤城 伊織(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea5027 天鳥 都(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea5028 人見 梗(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea6433 榊 清芳(31歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea6534 高遠 聖(26歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ea9704 狩野 天青(26歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb1861 久世 沙紅良(29歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3916 ヒューゴ・メリクリウス(35歳・♂・レンジャー・人間・エジプト)

●サポート参加者

藤野 羽月(ea0348)/ 高槻 笙(ea2751)/ リラ・サファト(ea3900)/ 綾都 紗雪(ea4687)/ リュドミーラ・アデュレリア(ea8771)/ 狩野 柘榴(ea9460)/ 狩野 琥珀(ea9805

●リプレイ本文

●零、草を結ぶ
 さまざまな意があるが(吉凶を占う古代人の習俗だったり、旅の野宿をしめしていたり)、野っ原のを上手にしばると、転倒用の罠になる。 ←つっこむところ

●一
「先日の件ですが、私は冒険者と一言も云ってないのですがね」
「そうでしたな。では、久世様にはいくらかおわたししたほうがよろしいでしょうか」
「かまやしませんよ。私も楽しませてもらったし(例:某柘榴をこころゆくまでこづいたり)、その分を江戸の基金に上乗せしてもらえれば」
 と、久世沙紅良(eb1861)と千賀地、喉をくつくつ鳴らしたりして、なごやかとも冷や冷やともつかぬ模様を、狩野天青(ea9704)はつと、わきから顔をのぞかす。
「いいなっ。仲良しさん。俺もまぜてほしいです」
「‥‥そういうものですか?」
 ジャパンの風俗にはまだしっかりなじまねど、ヒューゴ・メリクリウス(eb3916)の目にはどうにも彼ら、「仲良しさん」のごとくは映らない。が、くまなく日の本の、天青がそういうのならそういうものだろうと、おとなしくする、なぜならヒューゴは――‥‥。
「感服いたしました、千賀地殿!」
 ここにもまた、なにか違っちゃった、人見梗(ea5028)。
「資金なくとも江戸の為にという千賀地様の心意気‥‥家族を江戸におります身としては、御仁の心に涙が‥‥」
 きらきらと、七宝のごとく、うるつく瞳を袂でおさえる、水分と塩分の無駄づかいだと誰か止めてやれ。でも、うつくしいものは存分にめでて、心の平穏、またよきかな。
 さぁ、皆様ごいっしょに。きらきらが江戸を救います! って、あれ、ほんとに誰やらいつのまにか混じってる。
「犬一郎(けんいちろう)さんの直伝ですの」
 と、天鳥都(ea5027)、ぽ、と頬染めて曰く、柴犬・犬一郎さんは「僕のなの」としっぽふりふりで応援して、
「天鳥さんの直伝です」
 と、藤城伊織(ea3880)もおなじく、きらっきらっうるっうるっ☆ 微妙に腹が立つ、とは云ってはいけない。京から世界にひろがるか、きらきらの輪。古典が、今、斬新。
「‥‥この流れだと、私が藤城さんの弟子なのか?」
 やるしかないのか、と、悶々自答する榊清芳(ea6433)。「そんなにむずかしいですか?」高遠聖(ea6534)は「こんなふうに」きらきらというよりは艶々と、枯草色の瞳へしずくをおとす。
「僕が清芳さんより先にできたということは。僕は清芳さんの‥‥」
「弟子だ」
 それはやけにきっぱりといいきる清芳、ほんとうは従弟です。
 とゆうか「あなたにもできる。たった三分、瞳で殺す」法をやりにきたわけじゃあないんだけど。そこの陰陽師「それなら、はじめから私にまかせてくれれば」とか対抗しなくていいから。流し目勝負、しなくていいから。「さぁ、そこの伊賀忍の諸君もやってみたまえ」指南も勧誘もしなくていいからー! 伊賀のお笑い化促進するなー(訳:もっとやれ)!
 そう、募金活動。こころざしを、と、冒険者らは身代をけずり、順々にギルドへおさめてゆく。沙紅良はくわえて依頼報酬の全額を、ヒューゴも横へならう。が、冒険者をはじめて日のあさいヒューゴ、それでこれからやってけるのか、と問われれば、罪知らぬ乙姫めいだところのある柔和な笑みで、にっこりと、
「どうしても困ったときは、そのへんのお金持ちそうな家に忍び込んで、蜜柑でもかっぱらってきますから」
 ヒューゴ、生業を、いわゆる泥棒。稼業に要るときもあるかと、もっぱらジャパンのならい、学習中。

●二
「出来はどうだい?」
 年長のつとめか、自己の担当ををすませた沙紅良が皆をみわたすと、「おぉ、ばっちりよ」「できました」「あとは、しあげだけだ」と、各自が頼もしい返事をかえすなかで、
「あと一時間、いえ、四半刻もあればできあがりますからー!」
 締め切り前の冒険者ギルド記録係のような迷言をさけびながら(←つっこむところ・その2)、わたわたと、額に冷や汗、唇からは青息吐息、筆をすべらせる手すさびは神速、梗ひとりが追いつめられている。
 たしかに梗はせっかちな性格ではないが、度を超したのんびりやというわけでもない。だのに、どうして、こんなことになっちゃったかといえば、
「‥‥ごめんなさい。僕がおてまをとらせたから」
 ぜひとも籤の文面の参考にしたい、と、聖に説法をおねがいしたところ、それがおもしろくずいぶん耳をとられて、籤までかたづけるのにまわらなかったのだ。では、聖もおなじような事態になってもおかしくないのだが、それはそれ、従兄の藤野羽月にその細君のリラ・サファトまで動員させてしたためさせたからで、
「でも僕だってなんにもしていなかったわけじゃないですから」
 聖は咎めるような、含めるような、深淵の目線をある方向に。そこでは綾都紗雪ともに、まじないの折り返しで、清芳が一枚一枚に加持を込めている。
「時よ止まれ、キミは美しいー!」
「あせらなくっていいよ、まだ全員そろってないからね」
 他人の魂がのりうつったかもしんない(やぁ、しみじみと親近感←おまえは誰だ)梗を、沙紅良はやさしくなだめる。だけでなく、「手伝おうか、僕は絵をうけもてばいいんだね?」と筆をとり、腕をとり、男女のお約束で腰もとり、しあげに一心不乱な梗が抵抗らしい抵抗もせず‥‥そのうち、おとがいまでとられて(よく作業を続行できるな、梗)、オーラっぽいひととき(オーラの発光色は桃色)がはじまろうとしたときに。
「たっだいま!」
 ばたん、と、天青、材料集めと事前宣伝係、が音高く、帰還。挨拶もそこそこに、火鉢へ、かっかっと近付いた。
「うー、外はさぶいや。あったかいお茶はある?」
「おかえり、愛息! 味噌汁なら用意してあるぜ」
「あ、そ。もらう。ありがと。じゃあ、もう帰っていいよ。柘榴兄者もいるし」
 実の父の狩野琥珀を顎であしらい、従兄の狩野柘榴の腕をとる。もっと怒っていいはずの父親がなにげな「ありがと」へ身もだえしてるすき、天青はちょい林檎の紅いほっぺ、急にあたたかいところへ出たからか他に理由があるのか、
「よーし、じゃ、みんなで籤を売りに行こ! ‥‥沙紅良さん、何してるの?」
「まにあいましたー!」
 問い:現在の沙紅良と梗の体勢を、想像力の限界まで駆使して、図示せよ。

 魚に水が絶対なように、人と慕情とはきってもきれぬあいだがららしい。恋愛から印象をとった題は、どんなに苦しい事情のときでも、安定した売れ線をほこる。冒険者らの考えたのも、恋の病へつける薬となるものが多かった。
 高槻笙に漢文の助言を得て、都がつづったものも、それ。
『吹きくる風は花の香ぞする:良き便り』
『思ひ知らずも解くる紐かな:逢瀬の予感』
 等。
「ただ読んで棄てられるのは、忍びないです。読んでずっとたいせつにしていただけるようなものがいいですね」
「恋ねぇ‥‥。悪かぁないけど。女はうらぎるけど、酒や煙草はうらぎらねぇし。‥‥べつに相手がいないから、そういってるわけじゃないぜ。べらんめぇ!」
 本日、酒類は一滴も口にしていないはずだのに、伊織は手も口も酔漢気味、しかし、ま、師匠のいうことなら、きかなきゃな。己を深く納得させる。大師匠・犬一郎さん(さん必須)もそばでみはっているのだし。
 清芳が作成したのは恋愛とは関係のあるようなないような、一般的な全体運をうらなう神籤だったのだが、念をこめるのをてつだった都の売れ行きがどうなるか気になって、いっしょにばらまきにでかけている。そういえば「逢い戻りは鴨の味」とあったな、という記憶からはじまる連想、鴨といえば、鴨鍋で、
「仏の教えで鳥肉は禁じられていなかったな‥‥」
 ばた、ばた、と、どこかで翼のはためく音がいやに騒がしかったが、かまわず清芳は瞑想にふける。
「飛ぶものを食することは、許されていたはずだ‥‥では、シフール食は認められるのだろうか?」
 ジャパンにシフールが土着しなかった理由は、大昔に食い尽くされたからにちがいない――‥‥。
「あ、あの。清芳さん。もう少しおさえめにしてくださいません?」
 犬一郎さん、都、伊織の三位一体キラキラ☆を帳消しにするほどの、清芳の殺気なのか末期なのか、おそるべし。

『質問をするということは、答えることよりも重要なことである』
『楽の達人は今日、楽をしないことが人生を楽にする事を知っている(当たり)』
 ヒューゴの考えた文面を一口にまとめるなら、箴言、イギリス語で、アフォリズム。こういうものはむしろ目標高めに、知識層のほうがウケがよいこともある。陰陽寮のまわりで売ってはどうだろう、と、沙紅良の助言、ヒューゴは首肯、こっくり、
「ふぅん‥‥おもしろそうですね」
 そのあたりはたしかに、お金持ちも多いようですし。うきうきしたおももちでヒューゴは、ひとり、はなれていった。
「おーい、看板ぐらいもってったほうがいいかもよ?」
 と、『勝手に千賀地謹製』(待てぃ)とつくった天青の応援、背に受けて。
「聖くんも恋愛籤かい?」
「そういう、沙紅良さんも?」
 かように、恋愛とはいつの世も人をひきつけるものらしい。もっとも沙紅良の惹かれるのは――‥‥あー、ごほん、沙紅良の恋愛観とはいろいろ語るより、
『若紫:踏まれ倒るる野辺の草 露の情けで蘇る』
『夢浮橋:早く咲こうが遅くに咲こが 今が盛りよ君の花』
 彼のあつらえたくじをひけらかすほうが、はやいだろう。
 沙紅良考案のあたりくじのおまけ、リュドミーラ・アデュレリア色絵のついた小石の評判も良く、ふたりの容貌もひきよせになって、この分ならすべて売り切れそうである。が、聖は籤の読み聞かせの最中、
「おめでとうございます、『比翼連理。何時、何時までも(大吉・良縁)』、きっと幸せになれますよ」
 僕の知るご夫婦のように、というところを、聖はうっかりと、
「僕たちのように」
 その隣に、沙紅良が、いた。

●三、とゆうか、おまけ
 さてもお試し、互いが互いの、やってみた。
藤城伊織:ヒューゴのを引いた『思考は短慮より熟慮。行動は早いに越した事はない』
天鳥都:伊織のを『御薬酒‥誰もお粥を作っちゃくれない。そんなアンタが風邪を癒すにゃコレしかねぇ』
人見梗:天青のを『大吉:子宝を授かるでしょう。その子に<大吉>とつけるべし』
榊清芳:梗のを『小吉:一筋の 道は駄目でも 次の道』
高遠聖:清芳のを『吉:低迷も復調の兆しあり。欲すれば手に入る』
狩野天青:沙紅良のを『幻:追えば逃げると諦めまいよ 追わねば遠い夢のまま』
久世沙紅良:聖のを『真澄鏡、心を映すその色は(吉・思われ)』
ヒューゴ・メリクリウス:都のを『萌え出づる春になりにけるかも:成就(当)』

伊織「あぁ、俺がつくったのは『酒籤』♪ 酒にまつわる俺の一言つき。寒い独り身の冬も、熱燗でぬっくぬく、てな。‥‥泣いてねぇって、これはキラキラ運動の一環だ!」
天青「あ、梗さん。今なら、年末特典として女性には『父者直筆 あら吃驚♪こんなに簡単お掃除楽々いろは帖』を付けちゃいます。どうぞ‥‥いやなら、枕にしてもいいから、持ってって」
梗「あぁ、どうも。私のものは、御仏の教えを基に作成しました。さすがは仏様です、なんとなくありがたそうですね」

 ところで、籤の売り上げ、もちろん上々だったわけですけども。
 特に、沙紅良と聖の組み合わせのところが。
沙紅良「思われ‥‥。聖くん、すまない、私はキミの気持ちに答えられそうにないよ」
聖「ほんとうにっ、本当に僕は復活できるんですね!?」
 みくじのみぞ、真実を知る。

●ピンナップ

榊 清芳(ea6433


PCツインピンナップ
Illusted by あおみ