二儀のざぶとん盗難事件

■ショートシナリオ


担当:紺一詠

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:6人

サポート参加人数:3人

冒険期間:01月15日〜01月20日

リプレイ公開日:2006年01月23日

●オープニング

(各自、ありたっけの想像力を駆使して、ちからいっぱいおどろおどろしいかんじで読み進めてくれると、とっても嬉しい)

 じゃんじゃんじゃーん♪
 じゃんじゃんじゃーーん♪♪

 松飾りもとれ、また忙しい日々が戻ってまいりました。しかし、お屠蘇気分はまだほんのりと、琵琶歌に身をゆだねるような長閑に、ここちよく陶酔めいて希薄なところ、を引き裂くのは、軽微の妖魔、来訪者。いや、いつもどおりにパラなんです。
「あ。はっぴぃにゅういやん・ばかん! ちょっとだけよ、あんたも好きね。おひさしぶりです。西中島二儀です、今年もよろしくおねがいしまーーす」
「星へ還れ」
「やだー。僕のおうちはここなんですー」
「勝手に住みつくんじゃねぇ!」
 もう解説もいやになってきますが、京都御所・図書寮の小間使いは、正月(終わりかけてますが、まぁ、一月いっぱいくらいはゆるされるだろう)から冒険者ギルドを我が家宣言するようなやつです。もちろん力尽くでとりのぞかれましたが。
「で、今日はなによ?」
 まぁ、それでも二儀、なんやかんやでギルドへ来るときは表向き「依頼」のかたちをたずさえてくるので、冒険者ギルド手代はいちおう用向きを聞き質す。すると二儀、
「そうだ。たいへんなことが起こったんです」
 ひどく、はなはだしく、真剣な表情をつくる。夢想と現実の限界にいどむときだって、こうはならないだろうというくらい、顔のつくりのあちこちを硬くさせる。それがとうとう口を開いて叫ぶことには、
「僕のたいせつな座布団たちが盗まれたんですーーー!」
 ――‥‥まとも。
 ちゃちくはあるが、まとも。
 これがこれで一見まともな依頼をもってくるのは、けっこう珍しい。雪が降るんじゃなかろうか。いや、降ってるかも。しかし何故座布団なのだろう、そんな趣味はいままでなかったはずなのだが。と、尋ねてみれば、なにやら無意味に胸をそらせる。ないものなので、ほんと、意味なし。
「十枚集めると、もれなく新撰組の肉っぽい隊士がついてくるんです!」
「‥‥あぁ、そう。ついてこないと思うけど。まぁ、とにかく、あらましを聞かせてもらおうか」
 以下、箇条書きでよろしく。

・現場は、図書寮の書庫のひとつ。座布団はここに持ち込まれていた。はっきりいってかさばるので、とっても邪魔だった。
・現場からは、座布団が三枚持ち去られていた。一枚一枚、はなかなか重い。
・現場には、謎の招き猫(陶製)が残されていた。
・現場には、万葉集が読みかけのかたちで投げられていた。
・現場には、謎の「々」という文字(記号?)が残されていた。
・現場には、正体不明の白い粉が撒き散らかされていた。甘い匂いがする。

「最後のは、たぶん、おまえが食い散らかした菓子の食べかすじゃないかなって気がするんですけど」
「まぁ、まぁ。証拠品は多いほうがいいですって」
「‥‥証拠っつうのか、それ?」
 ふつう、偽装、ってゆうよな。が、依頼人が証拠といいはってるので、証拠ということにしておこう。形式上は。
 そうそう、肝心のことを記しそこねるところだった。この事件、べつにむりして解決する必要はないそうだ。ほら前提が前提だから、代替の「もの」を用意すれば問題も障害もすべて消え去るので、
「兄貴ひとりでチャラにしますよーー」
「安心しろ。たぶん皆さん、頭脳をふりしぼって、必死で解決してくれるぞ」

●今回の参加者

 ea2751 高槻 笙(36歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea7780 ガイアス・タンベル(36歳・♂・ナイト・パラ・イスパニア王国)
 eb0601 カヤ・ツヴァイナァーツ(29歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb1630 神木 祥風(32歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 eb2245 佐紀野 緋緒(37歳・♂・陰陽師・ジャイアント・ジャパン)
 eb3272 ランティス・ニュートン(39歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

藤城 伊織(ea3880)/ レベッカ・オルガノン(eb0451)/ 神哭月 凛(eb1987

●リプレイ本文

 こんばんは、新畑・ツヴァ三郎です。
 さて、今回のこの謎(わりかし自作自演)と人々の愛憎(‥‥どこに?)が入り乱れたこの事件、実は思いもよらない真実が隠されていたのです‥‥たぶん。
「じゃまだよ、どいてどいてー」
「あぅ」
 ランティス・ニュートン(eb3272)によけられて、カヤ・ツヴァイナァーツ(eb0601)はぺたんとのめる。ランティスはきびきび手際よく縄索を引き回す、ツヴァイが体を直す頃合いには、多角の星座のよう、図書寮の書庫のあなたこなたは、おびただしい数と長さの直線にはりめぐらされている。
「もう。いったい、なにすんだよ」
「関係者以外立ち入り禁止になるようにしてるのさ。事件のときは、現場保存が鉄則だろ」
「むっ(←微妙に、対抗意識)。もちろん分かってるけど、新畑・ツヴァ三郎をみくびらないでほしいな」
「じゃあ灰色の脳細胞の俺は、ランティキュール・ポワトン。見よ、このうつくしい後光! あふれる知性をたたえているようだと思わないかい?」
「それってオーラ魔法でしょ。でも、僕なんかスクロール使えちゃうから、青だって赤だって、思いのままだもんねーへへん」
 コドモノケンカ。二十九歳と二十四歳(暦年齢四十七歳)、しかし、子どもの喧嘩ではない証拠に、ツヴァイがコンフュージョンやらかして、銀箔のおもての燐光とともに魔法の贈り名そのままの無秩序。ランティス苦心の直線たちが、びよん、びよん、とゆたかな波飛沫。
 ふっと、神木祥風(eb1630)は、湯呑みをさまよう湯気を吹き払う。そのまま、一口。食道を下りるまろみは、室内だのに底冷えする体をなかからぬくめた。とゆうか、そのお茶、ランティスが持ち込んできたものだったりする。
「あちらの国のお方って、やることなすこと彼岸にあられるのですね」
「祥風さん。やさしいおかおで、なかなかきついことを」
「『ひがん』ってなんですか?」
 ジャパンへたどりついてまだまもないガイアス・タンベル(ea7780)、だから彼にとってはたいがいの事象はめあたらしく、疑問符おぼえたての幼児のようにいちいちたしかめねば気が済まない。佐紀野緋緒(eb2245)にたずねると、緋緒は一度すなおにひらきかけた口をとざして、しばし伏し煩ってから、そろりそろりと口を開く。
「『ひー、がーん』と叫びたくなるほど、呆れた事態のことですよ」
 あんたもきついぞ、緋緒。
「‥‥まぁ、ともかく依頼ですから。二儀さん、もっと詳しく」
 高槻笙(ea2751)、かろうじて分別を発揮して当事者のほうへ体をめぐらして、けれど「お話を聞かせてください」の一言はかきむしられて、そのころ依頼人は――吊られていたので。
「なにしてますか?」
「いえ、遊んでほしそうだったものですから」
「遊んでほしいでーす☆」
 そこで、笙が見たものとはっ。ばばんっ。
 薙刀の柄に、両手両足しばられてちょうど前屈をさかさまにしたかたちに下げられている、このまま火にくべれば丸焼きにでもできそうな具合の二儀。ガイアスは、ほぅ、と感服をためいきにまぎれてこぼしながら、青い瞳はキラキラと朝露をまぶしたようにあかるい。
「ジャパンの遊びって、過激ですね! おもしろいですか? 僕もいっしょに」
 交ぜてほしいです、おだやかでない科白はしかし、レベッカ・オルガノンと神哭月凛にひきとめられて、刹那を足して延ばして数十倍の経過ののち、晴れやかな相好で同士のもとに還り、得たばかりの学識を得意げに披露する。
「分かりました。あれは遊びじゃなくって、愛の交歓なんですか。それじゃあ邪魔をしちゃ悪いですね。僕、我慢します」
「‥‥ものの見事に分かってませんね」
「‥‥いいえ。逆の意味では、森羅万象に通じているのかもしれません」
「事件は現場で起きているのですから、ちゃっちゃと行きますよ(ぺいっ)」
 緋緒が投げ出した薙刀は、軽いうなりとともに、ランティスのわたした網にひっかかる。ぷらん、ぷらん、と揺れさざめき、何事かわめいているような気もするけれど、平穏はまもられたみたいなのでこのままにしておこう。

 とゆわけで、ざぶとん盗難事件の現場検証、どうにかこうにかはじまるよー? ほれ、教育ちっくにドン。

「そういえば、ザ舞踏ってどんなものでしょう?」
 ごめん、嘘。はじまらなかった。
 ガイアスはにこにこと、いかにもパラ的、果実のようにみずみずしいほがらかさ。緋緒はほんの少し心を痛みかけて――おかしなことを教えて悪かったなぁ、という――だけども、ガイアスがそれでも「愛の交歓」を信じているようだということを思い起こし、わずかな後悔は粉みじんに駆逐された。
 なにか付け足すたびに泥沼にはまっているような気がしないでもないので、此度は正確にもとづく。
「座布団ですよ。小正方形の茵‥‥と申しましょうか」
「しとね、じゃ分からないよ。ここにはもう、予備の座布団もないみたいだし‥‥。そうだ、異国人の先輩である僕がつくってあげるよ。ツヴ三郎ってば、いじらしい♪ ランティキュールとちがって」
「ん? それは聞き捨てならないな。探偵ならば公明正大に推理合戦で勝ち負けを決めようじゃないか」
「ようっし、それ受けてたつぞーーっ」
「座布団といえば‥‥」
 故意に聞き捨てた祥風は、二儀のかたわらにうずくまる。たしかめねばならぬことがあったので。祥風の二儀をみる視線には、常日頃のしなやかさには湛えられぬ烈日の光が、どことはなしにふわりと。
「二儀さん自身は、座布団はどこから調達されたのですか? まさか図書寮の備品を失敬したのではないでしょうね」
「あ、それはだいじょぶ」
 さかさま続行中から、威勢だけはすばらしい返答で、
「寺田屋さんから、こっそりもらってきましたから!」
 悠々。堂々。ちっとも悪びれるところのない。
 ――‥‥祥風の刻む笑みが、影を帯びるほど、深くなる。笙の知己である藤城伊織を呼びつけると、二儀の付近、といってもガキがどんなにあがいても手の届かないところ、に立たせる。そこへ緋緒の飼育する猛禽・雪華までくわわったところで、こけこっこー?
「‥‥雪華は鷹ですが」
「コッコッ」
「たしかにまだ人慣れはしてませんが、だからといって、そんなふうに飼い主の云うことを拒絶することはないでしょう。雪華?」
「(毛繕い)」
 動物と心をかよわせるのって難しいね、と、あまりにむりやりな寓話はさておき。
「これはなにがなんでも、始末をつけなければ、寺田屋さんに申し訳が立ちません」
 前頭葉をむしばむ疼痛をふりきるがごとく、笙はぐるん、と、首をまわした。
 ようやっとの聞き込みによると、ざぶとんはもともと三枚ほどしか集まっていなかった(盗っていなかった、というべきか)。「座布団を十枚集めると、新撰組の隊士のおもちかえりが可能」というのは、年末年始に寺田屋でおこなわれた宴会から派生した与太らしい。ちなみに「少年よ隊士をいだけ」なる、二儀の謎の抱負もそこから来ている。
「万葉集は図書寮の備品でまちがいないようですが‥‥。招き猫は謎ですね。万葉集と招き猫はむすびつきませんし、ノマ点『々』――同の字点ともいいますが――となると更に意味不明ですし‥‥」
 これは案外、厄介な事件かもしれませんよ。皆さんはどんなふうにお考えです、と、振ろうとした笙は止められる。
 ランティスはオーラエリベイション使用の機会と、そのときの姿勢をみいだすのに懸命になっていた。外国語であらわせば、いわゆるポージング、ぶいっ。
 緋緒は雪華と交流をふかめている。肉体派陰陽師と武闘派の鷹との心温まるやりとりは、ところどころ、緋緒の双眸よりも赤い液体が飛び交う。
 祥風は図書寮の棚を右から左へ、じっくり眺め回している。ときに仏教関係とおぼしき良書「今宵の二儀さんにはどちらがふさわしいでしょうね」とつぶやきながら、二、三冊を物色したり。
 ツヴァイはざぶざぶ制作CHU☆ が、針仕事をさほどこなしていないツヴァイの手つきは一本橋わたるようにあぶなっかしく、いまはまだ流血は点々と染みをつくるだけだけど、もしもこのままいったらば‥‥。
 ガイアスは招き猫に夢中だ。さかさにしたり、なでてみたり、話しかけたり「もしもーし。ざぶとんを持ち出した犯人をご存じですかー? おへんじしてくれませーん。くすん」あたりまえだい。
 ――‥‥依頼は? ってゆうか、そもそも、ここが図書寮だということすら眼中になくなっているものまで、いるようですが。
「私はなにも見ませんでした。ええ、これが私の愛する人類の正体だとはみとめません。知りませんとも」
 自力救済にめざめた笙、天窓から透過する天然光が逆錘に彼をきりとる。
「‥‥私たちははじめからまちがった推測にもとづいて動いていたのかもしれません。そもそも依頼の選択がまちがっていた、といえば、それまでですが」
 おっと、推理の時間がはじまったぞ! だってまいてかないと字数がさ、というのは聞かなかったことにしてくれぃ。
「ガイアスさんの『ザ舞踏』が、おおいなる助言になりました」
「僕の?」
「ガイアスさんはパラでしたね? そして、二儀さんもパラ。パラにはパラにのみ伝わる舞踊があるそうではないですか、ずばりパラパラが!」
 ちゃ、ちゃ、ちゃちゃちゃー♪ ふぁいあー♪
「‥‥はっ。今、いっしゅん踊りかけてしまいました。それは皆さん、忘れて」
 たぶん、一生涯忘れません。しかし笙は剛胆にもすべては塵へ帰したがごとく、なにもなかったような顔付きで、淡々と話を進める。
「招き猫は伝説の守護神『野魔猫』さまをあらわしていたのです! ちなみに真言は『野魔野魔家』。そして、事の真相は‥‥座布団は現在‥‥!」
「フォーノリッヂで見たけど、座布団だったら肉な人にしかれてしあわせそうだったよ」
「あぁ、俺もたしかめてきた。図書寮の筋肉質な職員さんにひかれてたね」
「それはたしか、山●殿というのではありませんか? 招き猫をさしいれたとか、良い上役魂の方ですね。このような方こそ、アニキと慕うべきです。‥‥というか、慕っとけや。おっと、失礼」
 ツヴァイ、ランティス、緋緒に先にことばをうばわれて。
 かっこだけつけたまま、ひろいあげられない笙のまにまに、冷風が吹きすさぶ。おいしいところだけとられた、むなしさ。おしまいのとっておきをきめられなかった、はかなさ。諸行無常が身にしみる、ごーんと。ガイアスが寄せてくれる賛辞がやけに骨身に応えた、あたたかくって。
「僕のことばが笙さんの推理のお役に立てて、嬉しいなぁ」
 招き猫さんもそう思いませんか? くるくると友達とたわむれるよう、それをつかんでまわすガイアスの鼻梁がつ、と、赤くともった。
「ごめんなさい。僕、興奮すると鼻血がでるんです、喜びすぎちゃったみたい」
 血?
 血。
 そのとき、定量を超える。
「っしゃあああああ!」

 ※
 ※
 ※

 ‥‥気が付くと、ツヴァイは図書寮の一室に寝かせられていた。濡れ布をあてがうなどして、世話を焼いてくれていたのは、祥風。彼はツヴァイに、二儀へ送ったのと酷似した、険呑な目付きをながす。
「ツヴァイさん。あられもなくなるほど鼻血が好きだったとは。さすがの二儀さんもかすんでみえるほどの、おそろしい性癖でございます。しかし御仏はあなたのように特殊な御仁も、お救いくださいます。ぜひとも二儀さんとともに、つたなくはありますが、ぜひとも私の説教に一晩付き合っていただきましょう」
「ちょっと待ってーーーっ」

 ※

 今回の事件の結論。ハーフエルフは狂化の瞬間をえらえべないから、ものがなしい。
「招き猫さん、もらっちゃいましたー♪ わーい♪」
 きゅ、と、ガイアスが陶器の四つ足を抱き竦めると、それは陶器にしてはなまぬるく、塗料とはちがう色に光る瞳‥‥ような気もする。にゃおぅん?