【大火の爪痕】 ありがとう

■ショートシナリオ


担当:紺一詠

対応レベル:4〜8lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 40 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:02月12日〜02月17日

リプレイ公開日:2006年02月20日

●オープニング

 目をつむっての経過は毒素でもあれば、良薬でもある。蕾をほころばし花をくさらせる、それも日と水と土と時の恩寵あってのこと。風がざわめき、木々がゆらぐ、炎の躍動、水のうつろい、連続に断続、畢竟星霜のなせる御業。
 ――‥‥神聖暦千と一年は、とうとう二月である。立春もとうに用事を終えた。針刺す寒気にもどことなく芽吹きがたちこめる、梅ヶ枝の尖端は童女の頬のように赤らみ初め、小川の水もそろそろと意固地をほどいて、地上もおもいなしか始動に揺れ立つ幻の、そんな折り、春らしい吉報がひとつばかり。
 長らく懸念されていた江戸の、月の扉を奧にかかえる地下空洞、そこへ仮設の長屋をたてる計画がとうとう軌道にのったようだ。新たに普請奉行に任官された板倉勝重が号をかけ、ときならぬ新築のにぎわいが、上から下へそれとも下から上に、出入りするようになった。
 けれども再三触れているように、江戸の金蔵はとうに底が尽きた。さかさにしたってあまりのこぼれてこない以上、できるところからはじめてゆくしかないわけで。
 以前、冒険者が依頼を遂行する際に江戸の地下空洞を調査したことがあった、どうやらその際のまとめが廻りに廻ってどこぞに届いたようで、資料は有用とされ、そのあたりは優先区域となったらしい。
 しかし、あちらをたてればこちらがたたずの浮き世の習い、昨日の淵は今日の瀬で、それがおもしろくないものだっているのだ。
 たとえば、おこぼれにあずかれなかったもの。ぽつぽつとおちついてきたとはいえ、いまだ飢えと寒さにさいなまれるもの。弱ってゆく一方の赤子をかかえてどうにもこうにもならないもの。たわら・むしろがせいいっぱいの財の、こもかぶり。彼らのねたみやそねみ、ひがみの捌け口は、創造の妨害というかたちにあらわれた。
 建築資材をもちこまれた時分からはやばやと、作業への嫌がらせが続いたのだ。ひとつ、ひとつはわらべのかんしゃくほどにも他愛ない。それらが行われるのは、たいてい真夜中だ。薄暗がりで仕事をするための明かりの油が盗まれる。片づけておいた道具がばらばらにされる。下品な戯れ書きがしたためられる。が、それが毎日となれば工員のやる気を削いでも不思議はない。仕事のおくれは真昼のごとき明らかであった。
 むろん、対処がなにもほどこされなかったわけではなく、話を付けようと実行犯を待ち伏せしようというたくらみも遂行された。が、そろそろ四半年ちかくにもなる空洞ぐらしのせいか、複雑な横道までも熟知している彼らははしこく、追いがたい。それでもひとりを捕まえてみれば、十人が寄ってたかってとりかえしにくる、ほのぐらい情熱は愛よりもよっぽどしたたかに彼らをまとめあげていた。
 だが、いったん糸が切れれば数珠の珠は悉皆はじけとぶように、はじめの一歩の段階での企画の頓挫がこれよりあとへ好ましくない連鎖をおよぼすかもしれぬ――いつか彼らが受けるであろういつくしみまで、立ち消えすることになるかもしれぬ。
 どうやってそれを、彼らに、逃げ出す彼らに、分かってもらおうか?
 ほとほと弱り切った工務責任者から、冒険者ギルドに「相次ぐいやがらせをなんとか宥めてほしい」という依頼がとどけられたことで、冒険者らは当事者へと立場を転換することになる。

 早春賦。
 やわらかな春がしおれてしまわぬうちに。

●今回の参加者

 ea0708 藤野 咲月(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea4687 綾都 紗雪(23歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea5419 冴刃 音無(30歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea6433 榊 清芳(31歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 eb1833 小野 麻鳥(37歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb1987 神哭月 凛(30歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3483 イシュルーナ・エステルハージ(22歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb3797 セピア・オーレリィ(29歳・♀・神聖騎士・エルフ・フランク王国)

●サポート参加者

鷹波 穂狼(ea4141)/ 片桐 惣助(ea6649)/ マクシミリアン・リーマス(eb0311

●リプレイ本文

 とんからりん、槌、鑢、鋸、大工仕事は町中のおもちゃをあつめていっせいに動かしたような賑々しさ。冴刃音無(ea5419)は、ふわぁ、と、溜息とも喝采ともつかぬ音色にのどをふるわせる。建築を間近にながめるのはそりゃ初めてではないが、しかしいつの世も時代も、職人の本気、技術の展覧、材木の切り口からのちゃっきりした芳香が少年性をあおぐ。
 花をながめるように陶然とする最中――いけない、はたと気持ちが還ってくる。今の俺は、彼らとおなじ匠のひとり、他の工事地区からようすをうかがいに来たんだ。
「この道具いいかんじだね。‥‥使っていいの?」
 きれいに手入れされた銀ぴかな刃に指などかけたところで――挨拶代わりだったはずの日常会話へ真剣にとりくみたがる己をふせ、音無はたったいま思い出したように、なにげなく話題の転換をはかる。
「作業おくれてるんだって?」
 是、の返答。それを首肯で飲み込み、音無は奥深くへ這入ってゆく。
 ―――‥‥そこは云うまでもなく、依頼の進行の場となる江戸地下空洞の一箇所で、昼間、といっても雲居から隔絶された地下は暗色の紗をおろしたように目のききがたい。イギリスからこの国へわたってまだ間もないイシュルーナ・エステルハージ(eb3483)は音無のいる方角へ、春の海の碧の瞳をきらきら、
「クラリーチェ、遠くに行ったら迷子になるよー」
 と、小蛇を、藁でもあつかうように、くるりらやさしくもてあそびながら。
 とにもかくにも、依頼の遂行を、といっても「彼ら」と搗ち合える時期は夜間だから、昼のうちは下調べや聞き込みに従事するしかないのだけれども。かつて別の用事で(もっとも「この」依頼とは少々つながりはある)来たことのある、榊清芳(ea6433)や綾都紗雪(ea4687)といっしょなので、イシュルーナもそれほど苦労はしないですみそうだ。そこで提案、
「みんなで救援物資をもらう運動をやらない?」
 個人個人で小さい嫌がらせをしていても、現状は変わらないよね。その時だけはちょっと鬱憤が晴れるかもしれないけど、虚しさもあるんじゃないかな。不満の捌け口をぶちまけたり、看板に書いたりして練り歩いたり――‥‥。
「どうかな?」
「それは‥‥」
「‥‥少々まずいかもしれませんよ」
 清芳が物言いを淀ませると、紗雪があとをつづける。
 此度の火の騒ぎは付け火ともっぱらの世評、異常な火の廻りからいって、それがおそらく正解だろう。とすれば犯人がどこかにいるはずなのだ、履行ではなく動機をになった。彼らは江戸の源徳家が灰燼におぼれゆくさまを今か今かと待ちわびているだろうし、源徳は源徳でそうはさせるまいと黄色い目を光らせて、火打ち石の擦り手をあぶりださんと躍起になっている。
「反源徳運動の先鋒とみられては、かえって身動きがとれなくなってしまうでしょう」
 実際、打ち壊しなどの騒動も起きてはいる‥‥それらとは違うと主張しても、役人が額面どおりに引き下がってくれるとはかぎらない。イシュルーナは、うーん、とうなり、説得へ粛々と耳をかたむけているようだったが、やがて、ぽん、と、手を拍ち、
「おサムライさんたちもいっしょにお祭りしたいんだ。照れ屋だから言い出せなくて、ついついいじわるしちゃうんだね☆」
「そうかもしれません」
 末端にまで中央の心慮がゆきとどいているとは、かぎらないのだから。
「‥‥じゃあ、ギルドにおねがいして届けるってのは」
 江戸の惨状を各地方へ知ってもらうために、ギルドでの依頼で派遣されるごとに、その地に立て札たてたり書簡などをしたためたり等、これは音無の意見。だが、江戸ギルドの活動範囲はときに源徳の直接の統治範囲・武蔵からはみだすこともある。親国ならばまだしも、たとえば反源徳の気風が日増しにつよまる上野国でそんなことをすれば、かえって江戸の弱体化をひけらかすようなもの。
 きなくさい時代、弱き者へと手をさしのべるのは、天女ではなくまず悪鬼。江戸を出ればあたたかい食事があるよ、と幼子を連れ出す人買いどものかだましさ。
「‥‥あ、あぁ。そんなことはさせぬ」
 難解な話題からも、戦の気色を鋭敏にもかんじとったか。清芳はちかづいたわらべのかしらをかいぐりしたあとで、失礼だったかな、と思い返したが、当の本人はにっかりと幾分清潔みにかける笑まいで応じた。幸いといおうか、このあたりは横のつながりがしっかりしているので、人買いの出没はないらしい。
「人買いでなくとも、おかしな人は見かけませんでしたか?」
 紗雪の設問に、わらべらは目を交わし合った。
 ――そのころ、おなじく地下空洞、しかし、イシュルーナたちのいるよりいくらかあいまをおいたところ、にては。
 神哭月凛(eb1987)と藤野咲月(ea0708)、セピア・オーレリィ(eb3797)らは、悪戯の現場からたぐるようにして地下空洞の周辺に目をやっていた。彼女らの先導をつとめるは小野麻鳥(eb1833)、一度ここを通っているから、案内役としてはうってつけ。しかし、彼は普請奉行に会見を申し込んではいなかったか?
「さすがに書状を送ってすぐのお目通りはかなわぬらしい」
 だからこうして、身も心も萎えてしまわぬように。身も心も同志の助勢に捧げている。
 あいてはまがりなりにも奉行職、一方の麻鳥は陰陽寮の出自をもつとはいえ一介の冒険者にすぎず、身分からいえば返辞が来るかどうかすら怪しいのだ。
 待つばかりの身。時剋の経過は荒ぶる疾風となんら変わるところなく、麻鳥の精神を爪牙で喰もうとするが、彼は白皙の相貌を漆喰のようにそっけなくおちつかせてるだけ。
「ちゃんと話を聞いてもらえると、いいわね」
 代替というわけでないが、セピアがいつになく、沈鬱なおももちを。
 異邦人。槍の穂先のようにとがった耳朶、透きとおる雪白の輪郭、赤い瞳は血走る鬼の形相にもたとえられ、どこをとっても異質、別の次元の立体。黒鳥の群体にまぎれこんだ白鷺がごとく、ジャパンという国にはいまだなじめぬところがある。そういうセピアだから、経過を待つ以外できぬ麻鳥の苦悶は大気を通してつたわってくるようで――‥‥。
 ふっ、と、
 たわわな胸囲をもちあげるように腕を組むセピア、うってかわって、つんと顎をそびやかす。
「どうしようもなかったら、私がめいっぱいなぐさめてあげるわ」
「なに。卜占には『待ち人来る』と出ている」
「‥‥私も占ってみましょうか」
 麻鳥につづいて陰陽師である凛の言い分、淡々としたのは、麻鳥の占いの結果と同一であることを確信してのもので、だからだいじょうぶだ、というようなことを云いたかったのだが、さすがに遠回りすぎてつたわらない。ミミクリーの術で犬族の姿をとっていたマクシミリアン・リーマスはそのことを鼻面で諭そうとしたが、けっきょくあきらめ、くーんと小鼻をならして捜索の本分に還る。
 椿の単衣の繊細な風付きで身をよろう咲月だが、墨をふやかしたような薄闇も、勝手の分からぬ薄手のでこぼこも、忍びの身分にとってはむしろ好都合。ひらり、ひらり、と、風媒のながれるように、白地をさまよわせながら、別の、工事への取り組みがいまだおよばぬ地帯のほうへ、すりぬけていった。

 ※

 地下の夜さりは容赦ない。内側にいわおでもかいこんだのか、つぶさに圧する重力がある。冒険者らはわりに目端の利くものが多かったけれど、宵よりも宵らしい暗がりのまえにふさぎこまれるのは第一に思考と理性だ。
 目よりも案外、耳が役に立つ。咲月はふと顔を上げる。人、移動、たしかにあちらからこちらへ。
 凛とセピアの発案により、本日の警備態勢はわざといびつにした。厚いところと薄いところを極端に、かつ、誘導のかかるように配置したわけだ。昼の偵察はそのためで、セピアは気楽そうに、
「彼らは侵入の玄人ってわけじゃない。なんとかなるわよ」
「ええ‥‥」
 凛は手にした呪符をかえした。暗視の助力になるかと思い持参したが、こうなってようやく気付く欠点があった。呪符は使用時、魔法と同様の発光現象を刹那もたらす。この暗闇では、真っ赤だの黄金だのはたいそう映える、天然にありえない光沢をみとがめられたら、「彼ら」はその場できびすをかえしてしまうかもしれぬ。
 さいわい明るいうちの経験がある。知己の鷹波穂狼が市井をねばりづよく動き回っていたあいだを、凛とて無駄に過ごしたわけではない。
『来ました』
 実のある声差しにはできないから、咲月は音無の手首をぎゅっとする。すると、咲月の手首をあやすように、二度、三度、指先でぱたぱたされた。

 ※

 四日め、ついに麻鳥のもとへ返り文がとどけられる。先触れなしの面会の施行も同時に来たわけだが、忙しい御仁だとおもえばしかたがない。
 普請奉行・板倉勝重は麻鳥のおもっていたよりずいぶんと温厚な見掛けをしていたが、それも道理で、もとは僧侶であったのが還俗してこの道へ足を踏み入れたらしい。しかし、いまでも料簡は世尊へあずけているらしく、山のような収賄にもちらともなびかぬと巷の風説。
 板倉は麻鳥たちがだからこそ、対面にふみきったらしい。それを知った麻鳥がばさりと置くのは、
「ちょうどいい、新しいものができている」
 片桐惣助のしらべをまとめた紙束は、狂気の沙汰かというほど、分厚い。
「これと‥‥それから俺の八卦見をつけよう」
 風水都市・江戸。京以上に四神の鎮護をもって封ぜられた土地柄と伝え聞く。
 板倉には袖の下は通じない、よって駆け引きもなりたたない。麻鳥は純粋に、彼のこころざしの指向を問われている。値踏みでない視線にかえって気後れしながら、が、さい先をむける麻鳥の相貌に、焦燥の冷や汗も緊張の脂汗も姿をみせぬ。
「仮設建築の人足に地下洞の難民をあてることはできないだろうか?」
 この場にはおらぬが、清芳も同意見、凛や紗雪にはもう一押しすすめた見方がある。的確ないやがらせをおこなえるくらいに暁通する「彼ら」だからこそ、建築の現場にて用いではあるというもの。金銭を用意だてできないというなら、物資の供給でもよい。彼らはそれでもずいぶん喜ぶだろう。
 板倉は、公平な人がそうであるように、麻鳥の談判にくちばしを一度もはさむことなく、終いまですっかり聴き終えたあとで、
「よろしいでしょう、御意見はありがたくちょうだいいたします」
「では、」
「ええ。積極的に難民を登用することにいたしましょう。‥‥ただ漫然と生活する人々を統制することは困難ですが、『仕事』という具象指針のもとでは、人々も秩序にしたがいやすい。保安の面からいっても、そちらの御意見は有用であるとかんがえます」
「かたじけない」
 さっそく陰陽道による見立てをはじめようとした麻鳥だが、制される。
「こちらにも陰陽師はいますので‥‥。あなたにはあなたにしかできない用件をおねがいしたい。このことを地下の人々へお知らせねがいますか」
「‥‥承知、」
 板倉の屋敷を出たあとで、麻鳥は知る、のこりの冒険者たちのもぐる地下空洞への入り口は――‥‥。

 吉の方角へ吉報をもたらす、麒麟児がごとく。

 ※

『一人つかまえれば何人ででもってことは芋蔓式ってことかしら?』
 セピアの見方は楽天的ではあったが、まさにそうなる。聞き耳をいっぱいにはたらかせた咲月がとらえたひとりを、音無が代わって縛り上げる。すると、撒き餌にたかる魚群のように、どこからともなく人影が寄り集まる、刻一刻。
 が、そうですか、と、ここで終わっては元の木阿弥。
「ここからね」
 見目良く隆起する胸を、すぅ、はぁ、と、セピアは上下させる。ここからなのだ、彼らをただそれだけの犯罪者あつかいしたってしかたがない。
 その説得だが、どういう巡り合わせだか――清芳がおしだされるかたちになった。そりゃ説教しなれている沙門はこういうとき、むだにありがたがられる。が、それならば紗雪もおなじではないか。清芳は紗雪にすがるような目線をくれたが、紗雪は菩薩の微笑みを清芳に無言で手向けるだけで、試練の黒僧兵・清芳、慈愛の白僧侶・紗雪、なんだか微妙に立ち位置が入れ替わっている。
 しかたがないので清芳は切り出す、けれどいったい何を尽くして、
「‥‥子どもたちが、待っている」
 と、口をついた言葉は己でも少々意外な、
「職人も度重なるいたずらに疲れ‥‥いや、職人らばかりではない、家のできあがりを待つ子どもらも。これ以上の遅れは何も生み出さないだろう」
 一歩進むたびに塩を嘗めなければならぬ兎馬のごとく、清芳は、一言一言をつっかえながら噛み砕き、陳べる。
「見ていたそうだよ、子どもたちはあなたがたのやったことを。でも、彼らは何も知らないんだ」
「‥‥子どもたちを間諜のようにおつかいになったそうですね」
 紗雪の追加の科白には、動揺が走ったような、闇からのそぶり。咲月はそれを耳でも留める。
「今は、少しでも待つと言う事をしてみませんか‥‥? じき、春がやって来ます。僅かでも悲しみでなく喜びで季節を迎えることこそ幸せな事ではないでしょうか」
「そうそう、人生あせったってしかたがないよ。そのあいだにみんなさぁ、テバサキ?手に職?つければいいんだよ。そうしたら、どっかに雇ってもらえるかもしれないし」
 イシュルーナがあっけらかんと、でも、そんなのは無理だ。そんな雰囲気になったところに、凛が、名のままに凛とした声音で冴え冴えと浸透させる。
「いえ。仕事はあります、あなたがたにはじき、かつてない大仕事が待っています」
 凛は身をひるがえした、そこへ、
「‥‥占いはあたりましたか」
 灯明をくゆるしながらこちらに近付く人影は、麻鳥、凛はしかし筮竹を振らなくったってやはり結果を確信している。淡くつむぐ神託は、
「待ち人、来る」

 ※

 あぁ、そういうことでそうなった。地下空洞の人足の大部分は、空洞に住み着いた難民たちを中心に調達されることとなった。いつか自分たちのところにも、という所懐をもつ彼らだからこそ、
「お父さんとお母さんは忙しくなりますけど、心配をかけてはいけませんよ」
 甕一杯の清浄な水をごとごと鳴らして運びながら、紗雪は子どもたちを諭す。子どもたちは当然そろって、こっくりと諾をしめす。
 そして子どもらが口をそろえていうことには、音無の入れ知恵で材木の切れ端にしたためた子もいたけれど、

 ※

 ありがとう。