【花鳥風月】 弱法師
|
■ショートシナリオ
担当:紺一詠
対応レベル:5〜9lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 74 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:03月28日〜04月02日
リプレイ公開日:2006年04月06日
|
●オープニング
●
旅回りの猿楽の一座から、さらわれた役者をとりもどしてほしいとの依頼で、
「観世太夫の二代目――鬼夜叉という少年なのですが」
風変わりな名ですね、失礼は承知のうえ率直にさしはさめば、この一座のお株が鬼を題材にとった演目で、座長の宗子の鬼夜叉は這い出すまえから浴びるように舞楽をならわされてきたからか、まるで鬼神につかわされたかのように凄味のある妙技をみせるところから、そう呼ばれているそうな。
「峠の道で賊におそわれました。私らは値打ちの荷をさしだしどうにかこうにかことなきを得ましたが、身内の私がいうと手前味噌のようですが、鬼夜叉はちょっとした美童で‥‥。売れば銭になると思われたのかもしれません、いっしょに連れ去られてしまいました。金品はどうにでもなりますが、鬼夜叉はうちの看板役者、彼がおらぬと明日の興行もやりくりできませぬ」
匪賊のあらわれる所在をいよいよしっかりさせ、いざ根回しを、のまえに些少の水をかけられる。
「お気を付けて。以前は催促さえ呑めば命まではとらなかったものの、賊ども、春の毒気にやられたのでしょうか、このところやりくちがどんどん姦悪になっているそうです。うんともすんとも云わず、出会い頭からだんびらをふりないでくるとか」
こちらにその気がなくとも、あちらは殺傷するつもりでやってくるだろう。だからといって遠慮なく殲滅させれば、彼等の隠れ処を突き止めることができなくなる。‥‥兼ね合いが必要ということか。
●
まったく莫迦みたい。
鬼夜叉は思う、凡百の世間を、辺地の無聊を、山出しの猥雑を、三千世界は穴だらけだ、どれだけ縫い付けしようが綴じ糸をわたしたはしからぶつぎれる。
唐織、摺箔の女物の装束、ふざけてそのままにして旅をつづけたのが諸悪の根源だ。鬼夜叉を掠奪した賊の頭目は、鬼夜叉を生粋の婦女と誤解し、ねぐらにつれかえったところで婚姻を申し入れたのだ。
こんなときにかっこつけてどうするのだろう。謂われなき暴力ならおしまいまで突き通せばいいのに。――‥‥途中から御機嫌うかがいに転ずるなんて、あまりにみっともないよ。
「首が、欲しいな」
だから、気紛れ半分苛立ち半分でそう云ってみた。本意なんぞ、どこにもない。
「人の首。男の、女の、武士の、坊主の、公達の、姫君の、いろいろと。合わせて百になったら、いいよ」
悪心も、ない。
そしたらば頭目は愚直にも、鬼夜叉のいうとおりに首を持ち帰りはじめたのである。世間知らずのガキひとり、まるで珠玉をおしいだくように大事にする。鬼夜叉の気を惹こうと、一途に真っ赤になる。
頭目はときどき、首のついでに刈り入れたのであろう、挿し櫛や扱き帯を鬼夜叉におさめた。鬼夜叉は男子だが、舞台では女役をひきうけることもしきりだから、うつくしく装うのは嫌いではない。礼のつもりで舞をひとさしやったら、頭目は感極まったあまり赤子のようにぼろぼろ泣き出して、そのときばかりは鬼夜叉も心から彼を愛しいと感じたものだけれど、所詮は一時の気の迷い。
鬼夜叉にあるのは舞台の、三間四方の大伽藍、鬼も仏もともに駆ける天涯だけであるから、他のものは総じてかわらけの切片にすら足らぬ、愚劣で、下等で、粗野な、この世は無限の出涸らしだ。
だから今日も鬼夜叉はさえずる。
「莫迦みたい」
逃亡すらこころみない弱虫ひとりにへいこらかしずくなんて、莫迦みたい。
――‥‥首はすでに二十を超した。はじめにもちかえられたもののうちには蛆のわきだしたものもある。百をむかえる日は遠くないだろう、それまでに自分が助け出されるのが先か、度を超した罪業に凶賊がお縄になるのが先か、もしくは性別のあばかれるのが先か――‥‥。
「どうでもいいや。僕には選択権がない」
鬼夜叉は、えい、とはだしを投げる。足首にあたって行脚僧の首が転がり、切れ口が仰向けになる、そこへ張り付いた血糊、西洋菓子のようなやわらかさで、ふる、とだぶついた。
●リプレイ本文
●
そのあたりはどこまでも、山なお山なのである。テリー・アーミティッジ(ea9384)、目を皿にして、じぃっと見渡して。胸の下側からが迫り上がってくる、気詰まりするようなこれは――たとえば黄金の海際のこちらがわにたたずむとき、たったひとりで、ふとこんな按配になるときもある。
ところで。
テリーはシフールだから、シフールというのは、まぁ非力だ。ほんのちょっとの荷重が過重――しゃれにもならん。背負いの荷につぶされかけて飛ぶのもままならないテリーを、狭霧氷冥(eb1647)はこうべのてっぺんにのせていたのだけど、それじゃどこにいるかも分からないやつばらにも見つかりやすいだろう、と、
「こっちに入ってなよー」
氷冥、猫の子つまむ具合にテリーの首根っこをとりあげて、そのまま懐にぽいっとしまいこむ。たわわな乳房は蒸し菓子を思わせる、厚み、温み、ふくいくたる香り。母性の心地よさは追われた仙境にもひとしかろう、たいての男性にとっては、しかしテリーには別な天国。
「むぎゅ」
「むぎゅ?」
「きゅう」
――‥‥しばらくは森林的な沈静が、泉となってその場をひたす。が、どことなく雲行きが怪しいような、あるべきテリーの息遣いまでなぜだかひっそりしたような。
「えーと?」
氷冥、ふと思い至って、おっかなびっくりテリーをとりだしてみると‥‥夜霧色の翅が、塩を振ったようにしおれている。もんだり逆さにふったり――たぶん応急処置――氷冥、少々荒々しすぎる世話をくりかえし。やっとこさ気の付いたテリーが、ぴぃぴぃ葦笛鳴らすようなべそをかく。
「ひどいや、ひどいや」
「あはは。ごめん、ごめん。『今度』こそやさしくするからさ。って、ほら、私たちは囮役じゃないんだから、おとなしくしてないと」
「‥‥ん」
そうである、ふたり以外――のうちの一人、氷雨鳳(ea1057)、新撰組十番隊隊士を拝命したばかり、たぎる正義といずる使命とを額の真中「誠」の一字におちつける、そこが第三の眼になったかのよう、ぎろ、といまだ冒険者ら以外に人影のたたぬ眺望をにらんだ。
「新撰組の名にかけてもこの悪行、許すわけにはいかんな‥‥」
この、と、身近い指示語でさしたのにはわけがある。
いけぞんざいに打ち棄てられていたのだ――ほとんどの骨をむきだしにさせた、鼠色の屍。欠損の多いそれ。頭部をまったくなくして、だが、あえて、ひとり、と呼ぼう。大神総一郎(ea1636)は、ひとりをてさぐりでたしかめる。親が子を気遣うような――冷たいものはいつまでも冷たいかぎりだが。
新しくもないが、古くもない。
「賊にやられたのだろう。首がないのが気にかかるが‥‥」
それ自体はすでに皆で聞き及んでいたことだから、耳新しくはない。が、こうやって見せつけられればまた別だ。総一郎は思案、ひとしきり。‥‥遺体の始末すらつけていないのは、どうみつもっても異常だ。良心がとやかくというのではなく、遺体というのはなんだかんだであからさまな物証なのだから。
――‥‥鬼夜叉に関連するのだろう、おそらくは。現段階では予感とさほどちがわない、勘、けれど奇妙にざらついていた。忘れるな、と彫り込まれる。
総一郎の箝口をもって、案験はひとまず終了する。見ていられなくて、影にはこぶ。この道の尽きるところで高槻笙が知らせを徹底してくれているはずだから、これ以上は積まれないだろうけど、それは理屈で、希望で、現在で、過去を修正する力はない。榊清芳(ea6433)と綾都紗雪(ea4687)、誕生と最期の見届け人をになわされる僧籍の彼女ら、手を合わす。魔法のときのように。
むろん魔法は起こらぬ。詠唱がおよばぬのだから。――ふつう一介の物売りは、白くも黒くもないので、彼女らは今ただ心をつかうことにした。
そしてカイン・リュシエル(eb3587)は、幼子があつらえたばかりの衣裳をたしかめるみたいに、聖骸布(だから、ほんとうのところ、新しいもなにもない)の袖をひっぱったりしながら、ぽつんとひとりごつ。
「物売りにみえるでしょうか、僕たち」
そういうこととなっていた。
一刻もはやく駆け付けてやりたい、が、ここでくじければそれでしまいだ。緋を閃かして、カインは一巡。
「どうだろう」
総一郎、改めて一同をしばしばと見尽くす。
冒険者というのは、ちぐはぐな群れになりやすい。出自の由来、平素の生業どころか大義の料簡まで違える連中がこれだけどっと会するのは冒険者らぐらいなわけだから、色合いに起伏のつきにくいジャパンでは殊更浮いてみえがちだ。旅商人――そう言われればそうかもしれない、そんなぐらいだろう。
――と、総一郎は、彼等をかこむ木立よりよっぽどしめやかな言いぶりで。リースフィア・エルスリード(eb2745)、それじゃあ、と妙案浮かんだように、青い目をぱちっと、記憶するようにまたたかせる。
「では、私は異国の用心棒をなのることにします」
用心棒――「貴族的」を捏ねて金色の人形型になったらこんなものか、そんなリースフィアには実に不調和な言い回し――けれど、いかにもジャパン語らしいところが気に入り、リースフィアはころころとほころぶ。そんなの公称する必要どころか、呼び掛ける手間など実際にはおそらくはさけないだろうけど、清芳は自分の役割をすなおに考え込む。
「そうなると私は、カインさんやリースフィアさんの通訳だろうか‥‥」
「私は行脚僧で、清芳さまのお世話係ですね」
え?と、前者はともかく後者――世話係? 私のほうが年嵩なのに?――が気にかかって、清芳は紗雪の思惑をたしかめようとしたけれど、氷雨が――彼女らは道をはずれて他の冒険者のあとをついてきている――ふと腕をばたばたとやってるのが目に入って、口をつぐむ。
「いらっしゃったようですね」
紗雪が目を伏せる。とらえどころなく哀しげな――そのとき、樹木がざわついた。春の風が誰かの妄言をひきつれて、道端の小石をひとつふたつころがして、冒険者らをささやかになぶる。
しかし、けっこうお人好しな風だ――到来する悪夢を、まえもって知らせてくれるのだから。
●
カールスナウト。青銅色の鈍い剣で、かろく、あさく、円をかくように、はたまた絵師が筆をすべらせるように――リースフィアは撫で斬る。それが一拍。連鎖の二拍は護身へまわす、突き出される小太刀は弱く、上側にしならせてやるのは造作なかった。
「んー」
ごめんなさい、を云いそうになった。来るもののあまりな懸命に。摘み取ることの申し訳なさに、ごめんなさい、がこぼれそうになった。
考え直して――礼には礼を尽くす――そういうのが騎士だろう。ならば、
殺気もこめず、謝罪も告げず、リースフィアは指向するものの腕に、両手の剣で、一条を一瞬のまにまにきざむ。
折節の鴉の叫ぶような黒光は清芳が撃つブラックホーリー、だがブラックホーリーはもともとそれほど威力のある魔法ではないから、牽制に使い込んでいるようなものだ。しかしそれすら完全ではなく。大雑把には二度のうち一度、まぁだいたいそれくらい。
「‥‥仏は彼等を『悪』と認めぬか」
よりただしくは、悪性とも良性ともいいがたいと。獣が獲物を狩るような、これは生きる術であると。
ちり、と、焦げ付くものを感じる。
清芳の情操、未満――双葉のようになよなよした――それをもっとも身近に感じてやれるのは、おそらく、おなじく仏陀につかえる紗雪だろう。
「分かっています。‥‥けれど、」
けれど?
紗雪はあとはだまって、数珠をつまぐる。見えぬ縛鎖は首尾よく枝をひろげ、裾をからめて、胴を結ぶ。
総一郎はカインの目前で、日本刀をふるう。いや、それは凶器へたむけるあしらいにしては、ていねいすぎた。総一郎の刀は、二種の燐光――オーラパワーとバーニングソード――を螺鈿にまとう刀は、いつも彼の先をゆく。総一郎は従の仕儀。
羽織が羽のようにひらつき、剣と羽、ふたつを添わせるように、総一郎は巡らしていた。
「あ、あの。僕おじゃまじゃ‥‥」
ファイアーボムは乱戦では味方を巻き込む可能性が高いし、バーニングソードは接触が前提の魔法だ。カイン、ひよこのように、こうして付いてまわるのがけっきょく都合よかったのである。
「かまわぬ」
カインを守って戦うことは不利のようでもあったが、思ってもいなかった強みもあった。
引きつける。
カインを弱いとみてとって、そして総一郎さえどうにかなればとみてとって、意志をかためた賊の動きがあらわになるのだ。総一郎にとっては数を多くになうことになるが、
「うしろからは卑怯か?」
それは、彼等にとって、背をひろくすることにもなる。
反り身を抜きはなつ、鳳、額が冷やされる。濡れたようだ――返り血で。
「あぁ、たしかに最悪だな。‥‥だが、手加減はできぬのだ」
脇差は額以上に赤くぎらつくが、それは、敵にみすえたる眼もおなじである。
「のろのろこ〜せん、はっしゃ‥‥」
「ごめん。もちょっと静かにしてね? せっかくの御身の勾玉がムダになっちゃうや」
「むぐ」
ね。さっきは今度こそって云ってなかった? それとも、今度ってまたやるぞって予告だったの? 脳天からおさえつけられて、テリーの当然の疑問はあわれにとろける。その代わりでもなんでもないけれど、氷冥、テリーにとってかわって、首をねじって、
「どいつだと思う?」
「あれ」
けど、テリーはよほど気が良かった。氷冥に尋ねられるがまま、ちゃぁんと指示を、なるほど小太刀ではなく剣をあつかうのはひとりだけだ。明々白々にもみえるが、現実に小太刀と剣をいっぺんに組み討つ彼等には、その区分けはなかなか付きにくかろう。
「あ、逃げるみたい」
「追いかけようね」
氷冥は脚をあげかけて、しかし、それは平常どうりには降ろされない。目蓋に焼き付けられた情景が、彼女に寸暇の金属的な歯止めをかける。
頭目は手駒の首を落とし、それを抱えて、落ち延びた。
●
清芳のデティクトライフフォースは、むしろ氷冥たちをわりだすのに役立った。デティクトライフフォースでおぎなえる約八間は、知覚のするどいものなら追尾をじゅうぶん感付いておかしくない距離。氷冥らはまちがいなく追いすがっているだろうから、彼女をもとめたほうがてっとりばやい。
「やはり首に固執しているらしい」
総一郎がわざわざ言詞になおした――もはやそれは共通の概念だ。
あのとき、手下の大部分を戦闘不能に追い込まれたあとに頭目がとったふるまいは、岩の静けさの総一郎の心胆をもわずかに黒ずませた。
道ですらない、山肌。ぱきぱきと枝や葉を踏みしだきながら進むと、岩壁のようなところの虚をたくみに利用して組まれた小屋にまもなく至り、そのまえで氷冥が迷い立ち尽くしていた。
「あのさ。ここから、すっごい異様な匂いがするんだよね〜」
どうする、と問う。それは答えを期待して発されたのではなく、覚悟をうながすためのものだ。
行くしかない。
――が、二陣は進むまえから、待ちかまえていたようにあらわれる。
「来るな、来るな、来るな!」
突然の暴風に精神的な視角がうばわれた。
テリーは反射的に印を組む。アグライベイション、辻風をせめて微風ぐらいになだめようと、しかし、カインの撃ち込む火焔がはるかに先んじる。テリーあこがれの高速詠唱。先ほどは抑えられていた反動からか、炎塊の躍動は可憐で朴直で――火であることを精一杯高らかにかなでる。
が、
「盗るな!」
彼は、駄々っ子が腕を回すように、滅多矢鱈にふりかぶる。火はたしかに彼の身を焚き付けた、が、他面にも火を付けたようだ。
頭目は狭いところを背にしているので、リースフィアの剣技も思うようにはとどかぬ。彼女は代わりに言葉を投げる。
「誰かを求めるなら、どうしてその前に自分を省みないのですか? そんなことで並んで歩いてゆけると本気で思っているのですか?」
いらえ、待つまでもなく。
「省みる? それで罪が消え去ると?」
紗雪の呪、コアギュレイトの成就を待つまでもなく。――追い込まれたものの斬戟は、歎きをはらんで、重かった。
やむなく総一郎が家宝を刺す。
「だね‥‥。おとなしく死神さんのほどこしにあずかっときなよ」
氷冥の一文字が、入れ替わりに、命数を剥ぐ。
空虚に、ほとばしる、血煙の陰影。
それがやんだとき、ようやく人がたおれて、仁王立ちの彼がはばんでいたうしろを見せる。
ぞうっとするような美色の少年が、真っ白い容貌をこちらに向けていた。
「終わったの? はやかったね」
少年は、休んでいた。首を枕にし、首を脇息にし、首を手遊びのおもちゃにし――切り口は水面のゆらぎをみせる。断末魔は二目と見られぬほど醜悪だったが、冒険者らはそれに喚起されるものがあった。剣を交えた相手のおもざしは、そうたやすく、脳裏から抹消されぬ。
リースフィアはためしに、気遣いを、少年――鬼夜叉に。
「おかげんはどうです?」
「悪いよ。生きてるから、悪い。死んどいたほうがよかったかな」
‥‥真性だ、と、リースフィアは判ずる。なにって、性格が。
が、清芳にはそのあたりの面当てが通じなかったらしい。いちずに鬼夜叉の一点、頬の茜の染み、を凝じる。
「それはどうした? 役者にとって顔は命だろう。傷があるなら、紗雪に治してもらえばいい」
「これは――、」
首をかかげて、
「これが付いただけ。ぜんぜん血抜きしてないからね」
「そんなにするものではありません」
見かねて紗雪がとりあげる。彼女がこれまでにしょいこんできた負荷よりはずっと軽い――が、腕がちぎれそう、だとも思う。思ってほしかった、自分に。
「いったいあなたは何から眼をそらされているんですか?」
紗雪のあとから付いて、緩慢にたちあがった鬼夜叉へ、リースフィアはふたたび詰める。
「見切りをつけるのは、もっと様々なことを経験してからでもよいのではないですか?」
「‥‥それだけは、絶対にやだよ」
総一郎は――‥‥、
「おとなになるのが、ヤなんだよ。だから殺されたって、よかったのに」
生きろ、と、鬼夜叉に告げるつもりであった。
鬼夜叉の気紛れで片付けられた者どものの生を生きろ、と。
しかし、この鬼夜叉はすでに生きてはいなかった――死んでもいないだけ。死に損ない、ならぬ、生き損ない。
「さぁ、帰りましょう。もうだいじょうぶですからね」
相好をゆるめるカインが甲斐甲斐しくさしのべる手を邪慳にふりほどいて、萎えた脚を粗っぽくずらす少年の舞いを見たいと思う、総一郎は。
それはきっと――、
鬼そのものだろう。
演舞でない舞いは、だが、すでに舞いとは呼べぬことを総一郎は知っている。
花、だ。