しょ う に ん

■ショートシナリオ


担当:一条もえる

対応レベル:1〜4lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 0 C

参加人数:12人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月18日〜12月23日

リプレイ公開日:2004年12月28日

●オープニング

 罪を犯した者には、裁きが必要だ。
 だが、その者が罪を犯したという証も必要だ。

 誰もが耳を疑った。
 そのとき町を騒がせていたのは、むごたらしい殺され方をした死体だった。
 まだ若い女のものだ。死体が発見されたのは川沿いの道だったが、おそらくその近くにある遊郭の女だと思われる。おそらく‥‥と歯切れが悪いのは、女は全身‥‥それこそ顔から足の先までを滅多切りにされ、どこの誰かもわからない有様であったからである。かろうじて衣服と、女が帰ってこないことから判明したのだ。
 いったい、どういうことか?
 捜査をしていた刑吏は、なじみ客だったというある男に容疑をかけた。だがそれが、人々を驚かせた。
 容疑をかけられた男は、薬などを扱う大店の主だったからである。
 町の者は、耳を疑った。「まさか、彼が!」という思いであった。
 それだけ、彼の名前と行いは知られている。男は先代に見込まれて若くして店を継ぎ、以来順調に商いを行っている。貧しい者には安価で薬を分け与え、病んだ者のための家を建ててやったりしていたのだ。
 大店の主への羨望と嫉妬は仕方ないにしても、まさかその男がこんなむごたらしい殺人を犯すとは、思ってもいなかったのである。
「私は‥‥見送ってくれた彼女とはそのまま、別れましたよ。血の付いた私の上着? それは、別れ際に寒かろうとかけてやったのです」
 男はそう言ったが、刑吏はこの男が犯人に違いないと感じていた。
 勘、というと危ぶまれもしようが、取り調べを受けつつも、男は妙に腹が据わっており、表情はおだやかだが眼には冷たさが見受けられるのだ。
 刑吏は調べを続け‥‥ついに証人を見つけだした。

「暗い‥‥夜道を遅くなったと思って歩いていると‥‥見たの。男の人が、刃物を逆手に持って、女の、女の人を何度も何度も‥‥!」
 それは、そのときたまたま行商にやってきていた、近くの村の少女であった。
 彼女ははっきりと男の顔を見ている。そこで刑吏は、彼女に首実検をさせようと考えた。
 ところが、である。
 恐怖に駆られ、脳裏からその光景を振り払うように少女は村へと逃げ帰り、以来閉じこもったままなのである。
 そして、どうして冒険者に依頼する事になったかというと。
 彼女という証人がいるとわかってからというもの、村の周囲で怪しい人影が多く、目撃されるようになったからだ。彼らは一様に、少女の家を窺うような素振りだったという。町まで連れてくる道中の安全が、危ぶまれるのだ。

 恐怖におののく少女をなんとか連れだし、安全に町まで連れてきてもらいたい。

●今回の参加者

 ea1542 ディーネ・ノート(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea3938 笠原 直人(26歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea5866 チョコ・フォンス(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea6647 劉 蒼龍(32歳・♂・武道家・シフール・華仙教大国)
 ea7467 ジゼル・キュティレイア(20歳・♀・ジプシー・エルフ・イスパニア王国)
 ea7511 マルト・ミシェ(62歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea7623 ジャッド・カルスト(36歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea8218 深螺 藤咲(34歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea8366 フランシスカ・エリフィア(35歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea8783 フィリス・バレンシア(29歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ea9128 ミィナ・コヅツミ(24歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ea9461 リセル・フェルディナン(29歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

●襲撃者の影
 眼前に広がる光景は、のどかと言うほかはない。農繁期を終えた村は、今は静かに冬の時を迎えている。
 だが、そののどかさに似つかわしくない、武器を帯びた一団が姿を見せた。
「か弱い少女の護衛か‥‥まさに男の仕事って感じじゃん」
 劉蒼龍(ea6647)が歯を見せて笑うと、ジャッド・カルスト(ea7623)は「まったく」とばかりに、
「この世の中から美しい女性が減るだなんて、実に悲しい事じゃないか」
 と、頭を振る。
「反吐が出るね」
 その軽口も、いくぶん気に入らないのか。フィリス・バレンシア(ea8783)は怒りを隠そうともせずに吐き捨てた。
 理由など知ったことではない。人を滅多切りにし、それを見られたらまた、その相手を殺そうとする。その身勝手さに、反吐が出る。
 もっとも、ジャッドの口振りの裏に怒りが籠もっている事もわかっているため、それ以上は何も言わない。
「その、不届き者を裁くためにも、少女の身は守り抜かねばなりませんね」
「それはそうじゃがの」
 マルト・ミシェ(ea7511)は顔をしかめ、深螺藤咲(ea8218)に向き直る。
「それだけではないぞ。そもそも、私たちについて来てくれるかどうか。証言してくれるかどうかじゃ」
「それは‥‥誠心誠意、説得するしかありませんね。被害者の無念を晴らすためにも」
 少女の受けた衝撃を思えば心苦しいが。ジゼル・キュティレイア(ea7467)は、はっきりと言い、口元を引き締めた。
 さて。
 仲間が少女の家を訪ねている間に、フィリスはあたりの様子を窺ってみた。聞いた話では、嗅ぎ回っている奴がいるらしいから。
 とはいえ、人目を引くと言うならば引けを取らないのが、彼ら冒険者である。
「感づかれたかな」
 不審な連中は、さっさと家から離れたか。
 面白くなさそうに、鼻を鳴らす。

●怯える少女
 ミィナ・コヅツミ(ea9128)は刑吏から受け取った委任状を示し、丁重に挨拶する。
「あたしたちは、冒険者ギルドで依頼を受けてきたんです。どうか、事件の解決のため、町まで来ては頂けませんか?」
「大丈夫。私たちも一緒だし、なにも怖いことはないわ」
 リセル・フェルディナン(ea9461)は包み隠さず、事情を語る。後ろめたい事ではなし、信用してもらわないことには始まらない。
 しかし無理もない話だが、少女の怯えはそうとうなものであった。
 そもそも、家の扉を開ける開けないという時点ですったもんだがあり、閉じこもって出てこようとしなかったのだ。両親が見るに見かねて、冒険者たちを導き入れたものの、少女は相変わらず部屋の隅で小さくなっている。
「困りましたね」
 ジゼルは顔をしかめた。話に聞いた通りだ。
「なぁ。後ろ向いてたってどうにもならないぜ。前見て進もうじゃないか!」
 蒼龍は言ってみたものの。
「殺人現場の目撃っていうのは、後ろ向きとかどうとかいう問題じゃないわよねぇ」
 チョコ・フォンス(ea5866)は肩をすくめた。自分たち冒険者たちならばいざ知らず、こんな少女には衝撃的すぎる出来事であり、恐怖だろう。
「証人の安全も、面倒見てほしいわね」
 が、考えてみればそれが依頼された仕事なのか。気を取り直して、説得に加わる。
「ねぇ。このままじゃずっと、外にも出られないわよ?」
 その言葉に、少女はまた、身を震わせた。
 しかし、その手をしっかりとマルトが握りしめる。
「可哀想に‥‥震えておるな。じゃが、お嬢さんが勇気を出して証言してくれんと、あんな非道な行いをし、そしてお嬢さんまで傷つけようとする輩が、罪を裁かれることもなく、野放しになってしまうかもしれんのじゃ」
 その言葉に、少女ははっと顔を上げた。マルトの瞳を見つめるしばしの時間。
「‥‥行きます」
 少女ははっきりと、頷いた。
「ま、任せておいてくれよ。王侯貴族でも叶うまいってくらいの、世界一安全な旅を保証するからさ」
 ジャッドは精一杯に優しく、微笑んでみせた。

●真相はいかに
「刑吏殿、動機はいかなるものなのでしょう?」
「すぐに思い浮かぶのは、痴情のもつれですが‥‥犯行自体を否認していますからな」
 フランシスカ・エリフィア(ea8366)は、仲間たちとは別れて刑吏に事件のことを聞いていた。
「ち、痴情ですか‥‥た、確かに男女の仲は余人には知り得ぬものですし‥‥」
 どこかに殺意を抱く理由もあったかもしれない。ならばと、フランシスカは大店の主について聞き込むことにした。証人がいるとはいえ、真相を突き止めずして事件が解決するかどうか、不安を感じたからだ。
 もっともそれは、刑吏の仕事。彼女の気の回しすぎというものであったが。
 しかし実際のところ、真相はどうなのか?
「薬を商ってるんだろう? 表向きは善良に見せて、きっと裏ではあくどいことをやってるんだろう。あの子を狙うのも、きっとそのつながりがある連中だな。店の連中に、こんな事をさせられるわけがないから」
 と、町へと向かう道中であれこれ自説を展開するのは笠原直人(ea3938)。あながち的はずれな説でもないが、まるで演劇の筋立てでも楽しむかのような口振りである。
 ディーネ・ノート(ea1542)は顔をしかめて、その気楽さをたしなめた。
「ちょっと。そんなこと、間違えてもあの子の前では言わないでよ?」
 だいたい、ここであれこれ推論を重ねていてもあまり意味はない。
「それに、私たちがついてるからといって、襲ってこないとは限らないんだから‥‥」
 目を凝らし、耳をそばだてて辺りを窺いつつ、ディーネは口をとがらせた。
 直人は慌てて、
「いや、もちろんふざけてるわけじゃない。あの子に何かあったら大変だからな。真剣にやるよ」
 と、手を振った。
 その少女のそばでは、微笑みを絶やさず語りかけていたミィナに時折たしなめられつつ、ジャッドが陽気に馬鹿な話を続けている。それがまた、滑稽だ。元々は快活な少女である。次第に、明るい表情も見せるようになってきた。
「守り抜かなきゃね、絶対に」

●襲い来る者ども
 夜。
 急ぐ旅とは言っても、やはり多くは歩きで、夜は天幕を張って休むしかない。
「寒いわね‥‥」
 リセルはたいした意味はないが、天を仰いで身を震わせた。雪こそ降っていないが、イギリスはすでに長い冬。かなり冷える。
「寒くはありませんか? 火のそばで休んでください」
 明日の出立も、早い。ミィナは少女に優しく微笑みかけた。
「ありがとうございます。でも、みなさんは‥‥」
「私たちのことは気にしないで。見張り、しなくちゃいけないから」
 リセルが言うと、少女は少し表情を強張らせた。が、
「すいません。‥‥気をつけて」
 と言い残し、おとなしく毛布にくるまった。
 彼女の信頼を、上手く勝ち得てきているらしい。少女は落ち着いて、冒険者たちの言うことに従う。
 そんな、一安心できるようになった頃。
 突如として、一行は襲撃を受けた!
 夜。これほどに、襲撃に適した時間はあるまい。
「あの風貌、家の周りをうろついていた連中かもしれませんね!」
 藤咲は抜刀し、皆に注意を呼びかけた。
「誰でもいい! こんな夜中に抜き身を構えて近づいてくるなんて、襲撃以外にないだろ!?」
 有無を言わせない構えで、フィリスはすでに応戦の姿勢を見せている。油断はない。
「彼女を!」
 ディーネは振り返り、叫んだ。敵の数はこちらの倍近く。彼女らが盾となり、少女を守り抜かなければならない。
 そしてまた、彼女にあの夜のような赤い血を見せるわけには。
「ならば、こうじゃ!」
 マルトはウォールホールで作った穴に、少女を連れて飛び込んだ。これなら戦いを目にしなくてもいいし、飛矢を受ける危険もない。
 後顧の憂いが無くなったからには、遠慮はいらない。
「シフールだからってなめてたら、痛い目を見ることになるぜ!」
 蒼龍は素早く敵中に飛び込み、翻弄する。先手必勝、あるのみだ。
「こんなに大勢で! よほど後ろめたいことでもあるんだろうね!」
 敵は、自分たちもろとも‥‥要するにただ1人の目撃者も残すまいと皆殺しにするつもりのようである。そんな相手に、遠慮はいらない。フィリスは容赦なく、切り伏せる。
「‥‥けれど、巻き込まれた以上は事情というものも少しは知りたいですからね」
 ジゼルは地に倒れた襲撃者をとり押さえ、縛り上げようとした。
「さ、誰の命令なのか教えてもらおうじゃないの?」
 チョコが精一杯いやらしく笑い、詰め寄る。
 が、そのとき。
 肩口を斬られ、重傷を負っているはずの男が暴れ出したのだ。
「きゃッ!?」
 いや、その男だけではない。手傷を負わせた男たちも、怯むそぶりを見せずになおも襲いかかってくるのだ。
「これは‥‥!」
 リセルは顔を引きつらせ、「終わった」と思っていたところから突き出された剣を、かろうじて受け止めた。
「なるほど‥‥大店の主、ずいぶんと裏の顔がありそうですね!」
 藤咲は容赦なく、男の体に刀を突き立てる。
 手加減など、とてもしてやれなくなってきた。

「思い出したいことではないでしょうけれど、正直に語ってください。ゆっくりでいいですから」
 そういってミィナに送り出された少女は、はっきり「この人だった」と証言した。それにより追及は厳しくなり、捜査の方向も証言に従って行われ、数々の証拠が明らかになった。
「あの女も、禁制の薬の販売に関わっていたようですね。それで、揉め事が起こって‥‥。関わった者みな、極刑は免れません。それは、必死にもなることでしょうね」
 刑吏からいろいろと話を聞いたフランシスカが、顔をしかめて言った。
「やはり、悪事は明るみに出るものです」