ぶ ん け ん

■ショートシナリオ


担当:一条もえる

対応レベル:1〜4lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 0 C

参加人数:12人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月26日〜12月31日

リプレイ公開日:2005年01月06日

●オープニング

 文字、そしてそれによって書かれた書物というものが、人にとって大いなる財産であることは疑いようがない。人は書によって歴史を、築き上げた文明を後世に伝え、また先人の知恵を学ぶことが出来る。
 
 冒険者の助けを必要としているのは、1人の老人であった。刻まれた皺は実年齢以上に彼を年老いて見せており、また、いかにも気むずかしそうであった。
 ここで「学者である」と老人の素性を知れば、その風貌にも納得がいくであろう。
「このままでは、貴重な文献‥‥いや、あるかもしれんという話だが‥‥いや、貴重かどうかはさておいても、多くの文献が失われてしまう!」
 老人は、口吻を飛ばしながら語った。
 ここから数日歩いたところに、昔は貴族の屋敷があったという。昔というからには、今は何もない。というのは、近くの山が崩れて建物がほとんど丸ごと、埋まってしまったのだ。
 屋敷に集められていた、蔵書もろとも。
 その屋敷の主というのが、収集家だったらしいのだ。調べてみると、今では写本を探すのも大変な書物が眠っている可能性は高い。そう考え、老人は近頃になって思い出された‥‥発見された『図書館』に乗り込もうとしたのだが。
 そこには、いつの間にか盗賊が巣くっていたのである。
「大切な文献が奴らの焚き付けや鼻紙に使われかねんと思うと、いてもたってもおれん!」
 冒険者たちは半地下の迷宮、そして盗賊のねぐらと化した『図書館』から、貴重な文献を持ち帰らなくてはならない。

●今回の参加者

 ea1252 ガッポ・リカセーグ(49歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea1542 ディーネ・ノート(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea1745 高葉 龍介(34歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2220 タイタス・アローン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3418 ブラッフォード・ブラフォード(37歳・♂・ナイト・ドワーフ・イギリス王国)
 ea5866 チョコ・フォンス(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea6151 ジョウ・エル(63歳・♂・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea6954 翼 天翔(33歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea7509 淋 麗(62歳・♀・クレリック・エルフ・華仙教大国)
 ea7522 アルフェール・オルレイド(57歳・♂・ファイター・ドワーフ・ノルマン王国)
 ea9244 ピノ・ノワール(31歳・♂・クレリック・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea9867 エリアル・ホワイト(22歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

●埋もれてしまった屋敷
「ふむふむ、文献とは。文献とはな。久方ぶりに叡智に触れられそうな依頼じゃわい」
 文献の捜索と聞いて、ジョウ・エル(ea6151)は。
「上機嫌ですね」
 淋麗(ea7509)は年甲斐もない(?)その様子を微笑ましく見守る。
「まぁ、好きな者にはたまらないんだろう。‥‥それを言ったら、わしは果たしてここにおってよいのかと思うのだが」
「そうなのよね」
 アルフェール・オルレイド(ea7522)が髭をしごきつつ唸ると、翼天翔(ea6954)も、「それよ」とばかりに複雑な表情で頷いた。
「私も、そんな物の価値なんてちっとも判らないから。‥‥盗賊団の連中は笑えないわね」
 ため息をつく翼天翔をよそに、ジョウら‥‥いや、彼1人が特に熱心なのだが‥‥は興奮気味に相談を重ねている。
「ところで、問題のお屋敷なんだけど」
 チョコ・フォンス(ea5866)が「はいはい」と手を挙げて発言する。
「住んでた貴族はどこかへ引っ越しでもしたの? 中のことを知ってる人がいたら、話は早いと思うんだけど‥‥」
 屋敷が埋もれてしまったのも、昨日今日のことではない。今から何十年も前のことで、老貴族の隠居先だったとのことだ。これまでも、「屋敷が埋もれてしまったそうな」ということは知られていたが、まさか屋敷の中に潜れる坑があいているなどとは思われていなかったわけで。それが判明したために、老人は探索を依頼してきたのである。
 家族とともには暮らしていなかったというから、近くに都合よく身内がいるかどうかは‥‥。
「あー、それじゃあ屋敷の様子とかもわからないわね。でも、それなら気兼ねなく探し回ったって大丈夫ってことね。残した物は、いらないってことで」
 もっとも、依頼してきたのも老貴族が収集家として知られていて、「本宅」の方でもいろいろと発見がされていたからであって。
「ということは、あそこにあるのかどうかも怪しいということですか‥‥。いや、貴重な文献ですからな。万が一にでも、地に埋もれるということがあっては惜しいですからな」
 ブラッフォード・ブラフォード(ea3418)が気を引き締めると、高葉龍介(ea1745)は「力仕事なら任せておけ」と請け負った。
「ところで、書物というのは『紙』で書かれているのかな。羊皮紙などではなく。どれくらいの価値があるのか興味深い」
「何で書かれているか、いくらするのかは問題ではないわい。重要なのは、その中身よ。人類の叡智よ」
 膝を叩くガッポ・リカセーグ(ea1252)を、ジョウは横目で睨む。
 タイタス・アローン(ea2220)は履いた剣をかちゃりと鳴らし、「はは、楽しみですね」と笑って見せた。
 
●住み着く盗賊
 押し流されてきた土砂の上にはすでに草が生い茂り、過ぎた年月の長さを感じさせる。もはや、注意深く観察しなければそこが流されてきた土砂によって出来た斜面だとはわからない。
 しかし、よく見ると所々に建物の屋根や壁が姿をかいま見せている。
「のんびりしている暇はありませんね。さっさと運び出さないと」
 エリアル・ホワイト(ea9867)は難しい顔で様子を窺う。こうして見てみると、この惨劇の跡もなかなかに優れた隠れ家となっている。しかも、堅牢だ。
「水も、いろんなところで染み出してるみたいだものね。‥‥よく、こんな所に住んでると思うけど」
 命知らずだからね、とディーネ・ノート(ea1542)呆れたような感心したような、奇妙な感想を漏らした。
 と、見上げたあそこに窓らしきものが!
 ピノ・ノワール(ea9244)が鋭く叫ぶ。
「あそこに人が!」
 出入り口となっている窓の向こうには、見張りとおぼしき男が2人。奥にまた2人。
「盗賊ども、退治しに来てやったぞ。さっさと出てこんか!」
「悪いけど、全員捕まえさせてもらうわ!」
 アルフェールは『バーストアタックEX』を手近な岩に叩きつけ、天翔も一緒になって盗賊たちを誘う。
 が、盗賊たちは『扉』の向こうでばたばたと動き回ってはいるものの、出てくる気配はない。
「まぁ、ここは奴らの城のようなもの。容易く出てはこないでしょうな!」
 代わりに、透き間に開けられた小さな発射口からは次々と飛矢が襲ってきた。ブラッフォードは荷物を放り出して地に伏せ、分析してみせた。
「出鼻をくじきましょう! 『ブラックホーリー』で‥‥!」
 ピノは魔法を使う構えを見せるが、冒険者が迫ってきたと見るや盗賊たちは、扉を閉ざして奥に逃げ出した。もちろん、そんな扉などすぐに開けることは出来る。時間稼ぎだ。
「口ほどにもない! 目に物見せてやる!」
 アルフェールはすぐさま扉に飛びつき、力任せに開けると中へと飛び込んだ。
「気をつけて! 中がどうなってるかわからないわよ!」
 と、ディーネが止める間もない。

●罠
 一同は屋敷に乗り込みはしたものの、中の様子は分からない。結局、慎重派が多数を占めた。
「足下に気をつけて!」
 ご丁寧に、見張りは足下の戸板をはずしていったらしい。チョコの叫び声に反射的に飛び退き、危ういところで落とし穴への落下を免れたアルフェールは、淋麗にたしなめられて歩調をゆるめる。
 屋敷の床は傾いていた。所々が崩れ落ちてはいたものの、斜めになった格好で地に埋まってしまったようだ。また、盗賊たちは所々に盛り土などもして、『上下』の階層にもいけるようにしているようだ。おかげで、まったく『屋敷』という感覚では見ていられない。
「‥‥意外と明るいな」
 ガッポは周囲を見渡しつつ、感心した。採光についても、ある程度は考えられているらしい。ずいぶん、贅沢な作りだ。
「見つけた! 覚悟しなさいよ!」
 慎重にとはいっても、のんびりしていられるわけではない。すでに、盗賊たちは応戦の支度をしているはずだ。天翔は回廊の向こうにその姿を認め、指さして仲間を促す。
 文献を探すのが目的とは言っても、中にいる盗賊を駆逐するのが先決‥‥というより追い出さないことにはゆっくり探索もしていられないのだから、あまり探索だ戦闘だと役割分担しても意味がない。
「抵抗するならするで、さっさとしろ!」
 言外に「すぐに片づける」と意味を込めたアルフェールに続き、冒険者たちは盗賊に向き直る。
 が、敵の数は意外と少ない。30人やそこらはいると聞いていたが、見えるのはほんの数人だけ。
「よし、今だ!」
 先頭の男が叫ぶ。すると、部屋の扉‥‥「上」になっている部屋の扉が一斉に開き、そこから岩が落ちてきた!
「うわッ!?」
「やった! ざまぁみろ!」
 押しつぶされる、とはいかなくても、頭や腕に岩はぶつかり、前を進んでいたタイタスや天翔、ブラッフォード、そしてアルフェールといった面々が苦痛に顔をゆがめる。
「あぁ!」
 エリアルが悲鳴を上げ、駆け寄ろうとした。
 体はふらつき血は流れ、肩や腕は鈍く痛む。最悪、折れているかもしれない。
「罠についての本は読んだことがあるから。いくつかは『解除』することもできると思うわ」
 ディーネや淋麗らは当然、罠を警戒していた。しかし、ブラッフォードが指摘していたように、盗賊の仕掛けた罠は精密なからくり仕掛けではなかった。
 ここは遺跡ではない。罠は、探索者の油断を狙うような『底意地の悪い』ものではなかったが、単純ながら『凶悪』な代物だったのだ。
 一口に罠といっても、いろいろな物が考えられる。どのような罠が待ち受けている危険が高いのか、その読みがなければ。たとえ目が良く知識として持っていても、避けるのは容易ではないということだ。

●人類の宝
「私たちの目的は、ここにある文献を調べさせてもらいたいだけなんです! あなた方をどうこうしようとは思っていません!」
 淋麗は正直に、目的をうち明けた。
 だが、「だったら捕まえたりはしないのか!?」と問われれば。
「見過ごすわけにも‥‥」
「いかないわよねぇ」
 ブラッフォードとチョコは顔を見合わせた。そもそも、ここを立ち退けと言われても困る。代わりの、それもここほどいい隠れ家など、どこにあるというのか。
 やはり、仕方がない。
 冒険者たちが進むと、盗賊たちは正面から対するなどという真似はせず、さっと退いては罠をかけ、弓を撃ってきた。
「負けてなるものか! 物の価値もわからん連中を相手に、退くわけにいくものか!」
 文献への思いは誰よりも熱い。ジョウは叫ぶと、じりじりと前進していく。
 そして、ついに。
「はぁはぁはぁ‥‥。やっと、全員捕まえたわよ!」
「思いの外‥‥手こずらせてくれましたね」
 盗賊たちに縄を掛ける天翔の横で、タイタスは大きく息を吐いて座り込んだ。精神が摩耗していくような戦いだった。正直、盗賊相手など容易いものだと思っていたが。
 全員が傷だらけだった。なにせ、『大技』で蹴散らすわけにはいかなかったから。燃やしてはいけない、破ってはいけない。散らかすだけでも危うい。そんな書物が‥‥家主が適当に置いていただろうぶんと、盗賊が散らかしたぶんとで‥‥あちこちに散らばっていたのだ。
「ではさっそく、探索に移りましょう」
 ピノが治療をさっさと終わらせ、きょろきょろと周りを窺った。そそくさ、というと聞こえが悪いが、治療を施している間も、気もそぞろであったのだ。
「おぉ、これはなんと見事な! むむ、このような書名は聞いたことがない! むむむ‥‥!」
「これは‥‥ラテン語じゃないですね。読めないです」
「植物の本とか、興味ありますね」
「お、こりゃジャパンの文献だな! 高いぞ! 龍介、こいつも詰めておいてくれ!」
「あ、駄目だよ龍介。もっと丁寧に丁寧に扱わないと。‥‥もし傷つけでもしたら依頼人‥‥以前にジョウになんて言われるか!」
 結構な労力も慎重さも必要とする面倒な仕事のはずなのだが、ジョウもエリアルもピノもガッポもディーネも意気揚々と(そして龍介は言われるままに淡々と)、荷造りしている。

「これは! これだけはなんとかわしの手元に置かせてもらえんじゃろうか〜ッ!!」
「駄目、駄目だってジョウ。そういうのが、依頼人が欲しい文献なんじゃないの! ‥‥また、頼んで読ませてもらえばいいじゃないの!!」
 年甲斐もなく「いやいや」をするジョウから、チョコは書物を取り上げたのだった。