ちゅ う け ん
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■ショートシナリオ
担当:一条もえる
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:12人
サポート参加人数:1人
冒険期間:04月24日〜04月29日
リプレイ公開日:2005年05月07日
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●オープニング
ぼくとシロとはとっても仲良し。
シロがうちにやってきたのは、ぼくが産まれて間もない頃の事なんだって。
そう、ぼくも覚えていないくらいから、ぼくたちはずっといっしょ。小さい頃はシロのおっきな背中にまたがって、庭中を駆け回ってた。ぼくがおっきくなって、シロに乗るのは出来なくなっても、ぼくたちはずっといっしょ。ぼくがごはんを食べる時も、シロは足下でいっしょに食べてる。ぼくが寝るときも、シロはベッドのそばでいっしょに寝てる。
「坊ちゃん達は、それほど仲が良かったんでございますよ」
老人はそう言って、目頭を押さえた。
老人は、その家の執事を務めていたのだという。
ところが、悲劇が起こったのはしばらく前。森に散策に出かけていた少年たちは化け物に襲われてしまったのだ!
危険を悟った家の者達がその場に駆けつけたとき、少年を手にかけた残虐な殺戮者は森に奥へと姿を消すところだった。
バグベア。熊の体に猪の頭を乗せた、冒険者さえ襲って略奪することもあるという怪物。
なぜ、少年達でも抜け出せるような、街からそう離れていない森にバグベアなどという凶悪な怪物の群れが現れたのか。理由などはどうでもいい。実際にその群れは、憎むべき事にそこにいて、少年を手にかけたのだ。哀れにも少年は、バグベアの振り下ろす棍棒に頭蓋を割られ、地に伏していた。
そして、シロもまた。主の危機に、この忠実な友は勇敢に戦ったのだ。たとえ自身が傷ついても、主を守り抜こうと戦ったのだ。
しかし、とうてい敵う相手ではなかった。それでもシロは、血まみれになって倒れてさえ、憎むべきバグベアの消えた森の奥を睨み据えていたのだ。
「もともとお体の具合があまりよろしくなかった旦那様はその心労から亡くなられ、‥‥奥様は早くに亡くなっておられましたので‥‥家の者もそれぞれ別れていったのでございます。そして残った私が、シロの世話をさせて頂いていたのですが‥‥」
怪我もだいぶん良くなって、動けるようになったシロは、突然に姿を消してしまったのだという。
「シロは、坊ちゃんの仇を討ちに行ったに違いありません。しかし、返り討ちに遭うに決まっています。シロはそれを覚悟しているのでしょうが、それではあまりに‥‥!」
ついに老人は泣き崩れた。
助けに行こう。シロの後を追いかけて。
●リプレイ本文
●幼い命が消えた森
そこは、思っていたよりも明るかった。森の中だというのに、茂っている木々は割合にまばらでところどころ陽光が差し込んでいる。
その森を、冒険者たちが進んでいた。
「これなら、『ちょっとした冒険』で入り込んでもねぇだな」
ミハイル・プーチン(ea9557)は帽子の耳垂れを持ち上げて、あおぐ。早足で歩いているので、暑い。
また、町からも半日ほどでたどり着けるここならば、町の人々にとっては財を生み出す森のはずだ。
本来ならば。しかしバグベアの群がいると知られた今は、森に至る道を合わせても誰1人として出会わない。
「なんとしても、シロを救わなくては‥‥」
ピノ・ノワール(ea9244)の言葉に、焦燥感がにじむ。
「あれこそ、忠犬と呼ぶにふさわしい、忠実な友なのですから」
「その、仇を討たせてやりたいのはやまやまだが‥‥それで命を落とすことになれば」
「はい。それでは少年も浮かばれません」
表情を曇らせるルチル・カーネリアン(ea9817)の言葉を受け、ラシェル・カルセドニー(eb1248)も頷いた。
それには、一刻の猶予もない。
「まずは情報を集め‥‥」
長寿院文淳(eb0711)など、何人かは残って綿密な情報収集にあたろうかという話もあったが。まさかその『詳細な地図』などの情報が来るまで、森の外で待つわけにもいかない。あとで合流するといっても、先行した『地図も持たない』仲間がどこにいるのかわからなくては‥‥。
けっきょく一行はうやむやのまま、依頼人である執事から話を聞くやいなや、すぐに森へと向かったのであった。それが、いちばん早い。
「だが、どこへ向かえばいいんだ?」
情報もない、地図もない(もっとも、森の詳細な地図など作られてもいなかったろうが)。ルチルは途方に暮れたように嘆いたが。
彼女は『持てる力の全てを出し切って』、シロの居所を考えている。考えているが、『よい考え』は浮かばなかったようだ。ただ無為に考えるだけでは、よい案は浮かばない。
そこで。
「まずは、少年が殺された現場に向かってみるのが良いと思うわ。そこで痕跡を探すのよ」
そう言うアズリア・バルナック(eb2045)は提案し、マヤ・オ・リン(eb0432)も同意を示した。もしかしたら、途中でシロを見つけることが出来るかもしれない。
「さすが、お姉ちゃん!」
と、アズリアにべったりのアルフレッド・キリング(eb1343)は呑気に歓声を上げた。
そうして、一行は森へ足を踏み入れたのだが‥‥。
「くッ‥‥ここまで来ても、姿は見せませんね」
ここまでシロもバグベアも、居なかった。マヤは唇を噛む。
「いえ、マヤさん。諦めては駄目でしょう。なんとしてもシロを連れて帰らなくては」
「もちろんです。諦めてなんかいませんよ」
マヤはピノに笑い返し、森の奥へと進む。
●捜索の輪
「バグベアを探した方が‥‥早いかもしれませんな」
文淳がそう言って、足下を見つめているマヤに声をかける。バグベアについては、ピノが詳しい。その大きな図体と群で行動していることとを考えれば、シロを探すよりその方が近道だろう。
「えぇ」
マヤは頷いて、足跡が残っていないかと目を凝らす。
とはいえ、捜索は難航している。
事件が起こってからすでに幾日もが経過しており、雨だって降っている。
「見つからないでげすな」
「‥‥えぇ」
ミハイルとピノは、優れた視覚や聴覚を持っている。彼らはそれに大いに信をおいていたが‥‥要するには、『耳をそばだて、目を凝らせば、常人よりは遠くのことがわかる』というだけのこと。探す手だてとなるわけではない。ひたすら歩き回らなければならないという点では、まったく同じだ。
「例えば乱闘のような、そんな跡ならば探しやすいのですが‥‥とにかく、雨が降っているのも悪いことばかりではありません。一度見つけさえすれば、今度はその泥濘の跡を追えるはずです」
マヤはなおも辛抱強く、しゃがみ込んで痕跡を求めている。
「ロール〜! どこ〜?」
その横で、勝手に名付けた名でミネア・ウェルロッド(ea4591)がシロを呼び続けていた。
バグベアと遭遇する覚悟さえしておけば、案外とこうして自分たちの居所を知らせつつ進んだ方が良いのかもしれない。
もちろん、見知らぬ人間の前にシロが姿を現すかという問題はあるが‥‥その点、ミネアに抜かりはない。彼女は執事の老人から、少年の遺品、それも殺害された日に来ていた服の、ちぎれた袖を預かっていた。
こちらからシロを探すことは出来なくても、この臭いに気付いたシロが何らかの動きを見せるかもしれない。ミハイルもルチルも、それを期待してかシロの姿を追う。
さらにミネアは、なるべく風上を選んで歩いていた。これなら、臭いも届きやすいはず。可能性があるならばやってみるべきだ。
そして、さらに奥に向かって歩いていくと‥‥。
●忠犬の姿
ばう!
「ロール!」
ロール、もといシロが、大きな鳴き声を上げた。一瞬、主かと思い、そんなはずはないと落胆したような声色も混じっていたか。
しかしそれは、警戒を促す声だった。シロはちょうど、追い求めていた主人の仇を見つけたところだったのだ。
「ば、バグベア!?」
「現れたか、魔物め!!」
のどの奥から絞ったような声を上げてしまうアルフレッドを後目に、アズリアは剣を抜き放ち、前へと進み出た。
シロはもう、現れた見慣れぬ人間達にはかまうことなく、バグベアへと飛びかかっていこうとする。
「ま、待って待って!」
ミネアが慌てて押さえようとした。
だがシロの胴は、ミネアが抱きかかえないといけないほど大きい。なるほど、これならば幼い子供が跨ることも出来るであろう。
それはともかく、かけがえのない主人を殺めたバグベアを前にして、待てと言われて待てるわけがない。シロの態度はそう物語っていた。歯をむき、ミネアに向かって唸る。
「どうします? とりあえずシロを見つけることは出来たわけですが‥‥」
「そんなことよりも‥‥!」
マヤはシロを見付けたときから構えていた矢を放った。ピノも、『ブラックホーリー』で先手を取る。
現れたバグベアは6頭。過去には冒険者を襲ったこともあるに違いない。こちらの姿を見ても怯む気配など全く見せず、笑っているかのような唸り声を上げて襲いかかってきたのだ。
戦いとは常に相手があるもの。首魁ばかりを狙うという冒険者たちの思惑どおりに事が推移するとも限らず、否応なく乱戦に巻き込まれてしまった。
頭の一所だけ毛の色が違う、首魁の首には‥‥ミネアが手にしている袖と同じ生地の布があるではないか!
着ていると言うよりは襟巻きのような有様である。こいつが、少年を殺め、その上着を奪い取ったに違いない!
シロは先刻から、そちらを睨んだまま唸り続けている。
「待つでげすよ! いくら何でも無謀すぎるでげす。まさか、ご主人の所に行きたいわけでもないでしょうに」
ミハイルもシロの前に立ちはだかって、『テレパシー』で呼びかけた。
犬のシロにあの世という概念があったとは思われない。シロはただ、主を殺めた者を許せないのだろう。仇を討てる可能性はあまりに低いが、群を見つけたこの機を逃せば、永久にそれは叶わないかもしれないのだ。
犬のしておくのが惜しいほどの、シロの忠義をそこに見た気がした。
●引くか、進むか
ピノは「余裕があれば」と言った。
マヤは「個人的には倒したい」と言った。
アズリアも「少しでも多く討ち取りたい」と同調した。
あるいは文淳は、「その場の状況次第」と言った。
シロに本懐を遂げさせてやるため、奮戦するのか。それとも、その救出のみを第一義とするのか。
臨機応変と言えば聞こえはよいが、彼らの心中に曖昧さがあったことは否めない。敵を目の前にした時、進むのか、退くのか。思案をしている余裕‥‥ましてや話し合っている時間などまったくない。
そしてその迷いが、剣先を鈍らせる。
バグベアは強敵には違いないが、策を用い、そしてただ思うばかりではなく、決然とそれを行えば、勝機は自ずから見えてきたかもしれないが‥‥。
「シロの救出が出来たんです。いったん退きましょう!」
結局、危険を冒して奮闘するほどの戦意はなかったということであろう。ラシェルが呼びかけ、一行は駆け出した。
とはいえ、シロは納得していない。激しく抵抗している。そんな状態では、逃げることもままならない。
ただでさえ、退きながら戦うのは難しいというのに。
「ここは私が!」
アズリアは言うが早いか振り向くと、バグベアを迎え撃った。
「よーし、おいらだって! お姉ちゃんはおいらが守るんだ!」
アルフレッドも勇気を振り絞り、敵に臨む。
だがそうすると、2人は一行から引き離されてしまう。そして、敵の中に埋没してしまう。
いささか相手をするのに疲れるとはいえ、勝呂花篝の見送りを受けていながら帰らないわけにはいかない。アズリアは死を覚悟したわけではない。だが、バグベアは彼女が投げつけた盾を軽々と避け、棍棒を叩きつけた。
彼女が勇敢であることは間違いなく、『持てる限りの力を使って懸命に』戦っていたが、この劣勢を翻すことの出来る手だてを持っているわけではなかった。
結局。アズリアとアルフレッドが生還できたのは、奇跡と言ってもよい。
「こっちです!」
先行したラシェルは、ミネアの提案した隘路に、急いで罠を仕掛けた。そして、一行をそこに呼び集めたのだ。
まさか戦いの最中に餌に気を取られるようなバグベアは居なかったが、降り注ぐ油と炎に、敵は怯んだ。その隙にかろうじて、一行は死地を脱したのである。
だが‥‥。シロは、静かになった。誰が声をかけても返事をせず、声をあげなくなった。そして餌も、ほとんど食べなくなった。
シロは執事の家の庭でうずくまったまま、森から視線を逸らさない。
いつかまた、シロは鎖を外し、森の奥へ消えてしまうかもしれない。