た い きゃ く
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■ショートシナリオ
担当:一条もえる
対応レベル:2〜6lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 3 C
参加人数:9人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月24日〜05月29日
リプレイ公開日:2005年06月04日
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●オープニング
1人のシフールが、ギルドに飛び込んできた。
着ている服は汗を吸い土にまみれ、見るからに疲れ果てている彼は、歴とした冒険者である。
「頼む‥‥助けを貸してくれ。このままでは!」
水差しを差し出し、一息つかせて話を聞いてみる。
彼は、とある依頼を受けて出発した冒険者の中の1人だった。
その依頼に加わったのは、10人。荷物の輸送を頼まれた彼らは、御者が操る3乗の馬車を守りつつ目的の街へと向かったのだった。
幸い、道中は天候に悩まされることもなく、一行は新緑を楽しむ余裕さえ持って進んでいた。
が、道を半ばほど進み、森にさしかかったときだ。
一行は襲撃を受けた。
不運だったと言う他はない。彼らが知らないうちに、その森には戦士に率いられたホブゴブリンの強盗団が居着いていたのである。不運なことに、一行はしばしば森を往く人々を襲うホブゴブリンにとって、格好の獲物となってしまったのである。
圧倒的多数。屈強な戦士に率いられた群れは、いつも以上の凶暴さをもって冒険者達に襲いかかってきたのだ。
もちろん、冒険者たちも勇敢に応戦した。
小さな丘に陣取ると馬車を並べて即席の壁を作り、迎え撃つ。
平和な森は一転、剣を打ち合う激しい音に満たされ、放たれた矢と敵の投げつける岩とで空は埋まり、地は流された血を吸っていく。だがやはり、衆寡敵せず。撃退することはかなわなかった。
冒険者が激しく抵抗したため、ホブゴブリンどもも攻めあぐねたらしい。しかしながらその結果、冒険者たちは即席で築いた陣地の中に押し込められるとになってしまったのだ。
刀折れ、矢尽き。傷ついた冒険者たちはその包囲の中、脱出できずにいた。もともとそれほど日数を要する依頼ではなかったから、食料もやがて尽き果てた。
このままでは全滅する。
やっとのことで、このシフールがただ1人、包囲をくぐり抜けてきたのだ。
「頼む‥‥」
最後の力を振り絞ってここまでたどり着いたシフールは、そう言い残して気を失った。
包囲されているのは、3人の御者を加えた12人。手傷を負っている者は多いようだ。あるいは、深手を負った者や‥‥死んだ者もいるかもしれない。
彼らは飢えと渇きをしのぐために馬車を引いていた馬を殺し、血肉を食らって助けを待っているはずだ。
敵を蹴散らす‥‥ことは難しいかもしれない。その数は多く、また包囲の中にある冒険者は疲労の極にあることだろう。救援に呼応して打って出る、ことを期待できるほど事態を楽観は出来ない。
なんとかして包囲網をくぐり抜けて合流し、彼らとともに脱出しなければならない。
●リプレイ本文
●包囲網の中
鳥は鳴かない。獣は地を駆けない。
森の生き物は危険に関わることを嫌い、早々に逃げ出してしまっている。聞こえる音は風が枝を揺らす音と、獰猛な生物の呼気、あるいは剣のふれあう音。
にわかに、音が大きくなる。生物‥‥すなわちゴブリンが憎々しげに吠え、金属の打ち合う音が響く。
「無事ですか!?」
「お待たせしました!」
リチャード・ジョナサン(eb2237)とレイムス・ドレイク(eb2277)が、そして残りの者も馬を駆り、後を追って「陣地」に飛び込む。
「あぁ、かたじけない」
「門」を開いて出迎えたのは、壮年の騎士であった。この男が、包囲されていた冒険者たちの長と言ってもよい人であるらしい。
「迂闊な冒険者の尻ぬぐいなど、何の名誉も得られぬ。なのにこの危地に、よくぞ飛び込んでくださった」
責任感がそうさせるのか。騎士もまた傷を負い、疲労と飢えとで顔色はひどく悪いが、立ち振る舞いに乱れはない。
「はは。そのぶん、ただではない。命と引き替えなのだからのう。はずんでもらわねば」
ヴィクトリア・フォン(eb1055)は笑声を放ちながら、冗談めかせて言う。
まぁ、ただとはいかないのは確かだが、金が欲しいだけならばこんなところまで来る必要はない。
軽口をたたいている場合ではない。早く脱出の準備をしなくては。
正確な数までは把握できないが、ゴブリンは相当な数が集まっている。
「大きな群れだ。これに出くわしたのは、不運と言うしかない」
ケヴィン・グレイヴ(ea8773)が大きく息を吐きながら、頭を振る。彼らは包囲網を突破してきたのだが、その途中に出くわしただけでも倍近くはいたように思う。
「なんとか、全員無事に帰らないとね」
しかしまず、腹ごしらえをしないことには動けそうもない。やはり食料はすべて食い尽くされ、馬を食らっていた。水代わりとなるのも、その血だ。ニック・ウォルフ(ea2767)は、皆で持ち寄った保存食を彼らに分け与えている。
さらに、全員が怪我人だと言ってもいい。血のにじんだぼろ布を巻き、立つには槍にもたれている。
皆を『リカバー』で、あるいは『ヒーリングポーション』で治療していたフレア・レミクリス(ea4989)は、
「これくらいしか、私に出来ることはないから」
と、呟いていた。
負傷しているのは包囲されていた面々だけではない。アレクサンドル・リュース(eb1600)もまた、その治療を受けていたが、フレアを見つめて「自分の治療もしろ」と言い返した。彼女も、手傷を負っていたのだ。他者を優先する姿は美しいが、彼女に役立ってもらわなければならないことは、数多いのだ。
残念ながら、助からなかった者も、いる。
空腹に耐え、刀が折れてもなお励声をあげて戦っていた侍は、全身に傷を受けて寝かされていた。
彼の声は、ついに聞けなかった。助けが到着したことも、わかっていただろうか。侍は異国の木の下に身を横たえられたまま、静かに息を引き取った。
騎士たちはうなだれ、仲間の死を悼む。残念ながら、埋葬している時間も、労力さえもない。冒険者の死は、たいていこうだ。
「せめて、形見だけでもな‥‥」
アレクサンドルが言うと、騎士は頷いて髪を一房切り取った。故国には、家族がいたらしいが‥‥。
「ここから先は、うまくいくといいですけどね」
リエラ・クラリス(eb2072)が改めて、呟いた。
●脱出の糸口
「馬車を1乗、仕立てるのですか?」
「えぇ。そうしたほうが、怪我をした皆さんを逃がしやすいということなんでしょう」
リアナ・レジーネス(eb1421)が、騎士に頷く。視線の先では仲間たちが自分たちの乗ってきた4頭の馬をつないでいる。荷物はもちろん、すべておいていく。怪我人のすべてを運ぶには足りないくらいだが、防壁としていた馬車を動かすと、そこをつけ込まれるおそれもある。アレクサンドルは車軸が折れぬよう、鉄を打ち直して補強する。
その間、ニックやケヴィンは弓を構え、木々の向こうに見え隠れするゴブリンどもに狙いをつけている。ゴブリンどももまた、何事かをし始めた人間どもの様子を窺っているようだ。門にあたるところには、ヴィクトリアの『フリーズフィールド』が、氷室のような冷気を生み出している。が、
「冷気のせいで、少しばかり霧が出来ておるだけじゃな」
彼女の実力では、あたりを巻き込むほどの規模にはならない。せいぜい、通り過ぎるわずかの時間に肌寒さを感じるだけである。見込み違いに、ヴィクトリアは苦笑するしかない。
さて、状況を整理する。
シフールに聞いた話を元に森へ向かった一行は、そろそろ目的の場所だと悟るや速度をゆるめ、慎重に進んだ。
リアナの『ブレスセンサー』が、ゴブリンのものとおぼしき呼吸をとらえる。数は‥‥多数。20あたりで数えていられなくなった。
突破するしかない。
彼らは強行突入を選んだ。ならば、包囲の薄いところを狙うのが定石である。
だがゴブリンどもは、冒険者の襲撃にいったんはうろたえたものの、意外なほど早く体勢を整えて、迎え撃ってきたのだ。これはいささか予想外だった。
リアナの『ライトニングサンダーボルト』は多分に攪乱を狙ったものであった。もちろんそれは線上に立つゴブリンを打ち倒し、突入を容易にしたが。それでも、潰乱させるには至らない。
というのも、ゴブリンどもにはホブゴブリンという恐ろしくも頼もしくもある頭がいて、数でも優位に立っている。なにより、人間の冒険者どもを圧殺しつつあるところで、戦意は旺盛であったのだ。
そこには、少々読み違いがあった。突破には成功したが、魔法も矢も思った以上に使うことになり、また斬り合った者は傷も負った。
ともあれ、脱出だ。
「囮が作れないのが残念だな」
アレクサンドルは舌打ちした。馬車に火をかけて敵中に飛び込ませれば、さぞかし慌てることだろうが。それを引く、犠牲とする馬が必要だ。
仕方がない。レイムスが御者を務め、リチャードやリエラらが周りを囲む。
●生への道
もはや門ではなくなってしまったが、馬車を並べていた間から、冒険者たちは打って出た!
馬車では自ずと、通れる道は限られてくる。徒歩の時のように、迂路をたどり身を潜めて進むわけにはいかない。彼らは、疲労困憊の冒険者たちの負担を少しでも減らす事を選んだのだ。
ゴブリンが吠える。それ以上に大きな声で、ホブゴブリンが吠える。その声に背中を突き飛ばされるように、ゴブリンは戦意も衰えぬままに襲いかかってきた!
「行きますよ!」
リアナがまたもや、道を開くべく『ライトニングサンダーボルト』を放つ。
「うむ。私も負けてはおれんのう!」
ヴィクトリアが放ったのは、『アイスコフィン』。1匹のゴブリンが氷の中に閉じこめられた。
「さぁ、私たちが突破口を開きます! 遅れずについてきてください!!」
リエラが、馬車に乗せられた怪我人たちを励ました。後は斬って斬って、この重囲から逃れるだけである。
リエラはゴブリンの突き出す錆びた剣を避け、逆に斬りつける。
しかし、冒険者たちが奮戦する中、浮かぬ顔の青年が1人。長に付き従っていた騎士だ。彼もまた頭に血のこびりついた布を巻いていたが、気丈にも長に従って馬車の傍らを駆けていた。その彼が、長にそっと近づいて、ささやく。
「‥‥どうしましたか?」
訝るフレアに、長は「いえ」と短く答えた。青年は黙ってうつむいた。不自然には感じたフレアだが、それ以上追求している時間もない。
ゴブリンどもが、再び吠える。
●1匹、また1匹と
戦術的な裏付けがあるわけではないが、人間どもが逃げようとしているのなら、撃退すればよい。ゴブリンどもはこちらを押し包むように、襲いかかってくる。
舗装された道ではない。馬車もそれほどの速さでは走れず、ゴブリンどもは前に立ちはだかり、そして横から手斧を突き出し、後ろから追いすがろうとする。
また、奴らはそこら中の石を手に取って投げつけてくる。
「くッ‥‥!」
レイムスが呻いた。飛礫が額を割ったのだ。単なる荷馬車なのだ。鞭と手綱を手にしたままでは、身を守ることもおぼつかない。もとより、御に巧みなわけでもない。
「大丈夫ですか!」
リチャードは馬を馬車のそばに寄せ、レイムスを庇うようにした。そのまま、さらに飛来する石から守る。
「きりがないではないか!」
「‥‥そうですね」
頭をすくめてヴィクトリアが吐き捨てると、横でリアナも頭を振った。一気になぎ倒したいところではあるが、ヴィクトリアの『アイスコフィン』ではそうもいかない。もっと頼れそうなのは『ライトニングサンダーボルト』なのだが、これとて、一列に並んでくれている隘路でもなければ、1匹か、せいぜい2匹程度。なかなか効率は上がらない。
そのときだ。
「この‥‥!」
リエラは飛来する石を剣で防ぎ、ゴブリンの方に向き直った。しかし、その視界の隅にちらりと!
まずい、と思ったときにはすでに遅い。避けきるのにも限度がある。ホブゴブリンの振り下ろした斧が、肩口を痛打した。肉が裂け、骨の砕ける音が耳朶を打つ。
仰向けに倒れていくリエラの襟首をリチャードはつかみ、鞍に持ち上げた。出血がひどい。
だが、彼自身も馬車を守った分、飛礫を浴びている。腕が、鈍く痛む。
「なんとか、突破だ!」
アレクサンドルが叫ぶ。なんとか包囲そのものは脱したが、ゴブリンはなおも追いすがろうとしている。まだ危機を脱したとは言えない。
「しまった!」
ホブゴブリンは誰かから奪った物なのか。上質とは言えないが鎧を着ている。ケヴィンはその隙間を狙って矢を放った。しかし、肩当てに刺さっただけ。ほぞを噛む。『シューティングポイントアタックEX』など、彼の射術は狙いをつけることが難しく、狙撃には向かないようだ。
「欲を、出しすぎたか‥‥?」
もう、矢がない。
「これを使って!」
ニックは1本の矢を手渡し、自身も1本の矢をつがえると、放つ。2人の放った矢は狙いを違わずゴブリンの胸と頸に刺さり、昏倒させた。
だが、石畳で舗装されているわけでもない悪路を進む馬車はなかなか速度が上がらない。
木の根に躓き、止まってしまった!
「お任せを!!」
長は素早く馬車に駆け寄ると、力を込めて押し始めた。おかげで、馬車はすぐに進み始める。だが、その後ろには。
「振り返らず、駆けられよ!!」
長はそのまま、ホブゴブリンに向き直る。
「主よ!」
青年騎士もまた、駆け戻ると剣を構えた。
殿を買って出たのだ。
●彼らに、感謝を
冒険者らは、知らなかったが。2人は、こんなやりとりをしていた。
『‥‥主よ。このまま彼らに従うつもりですか? 彼らは勇ましいが、謀が少ない。危うく見えます』
突破したくとも出来ないからこそ、自分たちは追いつめられたのではないか。自分たちと助けに来た者たちと、実力がどれほど違うというのか。青年には不満があるようだった。
だが長は青年を睨み付けた。
『確かに、彼らも完全ではないかもしれない。だが彼らが来なければ、我々はみなゴブリンどもに身ぐるみをはがされ、白骨を夜露に濡らすことになっていただろう。彼らには義侠心がある。それは、彼らの美徳だ。ならば我らは、身をもって謝辞を表すしかない』
今、その時がきた。追いつめられた長たちの一団の中に、幾人かの死者が出るのは‥‥これはもはや仕方がない。何人かでも生き残れば、幸運だ。しかし、助けに来た冒険者たちまで帰らないということなど、あってはならない。
駆けつけようとする冒険者たちを、長は制した。
この殿は、必ず死ぬ。華やかな活躍とも名声とも、一縷の望みさえも無い。ただ、骸を堰として敵を食い止めるだけだ。
気持ちはうれしいが、見ず知らずの冒険者のために前途を失って良いものか?
「振り返らずとも良い!」
長は叱声を放った。
救出は、成功した。
12人のうち、生還したのは9人。包囲された苦境からの脱出と思えば、成功と言っても良い。包囲されていた冒険者たちは皆、
「気にするな。よく、やってくれた」
と、言ってくれた。
だが‥‥冒険者たちは唇を噛んだ。
果たして、敵を侮ってはいなかったか? 果たして、状況を軽く見てはいなかったか? もっとよい手だてがあったのではなかったのか?
答えが見つかるはずもなかった。