は し も り
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■ショートシナリオ
担当:一条もえる
対応レベル:3〜7lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 45 C
参加人数:9人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月26日〜10月01日
リプレイ公開日:2005年10月11日
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●オープニング
橋を架ける、というのは大事業である。
山から大量の木材を切り出し、それを運び、そして多くの労働力を費やしてでないと、それは完成しない。
費やされる労力というのは莫大なもので、近隣の諸侯の財力、具体的には領民の生活を圧迫してしまうことさえしばしば、ある。
そこまでして、どうして橋を架けるのか。それだけの価値が、橋を架けることにあるからである。河は、地を分ける。河の向こうは別の国と言ってもよい。人々の生活は河のこちらと向こうとで隔てられているのだ。
しかし橋があれば、容易く行き来することが出来るようになる。遠方からの人も物資も、橋があれば往来が容易になる。それだけ、その地が潤う。
だからこそ、橋を架けるのだ。
今、この河にも橋が架けられた。
「いや、これで便利になるな」
「はい。運べる荷物も増えるというものです」
領主のみならず人々にも、それを歓迎する空気がある。
これまでは、いちいち渡り船を使わねばならなかった。当然、川が増水すれば渡ることは出来ず、また大きな荷物は分けなければ運べない。
しかし、これからはそうではない。
近隣には他に橋はなく、多くの人々がこの橋を利用することになるだろう。街道が活気づけば、それだけ橋の通行料の他、宿の宿泊や食料など、落としていく金も増える。集落にもある程度は還元されるわけで、そうした意味でも開通は歓迎すべきことなのであった。
が、わずかに半月ほどたった時のことだ。
その日は雨だったという。
橋のたもとには通行料を集める関所が設けられていた。そこにいた兵士が、彼方から近づいてくる人影を認めた。
あまりに巨大すぎる人影。それは、トロルだった。
兵士達ではトロルに太刀打ちできない。彼らが逃げ散ったあと、トロルはなんということか関所に住み着いてしまったのである。
何も知らない人間が橋を渡ろうとやってくるたび、トロルは襲いかかっているのである。
どういうわけか物珍しい金品に興味を引かれたらしく、荷物を放りだしている間に逃げ延びた者もいたが‥‥。
ともかく、このままでは橋が利用できない。
「冒険者よ、トロルを征伐してくれたまえ」
●リプレイ本文
●強敵・トロル
「トロルのくせに『通行料』をせしめようなんて、図々しいにもほどがある!」
「まぁまぁ。ですが確かに、皆さんお困りでしょうね。気をつけましょう、ユーネルさん」
話に聞いていたとおり、橋はまったく使えない状態が続いているのだという。
顔見知りらしいユーネル・ランクレイド(ea3800)とファーラ・コーウィン(ea5235)が語り合っている。
マルティナ・ジェルジンスク(ea1303)は馬の背に乗り、溜息をついた。
「トロルですか‥‥実際に目の当たりにするのは初めてです」
「私もよ。良い機会だわ。一度、見ておきたかったのよね」
「そんな、不謹慎な」
興味深さが先に立っているようなチャイ・エンマ・ヤンギ(ea9952)をローガン・カーティス(eb3087)が軽く睨む。
なにせ、人死にも多く出ているのだ。笑い事ではない。
「あぁ、誤解なさらないでください。必ず、苦しむ人々を救ってみせます」
と、マルティナは言ったが。
「そうよ〜。当然じゃない」
というチャイの態度は少し怪しい。
「‥‥まぁ、いいよ。そろそろ見えてくるよ」
夜光蝶黒妖(ea0163)が呟くような声で、一同に注意を促した。
「‥‥いるな」
物陰から遠望した明王院浄炎(eb2373)が「むう」と唸った。
橋のたもとに、青銅色の肌をした巨人が佇んでいる。手には、人の手では持ち上がるかどうかもわからないほど大きな棍棒。
何をしているのか正確にはわからないが、のろのろと小屋から出てきたトロルは、橋のたもとに座り込んで、川の流れを眺めているようにも見える。もちろん、そんな情緒的な動作ではまったくないかもしれないのだが。
ともかく、確かなのは。
「あれでは、橋を渡るどころじゃないわね」
御法川沙雪華(eb3387)は溜息をついて頭を振った。
この状態ならば、橋を渡ろうとした旅人も姿を見つけることが出来るだろう。とすると、トロルは人を襲う段には、小屋にでも姿を隠しているのか。
「そういうところだけ、ずいぶんと狡猾なんですね」
明王院未楡(eb2404)は呆れてしまう。
駆け出しの小僧ではない。相応に経験を積んだ彼ら冒険者にとっても、トロルは難敵となりそうであった。
●地を掘る
しかし、いつまでも眺めていても仕方がない。
「どうする?」
「かつての俺ならば、真っ向から撃破してみたいと思っただろうがな‥‥」
問いかけてくるローガンに向け、浄炎は苦笑いしてみせた。そして、未楡を見る。あいにくと、今は「どこで野垂れ死んでも本望」とは言えない。
その視線の意図を誤解したのか、未楡は。
「そうですね、罠を仕掛けるのがいいでしょうね」
「相手は1匹、時間もそこそこ。‥‥なら、そうした方が安全無難だな」
ユーネルが頷いた。
仕掛ける罠は、落とし穴である。
「この辺りでいいだろ」
ユーネルが指し示した所を、一同は掘り始めた。
「私もお手伝いしますね」
沙雪華は馬の背から穴掘り道具を取り出し、硬い土に突き立てる。
「では、私も。備えはしておきましたから」
と、ファーラも続く。
「あの巨体を落とそうっていうんだから、穴を掘るのも一苦労よね」
というチャイは、少しも手伝おうとしない。
「祖母の遺言なのよ。『チャイや、決して穴掘りはしてはならんぞ〜』って」
「んなわけがあるかぁ!」
「もう、ユーネルったら冗談もわからないんだから。遊んでる訳じゃないのよ。私は私ですることがあるの!」
その言葉は嘘ではなく、作業をしているようだ。
浄炎に促され、辺りを気にしていたローガンも作業に加わる。
「大丈夫だ。この辺りに人を近づけぬように、領主には言っておいたからな」
「‥‥ぬかりがないな」
「まぁな。さぁ、ローガン向けの仕事ではないが、頑張ってくれ」
「そうだぞ。実際、人間大の大きさじゃすまないんだからな」
はやくも土にまみれ始めたユーネルが、皆を鼓舞した。
●仕掛けた罠に
普段から体力勝負の冒険者でも、トロルを落とすほどの穴を掘るのは一苦労であった。
が、やっとのことで掘り終える。秋の日は短い。もう日が暮れようとしている。
「まだまだこれからですよ」
ファーラの言うとおり。今度は穴の底に、杭を打つ作業が残っている。あわよくば、これで串刺しにしようという考えだ。
「では、これで仕上げですね」
未楡が布を抱えて戻ってくる。
「‥‥少し汚しておいた方が目立たないね」
黒妖はそれを受け取ると、地面に押しつけて土をまぶした。穴を覆った布の上に木の枝、草の葉をばらまき、完全に隠す。
いよいよ準備は整った。
「どう?」
「相変わらず。じっとしています」
仲間達が穴を掘っている間、マルティナは茂みに隠れてトロルの様子を窺っていた。そのとなりに、滑り込むように黒妖がやってくる。
待ち受ける仲間達も、邀撃の準備が整ったらしい。ユーネルの上げた烽火を見た黒妖とマルティナは肯きあって、姿を現した。
トロルも、烽火に気付いたようである。そして、駆け寄ってくる人間達に視線を移す。
トロルはさながら威嚇でもするかのように、棍棒を大きく振り回して1歩1歩近寄ってきた。
「うわ!」
と、わざとらしく驚いたふりをして、2人は逃げ出した。トロルはうなり声を上げつつ、追ってくる。マルティナには羽根があり、黒妖には『疾走の術』があるとはいえ、背後から迫ってくる圧力は冷や汗ものである。
かといって、引き離してしまうわけにはいかない。何とか逃げ延びた人もいたように、あまりしつこく追っては来ないようだ。なんとか、掘った穴までは誘導しなくてはならない。
ときおり振り下ろされる棍棒の風圧に首をすくめながら、逃げる。
「きましたわ!」
ファーラが小声で、しかし緊張した声で仲間達に呼びかけた。物陰にしゃがみ込んで待ち受ける彼らの、得物を握る手が汗ばむ。
「それッ!」
黒妖は大きく跳躍し、巧妙に隠された落とし穴を跳び越えた。
しかし、トロルはそのまままっすぐ走り、突如として消えた地面に驚く間もなく、穴へと転落した。
「やったか!?」
浄炎が叫んだ。すかさず、仲間達も飛び出す。
転落した勢いで、トロルの身体には杭が突き刺さっているようだ。憎々しげに咆吼をあげ、冒険者達を睨む。だがトロルは、刺さった杭を掴むと、力任せに引き抜いた。血しぶきが飛び、魂が凍るような絶叫がこだまする。
●炎
「まだ油断してはいけません!」
「トロルには、再生能力があるぞ!」
未楡とローガンが口々に叫ぶ。
怪物どもの中には、一見しただけではわからない恐るべき能力を持っているものもいる。トロルもその1つである。その点、彼女らにぬかりはない。
その青銅色の肌は、いくら傷つけようともたちまちのうちにその傷をふさいでいくのだ。
ローガンの放った『ファイヤーボム』が、沙雪華の『火遁の術』がその肌を焼く。
「少し離れていてちょうだいね!」
チャイが、何かを投げつけた。
穴掘りを手伝わなかったのは別に、怠けようとしていたわけではない。用意していた壺に油を詰め、火をつけて燃やしたのである。 放物線を描いて飛んでいったそれは穴に落ち、音を立てて砕け、炎を生む。
「どう? 工夫次第でこの通りよ!」
あとは、『ファイアーコントロール』で燃え上がらせるのみである。油まみれになったトロルに火が燃え移り、肉に焼ける嫌な臭いが漂う。
だが、それだけでは倒せない。再生を防ぎつつも、致命傷を負わせなくては。
トロルは、穴の縁に手をかけて巨体を持ち上げようとしている。
「絶対、出してなんかあげません!」
ファーラは何とか穴に落とそうと、上から斬りつける。だがトロルは、なんと片手で自身の体重を支えると、もう片手で棍棒を振り回したのだ! 慌てて避けたものの、足を強く打たれファーラは顔をしかめて転倒した。
「大丈夫、折れてません!」
その隙に、トロルははい上がる。
「やってくれたな!」
浄炎は『オーラボディ』で立ち向かう。
噂を聞いた未楡から知らされてはいたものの、実際に相対してみるとトロルは恐るべき強敵であった。
おそらく‥‥いや、「間違いなく」であろうか? 1人で立ち向かえば、負ける。それなりに経験豊富な彼らであっても、だ。
だが、なかば火だるまになっている今の状態では、傷も再生しないはずだ。杭を打たれた傷も、まだ完全に癒えたわけではない。
ならば、あとは1つ1つ、傷を付けていくだけ!
冒険者達は再び武器を構えなおし、立ち向かった。
見かけ通りに、トロルはいくら斬りつけても怯むことなく、しぶとい相手だった。
彼らは多くの手傷を負ったが‥‥ついにその巨体は、仰向けに倒れたのだ。
元々は橋守りの詰め所だった小屋を除いてみた。するとそこには、1つ1つはたいした物ではないものの、数多くの宝石や金貨、装飾品などがあった。
「奪われたものだな」
「えぇ。持ち主がわかる限り‥‥お返ししましょう」
ユーネルとファーラは、そして仲間達は同じように肯きあった。弔いの気持ちを込めて。