い ち も う だ じ ん (ふたたび)

■ショートシナリオ


担当:一条もえる

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月25日〜09月30日

リプレイ公開日:2005年10月07日

●オープニング

「うぅむ、いったいどうすればよいものか。打つ手がないではないか」
 領主は苦悩していた。苦悩しているばかりでもなく、激怒してもいた。
 その原因は、領内を騒がせている盗賊団である。
 一般の家庭よりも富家を狙う大盗賊団で、金品だろうが調度品だろうが、価値のありそうな物は根こそぎ奪いとっていってしまう集団なのである。
 そのやり口は実に巧妙で、それ以上に単純極まりないものだ。大勢で屋敷に忍び込み、家人のことごとくを縛り上げ、そして奪う。奪ったらすぐさま逃げる。ただそれだけだ。
 しかし、これほど大勢に襲いかかられてしまえば家人も対応する余裕もない。抵抗しない限り殺されはしないようだが、衛兵が駆けつける頃には邸内には何一つ残っていないという有様なのだ。
 ならばと、領主は罠を仕掛けた。珍品をとある屋敷に集め、おびき寄せたのであるが‥‥惜しいところで逃げられてしまったのだ。
 しかし、その後もいかなる手を使ってもただの1人さえ捕らえることが出来ていない。
「やはり、この前のように罠を仕掛けるしかないか‥‥」
 周りの様子からしても、以前に罠を仕掛けた屋敷が最適だろう。
 屋敷は町の郊外にある。町から続く道の周囲は林になっており、裏手には川が流れている。
 財物を奪って調子に乗っているところを、逆に襲うのである。衛兵だけではまんまと逃げられてしまったが、なんとか冒険者の助けを借りられれば‥‥。
 今度こそ、何とかしなければ。
 盗賊団の名は領内に広まり、無頼の者が次々と加わっている有様なのである。以前は、腕の立つ男と言えば首領の用心棒じみた大男1人くらいしかいなかったが。今では、腕の立つ者も何人かは混じっていることであろう。

「なにとぞ、窮地に陥っている私を哀れんでもらいたい。むろん、報酬も相場より多めには用意させていただいた。貴殿らの働きによっては、さらに礼金を用意させてももらう!」

●今回の参加者

 ea4885 ルディ・ヴォーロ(28歳・♂・レンジャー・パラ・イギリス王国)
 ea6006 矢萩 百華(33歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea8675 カルナ・バレル(56歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb2093 フォーレ・ネーヴ(25歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 eb2745 リースフィア・エルスリード(24歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 eb3310 藤村 凪(38歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb3483 イシュルーナ・エステルハージ(22歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb3512 ケイン・コーシェス(37歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

●罠
「『罠』を仕掛けるのは、この屋敷です」
 領主はそう言いつつ、屋敷を案内していた。町の郊外にある、富家の屋敷である。主は領主の親族らしい。「財産を奪われた主のため、領主が珍品を競売する」という噂が町には流れている。
 いや実際に、近隣の領主に触れ回ることもした。当日までに、続々と領主らも集まって来るであろう。それを奪うためのは人が増える前、つまり今の間しかないという寸法である。
 おびき寄せるにはもはやそれしかないとはいえ、もし奪われてでもしたら領主の面目は丸つぶれである。見るからにあくの強そうな顔立ちであるが、今度ばかりは応接も丁重であった。
 時間がない。冒険者達は備えをはじめる。
「さっそく、何か罠を仕掛けようよ」
 フォーレ・ネーヴ(eb2093)曰く、退路を限定できるだろうということである。
「それがいいね。そういうの、得意分野だよ」
 ルディ・ヴォーロ(ea4885)が手を拍った。罠と聞いて、彼らは物理的な罠をすぐに思い立ったようだ。
「どんなのがいいかな、フォーレ?」
「落とし穴が妥当かな? とりあえず、出入り口の戸板はきちんと閉じてもらって‥‥」
「そやね。落とし穴いうのはえぇかもしれんね」
 藤村凪(eb3310)は頷く。
「ちょ〜っと自信満々とはいかへんけど、まぁ、兵法は武士の心得。任せてや!」
「おぉ、心強いな。いくらでも言いつけてくれい。わしも手伝うぞ!」
 カルナ・バレル(ea8675)は大いに笑う。
 作業そのものには衛兵にも協力してもらえるから、助かる。
 衛兵達も当然ながら大いに頼りにしており、安堵の表情で指示を待つ。
「それで藤村様、どのあたりに落とし穴を掘ればよいのでしょう?」
「え、それは‥‥どう? フォーレ君」
「そんなこと言われても‥‥!」
 水を向けられたフォーレも、助けを求めるようにカルナらの方を向くが。
「いや、すまん。まったくそんなことは」
 はじめからフォーレら任せで、考えてもいなかったようである。
 
「知らない。難しいことは、賢い人に任せる。‥‥とりあえず、私は斬ればいいの?」
 矢萩百華(ea6006)も似たようなもの。余念がないのは刀の手入れくらいだ。
 凪やフォーレにその種の判断をする能力がないのではない。はじめから考えていなかったのである。もちろん、カルナらも含め。
「どないしょ? まぁ‥‥『ええかなぁ〜』と思う辺りに、適当に‥‥」
 盗賊達が逃げていきそうな道とは、どこだ?
 衛兵達は、顔を見合わせた。

●待ち伏せ
 とりあえず、「適当に」罠を仕掛け終えた冒険者達は、息を潜めて盗賊の襲来を待った。
 果たして、深夜。皆が寝静まった屋敷に、無数の人影が足音を忍ばせて迫っていた。
「よし‥‥いくぞ」
 首領が静かに合図を出す。すると、男達は実に身軽に門を乗り越え、縄梯子をおろし、次々と屋敷に乗り込んでいってしまった。
 あちこちの窓に、やたらと頑丈に戸板が打ち付けられているのを訝りつつ、その割には開け放たれていた窓の1つから乗り込む。
 さて一方。
 屋敷の中には、
 リースフィア・エルスリード(eb2745)が待ちかまえていた。家人は怪しまれぬよう各部屋で息を潜めており、辺りは静かだ。
 が、にわかにその静寂が破られた。十数人分の足音のせいである。
「ここか?」
 盗賊の1人が、リースフィアの潜んでいた部屋の戸を開く。
 動いたのは、双方にさほどの時間差はない。盗賊達はいつものように縛り付けようとした。
 しかし、小娘と侮った盗賊達はおおいに痛い目を見た。襲いかかった数人を、瞬く間に叩き伏せて一喝する。
「無礼者! この屋敷を襲うとは、どのような了見ですか!」
「お前、ただ者じゃないな!?」
 かなわないとみた盗賊達は背を向け、部屋を飛び出していった。
「手強い奴がいるぞ! 逃げろ!」
 その声は屋敷中に反響し、とたんに屋敷中が騒がしくなる。あちこちに散らばって金目の物を漁っていた盗賊達が、すぐさま逃げ出しはじめてしまったのだ。
 まだ、盗賊達が屋敷に入ってから時間はさほど経っていない。
「出番?」
 百華は屋敷から飛び出してきた盗賊達を斬り捨てた。
 盗賊など、幾人かでかかってこようとも相手にもならない。
 その通りなのだが、それは相対した場合のこと。先ほどと同じように危険を察知した盗賊達は、蜘蛛の子を散らすように逃げ散ってしまったのである。
 そうこうするうちにみごと首領は捕らえたが、それでも数にしてみれば追えたのはその1人だけだ。
 挟撃も何も、これほどあっさりと逃げ出されてしまっては、向こうの方が人数が多いのははじめから明らかなだけに、どうしようもない。

●逃走経路
 盗賊達はひたすら走る。走って、逃げる。捕らえられれば首が飛ぶ。生き延びるためには、走るしかない。
「しかし、悪人は裁かれるべきじゃないか! 見逃せるわけがない!」
 ケイン・コーシェス(eb3512)は断固として譲るつもりはない。
「でも、まだ準備は万全じゃないけど‥‥!」
 イシュルーナ・エステルハージ(eb3483)は、衛兵達の報告に顔を曇らせた。
「仕方がない。やるだけやる!」
「それもそうね」
 逃げる盗賊達は、身を隠すために道を避けて林に逃げ込んだ。
 ところが、先頭を行く男がいきなり転倒する。そこには、イシュルーナが草を結び、輪を作っていたのである。また、各所には落とし穴が掘られており、盗賊達を困惑させた。
「大人しく投降しろ! もう逃げられないぞ!」
「逃がさないわよ!」
 イシュルーナの仕掛けた落とし穴には底に木の杭が打ち付けられており、落ちた盗賊は絶命した。
 その有様を見せられ、また罠が仕掛けられているということは、そこに追補の兵が待ち受けていることでもあり、盗賊達は大いに悲嘆した。
 しかし悲嘆しつつも、逃げる。
 イシュルーナとケインはそれを追い、なんとか多くを捕らえた。
 しかし、それでもまだまだ全員ではない。林に向かって逃げ出した者ばかりではなかったのだ。
 この盗賊団がもっとも重んじていることは、速さである。その速さが盗みを容易にし、逃走を可能にした。
 屋敷の側を流れている川の上流から、滑るように何艘もの小舟が近づいてくる。
 逃げ散った盗賊達の多くが、川に向かって走っていた。
「そういえば‥‥」
 と、川に注目していたのは百華ただ1人であった。
 他にもいろいろと気にした上でのことであったので、万全の備えとはいかなかったが。それでも、気にかけたぶん衛兵の注意も向いていた。
「早く乗れ!」
 しかし盗賊達は始めからそれを狙っていたように、次々と小舟に飛び乗っていった。捕縛された者もいたが、残りはそのまま川を下っていく。
 当然ながら、舟の進みは追う衛兵達よりもはるかに速い。もはや追いつけまい。どこの岸に着くかは盗賊達の思うがままである。包囲網を抜けられては、その場所もわからない。

「なんということか!」
 衛兵達を指揮していた領主は嚇怒し、まなじりをつり上げた。
 確かに首領ほか、数名の主立った者を捕らえることが出来た。しかし、多くの者を取り逃がしてしまったのだ。いくら首領を失ったとはいえ、では残りの者が良民に戻るかというとはなはだ怪しい。誰かが新たな首領になるかもしれない。
 財物を奪われることはなかったとはいえ、これではとても一網打尽にしたとは言えない。繕えていない網で、さらには口を慌てて閉じてしまったようなものである。大魚はかかったが、捕らえた魚は少ない。
「なんということか!」
 領主はもう一度叫び、そして倒れた。
「あぁ、我が君!」
 怒りと心労とが限界を超えたのであろう。側近が慌てて身体を支えた。