●リプレイ本文
●話し合いに向かおう
「無論、全額お願いしたい。返済の期限はとっくに過ぎているのでな」
「ふむ‥‥だが、果実は取り尽くさぬようにするもの。そうでなければ新しい木も芽生えん。その点はいかがか?」
アイオーン・エクレーシア(ea0964)は考え込んだ振りをして、領主に問い直す。
「それはわかるが‥‥収穫の時期はとっくに過ぎているわけだし、『無い』ではこちらも困る」
「わかった。善処しよう」
アイオーンは一礼して退出した。
そういったやりとりを経て、一同は出発したわけだが。
「さて‥‥実に簡単な依頼なのだが」
「どうなんでしょうね?」
ルーティ・フィルファニア(ea0340)が小首を傾げる。
「返せる人は、もう返してるんでしょうか?」
「まだなんじゃないですか? 『ビタ一文払わない』って言ってましたし。真似事なんかで金貸しをするからこうなるんですよねー」
挙手するようにして尋ねた大隈えれーな(ea2929)に向かって、まるでひらひらと手を振るように、リアスティリル・レムリアーヌス(ea4094)は笑った。
「領主ともあろう者が商魂たくましく金貸しをするようでは、それはそれで困ります。まぁ、そもそも慈善活動のようなものですから‥‥」
ラス・カラード(ea1434)は苦笑しつつ、十字架を手に取る。
「まずは村人にもお話を聞いてみましょう。話し合わないことは無用の衝突を生みます。まず、対話することです」
「ですよね。まず返さない理由を聞いてみて‥‥もし踏み倒す気なら物の道理というものを教えてあげましょう」
「返せないにしても、返そうとする意志が無いのは問題だな。‥‥まぁ、そのあたりの事も調べてみないことには。それも調べろということだろう」
「なるべく、穏やかに行きたいわね。笑顔で笑顔で」
次々と出てくるリアスティリルやアイオーン、そしてディーネ・ノート(ea1542)らの意見に耳を傾けつつ、ルーティはため息をついた。
「難しいですね」
「穏便にすませるつもりですから」
水野伊堵(ea0370)は真剣に肯いた。
●旅の僧侶
「何だ、お前等は?」
顔をしかめて誰何した若者は、浅黒く焼けた肌、そして痩せた身体からして、近隣の農夫以外にはあり得ない。
「はいはい。こちらのお方は旅のシスター、シスター・アマリスでゴザルよ。そして俺は付き人兼料理人の、リオン・ラーディナスでゴザル」
「‥‥そうなのか?」
「えぇ、まぁ」
いけしゃあしゃあと答えるリオン・ラーディナス(ea1458)に、村人は胡散臭そうな目を向けた。傍らのアマリス・アマリア(ea4061)が、フォローに困りつつ小さく、肯く。
気を取り直して。
「こうして通りかかったのも何かの縁、もし村に病気や怪我で苦しんでいる人がいるならば、出来る限りお助けしたいと思うのですが‥‥」
そうやって村に入り込んだアマリスたちは、言ったとおりに病気の人を見舞ったり、転んだ子供にまで手当をしたりして、村人の中にとけ込んでいった。
それはそれでとても感謝されたのだが、「なぜこんな村に?」と、村に逗留し続けること自体がいささか不可思議なことではあった。
だから、というわけでもないだろうが。
「ここの領主様‥‥なかなかの評判だという話ですが」
と、適当にでっち上げたうわさ話を話すと、村人は怪訝そうに顔を見合わせ、表情を曇らせた。
アマリスの尻馬に乗ってえれーなが。
「あぁ、それはいいですね。いえ、母の故郷がこの辺りにあるのですが、そちらに移住しようかと思っているので‥‥実際の所、どうなんでしょうか?」
旅人を装ってやって来たえれーなだが、わざわざそんなことを聞くのも妙である。故郷なら、そこにいる親類に聞けばいいのに、と村人は思ったに違いない。
村人は曖昧な表情で、
「もちろん、酷い方じゃあない。困ったときには金を貸してくれたりしたし‥‥」
と、言葉を濁した。
「‥‥実際、生活は楽じゃなさそうだね〜」
「うわ、驚いた」
いつの間にか夜黒妖(ea0351)が背後にいた。村人達が三々五々、帰っていくのを見計らって姿を現す。
彼女は、村人達がアマリスの所に集まっているのを見計らって、家々に忍び込んでその生活の豊かさを確かめていたのだ。もっとも、厳密な貨幣経済に生きてはいない農村のこと、「見た感じ」程度以上のものではないが。
「利子も妥当、取り立ても穏便。それで返さないのは、やっぱり不作のせいだろうね」
それは、村人に聞いた話とも合致する。リオンはうむうむと考え込む。
生活が苦しいのは、わかった。村人に踏み倒す気があるわけでもないということも。
まぁ、もうそろそろ後発の皆も到着する頃だ。彼らと対策を詰めて‥‥。
「そういえば」
突然、黒妖が口を開いた。
「おじさんが寝込んでた家とか、その辺は忍び込めなかったよ。そことか、だいぶ生活苦しそうだったけど」
中には、そういう者、そういう家もあるということだ。利子さえ払えなさそうな家が。
●若者達の覚悟
その点、予想してしかるべきだったのだ。
利子さえ払えそうにない『村でも貧しいか、色々と事情を抱えている家』の者が、思いあまった結果、『村にやってくる冒険者達を見つけるなり、追い払おうと襲いかかってくる』ことは。
一同には知る由もなかったが、待ち受けていたのは先日、アマリス達がやってくるのを見つけた若者である。彼らはこうして、領主の使いが来るのを見張っていたのだ。
そこに、数人連れ。馬まで連れているし、身なりからして騎士らしき者までいる。来た、と若者達は覚悟を決め、すぐさま仲間を呼んだ。
冒険者達は、先行した黒妖やアマリスの情報を元に、アイオーンやディーネ、ラスらが中心となって話し合いを進め、ルーティやリアスティリルは話し合いが煮詰まったときに、なだめすかすなりすればいいか、などと考えていたのであるが。
彼らの頭はそのあたりの目算を立て、詰めをどうするかというところに、すでに行っていたのである。
ために、不意を突かれた。
「帰れ帰れ! 払わねぇぞ!!」
あるいは、村人の抵抗など歯牙にもかけていなかったのかもしれない。その気になったら簡単に撃退できると。当たり前だが、怪我をしたい者などいない。「襲われたら防ぐ」のはわざわざ口にするまでもなく、禽獣の類でもそれを行うだろう。
特別、対策を立てた様子はなかった。
「ちょッ‥‥! 話を聞いてください!!」
ラスは懸命に叫ぶが、若者達は聞く耳持たない。村へと通じる道、その脇の丘から、ばらばらと石が降ってくる。
逆に、若者達は必死だった。一度抵抗を示した以上、徹底して戦わなければ殺されるのだ。
彼らは一様に貧しく、あるいは事情があって借金(利子さえ)払うのに困窮している者達だったのだ。その悲愴な熱気が、村全体を半ば強引に、押し切るようにして突き動かしていた。
冒険者達は慌てて身を隠そうとしたが、周りにそんな場所がない。背にした荷物で出来うる限り身体を隠す。
「これはたまらないわ。無い知恵絞ってよく考えたわねー」
降ってくる礫に閉口しつつ、リアスティルは憎まれ口を叩いた。いつまでもこうしているわけにはいかない。礫の当たったところは、痛々しい青痣になっている。もしかしたら向こうが先に諦めるか礫が尽きるかするかもしれないが、それに賭けてみたくはない。
●精一杯の抵抗
一度、官吏を追い払っているだけに、今度は本腰を入れて徴収に来るに違いない。
覚悟を決めていただけに、若者達の『防備』は周到であった。騎士や冒険者など、戦うことを職業にした連中を相手に鍬や鎌を振り上げても、何の抵抗にもならないことは理解している。この礫もその対策のひとつ。
リアスティルは『スリープ』や『シャドウバインディング』で動きを押さえようとしたが、1人1人相手にしていたのでは埒があかない。
なに、連中の所までたどり着けさえすれば、それで終わりだ。冒険者達は(他に余地もないので)一気に丘の上まで駆けていったが、その足もとの草は、見事に輪に結ばれていた。ところどころ、縄もかけてある。あまつさえ、足を取られたところに今度は牛糞馬糞の類が雨あられと降ってくる。あ、今度は肥桶が。
さすがに、村人も出来る限りの殺傷はしたくないようで、「攻撃」は相手を怯ませるためのものらしいが。確かに、この臭いと感触には閉口させられる。意欲が萎える。
いや、しかし。
冒険者たる者、そうではいけないのだ。
「借りたもんは大人しく返すのが道理というものだろうが〜ッ!!」
日ごろ感情を表に出さない伊堵が、目立たぬように隠しておいた刀を背嚢から引っこ抜き(それでも鞘から抜かないのは見上げたものだが)、鬼のような形相で丘を駆け上がっていった。いろんな意味で、凄惨な光景である。
「いい加減にしないと、ぶち殺すぞ農民!!」
「う、うわぁッ!!」
冒険者に本気でかかられたら、基本的には善良な農民に、為す術はない。若者は伊堵に襟首を掴まれ、引き倒された。そのまま、ぐるぐると縛り上げられる。
「さぁ! 一緒に来てもらいますよ!」
「‥‥とりあえず、事情はそういうことだ」
「払えないというのは、本当の話のようです。これでは仕方がないのでは?」
「詳細は、この若者にお聞きください。村人も好きで払わないわけではないのです」
アイオーンとラス、えれーなが口々に報告する横で、ルーティとリアスティルは、
「ひどい目に遭いました‥‥」
「まったく。まだ臭う気がします」
力無く笑いあって、髪をつまんで臭いを嗅ぐ。ろくでもない目にあった一同はもちろん、何度も何度も身体を洗ったが。どうも、まだ臭いが残っている気がする。
「いやま、ご愁傷様」
リオンが(心なしか距離を置きつつ)慰めた。
「なるほど‥‥」
領主もまた、顔をわずかにゆがめながら、報告に耳を傾ける。
「領民と事を構えてもなんの得にもならないわ。ここは器の大きいところでも見せてあげれば?」
領主は、ディーネの言葉にしばらく眉間にしわを寄せて考え込んだものの、結局は肯いた。
「不本意ではあるが‥‥取れない物までを取れといっても仕方あるまい。まぁ‥‥ご苦労だった」
そして、側近に耳打ちして若者を連れてこさせたのだった。