お ま つ り

■ショートシナリオ


担当:一条もえる

対応レベル:1〜3lv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月19日〜07月24日

リプレイ公開日:2004年07月29日

●オープニング

 かつて町が飢饉に襲われ、疫病が流行した際に、彼の人は現れた。彼の献身的な働きによって村は救われた。その業績に深く感謝した人々は彼を聖人と呼び、その誕生した日を記念日として毎年祭ることにしたという‥‥云々。

 まぁ、そんないわれなどどうでもいい。
 ようは、街は祭りの準備で賑やかだということである。
 祭りの日は、街の中心に巨大な櫓を造り、聖人像を掲げ色とりどりの衣装を着た人々が、柄杓にすくった「聖水」を周囲の人々に振りかけていく。そんな列がいくつもいくつも続き、たくさんの聖人像が櫓に納められる。
 あちこちに出店が立ち、酒樽が開けられ、広場では男女が踊り、また拳闘で強さを競い合い、犬のレースに熱狂する。
 そんな、賑やかな祭りの準備である。
 人々は嬉々とした表情で木を切り、衣装を作っている。
 しかし、そんな賑やかな祭りでしばしば起こるのが、その熱気に浮かされた結果の騒ぎである。体力の有り余った若者達にしてみれば、年に一度の乱痴気騒ぎの出来る日。それを見逃すはずもなく、当たり前のように酒も入るため、大変なことになってしまうのだ。
 その警備の仕事を、村人は依頼してきた。

●今回の参加者

 ea0356 レフェツィア・セヴェナ(22歳・♀・クレリック・エルフ・フランク王国)
 ea0382 ハーモニー・フォレストロード(18歳・♂・クレリック・シフール・イギリス王国)
 ea1923 トア・ル(33歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 ea2366 時雨 桜華(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2765 ヴァージニア・レヴィン(21歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)
 ea3071 ユーリユーラス・リグリット(22歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 ea3089 李 炎培(52歳・♂・僧侶・エルフ・華仙教大国)
 ea3091 熊 剣英(44歳・♂・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 ea4094 リアスティリル・レムリアーヌス(26歳・♀・バード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea5008 ルー・リー(18歳・♂・バード・シフール・イギリス王国)

●リプレイ本文

●祭りの時にすることは
 大きな櫓と、その周辺の広場。出店や拳闘場、犬の競走場‥‥。
「けっこう広いものであるな」
 ハーモニー・フォレストロード(ea0382)が描いた村の大まかな地図に額を寄せ合い、熊剣英(ea3091)は唸った。村という割には、大きな祭りらしい。
「はは、なんだか楽しみになってきたな。この熱気、最高。やっぱり祭りはいいなぁ」
「ちょっとキミ、それお酒じゃないの? 僕たち、遊びに来たんじゃないんだよ?」
「堅いこと言うなよ。仕事は仕事で、ちゃんとやる。これはほんの息抜きさ。レフェツィアだって、本当は楽しみなんじゃねーの?」
「う‥‥。そりゃまぁ、ちょっとくらいなら、ね」
 酒瓶を口にする時雨桜華(ea2366)をレフェツィア・セヴェナ(ea0356)はたしなめたが、確かに彼女だって興味はある。いろいろな催しがあるのだ。
「いつもいつも殺伐とした依頼というのもなんだしね。ちょっとくらい、雰囲気を楽しむくらいなら‥‥いいんじゃないの?」
「あ、いまヴァージニアがいいこと言った! そう、祭りが楽しそうで依頼を受けて、何が悪いッ!」
「‥‥いや、警備は警備でちゃんとやるわよ、私は一応」
「まー、基本的には真面目にやんないと駄目ですよねー。祭りって稼ぎ時なんでー、ちょっとくらいは勘弁ーって感じですがー」
 ヴァージニア・レヴィン(ea2765)、トア・ル(ea1923)、そしてリアスティリル・レムリアーヌス(ea4094)。彼女らもまた若い女性たちなのだから、皆が着飾る、祭りの華やいだ雰囲気が嫌いなはずもない。少しばかり浮かれるのも無理はない。一名は、意味合いの違う盛り上がり方のようだが。
 ということは結局、全員が、
「警備もするけどー。遊んじゃったっていいよね?」
 という考えだということである。
 ユーリユーラス・リグリット(ea3071)はちゃんと真面目に仕事に取り組むつもりのようだが、彼女や、それにルー・リー(ea5008)らシフールのことだから、どれほど当てにしていいものか。
「では、なにかあったら知らせてくれ。俺は櫓の方にいる。呼ばれたら全力で対処する」
「全力って‥‥具体的にどう対処するつもりなのよ、あなた?」
 『頭脳』を丸投げしたような剣英の言葉に、ヴァージニアはため息をつきつつ、その厚い胸板を叩いた。

●一番上手い、事の治め方
 レフェツィアは指を立て、したり顔で説明してみせる。
「思うに、櫓に乱入したり、聖水や衣装に悪戯したり、出店や女の子に絡んだりする人が出てくるんじゃないかと思うのよね」
「そうね。そうすると櫓の周りだとか拳闘場、犬レースに、踊りの広場‥‥あと屋台なんかも危なそうよね」
 ヴァージニアもそれに応え、いちいち頷いた。
「なるほど。確かによくありそうな話だ。じゃあそれを‥‥どうやって止める?」
 それらが起こりそうな騒ぎなのはよく分かったが、では、どうしたものか?
 桜華は首をかしげつつ、問うた。
「あー‥‥どうするって‥‥そう! そりゃ説得よ説得! なんだって、話せばわかるよ」
「騒ぎを起こしそうな人に1人1人注意したりなだめたりしていけば‥‥。愛想の良さには自信、あるし」
「そういうもんか‥‥?」
 と、桜華に首をかしげられたそのすぐ後。
「シフールパトロール隊、参上〜!」
 祭りが始まるやいなや、珍妙な、敬礼のつもりらしい仕草をして飛んでいったハーモニーとユーリユーラスが、騒ぎを見つけた。
「あ、ケンカだよ!」
「いや‥‥あれは拳闘場だ!」
 試合をしていた両者が熱くなりすぎて審判をも殴り倒し、ついには観客席にまで飛び込んで乱闘を始めてしまったのだ。
「やめなさいってば! いいですか? そもそも神は‥‥!」
 説得を始めたレフェツィアだったが、周囲は大騒ぎになっていて、声もろくろく届かない。
「えぇい、いい加減にしてよッ!!」
 ついにレフェツィアは、メイスを持ち出して男を殴り倒してしまう。
「あ、やりやがったな!」
「みんな、負けるな!!」
 それを見て、殴り倒された男の陣営の連中が飛び込んできた。当然のように、相手方も乱闘に加わってくる。
「ちょッ‥‥! 神は、神はぁ〜ッ!!」
 叫びも空しく、群衆に飲み込まれていくレフェツィア。
「なにやってんだ!」
 シフール達から騒ぎを聞きつけた桜華が、舌打ちしつつ飛び込んでいく。それを見つけた1人が、拳を繰り出してきた。
「おッ、やるかこの野郎!!」
 桜華は全力でもって、騒ぎを収めていく。1人1人、ぶん殴っていくという方法で。

●か弱い乙女達の夜
「‥‥? なんだか騒がしいな?」
 トアは一度、広場を振り返ったが‥‥すぐに、気のせいだと思うことにして向き直った。その手には、なにやら焼き串が握られている。完全に祭りを楽しんでいる格好だ。
 しかしまぁ、そんな彼女をも騒ぎは巻き込むわけで。
「もう‥‥やめてくださいよ!」
「何もしてないって。あんたが勝手に落として、汚したんだろ?」
「そうそう。商品渡すときはちゃんと、最後まで持っててくれないと。いや、怒ったりはしないよ。ただ、ちょっと祭りの案内とか、して欲しいな」
 どうやら、店番の娘にいちゃもんをつけている奴がいるらしい。
「許せないよね、そ〜いうの」
 串を投げ捨て、トアは駆け出す。
「はいはい、そこまでにして」
 娘の手を取り、抱き寄せるようにして庇う。
「何だ、お前?」
「ま、ま、ま。せっかくのお祭りなんだから、楽しくいこうよ。ね?」
「そっちの女が楽しくなくしてくれたんだよ! ‥‥誠意を見せてもらわないとな」
 にやりと笑うその表情を見て、娘の顔が引きつる。が、トアはそれに気づかなかったように、
「怖い顔しないでよ。ここは僕に免じて‥‥ね?」
 と、ウインクして男達の腕につかまる。
「お? へへ、なら俺たちと一緒に行こうぜ、姉ちゃん。楽しいぜ‥‥」
 男は鼻の下を伸ばして、そう言ったのだが。
「要するにー、そこの娘さんじゃなくても、女だったら誰でもよかった、と。そんなに餓えてるんですか?」
「なんだとこのアマ!」
 輪の外で、稼いだ小銭をしまいながらリアスティリルが、身も蓋もないことを言う。当然だが、男達は顔色を変えた。
「その通りだけど! なんてこと言うかな、おまえは!」
「ですけどー。機嫌を取るにしても、あんまり調子に乗らせると図に乗りますよ、トアさん。‥‥屈強な男どもにつきあわされたトアさんは、いつしか暗がりに連れ込まれてあれやこれや‥‥うふふ」
「そういう言い方、やめ!」
 つかみかかってくる手をひらりと避けて、トアは助けを呼ぼうとした。さすがに、こういう手合いと殴り合いをしようとは思わない。
 しかし、シフール達が呼びに行ったときには、桜華も剣英も櫓のところにはいなかった。ふたりとも、他の騒ぎに呼びつけられていたのだ。
「そうなの!?」
 当ての外れたトアは、慌てた。
 はっきり言ってこの面子、荒事が苦手な連中ばかりである。そのぶん、桜華と剣英が大忙しというわけだ。
「仕方ないですよ」
 えい、とばかりにリアスティリルが『スリープ』を放つと、男はぱたりと崩れ落ちた。
「ほらほら、あなた達も楽しくいきましょう! せっかくのお祭りの日、つまらないもめ事なんかみんな忘れて、楽しく楽しく!」
 ヴァージニアの『メロディー』が、辺りに響く。それを聞くと男達も人々も、気持ちを落ち着けたようだ。
「ふう、やれやれ‥‥」
 それを確認して、ヴァージニアは額の汗をぬぐう。歌う表情はその歌詞の通り楽しげだったが、桜華も剣英もいないということで、内心はけっこう緊張していたのである。

●お ま つ り
「あー、シフールだシフールだ!」
「飛んでるー飛んでるー!」
 ルーの姿を見つけると、子供達は珍しがって寄ってくる。
 ルーはひらひらと鬼ごっこをするように飛び回り、オカリナを奏でる。すると子供達はいっそう面白がってついて回り‥‥それはそれは、ほほえましい光景だったのだが。
「少しは手伝ってくれ!」
 飛んできたハーモニーが、その頭をぽかりと叩く。
「あ、もうひとりシフールだー!」
 ユーリユーラスも、ふわりと飛んでくる。
「そうそう。手伝ってくれないと困るよ。と、いうことでー、今度はキミが連絡係! ここは僕に任せて!」
 そう言ってユーリユーラスは子供達の輪に加わる。シフールの「真面目さ」なんて、しょせんこんなもの。
「‥‥納得いかへん」
 ぶつくさ言いながら、ルーは飛んでいった。
「なんと! 若い連中が騒いでいると!?」
 忙しいのである。ルーから知らせを受けた剣英は、群衆をかき分け、急いで現場に向かう。
 現場は、祭りで一番賑わう行事でもある聖者の行進。団体それぞれが意匠を凝らした聖人像を掲げ、また自らも着飾って練り歩くのだ。
「うお‥‥これは」
 ところが、その連中ときたら。
 掲げる聖人像は毒々しく飾られ、またひどく破廉恥な格好で練り歩いている。あまりのことに悲鳴を上げ、人々は逃げまどう。
「ど、どうしてくれよう‥‥?」
 参加者達は歓声を上げ、人々が逃げ散るのさえ快感といった風情で、得意げな表情で練り歩いている。
 正直、剣英はどのように対処したものか手を出しあぐねた。
 そうこうしているうちに、連中は桶を取り出す。ちょっと待て、それは。
 普通、『聖水』は柄杓でもって人々に振りかけるのだ。が、連中は桶に一杯水を汲むと、力任せにそれを撒き散らした。いくら夏のこととはいえ、水浸しにされてはたまらない。人々がまた、逃げ散る。運悪く、真っ正面にいたユーリユーラスがその勢いで飛ばされ、酒樽に頭をつっこんだ。
「しゅ、衆人環視の中でそんな‥‥そんな格好ッ! いくらお祭りだからってやりすぎですッ!!」
 レフェツィアが血相を変えて、顔を背けつつでも見ないわけにはいかず、詰め寄ろうとした。が、やっぱり逃げまどう人々に押し流されていく。
「あぁ〜ッ!」
「‥‥えぇい、行くしかないか!」
 頭から大量の水を滴らせ、剣英は意を決して飛び込んでいった。

 まったく、次から次へと騒ぎが起こって、忙しいことこの上ない。いくら祭りだからといっても、浮かれすぎじゃないかと。
 それでもまぁ、悪いものではない。
 忙中閑あり。桜華は広場の外れで、杯を傾ける。
「忙しいけど、殺伐としてる依頼よりはずっといいわ。‥‥そういうのも、ないと」
 そう言ってヴァージニアは立ち上がった。広場でトアが、ユーリユーラスの演奏に乗って踊り始めている。鼻歌交じりに、ヴァージニアもその輪の中に加わっていった。
 見ると、ルーも子供達に囲まれ、剣英は拳法の型らしいものを披露している。
「いいもんだね。人の息吹が感じられるっていうのは」
 一気に杯を飲み干し、桜華は大きく息を吐きだした。