よ こ あ な

■ショートシナリオ


担当:一条もえる

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:12人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月18日〜09月23日

リプレイ公開日:2004年09月27日

●オープニング

 水。人が生きていくのに不可欠な物。
 ゴブリン。相容れぬ仇敵。
 この2つがそろえば、そこにはやはり紛争が待ち受けている。
 しばしば水不足に苦しめられるその村では、その供給を主に井戸に頼っていた。最近、村に今まであった物だけでは足りなくなったので、村はずれの森に新しく井戸を掘ったりもした。
 森の手前と、奥深く。その2つの井戸のうち、奥深くにある1つは、ゴブリンが使っている。
 奪われたわけではない。いったん森の手前に井戸を掘ったところが、森に巣くっていたゴブリンの襲撃をしばしば受けて使うことがままならなかったため、もうひとつ、森の奥に井戸を掘ったのだ。
 それ以来、井戸への襲撃は止み、森の周りでは奇妙な共存関係ができあがっていたのだ。
「いったんは、襲撃からも身を守ることが出来たわけですが、森の奥には未だ多くのゴブリンがおります。みなさまには、それを追い散らして欲しいのですじゃ」
 好々爺然とした村長は、そう言って冒険者達を見渡した。
「敵も必死ですじゃ。近隣の連中までも集まっているらしく、もう時間稼ぎも限界。ここらで一気にと‥‥」
「ところで‥‥今回は人数が多いな」
 確かに、呼び集められている冒険者は12人。やや多めだ。
「やはり、殲滅を考えてのことか?」
「いやしかし、ゴブリンは相当に多いのでしょう? いくら我々でも‥‥」
「そのあたりも、抜かりはありませんじゃ」
 村長は、きらりと目を光らせた。
「彼奴らを率いているのは、『額傷』というゴブリンですじゃ。そやつさえ倒せば、周りのゴブリンどもは慌てふためくはず」
「うぅむ、それはわかる。だが、どうやってそいつを狙う? のこのこ出てきてくれるのを待つわけにもいくまい」
「案ずるなかれ。実は、森の手前の井戸から隧道を掘っておるのですじゃ。なんとそれは、森の奥の井戸に通じておるのですじゃ」
 そう、例えば4名ずつに班を分け、2班は森を襲って敵を引きつけ、その間に井戸から奇襲をかければよいと、村長は言う。
 もっとも、井戸まで完全に掘り進んでしまうと感づかれてしまうため、村人はその近くまでしか穴を掘っていない。最後は、冒険者自身が掘った上で、突入することとなる。
 『額傷』をはじめとする幹部を倒す戦闘能力の高さはもちろん、掘り進む体力や、井戸から飛び出す身軽さも求められる、危険な役回りである。
 その人数は増やしたいところだが、あまり多すぎると囮が効果を失い、あるいは敗退してしまう。
「囮は8人。なるほど、『普通に』襲撃をかけるには妥当な人数だ」
 冒険者達は、村長を見返した。
「あんた‥‥怖い人だな」

●今回の参加者

 ea0322 威吹 神狩(32歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea0323 アレス・バイブル(30歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea0836 キラ・ヴァルキュリア(23歳・♂・神聖騎士・エルフ・イギリス王国)
 ea1447 ライザード・ラスティニシュ(27歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea1980 鬼哭 弾王(31歳・♂・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 ea2686 シエル・ジェスハ(28歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea4664 リゼライド・スターシス(25歳・♀・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea5322 尾花 満(37歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea5810 アリッサ・クーパー(33歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 ea5936 アンドリュー・カールセン(27歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea6082 天草 乱馬(35歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●ゆらゆらと炎が揺れる
 払暁のころ。冒険者達はすでに活動を開始していた。
「ねぇ‥‥方向、ちゃんとあってる?」
「大丈夫であろう。拙者を信じられよ」
 とはいえ、地下深くを掘り進む彼らには少しずつ明るくなってくる東の空など臨むべくもない。ただただ、ほんのわずかに灯された炎に照らし出された洞穴と、ゆらゆらと揺れ動く影を臨むばかりである。
 つるはしを振るう尾花満(ea5322)は、背後からのぞき込む威吹神狩(ea0322)を振り返り、土埃まみれの顔を拭きながら答えた。基本的には交代しながらだが、体力には自信のある満がこの役目を買って出ている。
 村長の話によると、『向こうの井戸に向けてまっすぐ』掘り進んできているというから、彼らとしてはそれに続き、ひたすら掘り進んでいけばいいということだが。
「‥‥途中で岩とか無ければの話ですよね」
 後ろからは、アレス・バイブル(ea0323)と矢筒を背負ったラシェル・シベール(ea6374)が続いている。その、思わず漏らしてしまったアレスに、神狩は渋面を向けた。
「不吉なこと言わないでよ」
 この期に及んでそんな事態となれば、いったいどれほどの時間が余計にかかるかわからない。
 だが幸い、そんなことは無かったようだ。掘り進む手応えにこれまでとは異なるものを感じた満は、ゆっくりと丁寧にその付近の土を除く。
 石だ。井戸の外周を固める石が覗いている。注意深くそれをずらすと、かすかに光が射し込んできた。
 いよいよだ。

●意気揚々と森に挑む
「ゴブリンも、井戸って使うんだ‥‥」
「『使う』のかどうかは知りませんけど‥‥目の前に水があるから、何とかしてるんじゃありませんか?」
 リゼライド・スターシス(ea4664)とシエル・ジェスハ(ea2686)は、そんな呑気なやりとりをしていたが。
 だが彼らも、仲間達が狭く、暗く、そして暑い地下で悪戦苦闘するのを知らぬ顔で、無為に時間を過ごしていたわけではもちろんない。8人の冒険者が、緊張した面もちで森を前にしていた。
「そろそろいいかしらね?」
 キラ・ヴァルキュリア(ea0836)が、頃合いを見計らって頷く。そろそろ、地下を掘り進む仲間も井戸に迫っているだろう。
「よーし、こっちも準備できたぞ!」
 なにやら森に入っていたアンドリュー・カールセン(ea5936)が、草まみれになりながら戻ってくる。
「よし、じゃあいくわよ!」
 ライザード・ラスティニシュ(ea1447)は馬の腹を強く蹴り、森に飛び込んだ。縦横無尽に、とはいかずとも、奥深くに至るまでのしばし間を駆けることくらいはできるだろう。そういう程度の森だ。
 鞍上、その後ろには天草乱馬(ea6082)も跨っている。乱馬は鋭く鼓を打ち鳴らした。襲撃を告げる音が、森にこだまする。
 それを見た鬼哭弾王(ea1980)が、からりと笑う。
「派手なものだな。よし、俺もやらせてもらおうじゃないか!」
「えぇ」
 アリッサ・クーパー(ea5810)は、先ほど村長と話していたときとはうって変わった冷たい口振りで、弾王に続いた。
 響き渡る鼓の音が、森に巣くうゴブリンどもの耳に届かないわけがない。森の奥からはすぐさま、誰の耳にも明らかな、悪意に満ちたざわめきが生み出されていく。
 冒険者達はその濁った空気を嫌うように、吹き飛ばすように、鋭く息を吐いて乗り込んでいった。

●持つ力と、生み出す力
 たかがゴブリンといえばゴブリン、間違えても「尊敬できる敵」になどなり得ない連中だが、それにしては『額傷』は、なかなかに威勢を誇る族長であるらしい。
 今回の「騒ぎ」で、近隣のゴブリンも同族の危機に駆けつけているようだ。森に踏み込むやいなや、冒険者達は無数のゴブリンに遭遇した。すぐさま、激しい戦いが始まる。
 さて、ところで。
 この戦いの様子を、村長は何人かの若者を引き連れ、森のはずれで伺っていた。もちろん危険の及ばぬ範囲で、万が一の時にはすぐさま逃げ出せるだけの距離で、であるが。冒険者のことが心配であり、その顛末をせめて見守っておこうという殊勝な気持ちも、ある。
 しかし村長は今、もどかしい思いでいっぱいだった。
 囮となって出かけていく冒険者達に悲壮感が無く、「蹴散らしてやる」だとか「『額傷』の首を取る」だとか、威勢の良い言葉が目立ったことに、まず村長は首を傾げた。
 そもそも、真っ向から蹴散らすことが出来るくらいならば、囮など用いないのだ。こう言ってはなんだが、それほどの高名な冒険者を雇った覚えはない。そんな金など無い。
 しかし同時に、それは鶏を割くのに牛刀を用いるようなものである。冒険者は、力量に見合った冒険に挑むのがよい。
 当然、それは危難に満ちた冒険となるはずであり、どうしても知恵を求められる。「互角」の戦いで傷つかずにすむ、敵に力を出させない、戦いを戦いとしない知恵が。
 だからこそ村長は、危地に追いやることになる冒険者のためにせめてと、素人なりに懸命に策を練ったのだが。
 見る限り、彼らはゴブリンの群に正対しているように見受けられる。大声を上げ、派手に立ち回り、必死に戦っている様は確かに囮の役目を果たせているだろう。が、彼らは生還を期さない死兵となったのであろうか?
 もちろん村長は、井戸に忍び込んでいることを知っている。が、それが囮となっている者の生還に寄与するとは限らない。
 村長は額の汗を拭いつつ、戦況を見守った。

●両者の死闘
「ゴブリンの数、すごく多いじゃないですか!」
 肩の筋が張るほどに弓を幾度も引いたシエルが、そこにはいない村長に文句を言ったものの、それは百も承知のはず。だからこそ、『額傷』を狙うという作戦に出たのだから。
 冒険者として仲間に加わった以上、己のもてる全力を出さないなどということがあるはずがない。剣技であれ、弓術であれ、体術であれ。持ちうる力を駆使することなど、わざわざ改めて言うまでもないことだ。
「邪魔!」
 馬上から剣を振り下ろし、群がるゴブリンを蹴散らしていたライザードも、行く手を遮る灌木を前に馬から下り、ゴブリンと剣を交えている。
「なかなかやるじゃないか! もっとかかってこい!!」
 弾王は叫びつつ、拳を振るう。そんな彼らの後方から、リゼライドやアリッサが援護している。互いの職能からすれば自然にできあがる、冒険者の「全力で戦う」という形だ。
 なろうことならこんな連中は蹴散らしたく、次々になぎ倒したく、確実にとどめを刺したく、いっそ隧道を行く仲間の手を煩わせることなく『額傷』を屠ってしまいたい。
 が、言うは易くとも行うは難い。冒険者達が必死に戦っていることは疑いもないが、志望を現実の物とするには何かが欠けている。
「乱馬様‥‥!」
 アリッサが慌てて、乱馬に駆け寄った。
「不甲斐ない。油断しました‥‥」
 顔色を蒼白にし、赤い血の流れ落ちる傷口を押さえて乱馬が下がってくる。彼もまた、当然に全力で戦っている。戦いに正道など無い。どんな手を使っても勝てばよい。だが、それは相手も同じ事だ。それがぶつかり合った結果、ゴブリンの屍が増えるとともに、冒険者達の血も流れていった。
「いったん下がろう!」
 このままでは少なくとも何人かは、死ぬ。たとえそれで敵を押し返すことができようとも、それがどうだというのか? アンドリューは仲間を促し、退いた。
 もちろん、ゴブリンは追ってくる。しかし、その足首を縄が掴んだ。枝がしなり、ゴブリンがつり上げられる。
 アンドリューの仕掛けた罠だ。当然、彼が歩いてきた所にしか罠はない。だから、進んでいく途上では全く用をなさなかったのだが、それが役に立つとは皮肉なことだった。

●苦闘の果て
 じっと隙間に耳を近づけて聞き耳を立てていると、ゴブリンの騒ぐ様子が手に取るように分かる。ひときわ野太い唸り声は『額傷』のものだろうか? それに合わせ、いくつもの唸り声が小さくなっていった。「侵入者」を迎え撃つため、森の入り口に向かったのか。
「‥‥よし」
 今、『額傷』の周りに敵は少ないに違いない。先頭を満と替わった神狩は、小さく頷いて仲間達を促した。そして、力一杯に石を蹴り飛ばして穴を広げると、素早く鈎縄を投げあげた。それが井戸の縁にかかったと確認するやいなや、素早くよじ登る。
 近侍とおぼしきゴブリンが振り向くところに、神狩は手裏剣を投げつけた。たまらずのけぞる。
 だが、もちろん彼女1人では命が危うい。アレスと満は先を争うように井戸をよじ登り、『額傷』と相対した。慌てふためいていたゴブリンも、やがて気を取り直して冒険者達に向き直る。
 奇襲は成功したが、まだまだ終わりではない。
 井戸から上がったラシェルはすぐに物陰に身を隠そうとしたが、ここは敵陣のまっただ中である。仕方なく、当たるを幸いに矢を次々に放った。そんな敵を、見逃すはずはない。ゴブリンはラシェルの方にも殺到した。かろうじて致命傷は避けたものの、鮮血が飛び散る。
 だが、仲間達にもそんな彼女をかばってやる余裕はない。何とかこらえてくれと祈りつつ、アレスは声を上げながら突進した。殺到するゴブリンの剣が何度か体を傷つけるが、懸命にこらえて前に進む。その嵐が通った後のような空間を、満が駆け抜けていった。
「食らえッ!!」

 激戦の末、『額傷』を討ち取った冒険者達はすぐさま井戸を逆にたどって逃げ出した。
 隧道の途中、村人が柴を積み上げていたのを訝った彼らは、すぐに諒解した。皆が通るとすぐに、彼らは柴を焼き始めたのだ。これで、追っ手を防げる。そして、一同が戻ったのを確認した村長は、隧道を崩させた。
 『額傷』を失ったゴブリン達は狼狽し、恐懼した。満身創痍だった冒険者達だったが、互いに励まし合ってゴブリンを追い、蹴散らした。多くの手傷を負った彼らの追撃は十全とはいかなかったが‥‥それでも、森から追うことは出来たようだ。
 それを確認した冒険者達は、次々と倒れ伏した。傷の痛みも疲労も、もはや限界を超えている。糸が切れた人形のように木々に寄りかかっている冒険者は、村人達の手によって村へ運び込まれた。
 用意された祝宴に出ることも出来ず、冒険者達はひたすら眠り、傷を癒すことに終始した。