し な さ だ め

■ショートシナリオ


担当:一条もえる

対応レベル:1〜4lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 0 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月02日〜10月07日

リプレイ公開日:2004年10月12日

●オープニング

 ギルドに張り出されていた依頼は、奇妙なものだった。

 冒険者はもちろん、生業のほかに誰かから依頼を受け、そこで報酬を手にすることによって、日々の糧を得ている。誰かに養われているわけではない。
 が、往々にして安くはない報酬を払える者となると自ずと限られるものだ。難事にはすすんで冒険者を雇い入れる領主など、そうした有力な支援者の存在が、冒険者にとっても大きな助けとなっている。
 ここにも1人、そうした領主がいたのだが。彼には一人の娘がいて‥‥。
「お父様は冒険者を大いに恃みとされておいでですが、果たして、その力量のほどはいかがなのでしょうか?」
 つねづねそのように漏らしていた彼女が、依頼を持ってきた。
 曰く、『自分の元までたどり着いてほしい』と。間にもうけた幾多もの障害を越え、たどり着くことができたならば、実力を認めようというのだ。
「どうか、お気を悪くなさらないでください。浅はかな小娘のこと故、目の当たりにしないとわからないのです。この愚かさをお笑いくださり、『それ、見たか』とお示しいただければ、幸いです」
 そう言って娘は、深々と頭を下げた。丁重な礼ではあるが、挑発されているようにも感じる。
「いいだろう。なに、俺たちは普段通りのことをするだけだ。あくまで、普段通り、な」
 もちろん、引き下がってなどいられない。
 娘は微笑んで、詳細を語り始めた。

**********
●第1関門
・『深キ堀』
 濁った水を湛えた、堀。足のつく深さではなく、また水中の様子も窺えない。

・『聳エル城門』
 そびえ立つ城門。その上は、人も行き来できる通路になっている。

●第2関門
・『開ケタ中庭』
 館へと向かう中庭。見通しが利き、遮るものは少ない。獣のうなり声がする‥‥。

・『続ク回廊』
 正面の中庭を避けた、館へと続く通路。真っ直ぐで狭い廊下が続く。

●第3関門
・『絢爛タル大階段』
 ここまでくれば、目的の部屋までは後少し。

・『???』
 部屋へと続く道は、1つではない。
**********

「突破すればいいのか? 簡単なことだ」
 にやりと笑う冒険者に向けて、娘は穏やかな笑みを向けた。
「はたして、どうでしょう? 皆様には、『一番に私の元にたどり着くこと』を目指していただきます。
「え? 仲間全員、ではないのですか?」
「そうです。確かに、巧みな連携を得意とされるのが皆様ですが‥‥個々の力量も示していただきたいと」
 娘はもう一度、冒険者全員を見回して言う。
「冒険とは、予想もつかぬ事もしばしば起こると聞きます。ならば冒険者とは、ただ勇を誇るばかりではなく、先を予見し、危難をくぐり抜ける知恵をお持ちの方ということでしょう。また、皆様は誰かに率いられて戦うわけではありません。皆と切り離されることも多いことでしょう。ならば、その知恵というものもただ1人の頭脳にあるものではなく、皆様それぞれがお持ちのことかと思います」
 それぞれの心胆までも覗き見るような娘の表情に、冒険者たちは顔を見合わせた。
「そもそも、武勇を誇る者ならば我が家中にもいないではありません。それだけならば、お手を患わせる必要もありません」
 娘は、考えようによってはなかなか辛辣なことを言う。
「しかし、いま申し上げた冒険に必要な資質となれば、やはりただの兵士には無理というもの。私は、皆様にそれを期待いたします」
 冒険者は悟った。この娘の微笑みは、くせ者だと。

●今回の参加者

 ea0017 クリスタル・ヤヴァ(22歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 ea3117 九重 玉藻(36歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea3868 エリンティア・フューゲル(28歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea5352 デュノン・ヴォルフガリオ(28歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea5619 ミケーラ・クイン(30歳・♀・ファイター・ドワーフ・フランク王国)
 ea5768 ネル・グイ(21歳・♀・レンジャー・シフール・モンゴル王国)
 ea6930 ウルフ・ビッグムーン(38歳・♂・レンジャー・ドワーフ・インドゥーラ国)
 ea7195 エレイシア・ティアハート(32歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea7328 イリヤ・プレネージュ(17歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea7363 荒巻 源内(43歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●娘からの挑戦
「1人1人ばらばらに動く冒険者なんて、そこらの一般人と変わらないんだがな‥‥」
 そうした、ミケーラ・クイン(ea5619)の呟きが耳に届いたのか。
「あら! でしたらわざわざあなた方を雇う意味などないということでしょうか?」
 娘は、ことさら大仰に目を丸くして見せた。ミケーラは顔をしかめる。
「そういうことじゃない。たとえば5人が力を合わせることで10人にも勝ると、そう言っているんだ」
「私が思う、『冒険者』ならば、そうですね」
 娘は穏やかな微笑みを向けた。
「ところが、人の後ろに従い、確たる策もなく漫然と向かい合うような輩では、力は倍加するどころか半減することでしょう。果たして貴方がどのようなお方なのか、それを見せていただきたいのですわ」
「まぁ、いいじゃないか」
 苛立ちを見せるミケーラの肩を、デュノン・ヴォルフガリオ(ea5352)が軽く叩く。
「ようは、力を見極めてくれるってことだろう? 好都合じゃないか」
「まぁ、楽しい依頼じゃないですか。工夫のしがいがあるというかぁ。ねぇ?」
 エリンティア・フューゲル(ea3868)は穏やかな微笑みを浮かべ、娘の方に目を向けた。その意中に期待を寄せるかのように、娘も微笑みを返す。
「もういいだろ? そろそろ始めようよ」
 ネル・グイ(ea5768)が準備万端という面もちで腕をさする。
「そうですわね。ではみなさん、ごきげんよう。部屋でお待ちしています」
 娘がそう言って城門の中に姿を消してからまもなく。開始を告げる鐘が打ち鳴らされた。

●城門を越えて
 文字通り「飛んで」いくネルを見上げ、九重玉藻(ea3117)は舌打ちする。
「こういうとき、シフールって楽よね!」
「仕方ないですよ。でも、娘さんの言ってるとおりに。天賦の能力で挑むものではないでしょうから、依頼とは」
 エレイシア・ティアハート(ea7195)は玉藻の横を走りつつ、言葉を投げかける。
「そのとおりね。能力にはどうしても埋まらない差異や優劣があるけれど、知恵は違うもの。絞れば絞るほど、湧いてくるわ。‥‥だけど、まずは能力で先に行かせてもらうわよ!」
 言うやいなや、玉藻は『疾走の術』で飛び出した。おいて行かれるエレイシアだったが、まだまだ焦ってはいない。
「ようは、依頼主のところに最初にたどり着いていればいいんでしょう!」
「‥‥そういうことね」
 イリヤ・プレネージュ(ea7328)が、ほのかに笑う。彼女は「のんびりしている」、というわけではないが、他の者のように駆けだしてはいない。少しくらい遅れても、先頭をいく連中が障害をくぐり抜けている間に、その差は十分に埋められると思っている。むしろ、彼らは盾だ。
 実際、「障害」はなかなかに厄介な代物であった。
 城門に近づくやいなや、飛矢が冒険者を襲う。
「あははははは! そうこなくちゃ面白くないわ!」
 玉藻がいったん立ち止まって念を込めると、大ガマが姿を現した。
 城門に迫るガマの後を追い、玉藻も走る。と、大きく跳躍した。『疾走の術』で生み出した助走を活かし、みごと城門にしがみつく。
 ミケーラはその間に城門に向けて縄を投げあげた。その横、城壁の隙間に短剣を突き刺しながら、エレイシアも上を目指している。
 本当なら、今頃は頭上から矢や礫が襲っているところだが。玉藻にとってははからずも、城兵を引きつけた格好になってしまった。
「くッ! せめて足止めは任せたわよエリザベス!」

●招かれざる商人
「堀を飛び越えるのは‥‥いくら馬でも無理そうだな。‥‥周りを探ってみるか? もしかしたら堀のないところや浅いところ、狭いところがあるかもしれん」
 馬首を巡らし、デュノンは「ふむ」と口元をゆがめる。
「それとも、小細工はやめて城門を突破するか‥‥?」
 考えるのはけっこうだが、どちらにするかをなかなか決められないのでは先に進めない。彼が思い悩んでいるうちにも、事態は進んでいく。
 ウルフ・ビッグムーン(ea6930)は、頭をひねるデュノンを後目に、皆が通り過ぎていった城門の、傍らの通用門を叩いた。先ほどまでとは装いを異にし、見るからに商人といった風体となっている。口調も、まさしく商人のそれだった。
 本当は紹介状でもあれば簡単なのだ。が、頼みに行った先の商人にはにべもなく追い返された。それは仕方のないことだ。相手にしてみれば、ウルフが何かしでかしたら、その評価は紹介者である自分にも及ぶのだから。紹介も雇用も、気安くはできない。
 となると、あとは自身の才覚しかないのだが。
「‥‥あいにくと、ご覧の通り今は立て込んでおりますので」
 そもそも、大騒ぎをしている最中にしなければならない取引など、そうそうないのだった。
「それと‥‥少々の変装で、遠路を来て頂いた方々のお顔を忘れるような失礼はいたしませんよ、ビッグムーン様」

●飛来する矢
 目の前にも足下にも気をつけて、周りの音にも気をつけて、危ない目には遭わないように気をつけて。
 ひらひらと飛んでいたクリスタル・ヤヴァ(ea0017)は、
「悪いが、退いてもらおう!」
 背後から近づいた荒巻源内(ea7363)の一撃を受け、昏倒してしまった。
 気はつけていたかもしれないが、普通こんな状況で気を抜いて進むような者はいないわけで。それ以外にはなんの手だてもなく、またどうやって娘の元までたどり着くかも考えないままにふらふらと飛んでいたクリスタルを見逃すほど、周りの者は甘くない。
 箒に跨って堀を飛び越えた源内は、真っ直ぐに続く回廊へと至った。
「なにが待ち受けていようが、疾駆するのみよ!」
 源内は一気にそこを駆け抜けようとしたが。次々に飛来する矢が、その体を貫いた!
 ‥‥本当だったら。だがこれでも、十分に痛い。
「確かに、こんな一本道じゃあいい的だものね!」
 的は源内よりもだいぶ小さいが、それでもかなり怖い。ネルは顔を引きつらせ、壁に天井にへばりついた。エレイシアもたまらず身を伏せる。
「こういう手でくるとは、ちょっと予想していませんでしたね。‥‥さすがに自分の家の石畳を引き剥がしてまで罠なんて作りませんか」
 そんなところへ、源内が這々の体で逃げ戻ってきた。とても、駆け抜けられそうにない。
 そりゃあ、出来ることなら敵は一気に蹴散らしたい。障害は一気に駆け抜けたい。あるいは戦いを避けたいときもある。敵の攻撃はすべてかわしたい。なにが起こっても冷静に対処したい。
 それは当然だ。が、それだけでは単なる願望にすぎないのであって。
「どうしたものかな‥‥」
 源内の表情に、苦みが浮かぶ。

●博打
「お見事ですわ。さすがにこのような手は予想しておりませんでした」
 闇の中、娘の声が響く。
「私たちにしてみれば、捕まえておく方が楽ですものね」
 娘はちらりと、かび臭い石畳に視線を落とした。
「‥‥わかりましたから、そろそろ縄をほどいていただけませんかぁ?」
 そこには、哀れにも縄を打たれ、それどころか手枷首枷をはめられたエリンティアが転がされていた。彼は、始まるやいなや城兵に声をかけ、捕まったのだ。そして、「お嬢様のところへ連れて行ってほしい」と。
 ところが、結果は見ての通り。暗く湿った地下室に幽閉されたエリンティアのところに、『娘の方がやってきた』のだった。
「でも、『侵入者』をお通しするとすれば、やはり部屋ではなくここが妥当でしょう? 命を預けるようなものですし、分の悪い‥‥詰めとしては、少々甘いですね」
「それでも、ちゃんとあなたに会えたわけですから。‥‥駄目ですかねぇ?」
「あなたがそれで満足されるのなら、私はそれでも結構ですけれど?」
「はは‥‥やっぱり」

●冒険者の、意地
 番犬を退けつつ、玉藻が館に駆け込む。
 中庭を通った彼女やミケーラは食料を巻いた。訓練された番犬が釣られることはなかったが、牽制にはなる。ところが、そこに玉藻が血の詰まった革袋をぶつけてきたのだ。こういう『えげつない』妨害にはあまり気を向けていなかったミケーラは、番犬の群の中に取り残されてしまった。だが、イリヤの『ストーム』が突破口を開く。
 視線を横に転じると、回廊を抜けてきた連中も姿を見せている。ネルは屋敷の外から部屋まで一気に飛ぼうとしているようだったが、何せ目立つからしきりに弓で狙われている。
 彼らとは、それほど大きな差があるわけではない。玉藻は再び呼び出した大ガマと共に、一気に階段を駆け上がろうとしたが‥‥。
「ちょっと‥‥待ちなさいよ!?」
 階上の兵士は机や椅子や、ありとあらゆる物を投げつけてきた。いくら大ガマとはいえ、これは素直に受け止められない。
 大階段で、そのような激闘が繰り広げられている間に。
「ここが正念場よね!」
 ここまでは常に誰かの後をついて走っていたイリヤは1人、別の道、別の階段をひた走っていた。『ブレスセンサー』で家人の所在を掴みつつ。大階段を行くよりも遠回りだが、いちいちで足止めを食うことを考えたら、十分に追いつけるはず!
 果たして、玉藻が荒い息を吐きつつ娘の部屋の前にたどり着き、扉に手をかけようとしたとき‥‥イリヤが追いついた。それに遅れてミケーラやエレイシアが、そして窓からはネルが飛び込んでくる。
 早く動いたのはイリヤだった。別の道からその位置を伺い、また不意をつく気も十分だっただけに、他の者が動くよりもほんの少し早く、『ストーム』を遠慮なく、渾身の力で放った!
 突風に吹き飛ばされそうになりながら、玉藻は懸命に扉の取っ手を掴む。
 イリヤも、倒れ込むようにして扉に体を預けた。

●正しい資質
 結局。
「一位は‥‥微妙なところですがイリヤさん? 次点は玉藻さんかしら? あぁ、エリンティアさんは?」
「いやぁ、僕は『お情け』をもらったようなものですから‥‥」
 一行が飛び込んだときにはのんきに中で呑気に杯を傾けていたエリンティアは、苦笑いを浮かべる。小さく笑い返したエレイシアは、娘の方を振り向いた。
「順位の方はそれでいいですか?」
 すると娘は、顔に微笑みを上らせた。
「順位など、本当に重要なことではありませんから。皆さんご自身が、よくおわかりでしょう?」
 そう言って娘は、1人1人に杯を手渡し、その中に葡萄酒を満たしていった。
「皆さんの、今後のご活躍をお祈りいたしましょう。何ごとかあったときには、お世話になることもあるかもしれません」
 互いの杯が、軽やかに鳴った。