●リプレイ本文
●所属不明船団
──ラン王都・ダーナ・フロートシップ停泊場
それは壮観な風景。
ラン空戦騎士団所属フロートシップ『オルテンシア』と高速艇『ロータス』、そしてその横にはウィル所属フロートシップ・特務艦『グリフィン』が停泊している。
その近くにある建物では、現在確認されている所属不明艦隊の動きについて、空戦騎士団のもたらしたデータを元に色々と打ち合わせが行なわれていた。
「グリフィンとしては、敵艦隊の所属を確認し、それが敵対国家であるならば、その場にて駆逐する方向性で考えている」
そう告げるのは、グリフィン艦長のアーレン・フィルマー艦長。
「それについては、私も同意見ですはい。まあ、今回は殲滅というよりは調査目的。その方向性でいきましょうや」
と告げるのは、高速艇ロータス艦長である『後藤喜市』。天界人でロータス艦長まで上り詰めたベテランである。
「うーむ。しかし、敵対国家という可能性も考慮すれば、悪の芽は早く積んでしまうのが得策かと」
「様子を見てからという事で。それとも、グリフィン自慢のイーグルドラグーンに実戦経験を積ませたいとでも?」
と告げる後藤艦長に、アィルマー艦長は言葉を失う。
「では、よろしく御願いします‥‥」
ということで、作戦内容は決定した。
──その頃のグリフィン外
隣にはランの高速艇ロータス。
その正面には、ズラリと並んだアザレアが5機。
そのうちの3機が『ラン親善傭兵団』の所属機という、ウィルの騎士からしてみれば『とんでもない配備』となっていた。
「‥‥これで問題なし‥‥と、シゲさん、『秋水』の調子はどうですか?」
グリフィン後方に並べられているゴーレムグライダーの整備をシていたシヴァ・シゲーオに、白鳥麗華(eb1592)が話し掛ける。
「ああ、まったく問題ないっすよ。いつでも飛び出せます!!」
「俺の『震電』は?」
市川敬輔(eb4271)もいつでも飛び出せる準備をしてやってくる。
「『震電』はあと1時間程度で。ライナスさんの『富嶽』もすでに終っていますよ」
ライナスの後で、遠くのアザレアを眺めているライナスに、シゲさんはそう話し掛けた。
「今回はグリフィン配属だから、ロータス所属機の使用は認めないか‥‥意外とロータスの艦長は厳しい所があるな‥‥」
と呟いているのはライナス・フェンラン(eb4213)。
「まあ当然だな。同盟国で、騎士団として登録しているライナスだけど、作戦上は別部隊だろう?」
ラン親善傭兵団登録の副団長が、通りすがりにライナスに呟く。
「まあ、そうなんですけれど‥‥グリフィン搭載機はイーグルドラグーンのみ。それもたった一機‥‥」
──スパァァァァァァァァン
その刹那、ライナスの後頭部を誰かがハリセンで殴りつける。
「他の部隊から見れば、イーグル一機だけでもうらやましいのですよ? 大体考えてみてください。このイーグル、ウィルにはたった一機しか存在していないんですから‥‥」
と告げているのは加藤瑠璃(eb4288)。
今回は、瑠璃とライナスの二人が交互のドラグーンに搭乗、市川と白鳥の二人はグライダーによる偵察&斥候任務である。
「皆が羨ましい。我が輩は、今回、フロートシップ待機命令だからな‥‥」
と告げているのは、今回特別に『客分』としてグリフィン搭乗を許されたガイアス・クレセイド(eb8544)。
彼の所属は『メイ』であり、本来はグリフィンに乗る事も許されない。
けれど、所属不明船団がバのものである可能性も考慮し、メイで対バの経験を積んでいたガイアスは客分として今回特別に搭乗となった。
なお、次からは『ウィルの騎士』として王に全てをあずけ、忠誠を誓うのならばグリフィン搭乗が許される。
やがて、艦隊出撃の時間がやってくると、一行はそれぞれ準備し、持ち場に付いた‥‥。
●所属不明船団
──エリアE12S18
ロータスと共にダーナを出発したグリフィン。
順調に航路を進み、フォーモリア分国に到着。
そこからさらに空戦騎士団の確認していたポイントまで移動を開始。
その夜には、大体のポイントまでたどり着く。
夜も深く、其の日の偵察などは危険な為、翌朝日が昇ってからの調査開始ということになった‥‥。
──そして翌朝
「白鳥麗華、『秋水』でます」
「市川敬輔、『震電』でるぜっ!!」
──ヒュンヒュンッ!!
次々とグリフィン看板から飛び立つグライダー。
ラン所属グライダーよりも、グリフィン搭載機の方が全てにおいて上位機種。
そのため、まずは先手をとって出撃したのである。
「では、私達はイーグルのスタンバイに入りましょうね」
瑠璃の言葉に、ライナスもようやく重い腰をあげる。
──数刻後
市川と麗華の後方を、ランのグライダーが追いかけてくる。
空戦騎士団からの報告にあったエリアに到達すると、それぞれが散開し、各機偵察モードに突入。
「‥‥改めて比較して判ったんだが‥‥この『震電』や『秋水』とかは、シゲさんのチューンアップ機なんだな。ランの機体がようやく追い付いてくるのに、まだこっちは機体に余裕が‥‥」
そう告げる市川に、瑠璃は前方を指差す。
「あれ、多分報告に在った所属不明船団ですね‥‥」
と告げると、ランのグライダーが高度を落として情況を確認。
市川と麗華の二人は高度を上げて上空からの確認に入る。
「こちらラン所属グライダー『ウィザード1』。所属不明の艦隊確認」
「こちら秋水、同じく確認。タイプは小型帆船3、ガレー船2、それを牽引しているゴーレムシップ2‥‥乗員については、まだ肉眼では確認できず。現在移動はしていない模様‥‥」
その報告と同時に、市川はデジカメを用意し、ズームなどを駆使し、出来る限りのデータをカメラに納める。
(刺青は確かカオスニアン‥‥と、普通の水兵か‥‥どこの所属だ?)
そんな疑問を残しつつも、市川は上下左右から次々と写真を取る。
『こちら市川。‥‥不明船団の後方に、魚竜の姿確認‥‥』
それをグリフィンに送ると、今度はグリフィンからロータスに情報が送られる。
「了解。イーグルドラグーン出撃。仮想敵は魚竜、装備はハルバードで」
その叫びを制御胞で聞き、瑠璃はハンガーに掛けられていたハルバードを受け取ると、静かに甲板に出る。
──ファサッ!!
翼が開き、静かに飛行を開始するイーグルドラグーン。
(‥‥ライナスの言うとおり、こういう戦局になると、飛行可能機はあって問題はないわね‥‥ランのアザレア、ゴーレムの癖に飛べるなんて‥‥)
横を飛んでいる2機のアザレア。
それを見ながらも、作戦ポイントに移動する瑠璃。
やがて全機がポイントに到着したとき、麗華が高度を下げて先頭で停泊している帆船に向かって上空から叫ぶ!!
「こちらウィル空戦騎士団所属特務艦グリフィン‥‥。この海域はラン国海域であり、通行するならば許可を求めるか、それが出来ないならば立ち入り調査を行う」
その声は甲板に居た船員の耳にも届いたらしい。
そして通信兵が甲板に出てくると、携帯型風信器らしきもので、麗華に合図を送ってくる。
その通信は、イーグルドラグーンに搭載されている風信器からも聞こえてきた。
「作戦の関係上所属を明かすこと叶わず。なお、今回の侵攻はラン進軍ではなく、セトタ進軍にともなう移動上の事故である。現在、船の補修作業の為停泊、明日早朝、修復が完了した時点でラン海域より離脱するものである」
「‥‥了解した。だが、それらについての判断は本国が行う。我々は、今の言葉を上層部に報告する。それまでの時間はあたえる‥‥以上だ」
アザレアのパイロットがそう告げると、そのままアザレアは全機に後方に下がるように伝達。
そして一旦全機が後方に下がっていった。
●艦長判断
──グリフィン・ブリーフィングルーム
そこには操舵手などを除く全員が待機している。
今現在、所属不明の船団が停泊している件で、ここからでは本国の騎士団に連絡を取る事が出来ない。
そのため、現場にて判断を行う必要が有った。
「セトタ侵攻というのであれば、すなわちウィルの敵。この場で処分してしまうのが得策かと」
と告げるフィルマー艦長。
「まあ、ランにとっては危害はないし。あれがバの船団ならば敵と判断し、即時攻撃も可能ですけれど‥‥どう思います、みなさん」
と、その場のメンバーに問い掛ける後藤艦長。
「バの船団ならは攻撃対象でしょうけれど、その確認が出来ない以上はどうにも‥‥」
とラン親善傭兵団のメンバーまの一人が告げる。
「看板から見た限りでは、どうも船体修理は本当のようぢゃな。密かに海に潜って何かを企てているような気配もない。が、その動き自体が囮という事も考えられる」
と告げるのは同じく老齢なる武道家。
「明らかに敵対しそうな雰囲気ですね。後方を追従している魚竜がバのものであることを告げているような感じがしますし‥‥」
アザレアに搭乗している、ウィル空戦騎士団副団長の言葉にも一理ある。
「恐獣使いとすると、バではなくカオスニアンという考えもあります。ですが、カオスニアンがゴーレム機器を持っている筈もなく。とすると、やはりバの進軍と考えたほうが」
同じくラン親善傭兵団所属天界人の言葉に一同肯く。
「なにかこう、確定要素がないと動くのは危険ね‥‥」
女性鎧騎士の言葉もまた然り。
「敵の進軍方向がセトタである以上、私達ウィルの敵。ならば、ここでその芽を積んでしまうのが‥‥」
麗華がそう告げると、それに続いてグリフィンサイドの意見が出はじめる。
「彼女の意見と同じだ。『ラン親善傭兵団』にも登録している身だが、現在の立場はウィルの鎧騎士、本国を護るのは騎士の義務だ」
「まあ、この映像を見てくれ」
ライナスの言葉に続いて、市川がデジカメのモニターを見せる。
それには、上空から撮影した所属不明船団の姿が写されている。
それも拡大してあり、カオスニアン以外の船員の姿も写されていた。
「‥‥他国の服装などは解らないけれど、どうみても普通の船員よね」
と告げている横では、ガイアスがじっとそれを見ている。
「この部分なんだが」
と告げるガイアス。
その指し示されているのは修復中のガレー船。
その上に幌を被っている部分があり、そこから見える金属部分に、一同の目が注がれた。
「これがなにか?」
と問い掛ける副騎士団長に、ガイアスは一言告げる。
「俺の昔いた『オルボート城塞』での戦いで見た奴だ。バのストーンゴーレム・バグナ。その肩当て部分だな‥‥」
その言葉で全て決定された。
そして各員が持ち場に付くと一斉に作戦は開始された。
●そして戦い
──エリアE12S18
「こちらラン親善傭兵団。貴公らがバの艦隊であることは確認された。これより実力にて排除させて貰う!!」
エリーシャの叫びが風信器に伝えられる。
それと同時に、グリフィンより出撃したイーグルドラグーンもまた、風信器に向かって叫んだ!!
「こちらウィル空戦騎士団所属・特務艦グリフィン。貴殿らを『セトタの敵』と判断は、実力をもって排除させてもらう!!」
と告げられた。
事実上の宣戦布告である。
それと同時に、バの艦隊も覆いや幌をとりはらい、精霊砲などが次々と姿を現わした。
そしてカオスニアン達も手に武器や弓を取り、臨戦態勢に入った。
海上では魚竜がジャンプし、アザレアやドラグーンが低空で近寄ってくるのをじっと待っていた。
「当たりなさぃ」
──ドゴォォォッ
麗華が秋水に取りつけられたランスをうまく利用し、甲板上で身構えていたカオスニアンを貫く。
長距離からの加速、そして甲板すれすれを飛行する技術。
ちょっとでもタイミングを外したら事故では済まないだろう。
そのまま少々してから再び角度を変え、ランスにぶら下がっているカオスニアンを海面に蹴落とす。
「ふぅ。まさか成功するとは思わなかったわ」
っていうか、それ危険だから!!
「さて‥‥悪く思うなよ」
市川はグライダーにセットされている砲丸を高速で射出。
ガレー船の上で身構えていたカオスニアンの頭部を粉砕する。
そのまま上昇してから体勢を整え、次弾をセット。再び急降下を開始。
「一つ一つ潰すのもなんだか‥‥とっ!!」
突然幌の中からバグナが立ち上がり、市川のグライダーに向かって剣を振るう。
だが、それは寸前で回避すると、そのままガレー船から離れていった。
──キィィィン
「バグナは引き受ける!!」
と叫んだのはイーグルドラグーンに載っているライナス。
そのままハルバードの一撃を叩き込むと、バグナを船から叩き落とした。
体勢が取れずに体の大部分が沈んでいくバグナだが、完全には沈まずにぷかぷかと背中を上にして浮かんでいる。
いずれにしても、制御胞は水面下、パイロットの死亡は確実であろう。
「ふぅ‥‥このままいきますか!!」
ライナスはそのまま勢いでガレー戦をハルバードで粉砕すると、そのままグリフィンに帰還。
入れ代わりに瑠璃がイーグルで出撃した。
「精霊砲もこのグリフィンの中のゴーレム機器です。客分はブリッジへ」
何も出来ないのなら、せめて精霊砲の制御をと思ってガイアスは艦首精霊砲に向かったのだが、担当官のその一言でブリッジに移動を余儀なくされた。
「メイを棄て、ウィルに忠誠を誓うのならばグリフィンに搭乗する資格はある。じゃが、今は客分、ブリッジで観戦していてください」
と告げられて、ガイアスは止むを得ず情況をじっと見守っていた。
「これで最後よっ!!」
──ドゴォォッ
帆船の甲板に強行着陸すると、瑠璃は構えたハルバードを力一杯マストに向かって叩き込む。
──ミシミシミシッ
その一撃でマストが砕け、真っ直ぐに倒れていく。
そしてイーグルドラグーンが飛び上がると、ホバリング状態のまま帆船の船体横に向かってハルバードを叩き込む。
その数撃で浸水し、帆船は静かに海に沈んでいった‥‥。
──1刻後
敵艦隊は次々と海の中へと沈んでいく。
アザレアとドラグーンの連携、グリフィンとロータスの水面ギリギリでの精霊砲の一斉砲撃と、攻める側に有利な戦いであった。
パの艦隊も海上での『ゴーレム戦』など想定している筈もなく、魚竜の脅威をアザレアが排除したあとは、ただひたすら破壊の限りを尽くしていた。
ゴーレムシップは1隻を拿捕、それには抵抗をあきらめたカオスニアンが搭乗。
そのままフォーモリアの港まで牽引し、カオスニアン達は捕虜となった‥‥。
作戦は完了し、一行はそれぞれウィルへと帰還する。
バの軍勢がセトタにまで侵食を開始。
その証拠と鳴るであろうバの騎士たちはみな海に飛込んだりその命を散らせてしまった。
カオスニアンからの事情聴取はランの海戦騎士団の仕事となり、詳しい報告を一行は本国で待つだけとなった‥‥。
──Fin