【ラン遠征】エレメンタルバスター
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■ショートシナリオ
担当:一乃瀬守
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:6 G 47 C
参加人数:6人
サポート参加人数:1人
冒険期間:03月26日〜04月03日
リプレイ公開日:2008年04月01日
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●オープニング
──事件の冒頭
ラン・王都ダーナ郊外。
カーガン‥‥ゴーレムファクトリーでは、なにやら騒がしい事が起こっている。
──ゴゴゴゴゴゴゴコゴ゛
静かに立上がったアザレア。
その手には、いつもの正式装備であるカイトシールドもハルバードもない。
全長が10mほどもある巨大な『銃器』が構えられていたのである。
『こちらアザレア1。これより試射を開始する‥‥』
風信機から聞こえてくる声に、外で待機していたカーガンが静かに肯く。
やがてアザレアは、両の手でその銃器を腰溜めに構える。
右手は銃器下部のグリップを、左手はその前方で横に突き出しているグリップを握っている。
『ターゲットロック‥‥』
──キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン
銃身の奥で精霊力が圧縮を開始。
シリンダー内圧が急激に高まる。
やがて鎧騎士はターゲットである巨大な板を目視すると、アザレアは一気に右手のトリガーを引く。
──カッ!!
銃身から発射された精霊力。
それは一直線に射出されると、正面のターゲットではなく大空に向かって炎の軌跡を描いた。
『こちらカーガン。このへたくそが。エレメンタルバスターを安定して支えないから、ああいう方向に飛ぶんだ。まったく使えない奴だな‥‥』
『工房長。元々私はゴーレムの扱いに長けているわけではありません。それにこんな訳の判らない武器の試射なんて‥‥』
と叫びつつ、鎧騎士が制御胞から出る。
「訳の判らない武器とはなんだ。これは正式名称『エレメンタルバスター』。精霊力の塊が詰まっているこの『エレメントシリンダー』を弾丸として、この銃身で解放、圧縮、そして爆裂という精霊の力を発生させ、それらは‥‥」
ああ、カーガンのうんちくが始まった。
そして1時間後、それらの話を聞いていた助手のプラウドが一言。
「では、今回も実験として傭兵団に御願いしましょう」
ということで、話は纏まったらしい‥‥。
やれやれ、この工房長はまた天界人達の知識を駆使した変な武器を作っている‥‥。
●リプレイ本文
●機密の塊、お持帰り不可
──ラン王都ダーナ郊外・カーガンファクトリー実験場
そこには、高速艇ロータスが静かに停泊している。
その正面では、ラン親善傭兵団に使用が認められているアザレア1、アザレア2が静かに立っている。
さらにその横では、巨大なエレメンタルバスターが2門、4機のバガン『鬼殺し壱号』によって支えられていた。
「ここがランですか。思ったよりも暖かくて、それにいい香りがしますね・・・・」
そう告げているのは、ロータスのタラップを降りてきたセシリア・カータ(ea1643)。
ラン親善傭兵団には初登録で、今回は見学という事でやってきていた。
と、そのセシリアの眼下では、すでに今回のエレメンタルバスター開発者であるカーガンカーム工房長と、他の傭兵達が話を始めていた。
「・・・・カーガン殿。幾つか質問は宜しいか?」
そう問い掛けるのは、今回から『ラン親善傭兵団』に登録されたシャリーア・フォルテライズ(eb4248)。
「ああ、どうぞ」
と、いつものような素っ気ない返事を返すカーガン。
だが、シャリーアは動揺することもなく、一つ一つ質問を開始した。
「エレメンタルバスター(以後EBと略す)はアザレアにしか撃てないのか?」
「アザレア専用に開発してある。アザレア以外のゴーレムでは、例えドラグーンでも使う事が出来ない。よって、他国との戦争時に敵に奪われても、使うことは不可能だな」
と告げるカーガン。
「EBって一発の弾や銃身を作るのに何Gかかるか?」
その問いには、カーガンはしばし遠くを見つめつつ・・・・。
「外装は使いまわしがきくが、内部に充填する『精霊核』については、かなりの金額がかかるな・・・・一発500Gぐらいか? そこまで試算は終っていないからなぁ・・・・」
と告げる。
「精霊核とは?」
「エレメンタルバスターのエネルギーコアの様なものと考えてください。それ以上は機密です・・・・」
と事務的に答えられる。
「EBは何個ある?」
「現在実験に持ってきている2機と、工房で開発中の3機、計5機だな。全てのアザレアが1機ずつ装備できる計算だ」
と自信満々に告げるカーガン。
と、近くでエレメンタルバスターを見ていた鳳レオン(eb4286)が、カーガンの元にやってくると、静かに話を始める。
「地球では、反動が強い武器を使う時には支えを用意しておく事が多い。Y型の杭を地上に突きたてて、Yの部分を支えにして撃てば技術の低い者でも目標を外さずにすむんじゃないだろうか」
自信満々に告げるレオン。
「銃架のようなものかね?」
「そうそう。それ・・・・って、カーガン殿は知っているのか?」
そう問い掛けるレオンに、カーガンは一言。
「うちの工房には、天界人もいますから・・・・銃架は移動に難しいので、どうでしょうねぇ・・・・」
「なら、エレメンタルバスター射撃時の反動で転倒したりしないよう、ゴーレムの鎧の部分の足にスパイクやかんじきみたいな滑り止めを付けられないだろうか」
「脚部アンカーか。それは考えておこう。アザレア自身の機動性をそこないたくは無いが、いい意見だ・・・・助かる」
と、ニィッと笑いつつ告げるカーガン。
「カーガン殿。よろしいですか?」
そう話し掛けたのは越野春陽(eb4578)。
「ん、ああ、構わんが・・・・」
と告げると、カーガンは静かに越野の方を向く。
「今回のエレメンタルバスターの件なのですが・・・・」
と告げると、越野はカーガンに近寄り、耳元で静かに告げる。
「エレメンタルバスターの真髄は『砲身』ではなく、『シリンダー』ではないですか?」
周囲の目、そして何処に他国のスパイがいるとも限らない。
越野はその辺りを警戒して、カーガンに耳打ちする形で話し掛けていた。
「ほう。おもしろい。何か君なりに考えがあるようだね・・・・」
一瞬だけ、カーガンの視線がキツくなった。
だが、越野は怯む様子もなく、話を続ける。
「精霊力の塊が詰まっているとの事ですが・・・・いつぞや冒険者酒場で興味を抱いておられたエレメンタラーフェアリーが装填されているとかいうことは? 噂によるとエレメンタラーフェアリーを大量に確保しておられたとも伺いますが・・・・」
と問い掛ける。
「ふむ。中々おもしろい発想をする。君のような柔軟な思考については大歓迎だな・・・・だが、今の君の意見は予測の域を出ていない・・・・いい所を突いているとは告げておくがね・・・・」
と告げる。
やがて全てのアザレアの準備が終ると、いよいよエレメンタルバスターの試射テストが始められた。
●反動がいい
──カーガンファクトリー実験場
「こちらアザレア1のシャリーア。実験を開始する」
そう制御胞の風信器に叫ぶと、シャリーアはゆっくりとアザレア1を移動させる。
近くの『鬼殺し壱号』が支えているエレメンタルバスターを受け取ると、それをまずは腰溜めに構える。
『こちら記録係のシファ。感度良好です。実験を開始してください』
と本部席で風信器に叫んでいるのはシファ・ジェンマ(ec4322)。
記録用の羊皮紙を傍らに置き、細かい報告の全てを記録するようである。
「初弾いく!!」
──ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン
砲身に送られたEシリンダーから、精霊力が解放される。
それはシリンダーと砲身内部でさらに圧縮され、その力を純粋なる『破壊エネルギー』に変換していく。
「目標・・・・前方のターゲット!!」
そこには、巨大なバガンの形をした物体が置いてある。
──ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ
シャリーアがトリガーを引く。
その刹那、砲身から精霊力が弾け、一直線にバガンに向かって射出される。
そして一撃でバガンの胴部を貫通すると、反動でバガンを後方に吹き飛ばす。
そのEバスターの反動は、アザレアにもやってきている。
だが、腰溜めにがっしりと構えていたアザレア本体は、僅か数m後方にさがっただけで収まった・・・・。
「す、凄すぎる・・・・こんなの初めて・・・・」
その破壊力に動揺するシャリーア。
フロートシップに備え付けられている精霊砲でも、ここまでの破壊力は存在しない。
『こちら本部。次弾を装填し、次に構えてください』
動揺しつつもシファが指示を飛ばす。
──ガシャァァァァン
ボルト(遊底)を操作し、Eシリンダーが側面から排莢される。
それは大地にドスッと落ちてめり込む。
さらに次弾を装填すると、離れた所からアザレア2が起動開始。
「こちらアザレア2・草薙。これより魔法実験を開始する」
と告げる。
そのまま麟太郎は制御胞内部で静かに印を組み韻を紡ぐ。
魔法により射撃制度を高めようというのである。
(・・・・イリュージョン・・・・発動・・・・)
だが、麟太郎の魔法は発動しない。
精霊力が安定化せず、制御胞の内部ではそれらすべてが『ゴーレムに吸い込まれるような感覚』を感じていた。
「そ、そんな筈が・・・・」
再び印を組み韻を紡ぐ。
だが、イリュージョンは発動しなかった。
「こちらアザレア2草薙です。カーガン工房長、アザレア内部では魔法が発動しません」
その報告を受けて、カーガンが風信器に向かって告げる。
「ゴーレム機器の中でも、制御胞のある人型ゴーレムの内部では、魔法は発動しない・・・・これは基本だ」
と告げる。
「・・・・ということは?」
と、麟太郎は素早くアザレアで印を組みはじめる。
──ガキガギガギッ
だが、思うように指先がうごかない。
「こちらカーガン。何をしている?」
「アザレア本体で印を組み込み、内部ではなくアザレア自体から魔法が発動しないか・・・・」
と告げたとき、カーガンが手をポン、と叩く。
「ほう、その発想はないな・・・・だが有りだな。プラウド君、ゴーレムの腕部を魔法は集うように細かいものに作り替える・・・・すぐに工房に」
と、助手に告げるカーガン。
「引き続き試射はいります」
と、アザレア2がムーバルバランサーを展開。
そのままアザレア1と同様に腰溜めに構えると、射出と同時にバランサーから精霊力を噴射し、姿勢制御を試みた。
──ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ
だが、今度はバランスを大きく失い、アザレアが後方に吹き飛ぶ。
「・・・・僕自身が射撃なんて苦手ですからね・・・・」
と苦笑い。
「こちら本部。草薙さんは降りて、次のパイロットに・・・・」
あらら。
ということで、一旦麟太郎は記録係に移動、シファがアザレア2に乗り込む。
「アザレア1空中での射撃実験に。アザレア2も同様に御願いします」
麟太郎が風信器に指示を飛ばす。
やがて2機のアザレアが大空高く飛び上がると、上空でムーバルバランサーを展開。
そのまま腰溜めで、目標である地上構造物に照準を合わせる。
「アザレア1行きます!!」
「アザレア2行きます!!」
ほぼ同時にトリガーが絞られ、その刹那大量の精霊力がターゲットに叩き込まれる。
──ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォツ
大音響と同時に、構造物は見る影もなく爆散してしまった・・・・。
上空ではうまく姿勢制御を行った2機のアザレア。
「空中使用の方が反動が軽減されるけれど・・・・バランスを取るのが難しいと・・・・」
シファが報告書を作成。
そのまま何度が射撃実験は続けられた。
●そして
使いおえたEシリンダーは実に100。
トータルで100発の試射実験の結果、Eバスター自身はとてつもない破壊兵器である事が判った。
その圧倒的な威力に、ナイトであるセシリアは眉を潜める。
「騎士道というものを考えると、これは非人道的な殺戮兵器です・・・・ゴーレムにのる鎧騎士もまた騎士であるのなら、このような武器は使用しないほうが」
とカーガンに告げるセシリア。
「君の言うとおりだが。相手が『人』でない場合は実に有効的だとは思わないかね?」
と告げられて言葉を失う。
そして一通りの報告書を纏めると、シファはそれをカーガンに提出。
一行はそのまま期日まで実験に協力し、ウィルへと帰還していった・・・・。
「Eシリンダーは全て工房の責任者達が回収・・・・完全なる機密ということですか・・・・」
越野は帰りに、窓の外を眺めつつそう呟く。
あの部分の秘密が判れば、Eバスターはウィルでも開発できるかもしれない。
けれど、それは騎士道を重んじるウィルでは受け入れられるのか・・・・。
葛藤はまだ続く。
──Fin