●リプレイ本文
●難破船迎撃命令
──フォロ領・フロートシップ駐留所
実験艦フロートシップ『グリフィン』のブリッジに向かって、エリーシャ・メロウ(eb4333)が歩いている。
──ギィィッ
静かにドアを開き、艦長席に座っている『アーレン・フィルマー』の元を訪れる。
「報告は受けました‥‥」
小脇にヘルメットを持ち、軽く敬礼をしてから告げるエリーシャ。
「御苦労。なら話は早いな。恐獣戦闘も予測される展開だ。バガン乗りは恐獣と、ゴーレムグライダー及びチャリオット乗りはカオスニアンの殲滅。それでよいな?」
そう問い掛けるフィルマー艦長に、エリーシャは一拍おいて返答。
「進言します。まず出発の事前準備として、現地領主に連絡し住民の避難を要請。そしてフロートシップで現場付近に到着次第、グライダーによる徹底した偵察を提案します」
そのエリーシャの進言に、フィルマー艦長は顎鬚をなでつつ。
「いいだろう。事前準備、領主の件についてはこちらから要請しておく。グライダーによる現地での偵察は、君が中心になってチームを編成、作戦行動として許可する。以後、今回の事件解決まで、戦闘における命令権を君に一任、それでいいな?」
その言葉に、エリーシャは敬礼。
「了解しました。あと一つ。この船ですが『実験艦』というのはどのような?」
その問い掛けに、フィルマー艦長は一言。
「様々な局面においての戦闘を想定した実験を行う船、と考えてくれて構わぬよ」
──ブリーフィングルーム
「エリーシャ副長、銀のランスを申請していたのですが」
そう告げるのは草薙麟太郎(eb4313)。
「申請していたランスの貸与については、ゴーレム工房の方で止められたらしい。理由については判らない」
「‥‥了解」
落ち込みつつ返事を返す麟太郎。
「各ゴーレムグライダーの風信機の調整は?」
「実験的に搭載し、すでに調整も終えているそうだ」
キース・ファラン(eb4324)の問い掛けに冷静に告げるエリーシャ。
グライダーの風信機搭載については、『グリフィン』が初めての全機搭載実験となる。
「ゴーレムの兵装はどのように?」
それはバガン担当のライナス・フェンラン(eb4213)。
「対恐獣戦においての兵装など前例がない。通常兵装から必要に応じてハルバードに換装」
「はい了解と‥‥」
そう告げ、ライナスは個室に移動。
その後、各自とグライダーチームは偵察エリアに付いての打ち合わせを開始、のち少し休息を取った。
●エリア18戦闘前線
──フォロ北東海岸線エリア18
『こちらブリッジ。戦闘エリアに到着、各員作戦行動開始っ!!』
伝声管からフィルマー艦長の声が響く。
「グライダー1・加藤瑠璃です。感度良好よ」
「グライダー2・草薙麟太郎。感度良好っ!!」
「グライダー3・キース・ファラン。同じく感度良好だ」
そう風信機に告げる加藤瑠璃(eb4288)と麟太郎、キースの3名。
『バガン1のエリーシャだ。作戦開始、各時の安全を祈る!!』
そう風信機に叫ぶと、グライダーが次々と空中に浮ぶ。
そしてゆっくりとバランスを取ると、瞬時に加速し、3機が一斉に空中展開する!!
──キィィィイン
爆音を上げて加速するグライダー。
そしてそれを見送った後、ユラヴィカ・クドゥス(ea1704)とディアッカ・ディアボロス(ea5597)の二人も一気に羽根を広げて低空まで滑空。
そのままグライダーでは侵入できない森の中に飛込む。
「それじゃあ、後程‥‥」
「了解。気を付けてな」
お互いの安全を告げて、ユラヴィカはまず金貨を取り出し、サンワードを発動。
──キィィィィン
「太陽よ。この近くに存在する『恐獣の位置』を教え賜え」
その問い掛けに、太陽からの声は『距離2200m、西の方角』と答えを返した。
「了解と‥‥こちらユラヴィカ、敵恐獣の方角は西、距離2200ms推定」
『こちらグリフィン、了解、各機その方角に偵察を‥‥』
フロートシップを中継しての命令が走り、船も転進。
「こちらディアッカ。現在位置は森の奥、偵察のカオスニアンを2名確認、これより襲撃を開始する」
『了解、他のカオスニアンに感付かれないように頼む』
そのエリーシャの声を聞くと同時に、ディアッカは近くの茂みに体を潜め、その背後で待機しているグリフォンの『バリオス』『クサントス』にテレパシーで命令を告げる。
「ターゲットはあのカオスニアン、脚止めして、動けなくしてくれ」
その言葉に、グリフォン達は一気に翼を広げて上昇し、カオスニアン達の上空まで近付くと、急降下し、カオスニアン達を襲う。
──ドカドガドガッ
そのまま不意を打った2頭のグリフォンは、カオスニアン達を身動き取れない程度にまで叩きのめした。
「そこまでだ」
2頭のグリフォンの攻撃を制し、ディアッカはグリフォンに運ばせていたロープを使って二人を捕縛。
「こちら偵察のディアッカ。カオスニアン2名を捕縛、至急回収を頼む!!」
『こちらグリフィン。回収了解‥‥』
そのままフロートシップは二人のカオスニアンを回収、ディアッカは引き続き地上から偵察を兼ねて移動を開始した。
──グライダー1
海岸線を難破船の打ち上げられた方角に飛ぶ加藤機。
「このあたりには足跡も既に存在せず‥‥」
ゆっくりと難破船の方に向かい、その場でホバリングをすると、ゆっくりと上空から難破船を見る。
「グライダー1・加藤です。難破船を確認、敵カオスニアンの動きは見えず、引き続き周囲の探索を開始します」
『こちらグリフィン、了解‥‥』
そう告げられて、グリフィン通信兵はゴーレム待機のエリーシャにその事を告げる。
──グライダー2
森林エリアを飛んでいるのは麟太郎のグライダー。
「森の中に獣道と‥‥何か大型動物の通ったあとがあるか‥‥」
それらを確認し、一旦機体を空中停止すると、麟太郎はその跡についてさらに詳しく調査する。
だが、特に何も感じられない。
「‥‥確かに、何かが‥‥いた!!」
少し前の木の影で、グライダーを観察しているカオスニアンを確認した廉太郎。
「こちらグライダー2、カオスニアンを確認、これより攻撃を開始します」
『攻撃はちょっと待て、奴等の本営を叩くから、そのまま追跡に入ってくれ』
バガンの中からエリーシャが告げる。
「了解、追跡に入ります」
──グライダー3
同じ森林地帯。
巨大恐獣が鎖に繋がれ、はずれにいる。
居住地では複数のカオスニアンが、何か細かい打ち合わせをしているようだ。
それを高々度から確認し、キースは連絡を入れる。
「こちらグライダー3。敵カオスニアン及び恐獣を確認。攻撃命令が出るまで待機」
『了解、こちらもまもなくそちらに向かう。グライダー1と2はグライダー3に合流』
大きく転進し、『グリフィン』がグライダー3のいた方角に飛ぶ。
そして飛行高度を森の木々のギリギリにまで近づけると、バガン1とバガン2は大地に向かって降下した!!
──ズッシィィィィィィィィィィィィィィィィン
激しい音と地鳴りが響く。
木々が揺れ、鳥達がその衝撃に驚き飛ぶ。
「副長、本当に大丈夫なのか?」
先にジャンプして着地したエリーシャに、ライナスが問う。
「衝撃はある、少しキツいが、フロートシップが着地する場所はないからな‥‥」
その言葉に、ライナスもジャンプ。
──ズッシィィィィィィィィィィィィィン
その衝撃は、確実に敵カオスニアン達にも届いているのは明らかである。
「全速前進。このままオペレーション1から2に移行!!」
『グライダー1了解です』
『グライダー2了解した』
『同じくグライダー3了解。オペレーション2、殲滅作戦に入る』
走っているバガンの後方から、加藤と草薙のグライダーが飛んできて追い抜く。
だが、このあたりの森は木々が密集している為、ランスチャージは不可能。
「ターゲット確認‥‥」
キースがグライダーに装備されている『砲丸投下装置』のレバーを引く!!
──ゴトッ‥‥
胴体下部の射出孔より真っ直ぐに砲丸が打ち落とされ、逃げていくカオスニアンの頭部に直撃。
もんどりうってその場に崩れるカオスニアン。
「ふぅ‥‥凄いな‥‥これは」
上空に飛び上がり、砲丸を補充。
一発ずつ補充しなくてはならないという欠点はあるものの、まずまずである。
「‥‥その調子です‥‥」
草薙の眼下では、大勢のカオスニアンがお互いに殺しあいをしている。
印を組めない為、高速詠唱でカオスニアン達に『敵の幻覚』を見せる。
そのまま仲間同士の乱戦に持ち込むと、草薙は少し高度を上げて、そのまま上体を確認、数が減ってきた所で、数名を生け捕りにするべく、偽りの死を見せて気絶させた。
「あとは、周囲が収まってからですね‥‥」
「逃がしはしませんっ!!」
加藤は最前列で逃走しているカオスニアンを発見、そのまま上空からスピアによる攻撃を行なおうとしたが、思うように狙いが定まらない。
「高度をこれ以上低くすると、木々にぶつかる‥‥」
そのまま何か策を探す加藤。
そして素早く前に回りこみ、上空でホバリングすると、そのままスピアーをカオスニアンに向かって投げ付けた!!
──シュンッ!!
その攻撃を躱わすカオスニアンだが。
「甘いですっ」
機体を楯90度反転し、翼でカオスニアンに一撃を叩き込む。
そのまま騎手を上に無理矢理向けて、揚力が下がり墜落する前にスロットルを全開にする。
──ドゴォッ
一気に加速し上空に飛び上がる加藤。
「‥‥こ、この作戦は駄目ね‥‥墜落しそうになるから‥‥」
それでも耐えぬいたのは凄い。
──一方
やがてグライダーの視界にカオスニアン達の居住区が確認されると、それぞれが戦闘を開始した!!
「こちら偵察のユラヴィカ。敵カオスニアン4名が後方に撤退ぢゃ、至急追跡を頼むぞ」
テレスコープで敵の動きを上空から確認するユラヴィカ。
それを風信機に伝えると、さらにディアッカがそれに反応して2頭のグリフォンでそちらに回る。
「こちら偵察のディアッカ、撤退中のカオスニアンはこちらで対処、残りは任せる!!」
『了解』
次々と反撃に来るカオスニアン。
手にした弓で上空を飛ぶグライダーを狙うが、その機動力にうまく狙いを定める事が出来ない。
「随分とデカいな‥‥先制いくぜっ!!」
──キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン
フロートシップ艦首エレメンタルキャノンを操るフレッドが、まずは鎖から解放された恐獣をターゲットロック。
砲門内部に精霊力が圧縮され、高出力のエネルギーに変換されていく。
そして
「シューートッ!!」
──ドッゴォォォォォォォォォォォォォッ
トリガーを引いた瞬間、エレメンタルキャノンが炎を吐き出す!!
それは一直線に飛んでいくと、恐獣に直撃した!!
──グゥォォォォォォォォォォォォォォォォォッ
のけぞりつつも雄叫びを揚げる恐獣。
体長12m、体高4mの巨体がうねり、その場で暴れまくる。
「まさか、このウィルでこんな奴と戦う事になるとは‥‥」
「ああ。全くだ。そもそも、このバガンは対恐獣戦を想定しているのか?」
エリーシャがそう呟き、ライナスがそれに相槌を打つ。
「だが、いつまでもその巨体を好きにさせる訳にはいかないっ!!」
──ドゴッドゴッ!!
全速で駆け出すバガン1。
それの後を追いかけていくバガン2。
そして、そのバガンの動きを察知したのか、恐獣はバガンを敵と確認し、そのまま全力で走ってくる!!
──ダッダッダッダッ
そのままいっきにバガンとの間合を詰めると、まずは手近なバガン1・エリーシャ機に対して噛付いてくる!!
──ガギィィィィッ
その一撃を楯で受け流そうとするが、そのエリーシャの速度よりも恐獣の攻撃が優っていた!!
「何ッ、は、反応が遅いっ!!」
そう叫ぶエリーシャだが、バガンの反応はほぼ限界に達している。
巨大な顎によって、バガン1の左肩がかみ砕かれ、いきなり千切れ落ちた!!
「じ、冗談じゃないっ!! この破壊力は何だっ!!」
一対一を想定して突撃していたエリーシャ。
「止むをえん、援護に入る!!」
楯を棄て、ロングソードを構えて突入してくるバガン2・ライナス機。
エリーシャ機が後方に下がり、敵バガンを引き付ける。
その間にライナス機が側面に回り、一気にカタを付ける。
そのまま残った腕で楯を構え、恐獣を牽制するエリーシャ。
その動きに、恐獣も引き付けられ、次々と牙を向いてくる。
が、今度はエリーシャ機の方が上。
──ズバァァッ
その最中、ライナス機がロングソードで恐獣を斬りつける!!
──グゥァァッ
素早く体を捻る恐獣。
尻尾が振回され、ライナス機がそのまま直撃を受けて吹っ飛ぶ!!
──ドゴォォォォッ
「ライナスっ!!」
風信機に向かって叫ぶエリーシャ。
『そのまま後方に下がってください!!』
それはフロートシップからの声。
上空で、フロートシップの船首が恐獣を捕らえた!!
──ドッゴォッ
フレッド・イースタン(eb4181)の2撃目。
それは恐獣を捉え、直撃させた!!
──グウォぉぉオ
炎に包まれ暴れる恐獣。
だが、それでも怯むことはない。
倒れているバガン2を踏みつけ、その頭部に牙を向く!!
──ミシミシ‥‥ゴギッ
かみ砕かれ、破壊されたバガン2。
──ヒュルル‥‥ドスッ
フロートシップから落下してきたハルバードを受け取ると、バガン1が腰溜めに力一杯ハルバードを叩き込む!!
──ドガッ!!
それは恐獣の胴部に深々と食い込む。
大量の血が吹き出し、絶叫を揚げる恐獣。
そのすきにバガン2も立ち上がり、後方に下がってからハルバードを受け取った。
「視界0。有視界に切替えるっ!!」
ハッチを開放し、そこから外を確認するライナス。
その後、戦いはさらに激しさを増していった。
●そして
グライダー隊によるカオスニアンの殲滅。
偵察による早期発見及び、カオスニアン偵察兵を倒す事による襲撃作戦。
それらの効果が在ったため、ほぼ作戦は成功した。
エレメンタルキャノンもチャージされていた弾を総て打ちつくし、さらに2機のバガンの損傷は重度。
それほどまでに、カオスニアンの強さは異常であった。
難破船を調べてみても、用意周到、何も証拠は残されていない。
生き残ったカオスニアンからリシーブメモリーを使って情報を聞き出そうとするが、そのカオスニアンも舌を噛み切って自害。
なにも判らないまま、全てが終った。
エリーシャの提案で、唯一の証拠となった難破船を専門家に調査を依頼し、どこの国の流れを組むものか、材質などを調べてもらうこととナった。
詳しい報告については確定してから後日という事になったが、それでもまったくないよりはましであろう。
ゆっくりとフォロ領ゴーレム工房に帰投する『グリフィン』。
そして作戦は終了し、一行は『苦い勝利』を得ることとなった。
──Fin