【ラン動乱】王都侵攻・ラン最後の日・序

■ショートシナリオ


担当:一乃瀬守

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:7 G 96 C

参加人数:9人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月26日〜05月07日

リプレイ公開日:2009年05月06日

●オープニング

──現在までのできごと
 独立戦争を開始したザバ分国。
 その切り札ともいえる巨大フロートキャッスルがついに浮上。
 ゆっくりと王都ダーナへと移動を開始した。
 ザバ分国と王都ダーナとの国境沿いに位置する大森林地帯の上空に差し掛かったとき、フロートキャッスルはその場所で移動を停止、静かにダーナの動きを観察しているように見えた。
 その後、フロートキャッスルは再び北上を開始。
 ラン王都まで、のこり僅か100kmまで侵攻していた。
 


●最前線は‥‥
──王都ダーナ南方平原
 ダーナより城塞を越えた南方80km。
 そこに対フロートキャッスル前線基地が設置されていた。
 そこからさらに南方20km地点には、今だ不屈の要塞であるフロートキャッスルが、静かに上空でたたずんでいた。
 その眼下には、バの陸戦騎士団や傭兵部隊、カオスニアンの混成部隊から、恐獣兵団までもが集結。
 王都に侵攻する準備を終えていた。
 
 偵察部隊からの連絡によると、それらの数はかなりのものであり、陸戦騎士団だけでも500。その他の部隊を加えると、2000や3000という数値ではなくなっている。
 さらに、ここ数日の間に本国から送り届けられてきたのであろう陸戦型ゴーレムが10。
 漆黒のアザレアが2機、ガナ・ベガやゼロ・ベガなどが多数確認。
 そしてフロートキャッスルに届けられたのであろう新型ゴーレムが、じっとランを睨みつけるように王城にたたずんでいる。

「特務艦グリフィン及びロータスの混成部隊で敵を殲滅。陸上の敵は陸戦騎士団が動きますが、こちらからも希望者がいれば遊撃にまわってもよしと」
 作戦会議室で、集まっているメンバーにたいしてビリー・アンデルス卿が静かに説明を行う。
 これ以上の侵攻は、ラン王都も危険に晒してしまう。
 敵フロートキャッスルの超弩級エレメンタルキャノンの有効射程にはまだ届かないものの、もし進軍が開始された場合、あと数日後にはダーナがそのターゲットとなるのは明白。
 すでにそれを予期してか、王都では住人の避難も始まっていた。
 さらに不幸な事に、ここにきてのラン女王であるレベッカ・ダーナが原因不明の高熱により意識を失うという事態が起こっていた。
 懸命な介護によって意識は取り戻したものの、いまだ身体を起こす事も出来ない。
 急遽元老院が招集され、軍部の総指揮はステイン・ジェラール卿に全権が委任された。
 そのステイン卿による反攻作戦の尖兵として、ロータスとグリフィンが選抜されたのである。

「ラン空戦騎士団は?」
 そう問い掛けるメンバーにたいして、ビリー・アンデルスは一言。
「クエイクドラグーンが2機、量産型アザレアが1機配備されています。それでどうにか対処して頂くつもりです」
 そう告げるビリー・アンデルスに、通信兵が一言告げる。
「ドラグーン工房より連絡です。グラビティードラグーンがロールアウト。ロータス配属と決定しました」
 その言葉にニィッと口許を緩ませるビリー・アンデルス。
「それでは作戦開始としましょう‥‥」




●高速艇『ロータス』中型フロートシップ『オーキッド』搭載戦力
・新型ラージドラグーン『グラビティ』×1(ロータス)
 (装備としてロングソード、カイトシールドを搭載)
・新型アザレア×2(ロータス)
 (装備としてロングソード、カイトシールドもしくは新型エレメンタルバスターを搭載)

・炎の精霊砲×1(船首搭載)

・キャペルス×3(積載はオーキッド、装備はロングソード、カイトシールド)
・風の精霊砲×1(各艦に1門ずつ船首搭載)



●フロートシップ『グリフィン』搭載戦力
・ゴーレムグライダーは以下の機体を準備
強襲型『富嶽』『深山』『泰山』『連山』
(翼の形状が細く、低速での任務に耐えられないが、速度は早いらしい)

攻撃機『閃電』『天雷』『震電』『秋水』
(通常型)

・イーグルドラグーン×2
 (装備としてロングソード、ハルバード、ラージシールド、デスサイズ(死神の鎌)を搭載)
・炎の精霊砲×1(船首搭載)

●今回の参加者

 ea1643 セシリア・カータ(30歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb4213 ライナス・フェンラン(45歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4271 市川 敬輔(39歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4286 鳳 レオン(40歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4288 加藤 瑠璃(33歳・♀・鎧騎士・人間・天界(地球))
 eb4313 草薙 麟太郎(32歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb7689 リュドミラ・エルフェンバイン(35歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb7880 スレイン・イルーザ(44歳・♂・鎧騎士・人間・メイの国)
 ec5470 ヴァラス・シャイア(37歳・♂・鎧騎士・パラ・アトランティス)

●リプレイ本文

●緊急事態発令
──王都ダーナ
 大勢の人々が逃げ惑う。
 ザバ分国領より移動を開始したフロートキャッスルの襲撃は、このダーナ全域にも情報がもたらされている。
 いつ、このダーナが戦場になるか判らないという不安な情況を打破するべく、人々はダーナを棄てて別の領地へと避難を開始した。
 これに伴い、陸戦騎士団が避難誘導を開始、人々はダーナより南方に位置する『バンシー領』へと移りはじめていた。
 それとほぼ同時期、ダーナ周辺に怪しい人影が出没。
 それはいつしか、ダーナ内部に深々と悪しき根を張り巡らせはじめていた。

──飛空船停泊所
 いつでも出撃できるよう、ウィルよりやってきた特務艦グリフィンと高速艇ロータスは、戦闘準備をちゃくちゃくと行なっていた。
 数多くの兵装、長期戦に備えての食糧、そして緊急時にいつでも修復が出来るようにと、補給艦には大量のゴーレム機器の搭載が進められていた。
「‥‥これが新型か‥‥」
 新しくロータスに配備された巨大なドラグーン。大地の竜『グラビティ』の名を冠に頂いたその姿は、見たものに畏怖の感情を目覚めさせていた。
 その制御胞の中で、ウィル特務部隊のライナス・フェンラン(eb4213)は、じっと中央にある起動制御球を見つめている。
「ウィルのイーグルドラグーンとは全然違う‥‥ランのドラグーン開発は独自のものと伺っていたが‥‥」
 そう呟きつつ、制御球に手をかざす。
「アクセス開始‥‥」
 じっと制御球に意識を集中する。

──ぐおんぐおん

 やがて、グラビティの瞳が静かに輝く。
「ふぅ‥‥初期起動まではこぎつけたか‥‥」
 そのまま静かに機体を立上がらせると、ライナスは再び意識を両脇の機体制御球に手をかざし、集中‥‥。
「機体の大きさはイーグルより少し大きいぐらいか。だが、パワーは‥‥なんなんだ?」
 今までのゴーレムやドラグーンとは比較にならない大出力。
 予測では、本国ウィルのストームドラグーンよりも遥かに強力である。
「これもカーガンの研究の賜物ということか‥‥」
 そのまま上空を見渡すと、風信器でロータスに通信を入れる。
「こちらグラビティのライナス。これより試運転を兼ねた偵察を行う」
『こちらロータス、了解、健闘を祈る』
 その通信が聞こえたと同時に、ライナスはグラビティの翼を大きく広げる。
『こちらアザレア1の鳳レオン、偵察に同行する』
『アザレア2の草薙麟太郎です。偵察に同行します』
 ロータス外で待機していた鳳レオン(eb4286)と草薙麟太郎(eb4313)の二人も、急いでアザレアを起動させる。
『イーグル2の市川だ。偵察に同行する』
 市川敬輔(eb4271)がグリフィンの外で待機していたイーグルドラグーンの制御胞から、ライナスに向けて通信を行う。
『同じくイーグル1の加藤瑠璃、偵察に同行します』
 市川とライナスの通信を聞いて、慌ててイーグル2を起動させる加藤瑠璃(eb4288)。
 やがて2機のアザレアと3機のドラグーンが、素早く上昇を開始、そのままザバ方面へと飛んでいった。


●強行偵察
──王都ダーナ南方・フロートキャッスル手前
「こちら『秋水』のリュドミラ。移動本部に入電、ダーナ南方120km地点に敵偵察部隊確認、至急迎撃を御願いします」
「こちら『震電』のヴァラス。こちらでも敵偵察部隊を確認しました。小型恐獣部隊で、数は5です。地上部隊で駆逐を御願いします!!」
 偵察任務に出ていたリュドミラ・エルフェンバイン(eb7689)とヴァラス・シャイア(ec5470)の二人は、それぞれ別のエリアで、敵偵察部隊を確認。
 すぐさま地上を移動している『通信チャリオット部隊』に通信を入れると、引き続きその敵部隊を上空から追跡開始。
「地上の通信部隊より入電。エリア5−6−1にて敵偵察部隊を確認。同じくエリア3−8−1でも、敵恐獣部隊を確認。付近の部隊は至急現場に急行し、迎撃任務に付いてください!!」
 本部隊からさらに各エリアに通信が飛ぶ。

──エリア5−6−2
「こちらエリア5−6−2のセシリア隊です。すぐさま現場に向かい、敵迎撃任務にはいります!!」
 本部隊からの通信を受けて、セシリア・カータ(ea1643)が返信を返す。
「敵は偵察部隊。けれど気合を入れて。ここで奴等を食い止めなければ、ランは滅び、さらにその魔の手はウィルまで伸びてこよう‥‥」
 そう叫ぶと同時に、セシリア隊はゴーレムチャリオットに飛び乗る。
「進軍開始!! 周囲に気を配ってください!!」
 そうセシリアが指示すると同時に、ゴーレムチャリオットは高速で森林を走りはじめた。

──1時間後
 連絡の在った座標付近。
 セシリア隊は周囲に気を配りつつ、いつでも戦闘に入れるような状態を作りあげる。
「こちら地上のセシリア隊。上空偵察機に入電、エリア5−6−1付近の敵のポイントを!!」
 小声で風信器にそう問い掛ける通信兵。
『こちら『震電』のヴァラスです。敵はエリア5−6−1から移動せず。ベースキャンプの準備を行っています』
「了解。これより確認後作戦にはいります」
 そう通信兵が返信を入れた後、セシリアにその事を報告。
「了解です。魔法兵団の方に、ブレスセンサーとバイブレーションセンサーの発動を要請してください」
 そうセシリアが告げると、すぐさま魔法兵団が次々と魔法を発動。

──キィィィィィィィィィィィィィィィィン

 次々と魔法を発動する魔法兵団。
「バイブレーションセンサーに反応です!!」
「同じくブレスセンサーにも反応。方角は‥‥」
 その報告を受けて、セシリアがすぐさまチャリオットに飛び乗る!!
「奇襲に移る。2、3号チャリオットは私に続いて、4と5は魔法兵団を乗せて後方から移動、現地到着後に支援を!!」
 その号令と同時にチャリオットが次々と走り出す。
 そして目標地点を確認した刹那、セシリア隊の陸戦騎士が次々とベースキャンプを設置している敵カオスニアン達に向かって襲撃を開始した!!
「ここから先には進ませません!!」
 敵カオスニアン達に向かって突撃すると、セシリアはまず奴等の中からリーダー格であろう人物を探し出す。
 そしてその他の雑魚には目もくれず、一気にそいつの近くまで間合を詰めに入った。
「ランの騎士かっ。返り討ちにしてくれるっ!!」
 素早く近くに置いてあった巨大な戦斧を手に取ると、そのリーダー格の男はセシリアの一撃を躱わしつつカウンターで一撃を叩き込んでくる!!

──ヒュンッ!!

 素早くその攻撃を躱わすと、セシリアは男と対峙する。
「いい腕ですね。私はセシリアと申します‥‥パの偵察部隊とお見受けしましたが」
「いかにも。名乗られた以上は名乗りかえそう。我はグァル・ヴォス。カオス偵察部隊リーダーを務める」
「では、行かせていただきます!!」
「こしゃくなっ」
 先制を取ったのはグァル・ヴォス。
 巨大な戦斧を横一閃に力一杯振回す。
 それをセシリアはパックステップで躱わすと、すぐさま前に踏み出してグァルに向かってロングソードでの高2連撃を叩き込んだ!!

──ズバズバァァァァァァァッ

 それはグァルの左右の肩口に直撃し、両腕を切断していた。
「ウウウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ」
 絶叫を上げるグァル。
 だが、その刹那グァルの首がセシリアの追撃によって吹き飛ばされていった。
「貴様達のリーダーは戦死した。まだ戦うのでしたら私達は全力を持って貴方たちを排除します。まだ戦いますか? それともおとなしく降参しますか?」
 そう周囲に叫ぶセシリア。
 その声を聞いて、敵カオスニアン達は次々と降参していった‥‥。


──エリア3−8−1
「ちぃぃぃぃぃっ」
 キャペルスの制御胞で、スレイン・イルーザ(eb7880)は額から流れる血を拭いつつ、懸命にキャペルスを操っていた。
 指示された座標にキャペルスと同行する陸戦部隊のチャリオットで向かうと、そこで敵恐獣部隊と接触。
 小型恐獣とカオスニアンは陸戦部隊が、そしてスレインは中型のアロサウルスとの戦闘に突入した。
 いきなり肩口に噛付かれ、制御胞ハッチの上部が破損。
 そのとき内部で飛び跳ねた破片が頭をかすったらしい。
 だが、そのまま力一杯アロサウルスを引き離し、後方へと投げ飛ばす。

──グウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ
 
 雄叫びを上げるアロサウルス。
 ゆっくりと立ち上がると、そのまま巨大な顎を開いて牽制を開始。
「あまり時間はかけていられないか‥‥」
 素早く剣を引抜き、落としてしまった楯を拾い上げると、正面突破の構えを取る。
 その動きにアロサウルスも同調し、そのまま襲いかかっていく!!
──グゥオオオオオオオオオオッ
 一気に間合を詰めて巨大な顎で噛み付いてくるアロサウルス。
──ガギバギィィィッ
 その牙はラージシールド上部に食い込み、そして一撃でシールドを破壊した。
「なっ!! なんて力だっ!!」
 そのまま体勢を取り直し、ロングソードの一撃を叩き込むスレイン。
──ズバァァァァァァァァァァァァァァァァァツ
 その一撃でアロサウルスの胸部を切り裂くが、アロサウルスは怯む様子もない。
──バギィィィィィィィィィィィィィィィィィツ
 再び肩口にアロサウルスが噛み付く。
 それは制御胞を破壊し、さらにその牙はスレインの右腕を引きちぎった!!
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁつ」
 絶叫をあげつつ、制御胞に残された左側制御球に意識を集中する。
 だが、痛みで集中力は欠け、機体も思うように動いてくれない。
「動け、動いてくれぇぇぇぇぇぇ」
 そう叫びつつ機体を制御しようとするスレイン。
 だが、破壊された制御胞ハッチの外からアロサウルスの巨大な顎が見えたとき、スレインは死を覚悟した‥‥。

──18時間後
 必死に逃げてきた陸戦部隊が持ち帰った、千切れ飛んだスレインの死体。
 それは王都ダーナの教会で甦生処置が執り行われ、スレインは死の縁から無事に生還した‥‥。



●ドラグーン起動
──敵フロートシップ付近エリア
 作戦開始。
 地上部隊はセシリア隊や他の陸戦騎士団が止めてくれている。
 問題は上空を飛び交う漆黒のアザレア達。
 敵の数は2機、それぞれがエレメンタルバスターを装備している。
 そしてフロートシップもまた、ゆっくりと進軍を開始。
 今の速度で侵攻されると、明日には王都ダーナに超弩級精霊砲が発射されてしまう!!

「加藤、頼むぞ!!」
 アザレア1のレオンとイーグル1の瑠璃がペアを組み、敵ブラックアザレア1を押さえに入る。
 すでに接敵状態から2時間近く戦闘が続いている。
 その間、メインで戦っていたのは瑠璃のイーグルドラグーン。
 レオンのアザレア1は、時折ヒット&ウェイを行なっては上空へと撤退していく。
──ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォツ
 そして突然発射したアザレア1のEバスター。
 それを高速で回避するブラックアザレアだが、そのタイミングで瑠璃がロングソードとラージシールドを構えて突入。
「これ以上は進軍させませんっ!!」
──ガギィィィィィィン
 素早く間合を縮めてからの蹴り一閃。
 それをブラックアザレアはシールドで受け止めたが、そのシールドの上部にイーグルドラグーンは足の爪を引っ掛けて素早く蹴り下げた!!

──バギィィィィツ
 その蹴りにより、ブラックアザレアのシールドが腕から引き剥がされ、大地に落ちていく。
「これぐらいでぇぇぇぇっ」
 そのまま後方に下がりEバスターを構えるブラックアザレアだが。
「それでおしまい‥‥敵の位置を確認しきれなかったお前の負けだ!!」
 丁度ブラックアザレアの上空で、ずっとEバスターを構えていたレオンのアザレア1。
 瑠璃が囮となり、敵を引き付けていくのをじっと待っていたらしい。

──ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ

 上空から垂直に発射されたアザレア1のEバスター。
 それはブラックアザレアの頭部から胴部、そして股間に向かって突き抜けていった。
 どう見ても中に載っていた鎧騎士は『蒸発』してしまっているだろう。
 力なく落下しているプラックアザレアの残骸。
 まもなく地上部隊が回収するだろう。
 そしてレオンと瑠璃の二人も、機体の行動限界が近づいてきた為、ロータスへと帰還していった。


──一方その頃
「なかなかやりますね‥‥」
 別エリア上空では、麟太郎のアザレア2と敵ブラックアザレアが接近戦を行なっていた。
 次々と展開される麟太郎のフェイントアタックに、敵アザレアはシールドによる防御を徹底している。
 一見すると麟太郎が劣勢に見えなくもないが、そこに市川がロングソードで正面から切りかかっていくので、2対1でやや優勢。
 だが、一進一退の攻防が果てしなく続けられているという情況はかわらず、お互いに持久戦となっていた。
『そろそろか‥‥』
 市川がそう風信器で麟太郎に繋ぐ。
 もし同じ回線であった場合、敵アザレアの風信器にその声が届いている可能性が有るが、作戦開始を告げる言葉だけであったため、相手に傍受されてもよく判らないであろう。
『そうですね』
 その麟太郎の言葉を聞くと同時に、市川のイーグルドラグーンは上空へと移動開始。
 そのまま麟太郎がその場に敵アザレアを引き付ける役目を受ける。
 より素早く接近戦を仕掛けていく麟太郎のアザレア1。
──ガギィィィィィィィィツン
 だが、敵アザレアが麟太郎のアザレア目掛けて一撃を叩き込み、遠くへと引き離しに掛かる。
 そして素早くEバスターを構え、麟太郎のアザレアにターゲットセットした刹那。
──バギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィツ
 上空から急降下してきた市川のイーグル。
 その手に握られていたハルバードの一撃が、プラックアザレアの構えていたEバスター後方『エレメンタルシリンダー格納部』を切断した!!
──ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥツン
 精霊力の供給が切断されたEバスター。
 それを慌てて投げ棄てて、ロングソードを引き抜こうとするブラックアザレアだが。
──ドゴオッ
 その一瞬の隙に麟太郎のアザレアが一撃を叩き込む!!
 それは敵頭部を分断すると、その付け根に在ったEブースター基部を破壊した!!
──ヒュンヒュンヒュン‥‥
 徐々に後部スラスターから放出されている精霊力が衰えていく敵アザレア。
 そしてそのタイミングを、市川は見逃さなかった!!
「これで終らせて貰う!!」
──ドゴォッ
 大きく振回したハルバード。
 その斧の部分が敵アザレアの制御胞を破壊し、深々と突き刺さる。
──ズルッ‥‥
 そして一気に引き抜くと、そのままブゥンと振り落とし、刃についていた大量の血を吹き払った。

──ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥツ
 徐々に加速し落下していく敵アザレア。
 これで残りはフロートキャッスルと未確認の敵ゴーレムのみ。


●急転直下
──敵フロートキャッスルエリア
 最後の敵アザレアが地上に落下した瞬間。
──ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ
 フロートキャッスル正面の正門から、一条の光が放たれた!!
「まさか!!」
「もうエネルギーが?」
 その光を確認したレオンと瑠璃が叫ぶ。
 そしてその火線上を確認した瞬間、二人は息を飲んだ!!

──ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ

 上空で大爆発を起こした特務艦グリフィン。
 王都ダーナとフローとキッャスルの直線上に展開し、自らを楯として待機していた。
 その特務艦グリフィンが、その通り『楯』となって王都を護っていた‥‥。
 残骸となり散っていくグリフィン。
 やがてそれらは大地に激突し大炎上を始めた。
「よくも‥‥よくもやりやがったなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
 一気に意識を翼に集中し、加速を始めるグラビティ。
 ライナスの怒りも頂点に達し、フロートキッャスルに接触したその瞬間!!
──ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ
 何かの一撃を受けて、グラビティが後方に弾き飛ばされた。

「あーーーーーーーーーーーーーーーーーっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ」
 フロートキャッスル正門から姿を現わした異形のゴーレム。
 それの一撃でグラビティが吹っ飛ばされたのである。
「はじめましてランの愚民さん。私はバ特務部隊責任者のひとりラピス・ラズリ。これよりランは私達『バ特務部隊』によって制圧を開始しますっ。命が惜しければ、レベッカ・ダーナの首を差し出しなさいっ」

 全長12m以上。
 人型のゴーレムに4つの腕。
 左右に伸びる、楯状の巨大な肩アーマー。
 大蛇の如く蠢く巨大な3つの尻尾と、背後に広げられた4枚の翼。
  
 その姿全てが『異形』そのものであった。

「貴様なにものだっ!!」
 ライナスが叫ぶ。
 そして瑠璃が、市川が、レオンが、麟太郎が一斉に攻撃を開始するが。

──ドゴゴゴゴコゴゴゴゴコゴッ

 接近する事も許さない。
 一定の距離まで突撃すると、背後から無数のアンカーが伸びてきて機体を弾き飛ばしてくる!!
「みんな下がってくれっ!!」
 上空で麟太郎とレオンの二人がEバスターを構える。
 そして同時にトリガーを引いたが!!

──ヴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥツ

 フロートキャッスルと敵異形のゴーレムの見えないフィールドにより、それらの攻撃は弾き飛ばされてしまう!!

「この通信が届いているラン全ての愚民に告げる!! おとなしくレベッカ・ダーナの首を差し出し降伏せよ。そうすれば愚民の命だけは助けてやろう。もし抵抗するならば‥‥全員ぶっ殺す!! よく考えて返答するように猶予をくれてやろう!! もし一戦交えるというのであれば、この私ラビス操るカオスゴーレムの『プリンシュパリティ』にて、全てを喰いつくしてやるから覚悟しておけ!!」
 その通信の後、フロートキャッスルは静かに後退を開始、ザバ分国へと戻っていった‥‥。

 
●そして‥‥
──王都ダーナ
 敵バ国特務部隊の宣戦布告を受けて、急遽元老院による招集が始まった。
 現在の戦力では、あの謎のゴーレムとフロートキャッスルを相手に戦うことは事実上不可能。
 今以上の戦力を集めて戦うしか方法がなかった‥‥。
 残された時間はまだあるものの、それでも良き答えが決まらないまま。
 そんなある日、ラン元老院の出した一つの結論は、近隣同盟諸国に援軍を求めるというものであった。
 早速セトタ大陸及び隣国ヒの国へと使節団が派遣されることとなった‥‥。


●ザバの惨劇
──王都ダーナ・フロートシップ停泊所
 ラビスの宣戦布告の後、残されたロータスを仮の旗艦とした部隊が再編成することとなった。
 ラン傭兵騎士団とウィルの特務艦グリフィン残存戦力、そして新たに陸戦・空戦騎士団が加わることとなる。
 後日完成するラン最大のフロートシップ『スノードロップ』。それがこの新たなる部隊の旗艦となる。
 そしてその為の準備もちゃくちゃくと進み、特務艦グリフィンの部隊はロータスにて一時帰国することとなったその日。
 ザバ分国から亡命してきた、瀕死の男性が、ゴーレムグライダーでやってきた。
「た、たすけて‥‥ください‥‥ザバは‥‥ザバ分国は‥‥領民すべてが‥‥あの‥‥」
 途切れ途切れの意識の中、懸命に何かを訴えている亡命者。
「大丈夫です、落ち着いてください‥‥」
 医療班が懸命に手当を続けるなか、その亡命者は話を続けていた。
「食べられた‥‥あの巨大なゴーレムに‥‥みんな喰われてしまった‥‥魂が‥‥吸取られて‥‥うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 そして亡命者の命も散っていった。
 
 人々の魂を食らうカオスゴーレム。
 たった1機のカオスゴーレムにより、ザバ分国の人々の魂が喰いつくされた。
 この事実を伝える為だけに、男は逃げてきた。
 いや、逃がされてきたというのが正しいだろう。
 彼のもたらした情報はすぐさま上層部へと伝えられ、そして再び元老院が招集された。
「ビリー卿。ロータス単独で敵の懐に飛込み、一気にケリをつけるって言うのは?」
 市川がそうビリー卿に進言する。
 だが、ビリーは頭を左右に振る。
「あの目に見えないフィールドをどうにかしないと、Eバスターすら効果ありません。なにかカオスゴーレムについての情報があればいいのですが、まったくといっていいほど情報がないというのが事実です。今はむやみに動く刻ではありません」
 そう告げる。
「ですが、このままではランが、そしてやがてはウィルまでやつらは進軍してきます!! 今ここで止めなくては‥‥」
 瑠璃がそう告げると、麟太郎も肯く。
「彼女の言うとおりです‥‥あの目に見えないフィールド、それを貫通するだけの火力。もし‥‥あるのでしたら‥‥」
 そう告げたとき、スレインが一言。
「この命を差し出してもいい!! なにか対策はないのか?」
 その言葉に、プラウドがなにかに気が付いた‥‥が、それはそのまま呑み込んだ。
「おいあんた!! 何かあるんだろう? それを教えてくれ!!」
 そのままプラウドに詰寄るスレイン。
「だ‥‥だめです‥‥あれは駄目なんです‥‥」
 涙目で訴えるプラウド。
「どうしてなんだ? 可能性があるんだろう?」
「まあまあ、スレインさんも落ち着いてください。不可能だとしても、せめてどんな方法があるのか教えてくれませんか?」
 スレインを静止しつつ、セシリアが問い掛ける。
「わが師カーガンの作り出した禁忌の兵器‥‥Eバスターは御存知ですよね?」
 その言葉に、静かに肯く一行。
「あれは、エレメンタルフェアリーの生命力と精霊力をエネルギーとします。つまり‥‥」
 そう告げたとき、リュドミラが嫌な顔をしつつ呟く。
「より上位の精霊力と生命力を持つものをエネルギーとするっていうことか?」
 その言葉に、コクリと肯くプラウド。
「ふざけるな!! そんな事が許されると思っているのか!!」
 ライナスがそう叫ぶが、プロウドは涙目で呟く。
「ですから不可能なんですってば‥‥。僕の見た限り、フロートキャッスルの原動力は『アルティラブースター』、つまり月精霊の『アルティラ』を浮遊力にしています。そしてあの超弩級精霊砲のエネルギーも‥‥」
 そう告げたのち、プラウドは黙りこくってしまう。
「カオスゴーレムか‥‥あれをなんとかする方法を探さないと‥‥」
 レオンがそう告げるが、それ以上の意見は出てこなかった。

 そして、一旦ウィルへと帰国する一行。
 どうやって戦うか、これからか正念場‥‥。


──Fin