●リプレイ本文
●戦いの序曲
──ラン王都ダーナ郊外・フロートシップ停泊場
ドダダダダダダダダダタダタダダダダ
停泊場は現在、慌ただしい空気に包まれている。
「地上部隊の準備は?」
「キャペルスとバガン鬼殺し壱号の準備は完了しています!!」
「了解。では陸戦騎士団と魔法兵団は第二空挺部隊の方に。現地に到着後、地上部隊と合流、地上からの援護に入ります!!」
セシリア・カータ(ea1643)が自分の部下に向かって檄を飛ばす。
今回の相手はカオスゴーレム・プリンシュパリティ。
闇雲に突っ込むだけでは勝てない相手である。
通常のゴーレム相手でさえ人間ではかなり難しいのに、相手は近寄るだけで魂を食いちぎられるカオスゴーレムである。
それなりの作戦を組む必要が有った。
「ゴーレムに乗っている間は、エレメンタルフィールドが保護してくれるのですぐに魂を喰いつくされることはありません。ですが、地上ではそれらに護られることはないので、あまり近寄らないで戦うように遠距離攻撃に徹してください」
と、ゴーレム工房のオーウェン・プラウドがセシリアに告げる。
「了解ね。で、おおよその敵の攻撃範囲は推測できたのかしら?」
「ええ。これを」
と、プラウドは数枚の羊皮紙をセシリアに手渡す。
「これは?」
「プリンシュパリティの稼動式アンカーのおおよその範囲ですね。これよりも離れて行動すれば直接攻撃を受けることはないかと思われます。あと‥‥」
と告げて、セシリアに一言。
「予測ですが。カオスゴーレムの弱点は『鎧騎士』です。あれだけのゴーレムを制御できる精神力は、普通の人間では無理でしょう」
「つまり、稼動限界時間が俺達のゴーレムよりも短いっていうことかな?」
と、出撃準備をしていたライナス・フェンラン(eb4213)が告げる。
「そうでしょうね。まあ、それを補う為の何かがあるのかも知れませんけれど。カーガン博士の作り出した『エレメンタルブースター』でさえ、稼動時間は最大でも3時間持たない程度です。何もブーストしていないのならば、稼動時間は半時間程度かと」
その言葉に、市川敬輔(eb4271)が頭を捻る。
「この前の戦いでは、大体2時間は軽く稼動していたが‥‥それはどういうことだ?」
「おそらくは何かの方法でのブーストでしょうねぇ‥‥」
「その何かが解らないのですか?」
さらに草薙麟太郎(eb4313)が問い掛けるが。
「魂を食らうゴーレムゆえ、近くの魂を食らいつづける限り稼動時間は無限かと思われます。が、それはあくまでも機体の話し、中に乗っている人間の疲労までは計算していないでしょう‥‥」
「つまり、持久戦に持ち込めって言うことですか?」
「それも作戦の一つということですね。では、出撃準備にはいりますので、みなさんもよろしく御願いします」
と話を切られて、一行は仕方なく持ち場へと戻っていった。
●戦場の墓標
──ザバ分国北方山脈エリア
グオングオングオングオン
6機のフロートシップがゆっくりと上空を飛行する。
カオスゴーレムの姿を撹乱する為、大量の偵察用ゴーレムグライダーが飛び交っている。
「こちら鳳。現在のエリアA12B25。敵の姿確認できず‥‥」
「同、エリアA35B08のリュドミラです。こちらの森林エリアにも確認できません‥‥」
偵察任務についている鳳レオン(eb4286)とリュドミラ・エルフェンバイン(eb7689)の二人の通信がブリッジに響く。
「こちら甲板の加藤。グラビティドラグーンいつでも出撃OKです」
「同、アザレア1のスレイン。こちらもいつでもOKです」
甲板で待機しているゴーレム隊の加藤瑠璃(eb4288)とスレイン・イルーザ(eb7880)。
少しでも体力を温存する為、まだ機体との同調は行なっていない。
「ふう‥‥このあたりに潜んでいそうな感じなのだが‥‥」
と後藤艦長がつぶやいた時。
──ヒュンッ!!
と、突然ロータスの側舷をなにかが掠めていった!!
「敵機確認!! ゴーレム部隊出撃!!」
その後藤艦長の叫びと同時に、甲板で待機していたゴーレム隊が次々と機体と同調。
偵察に出ていたメンバーも次々とフロートシップに着艦すると、そのままドラグーンに乗り込んでいった‥‥。
「こちらロータスのグラビティ。敵を地面に叩き落とします!!」
加藤の声がアザレアに届く。
「こちらアザレア1の鳳。いつでもOK」
「こちらアザレア2のスレイン。作戦に入ります!!」
「同、アザレア3のリュドミラです。後衛に入ります!!」
「イーグル1のライナスだ。作戦に入る!!」
「イーグル2の草薙です。ライナスさんに続きます!!」
次々とブリッジに届く声。
そしてゴーレム隊が飛来してくるプリンシュパリティに向かって一斉に攻撃を仕掛けていく。
「キャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ。来たわねっ、この腐れ○○っ。アンタたちなんか瞬殺してあげるんだからっ!!」
そうプリンシュパリティから届く叫び声。
どうやら風信機の回線を同調させてきているらしい。
そのまま全周囲に向かって触手型アンカーを射出するプリンシュパリティ。
「おおっと‥‥その攻撃は食らいませんよっ!!」
素早く回避行動に入るイーグル2。
他の機体もみな、アンカーの攻撃は全て回避していた。
だが、それも束の間。
相手が巨大な分、どうにも近づいて地面に叩きつけるという行動が取りにくい。
「‥‥これじゃあ埒があかないわね‥‥」
唇を噛み締めつつ、加藤がそう呟く。
そして一気にグラビティドラグーンの翼を展開すると、そのまま加速し、プリンシュパリティの懐に向かって飛込んだ!!
──ガギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン
そのまま機体同士が激突。
それでもプリンシュパリティはその場で怯むことなく、副腕を巧みに操ってグラビティドラグーンの翼に手をかけた!!
「いまよッ!!」
そう加藤の叫びが風信機に届く!!
──キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン
カァッと開いたグラビティドラグーンの口腔。
そこから吐き出される重力波のブレスが、プリンシュパリティの胸部に直撃した!!
「こんなのっ!!」
必死に抵抗するプリンシュパリティ。
その体躯に張り巡らされたカオスフィールドと呼ばれる一種のバリアが、グラビティドラグーンの重力波ブレスを差し押さえる。
だが、それでも無事ということはなく、ゆっくりと機体が大地に向かって落下を開始した!!
「ここだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「いまです!!」
上空から高速で急降下してくる二機のイーグルドラグーン。
そのまま敵の機体のギリギリで反転し、両肩に向かってそれぞれがドロップキックを叩き込む!!
──ドッゴォォォォォォォォォォォォォォッ
そのまま一気に加速し、大地に叩き落とされるプリンシュパリティ。
「‥‥これ以上は危険か‥‥」
上空で砲丸を射出していた市川もここらが潮時と一時撤収。
入れ代わりに陸戦騎士団と待機していたヴァラス・シャイア(ec5470)のキャペルスがプリンシュパリティに向かって突撃を開始。
「射程は限界。ここからならいけます!!」
セシリアの叫びと同時に、魔法兵団が一斉にライトニングサンダボルトを発動。
さらに地上の陸戦騎士団とゴーレム兵団も、次々とプリンシュパリティに向かって攻撃を叩き込んでいく。
「こ、こんなことって‥‥こんな雑魚如きにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」
ケラケラと笑いつつ、プリンシュパリティの触手を動かすラピス。
その先にある口が、次々と地上の騎士たちを捉え、そのまま食らいつくす。
それでも怯むことなく、攻撃は続けられた。
──ガシィィィィッ
その触手の一本を。ヴァラスが両腕で抱え込む。
その太さはキャペルスよりも太い。
「はやく何とかしてください!!」
「ああ、ナイスだ」
そのヴァラスの言葉と同時に、上空からライナスが急降下、手にしていた巨大なハルバードで触手を一本ぶった切る。
「その調子ですっ!!」
別の触手では、麟太郎が格闘を開始。
さらに正面では、楯とハルバードを構えたグラビティドラグーンが、プリンシュパリティの主腕と戦っていた。
「は、はやく‥‥急いで‥‥」
そう呟く加藤。
その上空では、3機のアザレアがエレメンタルバスターをしっかりと構えていた。
「タイミングOKです‥‥5‥‥4‥‥」
カウントダウンを開始するスレイン。
「これでどうにか‥‥」
と呟く鳳。
そして無言のまま、トリガーに手を掛けているリュドミラ。
「3‥‥2‥‥1‥‥」
やがて緊張が限界に達した。
「0っ!!」
──ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ
一斉に引き絞られたトリガー。
3本のエレメンタルバスターから、3条のエネルギーが射出された!!
「う‥‥」
それはプリンシュハリティの胴部に直撃した。
タダでさえ強力なエレメンタルバスター。
その爆発的な精霊力の塊が、3つ。それも胸部に直撃したのである。
「こ、こんな‥‥こんなはずないわよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ」
──ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ
大爆発を引き起こすプリンシュパリティ。
そして爆風の中から姿を表わしたのは、外部装甲の吹き飛んだ異形の生命体のような姿。
──ヒョンヒュンッ
以前よりも軽快な動きを見せる副腕。
翼は失われたものの、今だ戦う遺志を示すプリンシュパリティ。
既に触手は失われ、いまのエレメンタルバスターの一撃でアンカーの射出孔も溶けて塞がれてしまっている。
それでもなおも動きつづけているプリンシュパリティに、一同は驚愕する。
なにより、戦う意志の強さと、その本体から吹き出す怪しげな雰囲気が、一行を後方に後ずさりさせていた。
「こ、ここで怯まないわよっ!!」
巨大なハルバードを構えて渾身の一撃を叩き込むグラビティドラグーン。
──ガギィィィィィィィィィィィィィィィィッ
だが、その柄の部分を巨大な副腕が押さえこむ。
「ふぅ‥‥もう御遊びはここまでっていうことかしら?」
そう叫ぶと同時に、プリンシュパリティの口の部分がパカッと開く。
──ヒュンツ
その刹那、一条の光が射出される。
そしてグラビティの胸部を貫く。
そのまま反動で後方に吹き飛ばされるグラビティ。
「加藤っ!!」
「よ、よくも‥‥」
とイーグルのライナスと草薙が叫ぶ。
だが、プリンシュパリティに向かって行くことが出来ない。
機体が言うことをきかないのである。
「い、一体どういうことなんだっ!!」
「わ、判りません。アザレア隊はっ!!」
その言葉の直後、草薙とライナスの二人は息を飲む。
アザレア隊が後退していた。
搭乗員の意志よりも、その奥底の恐怖を感じ取ったアザレア。
ランの同調システムの敏感さがここにきて禍いしていた。
「やむをえん。後方に撤退する‥‥陸戦騎士団でプリンシュパリティの監視を‥‥」
と告げる後藤艦長。
どうやらプリンシュパリティも撤退を開始したらしく、そのままザバの港へとゆっくりと歩きはじめた。
「あ、あと一歩だったのに‥‥あと少しで‥‥」
血の海となったグラビティの制御胞の中で、瀕死の加藤が呟く。
それでもプリンシュパリティはすでに満身創痍。
あと一歩で破壊できる筈なのだが‥‥。
●そして
──翌日
逃亡したプリンシュパリティ。
それを追跡していた陸戦騎士団の報告によると、プリンシュパリティはそのまま港に降りて海の中へと潜っていったらしい。
偵察部隊からの報告では、ザバの沖合の島に上陸したらしいが、外装甲の修復にも着手出来ないらしい。
このまま態勢を整えて奇襲を仕掛ければ、あるいは‥‥。
──Fin